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2012年5月25日 (金)

東邦大で大規模な論文捏造が発覚

これまた本題に入る前の余談ですけれども、先日職員の刃傷沙汰で話題になっていた夕張診療所の村上医師が所長として責任を取る形で辞任したということです。
事件そのものについては色々と噂も流れてきますけれども、夕張市としては何かと軋轢も多かった村上医師が辞めて胸をなで下ろしているだろう反面、今後の診療所運営がどうなるかという点では頭が痛いところかも知れませんね。
しかし村上先生も色々と言われるところは多い人ですが、夕張も辞めることになって結局何で食っていくつもりなんでしょうねえ…

余談はそれくらいにして本日の話題を紹介してみたいと思いますが、夕張に限らず最近妙に医師の絡んだ事件が多いような印象もある中で、これはさすがに同情の余地無しと思えるのがこちらの事件です。

東邦大元准教授 論文ねつ造の疑い(2012年5月23日NHK)

東邦大学の元准教授の麻酔科の医師が、国内外の学術雑誌に発表した193の論文にねつ造の疑いがあるとして、日本麻酔科学会が調査していることが分かりました。

学会がねつ造の疑いで調査しているのは、東邦大学の元准教授で52歳の麻酔科の医師が、去年までの21年間に国内外の学術雑誌に発表した193の論文です。
日本麻酔科学会によりますと、イギリスの研究者がこの医師の論文を統計的に分析し、「患者の年齢や身長、体重、それに血圧などの数値が特定の範囲に集中し、異常だ」と指摘したため、ことし3月、学会に特別委員会を設け、在籍した医療機関や共同研究者に聞き取り調査などを行っているということです。

一方、東邦大学では去年、論文に不審な点があるという指摘が寄せられたため、この医師が准教授として在籍中に発表した9つの論文を調査したところ、8つで国の指針で定められた倫理委員会の承認を得ていなかったことが分かり、ことし2月に諭旨退職の処分にしたとしています。
大学の調査に対し、医師は「論文のデータはすでに処分した」などと説明し、ねつ造は否定したということです。

日本麻酔科学会で調査を担当する長崎大学の澄川耕二教授は「日本の研究者に対する信用の問題でもあるので、きちんと調査して、来月中に結果をまとめたい」と話しています。

東邦大医学部の元准教授、193論文捏造の疑い(2012年5月23日読売新聞)

 東邦大学医学部の元准教授(52)が、国内外の専門誌に発表した193本の論文に捏造(ねつぞう)の疑いがあることが23日わかった。

 元准教授が会員である日本麻酔科学会は調査特別委員会を設置、捏造の有無の調査を進めている。これほど多数の論文について不正が疑われるのは極めて異例

 論文は1991~2011年に発表され、内容は、麻酔薬を使った患者に対する吐き気止めの薬の効果などを調べたものだった。

 東邦大によると、元准教授は、05年から同大で麻酔科医師として勤務していたが、11年8月、元准教授の論文について「異なる臨床データに基づく別の論文なのに、患者数が同じなど不審な点がある」といった指摘が寄せられた。同大が元准教授に対して論文データの根拠を求めたところ、「既に処分した」などと説明、捏造は否定したという。

医学論文193本、捏造の疑い 東邦大准教授、退職処分(2012年5月23日朝日新聞)

 日本麻酔科学会員の麻酔科医が国内外の専門誌に発表した論文に捏造(ねつぞう)の疑いがあるとして、学会が調査していることが23日、わかった。対象は共著のものを含め23の学術誌に掲載された193の論文。この医師が准教授として在籍していた東邦大学は2月、8本の論文に関する研究について倫理規範違反があったとして、諭旨退職処分にした。

 学会が調査しているのは、元東邦大学准教授の藤井善隆医師の論文。海外の複数の専門誌が「データに捏造の疑いがある」との論説を掲載したことを受け、学会が3月に調査特別委員会を設置。藤井医師が1991年以降に在籍した医療機関に聞き、論文の根拠となった症例が実在したか調べている。藤井医師は不正を否定しているという。

 捏造の疑いを2月に指摘した英国の専門家の論説によると、藤井医師が91~2011年7月に発表した麻酔薬の投与量などに関する論文の169の試験データを統計的に分析したところ、対象者の体重や年齢、身長、血圧などの数値が特定の範囲に偏っていた。通常起こりうる分布と大きく異なっていた。

 東邦大学も藤井医師が在籍中に発表した9本の論文について調査。うち8本で、義務づけられている病院内の倫理委員会の承認を得ていなかった。藤井医師は事実を認め、8本の論文については撤回している。

しかし先日の慶大教授の倫理指針違反にしてもそうですが、どうも大学の中の人も一度きちんと基本的な社会常識をおさらいしておかないと、さすがに昨今では「白い巨塔」のように大学に臨床面で期待する人も少なくなってきているとは思いますけれども、この上研究面でも権威が地に堕ちることになっては存在意義が問われかねないじゃないですか。
ともかく20年間で200近い論文を出したというのはかなりアクティブな人だったんだろうなと言う印象を受けるところで、実際世界で最も権威ある紳士録の一つと言われる「Who’s Who in the World」にも掲載されたということですから注目株の一人と目されていたのでしょうが、逆にそれだけ注目を集めてしまったが故に検証の目に曝されたとも言えるのかも知れませんね。
普通に考えて論文の元データを処分するというのはあり得ないことですから調べればすぐに足がつくようなお粗末な捏造だったと言えますが、今の時代ちょっとした要領の良さがあれば対象分布など一見それらしい値に捏造しておくこと自体は造作もないことで、この辺りは捏造するにしてもちょっと手抜きが過ぎたのかなという印象も受けます。

社会的影響ということを考えて見ると、例えばひと頃話題になったES細胞のような明らかな捏造は元より、常温核融合や先日のニュートリノのように結果としてどうやら間違いらしいと判ったケースも含めて、世の中が注目するような大きな話題であれば必ず第三者による追試・検証というものが行われ確認が行われていきます。
ろくに査読もない学内誌などに載せて終わるようなどうでもいい二束三文の論文ならともかく、ある程度以上のまともな雑誌に載せるレベルの論文になるともっともらしい数字を整えるだけでは何ら新味のない結論になってしまうし、あまりに斬新過ぎれば他の研究者によって必ず検証の目に曝されるはずですから、案外こうした捏造によって世の中が大きく動くということは少ないのかも知れません。
そうは言ってもバレない範囲で細かい捏造をしておけばよいのだろうとはならないのは当然なんですが、同様に捏造が明るみに出たというケースで是非教訓にしたいのが東大助教として世間的にも活躍しながら経歴詐称に加え学位論文も捏造していたということが判明して学位取り消しという稀な処分を受けたアニリール・セルカン氏の事例でしょうか。

饒舌な日本語に加え元オリンピック選手で宇宙飛行士候補であったなど各方面に輝かしい業績を持ち各方面からひっぱりだこの人物であっただけに、当初マスコミなどもその疑惑報道には及び腰だった印象がありますが、最終的には経歴も業績も全て詐称の単なる詐欺師であったことが判明した経緯として、ネット掲示板での詳細な検証作業が大きな役割を果たしたということが知られています。
セルカン氏の場合は先の東邦大准教授などとは比較にならないくらい手の込んだ詐称の手口で完全に社会を信用させていたわけですが、ひとたびネット住民の手にかかれば壮大な努力の結晶も全て水泡に帰してしまったということで、これだけ苦労して入念な下ごしらえをしたところでその気になって調べられれば捏造は必ずバレるということは是非とも知っておいてもらいたいところですよね。
論文捏造などは結局のところは各人の良心の問題とも言えますが、ひとたび捏造が発覚すれば本人のみならず共著者として関連する講座の人間は元より、場合によっては所属研究機関やその国からの研究そのものまでが疑いの目線を受けることにもなりかねないわけですから、くれぐれも自らの社会的責任というものも肝に銘じておいていただきたいと思います。

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コメント

しょせん学歴ロンダの三流私大卒

投稿: | 2012年5月25日 (金) 08時55分

>>しかし村上先生も色々と言われるところは多い人ですが、夕張も辞めることになって結局何で食っていくつもりなんでしょうねえ…

理事は辞めたけど、医師として診療所の勤務は続けていかれるようですね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年5月25日 (金) 08時57分

しかし大学を退職させられたって懲罰になるのかね?
これで行政処分もなにもなしで民間再就職じゃまともな研究者はやってられないだろうに

投稿: kan | 2012年5月25日 (金) 09時22分

>理事は辞めたけど、医師として診療所の勤務は続けていかれるようですね。

ああなるほど、あまり突っ込んでもどうかと思うニュースだったので流していたのですが、そういうことであれば後任の人事次第では新たな火種になりそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月25日 (金) 10時05分

193本もでっち上げる労力をもうちょっと健全な方向で活用していれば論文くらいすぐ書けたでしょうに。

投稿: ぽん太 | 2012年5月25日 (金) 12時45分

大学在籍時には学会発表と論文至上主義の体質に辟易して若くして大学から出る選択をした記憶があります。
臨床医学雑誌もレアケースの症例報告ばかりに血道を上げる発表ばかりで読む気が失せます。
論文は医学の進歩に必要なものもありますが、あまり意味のない論文にさく時間があれば1人でも多くの患者を診た方がいいでしょう。
臨床医学雑誌を毎回閲覧するかぎりではどうでもいいような論文が圧倒的に多いような印象を受けます。
臨床現場では論文よりも大事なものもあるという事を多くの医師達が理解してほしいものです。

投稿: 元神経内科 | 2012年5月25日 (金) 13時02分

ちょっとテーマから外れるんですが、
研究は研究で非常に大事なことなんで、きっちりした研究がないことには医学は進歩しようがないです。
でも全ての医師が臨床も研究もどちらも一生懸命やれの姿勢が正しいのかと疑問に感じていました。
もともと研究者志望だった自分が今では現場で臨床に専念してますし、開業医の息子だった友人は研究一筋でひとかどの人物になってます。
お互いそれぞれの道で最適化されていて、今からお互いの仕事を入れ替えてやれと言ってもまともな仕事なんて出来ません。
でも日本では臨床家もちゃんと論文を書けとか、研究者も外来で患者と接しろと言われてしまうんですよね。
研究の方法論を身につけることは臨床をやる上でも大いに意味ありですけど、現場の忙しさを考えても形ばかりの臨床研究ならやらない方がいいと思うのです。

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年5月25日 (金) 14時44分

大学って給料安いんでしょ?
大学やめたらそれでいいって甘すぎない?

投稿: | 2012年5月25日 (金) 19時47分

純粋に医業に関しては別に何も害がないとも言えますから、この場合行政処分などはどうなるんでしょうね?
こういう人の処分をどうするかというのは案外微妙なところがあるかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月26日 (土) 21時07分

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