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2012年5月10日 (木)

医療事故調 進んでいるのかいないのか

久しぶりに医療事故調に関する話題と言う事で、先日こういう記事が出ていましたが、ご覧になりましたでしょうか?

第3回医療事故調検討部会、第三者組織の役割で議論「事故の再発防止が目的なら、刑罰はなじまない」(2012年5月1日日経メディカル)

 「病院ではなく、第三者機関が真相究明と再発防止に当たるべき」「責任追及を目的にしていては、再発防止をシステム化できない」─。医療事故の調査を行う目的について、厚生労働省の検討会で本格的な議論がスタートした。

 厚労省は4月27日、「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」第3回会合を開催。過去2回の会合では、第三者組織を設置する必要性についてはおおむね合意が得られたものの、その役割については意見が分かれている。また、調査を行う目的についても、「原因究明」「再発防止」「被害の補償」といった様々な意見上がっている資料:PDF)。

 今回の冒頭、厚労省の藤田一枝政務官は、「本日は患者や法曹界など5人からご意見を伺い、調査を行う目的について、改めてご議論いただくことになっている。本日も活発な議論をお願いしたい」と挨拶した。この日の意見発表者は、医療側と患者側からそれぞれ1人ずつ、患者側弁護士1人、医療側弁護士1人、法律学者1人という構成。

 最初に意見を発表した秋田労災病院第二内科部長の中澤堅次氏は、「医療事故が起きた場合の被害者への対応が最も重要」と指摘し、そのためには事故の経過を知っている当事者がいる院内で精緻な調査が行われるべきと主張した。第三者機関の役割として、補償の可否の判断や原因分析、再発防止などを挙げ、「責任追及や処分を目的にすると、調査が個人を対象としたものになってしまい、再発防止をシステム化できない」と述べた。中澤氏は院内調査を中心に考え、第三者機関は現場の対応を補完する役割であることを強調した。

「病院で調査してほしくないという被害者もいる」

 だが、患者側の意見は違った。被害者や遺族らの5団体でつくる「患者の視点で医療を考える連絡協議会」代表の永井裕之氏は院内調査の問題点を中心に意見を述べ、「院内調査ができない規模の病院もあるし、事故を起こした病院で調査してほしくないという被害者もいる」と指摘。外部の第三者機関と連携した院内調査を求め、「医療界がもっと透明性を高めていくために、新しい医療安全制度が必要」として、医療事故調の早期設立を要望した。永井氏は「完璧な制度はない。小さく産んで、医療者や患者、市民らが一緒に育てる。医療安全を国レベルで啓蒙していく必要がある」と結んだ。

 患者側の訴訟代理人として長年の経験を持つ南山大大学院法務研究科教授で弁護士の加藤良夫氏も、永井氏と同様に院内調査の不十分さを指摘。「病院の調査は責任回避が普通で、被害者は傷ついてきた。第三者機関が中心となって真相究明と再発防止に当たるべき」と主張した。第三者機関について具体的には、内閣府の下に設置する「医療安全中央委員会」や、事故調査と補償を一体的に行う「医療被害防止・救済センター」の設立などを挙げた。

「免責制度や無過失補償制度が必要」と医療側弁護士

 一方、東大大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏は、法律学者の立場から「日本の刑事司法は制裁型で、法が現場に介入しすぎている」と指摘。日本の刑事司法に新しい文化を根付かせていく必要性を訴え、「失敗から学習し前進することが前向きな責任の取り方であり、医療安全の文化を広める努力をしないと萎縮医療、過剰医療になる。そのためには医療の素人である警察ではなく、同じ分野の専門家の意見を集約する国の機関を設けて原因究明や分析を行うべき」と主張した。

 都内に法律事務所を持つ弁護士の宮澤潤氏は「医療機関側に立って医療事件を扱っている」と自己紹介した上で、「刑事司法の突出は医療現場にかなりのゆがみをもたらしている」と指摘。自己に不利益な供述の拒否を保障する憲法38条、故意犯処罰の原則を定めた刑法38条を挙げ、「処罰されないという安心感がなければ正確な事実は出てこない。過失は処罰されないのが原則」として、軽過失による医療事故に刑罰を科さない「免責制度」や、過失の有無を問わず被害者を救済する「無過失補償制度」の導入を改めて提案した。宮澤氏は「再発防止が目的ならば、その手段として刑罰はなじまない」と主張。「軽過失を免責すれば真実の究明が容易になり、再発防止や適正な賠償、謝罪などにつながる」と述べた。

 ヒアリング後の意見交換では、院内調査を重視する意見と、院内調査の限界を指摘する意見とが対立。「免責制度」をめぐる議論もあった。医療側弁護士の宮澤氏は、刑罰の目的として「教育刑」の側面を強調、対する患者側弁護士の加藤氏が「応報」を主張するなど、刑罰の本質に踏み込んだ議論もあった。

ちなみに厚労省から出ている議事録等の同検討部会の資料はこちらですが、どうも記事を見る限りでも調査の主体が院内か院外かということが非常に大きな争点になっているように見えますけれども、これはそれほどの争点になるほどに重要なことでしょうか?
例えば中小医療機関などでは院内調査をしろと言われても調査委員会などおいそれと組織できないというケースも多いでしょうし、状況を知っている現場の声を拾い上げるということは当然ながら院外調査機関であっても必須に行うべき作業であって、調査を行う主体がどこかということとは全く別の問題ではないでしょうか?
それよりも調査を行う上で注意すべきは、かの有名な東京女子医大の事件などにも見られるように病院側と現場担当者側との立場は全く別物であるにも関わらず、病院側からのとかげのしっぽ切り的な見解のみが公式なものとして流通してしまう可能性があるということで、そうした点を考慮すれば医療現場の立場からも院内事故調などは回避すべきであるという考え方もありそうですよね。
いずれにしても院内調査は不十分にしか出来ないという施設の方が数の上では多数派なのですから、このあたりは少なくともケースバイケースで対応すべきもので杓子定規に決められるものではないし、一部大病院の立場ばかりを主張されても困るだろうと言う気がします。
それよりもむしろ議論を深めるべきなのはまるで傍論の一つのような扱いになってしまいっている「そもそもの事故調の目的は何か?」ということだと思うのですが、ちょうど厚労省の資料から今回呼ばれた5人のメンバーがその目的とすべきだと主張しているところを列挙してみましょう。

医療事故に係る調査の目的等に関する構成員の御意見(厚労省資料)より抜粋

医療事故被害者・遺族/新葛飾病院 セーフティーマネージャー 豊田 郁子

医療事故の原因を究明して、再発防止を図り、医療事故にあった患者・家族への公正な対応を目的としたもの

独立行政法人労働者健康福祉機構 秋田労災病院第二内科部長 中澤 堅次

事後調査の目的は、被害者及び家族の悲しみに対応すること(院内調査を想定して)

東京大学大学院法学政治学研究科教授 樋口 範雄

1つは、医療事故の原因究明再発防止策の提案。
2つめは、そのためにも(第1 の目的のためにも)、刑事司法の関与を今以上に少なくし、業務上過失致死罪に当たるケースでも、とりあえず第三者機関に行けるようにする。言い換えれば、医師法21 条の、医療事故についての届出先を警察ではなく、この第三者機関とする。

読売新聞東京本社 編集局社会保障部記者 本田麻由美

1)いわゆる医療事故が繰り返されないよう、客観的に調査・検証することで、実効的な改善策を導き、その後の医療のあり方の参考とするため
2)患者・家族と医療側の間に無用な対立を引き起こさず、お互いの納得と一定の理解に導くため

公益社団法人日本看護協会常任理事 松月みどり

患者・国民の医療に対する不信感を払拭し、安心で安全な医療を確保するために必要
患者・国民に対して医療の透明性を図るためには、死因究明の十分な調査分析と併せて、医療事故に関する情報収集と公表も重要

宮澤潤法律事務所弁護士 宮澤 潤

軽過失に関する刑事免責+事実関係の開示。この形を実現するのが、医療事故の再発防止からは重要。

NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長 山口 育子

公的に認められた機関
複数の専門家による多角的な検証
事案に応じた臨床経験者による検証
患者側へのわかりやすい説明
医療現場へのフィードバック

特に最後の山口育子氏の意見は、実際に患者の苦情が持ち込まれる側としての具体的な問題点の指摘が含まれていて興味深いものですからご一読いただければと思うのですが、いずれにも共通して言えることは、いわゆる処罰感情を満たすことを目的とした組織ではないとしている(少なくとも表向きには)ことでしょうか。
この処罰云々について臨床家の中澤氏や医療側弁護士の宮澤氏などは妙に過剰反応しているようにも見えるのですが、その背景には前回検討会で患者側弁護士で医療事故情報センター常任理事の加藤良夫氏から「医療事故の被害者の願いは「真相究明」「反省・謝罪」「再発防止」「損害賠償」」というコメントが出たことを警戒してのものであるようです。
厚労省にしても人選に当たっては当然ながら省の意向を反映した議論を進めていくことを願ってのことでしょうから、医療事故調は処罰を目的とする組織ではないということまでは大前提になっているとも考えられますが、今後はその調査報告を司法なり行政なりが処罰に結びつけることを是認するか否か(いわゆる免責問題)も焦点になりそうですね。

今回は主に呼ばれたのが医療側関係者主体であったということで、次回以降は今回要望されているように患者側の声をどんどんヒアリングしていくということになれば、「悪徳医者を処罰も出来ないなんてケシカラン!そんな組織に何の意味があるんだ!」なんて議論を振り出しに戻すような極論も出てくるようになるかも知れません。
ただこの点も患者側に近い立場である山口氏からも最後に「原因究明と責任追及のあり方とは分けて考えないと、とてもややこしい話になってくるなと改めて感じました」というコメントが出ているように、原因究明と再発防止を目的とするなら処罰や責任追及は切り分けておかなければならないという理解は徐々に進んでいるようにも感じられます。
いずれにしても「少なくとも医療界が医療事故の原因を究明する組織を何かつくらなければいけないだろう(里見構成員)」というところまではコンセンサスが出来ているようで、実際に施設レベルでは院内事故調をすでに活用しているところも少なからずあるわけですから、今後第三者機関が設立されるにしても多かれ少なかれ既存の院内事故調も関与してくるだろうとは言えそうですね。
そうなると医療の側に求められる課題としては何らかの組織なりが調査しレポートとしてどんどん出してくるのはいいとして、それをどのように再発防止として現場にフィードバックするかということですが、最終的に末端の個人個人にまで事故の教訓が行き届くよう担保することこそ衆目の一致する本来の目的でありながら、実は大いに厄介な問題ではないかと思うのですがね。

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コメント

調査が終わった時に個人特定につながる情報はすべて削除して匿名情報だけ残しておいても裁判の証拠に使われるんでしょうかね?
原因究明と再発防止が目的なら報告書の対象になったのが誰のことかは関係ないはずだし

投稿: 柊 | 2012年5月10日 (木) 07時42分

でも総論賛成各論反対って構図からは一歩も進んでないんですよね。
次回には予定通り紛糾して引き続き検討を要するってことになるんでしょうか。
いっそこのまま地域の基幹病院中心に院内事故調を整備させていった方が早いんじゃ?
周辺の中小施設も付き合いが深い相手の方がいざというときも調査をお願いしやすいでしょうし。

投稿: ぽん太 | 2012年5月10日 (木) 08時35分

医療側の対応もかなり変わってきていますから、当初想定されていた方向からある程度の軌道修正は必要なんだと思います。
一番異論も少なく簡単なのはまず利用は任意ということにして各地に公的な第三者検証機関を設置し、運用の実績を積み重ねていくことではないでしょうか。
いずれにしても顧客とのトラブルには対応が出来て来ている昨今では、個々の事例の検証を現場にどうフィードバックしていくかということの方が厄介かなと思っています。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月10日 (木) 11時45分

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