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2012年6月 8日 (金)

医学部新設と文科省の新方針

先日は神奈川県の「医療のグランドデザイン」に医学部新設が盛り込まれたことを巡る医師会とのドタバタ騒ぎをお知らせしたところですが、もしかしたら医学部新設もあるかも知れないとすれば、医学部定員大幅増で医師が増えきってしまう前の今しかないだろうというのは多くの人々が感じているところでしょう。
単純に全体数の多寡だけではなく地域間の医師数格差是正のためにも定員増よりも医学部新設が有効だという主張は以前からありますが、そんな中で目新しい動きとして東北からこんな話が持ち上がったようです。

東北市長会、医学部新設を文科省に要望(2012年6月5日CBニュース)

 東北地方の75市でつくる東北市長会(会長=奥山恵美子仙台市長)は5日、大学医学部新設についての要望書を文部科学省に提出した。

 要望書は、5月17日に仙台市内で開かれた東北市長会総会で採択された「大学医学部の新設をはじめとした東北地方の地域医療充実に向けた取り組みの推進に関する決議」を受けたもの。
 要望書では、東北地方の医師不足は切迫しており、東日本大震災からの復興に取り組む中で、早急に地域医療体制を確保する必要があるとしている。さらに、東北地方が抱える課題を踏まえれば、地域で求められる医師を数、質共に将来にわたって確保していくためには、医学部を新設し、中長期的な医師の確保への取り組みが必要としている。
 要望書は、奥山仙台市長らが文科省を訪れ、城井崇政務官に提出した。
 奥山市長は、医学部の定員増の対応に感謝していると述べる一方で、宮城県には医学部は東北大の1校のみと指摘。地域医療を担う医師を養成する「自治医科大のような形のものがあってもよいのではないか」と述べ、医学部の創設を求めた。
 城井政務官は、震災後の東北地方における医療の厳しい状況や医科大の負担増について理解を示しつつ、「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」での議論や、第一線に立つまで10年必要といわれる医師を育成する間、どう乗り切るのかなどを考慮しながら、今回の医学部新設の要望についても、どう応えていくのか考えたいとした。【大戸豊】

イメージとしては地域におけるミニ自治医大のような形なのでしょうか、東北75市が共同で出した要望書とは言え実際に新設するとなるとすんなり宮城で決まるのかどうかは微妙なところではないかという気もしますが、都道府県単位で訴えるよりは説得力がありそうには思えますよね。
ただこれは新設に限らず定員増も含めて以前から言われていることですが、せっかく学生を増やしてもそれが望まれる場所で働いてくれるという保証は何もないわけで、仮に大学が出来てもこうした要望を出す主体になっているだろう僻地中小自治体の公立病院などに大勢の医師が押しかけるという未来絵図はちょっと想像できません。
かねて卒業生の活動範囲を制限しろだの、診療科に地域ごとの定数を設けろだのと意見は出ていましたが、さすがに都道府県単位というのは権利を侵害しすぎだという批判が出てくるにせよ、例えば今話題の道州制とも絡めてブロック単位で医師をとりまとめるということは検討されてくるかも知れませんね。

そのように未だ売り手市場であるかのように見える医師需給ですが、一方では学生総数は減少を続けている中で理系トップレベルをそうまで医学部ばかりが奪い取っていくのはどうなのかという批判もあるのは確かですし、元々偏差値最上位が入学していた医学部が学生総数が減少を続ける中で定員を急増させれば、どうしても下の方へと門戸を広げていくしかないのは道理ですよね。
かくて医学部内部においても学生の質の低下が言われ、先行して大きく学生数を増やした歯学部や法科大学院などは国試も通らない学校に用はないと一部では定員割れから存続の危機に陥りつつあるとも言いますが、国としても何かしらの対策の必要性は感じているということなのでしょう、こんなことを言い出したと言うのですね。

県またぎ学部再編 1大学法人が複数運営 文科省、少子化で改革案(2012年6月5日産経新聞)より抜粋

文部科学省は5日、国立大学に都道府県境を越えた運営法人や学部再編を促すことなどを柱とした大学改革プランを公表した。少子化が急速に進む中、大学教育の質を高め、世界で活躍する人材の育成が目的。今年度から着手し、中教審の議論などを踏まえながら平成29年度までに実行する方針。

 国立大学改革では、全国立大に来年夏までに、各学部の役割を再定義させ、改革策を打ち出すよう求める。大学や学部の枠を超えて再編を促すものだが、そのために導入するのが、1つの国立大学法人が複数の国立大を運営できる「アンブレラ(傘)方式」だ。民間の持ち株会社に似た方式で、都道府県境にとらわれず、1法人が所在地の近い大学や教員養成系など同じ分野の大学をグループ化したり、教育内容が重なる学部を統合したりできる

 現行法では「1法人1大学」とされているが、文科省は法改正を目指す。

 国立大は、16年に法人化される以前は100校以上ある時期もあったが、少子化などを背景に統廃合が進み、現在は86校。政府の国家戦略会議から、さらなる統廃合促進を含めた改革を求められていた。

 しかし、私大より授業料の安い国立大がさらに減少すると、経済的理由で大学進学の機会を奪いかねない。このため、文科省はアンブレラ方式の導入により大学運営を効率化し、大学をなくさない形で再編を進めることにした。

 高井美穂文部科学副大臣は「少子化に応じて大学の数を減らすという議論もあるが、都市、地方ともに日本が持続的に発展していくためには、高等教育を受ける子供の数を増やし、質を高めていくということが一番大事」と述べた。
(略)

文科省、地域課題解決に取り組む大学を財政支援(2012年6月5日日本経済新聞)より抜粋

(略)
 大学改革実行プランでは国立大の役割を全学部で再定義し、都道府県の枠を超えて機能別に学部を再編する方針を明記した。少子化の影響で私立大も地方の中小規模校は学生募集に苦労するケースが少なくない。地域によっては大学や学部がなくなり、地元が反発することも予想される。同省はCOC構想で地域に根差した大学を支援する姿勢も打ち出して理解を得たい考えとみられる。

 大学改革実行プランではこのほか、私立大の教育の質保証を厳格化する方針も明記。私学助成の配分にメリハリをつけるとともに、教育上問題がある大学に対しては学校教育法に基づく改善命令などを出す姿勢を鮮明にして「社会変化に対応できない大学には退場を求める」と強調した。

問題私大に廃止命令も…文科省、質確保に厳格化(2012年6月5日読売新聞)

 文部科学省は、私立大学の質確保に向け、指導内容や経営に問題がある大学に対して、廃止命令などを含めた厳しい措置で臨む方針を固めた。

 日本の大学の国際競争力の低下が叫ばれる中、質の悪い大学には“退場宣告”を行う一方、優れた大学に重点投資を行い、大学改革を促す

 文科省は今年度以降、経営状況に改善が必要な場合、積極的に実地調査を実施。改善を図るよう経営指導を行う。「改善の見込みがなく、教育の継続に悪影響を及ぼす」と判断した場合は、私立学校法に基づき、学校法人に解散命令などを出す。また、教育の内容に問題がある大学には、学校教育法に基づく改善勧告や組織廃止命令などに踏み切る。

どうも記事を見ているだけでも国立と私立とで随分と扱いに差があるなという印象を受けるのですが、「私大より授業料の安い国立大がさらに減少すると、経済的理由で大学進学の機会を奪いかねない」以上は国立大に関して言えばなるべく減らさずにおきたいというのも確かにそうなのですが、一方で単なるモラトリアムとしてしか機能していないかのような「質の悪い」私立大学には退場を求めたいというのも本音なのでしょう。
もちろんこれは医学部だけが問題となる話ではないのですが、当然ながらすでに定員過剰と言われ国試の合格基準を厳しくしてゲートキーパーにしているという歯学部などは真っ先に対象となってくるでしょうし、医学部においてもいずれ定員を再び絞りにかかってくるだろうことは想像出来ます。
田舎ではまるで商売にならないという弁護士などに比べると医師の仕事は比較的全国津々浦々まで相応に需要があって、本来であれば遠い昭和の時代に現在の形になった医学部配置もその後の需要の変化に応じて再配分すべきなのでしょうが、冒頭の記事にも見られるように医学部定員とはすでに大いなる利権であり、政治的ポイントでもあるとも言えるわけですね。
その昔あくまで医師不足ではなく医師偏在と言うなら医師が余っているのはどこなのかと問われた厚労相が「う~ん…徳島とか?」などと答弁して大騒ぎになりましたが、良くも悪くも臨床現場を通じて社会とのしがらみも深いと言える厚労省と比べれば、いわば教育にだけ責任を持てばいい文科省が入試倍率や国試合格率といったデータを指標にして敢えて空気を読まずに作業を進める方が話は早いのかも知れません。

無論、医学部に限らず実際にここを減らせ、あちらを廃止しろと指導が入るようになれば関連する諸方面から大いに反対論が出てきそうではあるのですが、もともとそこまで学生の質に問題を抱えていた大学に国が退場宣告までしたとなれば、いくら存続したくとも学生に対してどれだけの求心力を維持出来るかは神のみぞ知るですよね。
減少する学生数に対していずれ定員は削減する必要があるというのは単なる事実ではあるし、高等教育の名に値しないレベルの大学などあっても仕方がないというのもその通りだとすると、何しろ表立って反論しにくい話なのも確かですから、後は文科省がどれだけ大なたを振るう気になっているのかです。
もちろん現状で直ちにどこかの医学部を潰すという話にはならないでしょうけれども、現状で医学部新設を要望している設立母体(そのほとんどは私立です)が早稲田を除いていずれも学生の質としては決して高くないと言われるだけに、新設要望を体よくお断りするための新たなハードルとしても非常に使い勝手のいい話と言えそうです。

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コメント

私学の場合は他学と統合が難しいので学内で始末つけろってことじゃないですか?
レベル維持のためには定員を減らすよりもカリキュラムを改善してきちんと教育する場になってほしいです。
親たちにも子供をただの学費集金所で遊ばせてる余裕はありません。

投稿: ぽん太 | 2012年6月 8日 (金) 08時57分

学生の間で奨学金をとるという話も結構普通に出るようになっているようで、時代は変わったものだと思いますね。
旧態依然の教育が改善されずにただ進級が厳しくなるだけなら勘弁してもらいたいですが、気になるのは教育というより経営的視点から指導を入れると取れるところですかね。
特に医学部などは効率を追求するなら国試予備校化しかねないだけに、高等教育のあり方に関しての議論も必要でしょう。

投稿: 管理人nobu | 2012年6月 8日 (金) 10時47分

>1法人が所在地の近い大学や教員養成系など同じ分野の大学をグループ化したり、教育内容が重なる学部を統合したりできる

つまり駅弁の旧帝系列化もあり得る??

投稿: 轍 | 2012年6月 8日 (金) 12時18分

全国市長会、大学医学部新設を決議 地域医療の充実求める
http://www.kahoku.co.jp/news/2012/06/20120608t71013.htm

投稿: 全国市長会も決議 | 2012年6月10日 (日) 09時13分

どこにつくるかも利権がからまって議論がまとまりそうにないのに、こんな決議をしてしまうと後で困るんじゃないですかね…

投稿: 管理人nobu | 2012年6月11日 (月) 14時31分

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