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2012年6月21日 (木)

こちらも逃散相次ぐ介護業界

本題に入る前の余談ですが、先日週刊ダイヤモンドに特定看護師制度に関する記事が掲載されていました。

【参考】「特定看護師」導入が無慈悲な激務に輪をかける?医療ミスの続発も危ぶまれる新制度の“理想と現実”(2012年6月15日週刊ダイヤモンド)

特定看護師制度については当「ぐり研」でも何度か取り上げた通り未だに賛否両論入り乱れていますけれども、とりあえず多くの医師に異論のないところとして看護師を始めとするコメディカルがそれぞれ務めるべき業務をきちんと行える(あるいは、行わせる)ようにしてくれれば一番ありがたいという意見はありそうです。
「注射はセンセイのお仕事ですから」「三時が過ぎましたから指示は受けられません」なんてことを言いつつ年中看護研究(笑)に精出している自称看護師なんて方々も一部方面でいらっしゃるようですけれども、こういう手合いが業界を代表するオピニオンリーダーとして国に賢しげなことを言っているのであればまともな政策など出てくるはずもありません。
コストカットだ、人員削減だと多忙な業務に負われているのはどこの業界でも同じ事で、それだけに仕事の割り振り一つで職場の空気が激変する瞬間というのはしばしば経験しますけれども、特に医療という分野においては各人がそれぞれ専門職としての職域を持っていて、それを非専門職がサポートするというピラミッド構造が成立しています。
より専門性の高い人間ほど数が少ない以上は専門性の低い業務はどんどん下位階層に移譲していく方が組織としての効率性は高まる理屈ですが、これがうまくいかないでスタッフの不満ばかりが高まるという場合には組織内での人員配分から見直していく必要があるのでしょうし、仕えもしない人員をただ診療報酬上の加算目的で大勢抱え込んでいる一部施設の社会的責任も問われるというものでしょう。

ま、余談はそれくらいにしておくとしまして、本日まずは少し前に出ていましたこういう記事を紹介してみましょう。

インドネシアから来日した看護師たち すでに6割以上が帰国(2012年5月26日NEWSポストセブン)

 千葉県香取市にある特別養護老人ホーム「杜の家」。ここは、2008年8月に外国人介護士の第1陣としてインドネシアから来日したスウォト君(29歳)の就労先だ。
 この日の勤務が終わりに近づいた午後4時半、スウォト君が2階フロアの一角の机でノートを開いた。

〈リビング内でウロウロされていることがある。トイレの声かけすると「はい」と言われる。トイレへゆうどう。便多量……〉

 慣れた手つきで、入居者の様子を日誌に記入していく。日本語でボールペンを走らせる速さも日本人と遜色ない

 筆者がスウォト君と初めて会ったのは、来日を2か月後に控えた2008年6月のこと。ジャカルタで取材した彼は、日本語が全くできなかった。それを思えば、4年間で驚くべき進歩である。
 もともと看護師をしていたスウォト君は、日本のアニメ「NARUTO」の大ファンだった。憧れの国で働けるチャンスがあると知り、日本行きを希望した。その理由を当時、彼はこう語っていた。

第1は、お金のため。日本では最低でも月1000万ルピア(約9万円)を稼ぎたい」

 その夢は簡単に叶った。日本で働き始めると、月16万円以上の収入が得られたのだ。インドネシアにいた頃の月収1万円とは大違いである。
 今年1月の国家試験は不合格だった。それでも規定の点数を獲ったことで、来年に再チャレンジする権利を得た。しかし、スウォト君は仕事を辞め、6月に帰国していく。

仕事に疲れました……

 インドネシアにはフィアンセがいるが、仕事の当てはない。日本に残れば、最低でも1年は仕事を続けられる。しかも国家試験に合格すれば彼女を呼び寄せ、日本で永住することも可能なのだ。

「いや、もう日本はいいです。お金がすべてじゃないでしょ?」

 スウォト君にとって、もはや日本は「憧れの国」ではなくなっていた。

仕事面では十分に戦力になっていたのに、残念です」

 「杜の家」の上野興治施設長は肩を落とす。施設側はスウォト君を最大限支援してきた。国家試験の勉強のため、月2回は東京の専門学校へと泊まりがけで派遣した。交通費や宿泊費を含めると、費用は年100万円に上った。そうした投資も無駄になってしまう。
 インドネシアからの第1陣としてスウォト君ら介護士と一緒に来日し、1年早く就労期限を迎えた104人の看護師は、すでに6割以上が帰国してしまった。
 日本に残って国家試験に再チャレンジする者は少数に過ぎない。今年8月までに決断を迫られる介護士の場合も、看護師と同じパターンとなる可能性が高い。

すでに外国人看護師問題についてはさっぱり進んでいないというその状況を何度か取り上げてきたところですが、介護士に関してもほぼ類似の状況が見られ志半ばでの離日が相次いでいる、そしてどうやらその理由として広く言われているように言葉の壁だけではないようだということが判りますよね。
外国人と特定せずとも介護業界の不人気ぶりは広く知られるところで、特に問題なのがまず「仕事がなくとも介護だけはやりたくない」という声が上がるほど失礼ながら業界イメージがよろしくない、そしてそれ以上に深刻なのがせっかく業界に入ってきた人々が「これではやっていけない」と相次いで離職していく現実があるということです。
仕事がきつい割に収入面で報われないという悲しむべき現実は各種職業ランキングでも最底辺付近の常連になっていることでも判りますが、とにかく需要が増えることはあっても減ることは考えられないだけに逃散が増えるほどさらに激務になっていく、そして公定価格ですから市場原理も働かず超売り手市場にも関わらず待遇面では全く改善の傾向がないというのは、医療介護業界全般に共通する問題と言えそうです。
そんな中で同じくインドネシアから来日した介護士の引き起こしたちょっとした事件がニュースになっているのですが、こちらの記事から紹介してみましょう。

<入管法違反>介護で来日、工場で働く インドネシア人摘発(2012年6月15日毎日新聞)

 名古屋入国管理局は14日、経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者として来日したのに、工場で働いていたとして、インドネシア人の女(37)を出入国管理法違反(資格外活動)容疑で摘発し、入管施設に収容したと発表した。強制退去処分とする方針。EPAで来日した介護福祉士や看護師の候補者が同容疑で摘発されるのは全国初という。

 同入管などによると、女は10年8月、介護施設でしか働けない特定活動ビザで沖縄県に入国。同県内の特別養護老人ホームで働いていたが、今年3月からは愛知県高浜市の自動車部品製造工場で働いていた。同入管と愛知県警が一般人からの情報提供を受けて今月7日、工場に立ち入り調査を行い、女が資格外活動であることを確認したという。

 捜査関係者によると、女は特養ホームで月10万円以上の報酬があったという。女は調べに対し「特養ホームは仕事が厳しいし、もらえるお金も思ったより少なかった。友人から月17万円もらえると工場を紹介された」と話しているという。

 女が働いていた特養ホームによると、女はインドネシア政府主催の介護士研修を受けて入国。昨年12月に一時帰国し、今年1月に勤務に戻る予定だったが、行方が分からなくなったという。ホームの教育担当者は「他の候補者と比べて日本語が上達せず、仕事もついていけない部分があり、悩んでいたようだ」と話した。

 ◇福祉士育成、現実の壁

 摘発されたインドネシア人の女は名古屋入管に対し、介護現場の仕事のつらさなどを訴えたという。介護福祉士候補者は施設で働きながら国家試験合格を目指す制度だが、言葉の壁などもあり、合格者は少数だ。今回発覚した不法就労により、人材育成の目的が十分果たされていない実態が浮き彫りになった。

 同制度は08年度にインドネシア人を対象に始まり、09年度にはフィリピン人にも拡大された。自国で看護教育を受けたり、大学もしくは高等教育を受けた人が、自国政府主催の研修を経て「候補者」となる。人手不足にあえぐ日本の介護現場に厳選した人材を送り込む仕組みだ。

 候補者は「特定活動」の在留資格で入国し、日本人と同様、介護施設で3年間働いた後、国家試験を受ける。施設では日本人並みの賃金が支払われる。ただ、在留資格で許される労働は、入国時に決められた介護施設に限定されている。働きながら合格を目指す候補者たちだが、難解な日本語の壁もあり、今年の試験を受けた2カ国95人のうち合格したのは36人で、合格率は37.9%にとどまった

 今回の摘発について、厚生労働省外国人雇用対策課は「国家資格の取得という本来の目的から外れており、遺憾だ。在留資格についてこれまでも候補者に説明してきたが、今後も啓発活動に努める」としている。【山口知、石山絵歩】

そこまで介護は嫌だったのか!と思ってしまうような話なんですが、こうやって来日する人々はもともと本国で相応の教育を受けている「知的エリート」であるだけに、日本の労働環境には我慢がならなかったということなのでしょうか。
もともとこの制度は人材輸出を図りたい各国に対して日本側はさほど受け入れを望んでいなかったものの、貿易不均衡是正という大人の事情と相まって何より現場からとにかくもっと人をという声が強かったことから、試験勉強中の金銭的負担など現場に大いに依存する形で始まったという経緯があります。
客観的に見れば日本人スタッフと比べて就労面ではむしろ優遇されているケースが多いと思いますが、当然ながら同じ業務をこなすにもより多くの時間もかかれば心身のストレスもかさむ、そして正式に資格を取れば今以上にきつい仕事が待っているとなれば、それは外国人ならずともブルーにもなろうと言うものだなと理解は出来ますよね。
こういう話を聞くと何しろ業界全体が悪循環に陥っていることを感じざるをえないのですが、日本人にしろ外国人にしろお金が全てではないと言っても最低限これくらいはという賃金水準はある、そしてより高い給与を求めると言ってもやはりこれは耐えられないという労働環境はあるとすれば、結局はどこまで魅力ある待遇を用意し多くの人材を集め、一人あたりの労働量を減らせるかというところに行き着くしかないでしょう。

介護報酬も改定のたびに雀の涙ほどは値上がりしているとは言え、現状を見ればスタッフを引き留めるほどの魅力あるものになっているとは到底言えない中で、国の決めた水準では現場が回らないというのであれば人が集まる水準とはどのくらいなのかということをまず見極める必要がありそうですよね。
この点で先の震災以降東北地方では各種の特区が申請されていますけれども、同地域では高齢者人口も多く医療・介護需要も高いと考えられるわけですから、例えば公的補助金によって介護スタッフ一人あたり月々幾らで思い切った高額報酬を加算してみるというのも一つの手ではないでしょうか?
よく言われることに医療・介護業界というところはとかくマンパワーが必要なことから人件費率が非常に高く裾野も広大で、公共投資の対象としても実は非常に優れていると言うことですから、何とかの一つ覚えのように万年建設業にばかりお金を落としておくよりはよほど生きた使い道になるんじゃないかと思うのですけどね。
特に近年老親の介護のため退職を強いられる人が増えていて、確かに寝たきりお爺ちゃんお婆ちゃんを自宅で介護すれば月々10万円以上は医療・介護のコストを節約出来ると言いますが、逆に言えば介護をしている家族ごと施設の顧客とスタッフとして組み込んでしまえば隣近所のご老人の面倒もまとめてみられる上にそれだけ月々の稼ぎにもなるということですから、一石二鳥、三鳥の効果も期待出来るというものでしょう。

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コメント

介護も黙って立ち去り型サポタージュやればいいんだよ

投稿: aaa | 2012年6月21日 (木) 09時44分

田舎ではまだ介護に抵抗感がないのと現金収入が貴重なのとで、職員の数はそれなりにそろう印象がありますけどね
ただ患者さんの絶対数は多くないし分散していて移動コストがかかるので、訪問やデイサービスの採算性が悪いのです
まじめに患者本位で小まめなサービスを提供してくれるところほど立ちゆかなくなります

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年6月21日 (木) 10時26分

「自称看護師」については15~20年前には大学病院に生息していましたが、20年経った今でも大学病院ってほとんど変わらないのでは?
患者のことは2の次で定時に勤務を終えて看護研究?に勤しむのが定番ですね。若い時にこういう環境に慣れてしまうと使えない...
こういう環境が馬鹿馬鹿しくて大学病院からはすぐに逃散してはやくも15年が経過しました。

これから激増するであろう要介護者予備軍に関しては、まだ元気なあいだに東南アジアへ移住してもらって、ホームヘルパーを雇うほうがいいのではないかと思います。日本では介護者は絶対的に不足ですからね。

投稿: 元神経内科 | 2012年6月21日 (木) 10時49分

東南アジアであれば生活コストも安いですから、年金等の社会保障支出も抑えられるのはいいと思います。
ただ彼らも消費者としての側面は持っているので国内消費の落ち込みが気になりますが。
そう言えば若い人はどんどん国内へ、歳をとったら海外へというサイクルを確立している国ってありましたっけ?

投稿: ぽん太 | 2012年6月21日 (木) 10時54分

>「注射はセンセイのお仕事ですから」「三時が過ぎましたから指示は受けられません」なんてことを言いつつ年中看護研究(笑)に精出している自称看護師

大学病院には看護師などというものは存在しない
あそこに転がっているのは人に似た姿をし人語めいた戯言を口走る腐った&腐りかけの茄子だけである
大学病院には看護基準の適用を除外すべきである
かわりに茄子基準というものを採用してみてはどうか?
腐った茄子を一本減らすごとに加算がつくようにすればよろしい

投稿: | 2012年6月21日 (木) 11時01分

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