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2012年5月 2日 (水)

医薬品行政にまつわるトラブル二題

少し前にこういう判決が出ていましたが、御覧になりましたでしょうか。

医薬品ネット販売の権利認める 東京高裁が逆転判決(2012年4月26日朝日新聞)

 医師の処方箋(せん)なしで買える一般用医薬品(市販薬)について、インターネット販売を原則禁止にしたのは過大な規制だとして、ネット販売業者2社が販売できる権利の確認などを求めた訴訟の控訴審判決が26日、東京高裁であった。三輪和雄裁判長は業者側の請求を退けた一審・東京地裁判決を取り消し、販売を認める逆転判決を言い渡した。

 市販薬のネット販売をめぐっては政府内でも規制緩和の議論が高まっており、国は現在の販売制度の見直しを迫られることになる。

 控訴していたのは「ケンコーコム」(東京都港区)と「ウェルネット」(横浜市)。

 厚生労働省は、改正薬事法で市販薬を副作用の危険性に応じ1~3類に分類。省令で、危険性の高い1、2類には薬局などでの対面販売を義務づけ、ネット販売は3類しか原則認めないようにした。両社は1、2類を含む全体のネット販売を認めるよう求めていた。

 高裁判決は、改正薬事法がネット販売の一律禁止を想定していたとは認められないと指摘。原則禁止にした省令について「法の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定で、無効であると解釈すべきだ」とし、ネット販売できる権利を認めた

 ネット販売の禁止について、一審では「健康被害を防ぐための規制手段としての必要性と合理性を認めることができる」と容認していた。しかし、東京高裁では、「ネット販売された薬の副作用の実態把握が不十分で、省令で規制する合理性が裏付けられているとは言い難い」とした。

医薬品ネット販売、「慎重に対応」-小宮山厚労相(2012年4月27日CBニュース)

 一審判決から一転し、厚生労働省令が禁止する一般用医薬品をインターネット販売する権利を認めた東京高裁の判決を受け、小宮山洋子厚労相は27日の閣議後の記者会見で、「便利にインターネットを利用したい方がいる一方で、薬害の被害にあった方からは、慎重な対応を求める声もある」と指摘。「しっかりと、慎重に対応するべきことだ」との見解を示した。

 ただ、今後の具体的な対応について小宮山厚労相は、「判決内容の詳細はまだ承知していない。しっかりと判決内容を見て検討し、関係省庁とも協議をしていきたい」と述べるにとどめた。
(略)

個人的にOTC薬拡大にしろ医薬品ネット販売解禁にしろ、日本人の医療に対する自己責任というものへの考え方を一段進める効果があるのではないかと密かに期待しているのですが、現状ではやや過剰規制の方向に振れているのかなという印象を持っています。
もともと国内ではネット販売の規制はなかったと言いますが、平成16年からケンコーコムが一般用医薬品のネット販売を始めたことに伴い厚労省から安全性への懸念が指摘され、いわば事後的に規制を定めた改正薬事法が施行されたという経緯があります。
昨年の行政刷新会議の仕分けによって「安全性確保の要件設定を前提にネット販売の可能性を検討すべき」という結論が出た結果、政府も早期に議論しますという閣議決定をしてはみたものの裁判の行方を見守っているということなのか議論もさほど進んでいないようで、今回の高裁判決を受けても相変わらず「慎重に対応すべきこと」と言っているくらいですから腰が重いのは確かなようです。
海外においてもネット販売は規制緩和が進んでいますが、もともと市販薬の範囲が日本よりも広い国が多いということに加えて、米国などを見ても判るように自分の判断で利用する以上不都合が起こっても自己責任だという社会的コンセンサスがある国々に対して、日本であれば何かあれば規制をしなかった国が悪いと言うことになるのですから役人が及び腰になるのも理解は出来ますよね。
加えて実際に反対論の先鋒に立っているのが薬害問題などの関係者だと言うのですが、傍目には今回の件には直接関係ないのに何故…とも思うのですけれども、昨今医療行政に限らずこうした市民代表といった方々の声を取り上げていくべきだということになっていますからやむなきところなのでしょうか。

OTC薬拡大に際しても医療関係者の間でも意見が分かれたように公的規制をどの程度厳しくすべきかは議論のあるところですが、先日のバス事故でも背景に過酷な運行事情に基づく運転手の過労があったのでは?という声もあったり、また医療専門職の業務過多問題が医療事故につながると言われるように、当然ですが規制が緩いことによって不利益が大きい場合では規制は厳しくしていくべきでしょう。
一方で稀なリスクに対して規制を厳しくし過ぎることもゼロリスク症候群につながりますが、どうも薬害訴訟の頻発などで羮に懲りて膾を吹くかのように日本では厳しめの規制がデフォになっているようで、この辺りは何しろネット普及などにも見られるように時代が急激に変わっていっているわけですから、お上も時代に合わせて柔軟に対応出来るようになっていかないものかなと言う気もしています。
もちろん薬剤のネット販売解禁が安全であると言っているのではなく、むしろほぼ確実に何かしらの健康被害は起きるだろうと思うのですが、逆に必発だからこそ薬剤一般の使用における原則と同様にリスクよりもメリットが上回るのであれば、例えば業者に保険加入を義務づけるといったいざというときの対処法も込みでやってみてはどうかなと言うことです。
そういう意味では何かが起こるかも知れないから駄目だというのではなく、何かが起こったとしてそれに対しての対処をまるで考えずにやっていることが駄目であるわけですが、ましてや容易に予想される問題に対して何も考えがないまま推し進めるというのは問題だろうというケースがちょうど最近発生しています。

「一般名処方加算」で混乱 適応外処方として査定される可能性も(2012年5月1日日経メディカル)

 今年度の診療報酬改定で新設された「一般名処方加算」。後発医薬品の使用促進を目的とする加算だが、先発品と後発品の適応症の違いが原因で、レセプトが査定されかねないという問題が生じている。

 一般名処方加算は、後発医薬品がある薬剤を一般名で処方した場合に、処方箋料に2点を加算するもの。複数ある薬剤を処方する際に1種類だけでも一般名で処方すれば算定できるため、多くの医療機関が算定しているようだ。

 しかし、同加算を巡って早くも混乱が起きている。レセコンが一般名処方にうまく対応しておらず事務職員が入力に手間取ったり、薬局から医師に薬剤名や用法、用量、剤形などについての疑義照会が頻繁に行われるなどの問題が多発しているのだ。レセコンメーカーはソフトの改訂を急ぎ、薬局は医療機関ごとによく処方される一般名薬剤リストを作成するなど、対応に追われている

 だが、これらの問題が解消しても、しばらく尾を引きそうな問題もある。社会保険診療報酬支払基金などによって、一般名処方加算が減点査定される可能性がある点だ。

 後発品には、先発品と適応症が異なるケースがある。例えばドネペジルの先発品であるアリセプトには高度アルツハイマー型認知症の適応があるが、後発品にはない(他の品目の適応症の違いについても、厚生労働省がウェブサイトで公開している)。こうした薬剤を医師が一般名処方し、薬局で後発品が調剤されると、3月審査分から始まった突合点検(医科と調剤のレセプトを患者単位で照合する作業)で、「適応外処方である」として査定される恐れがある。

厚労省が見逃し促す通知?

 この問題に対して厚労省は1月、支払基金宛てに「一律に査定を行うことは、後発品への変更調剤が進まなくなること、医療費が増える可能性があることなどを保険者に説明し、影響を理解してもらうよう努めていただきたい」とする通知を発出した。文面からは、「査定せず見逃すように」とのニュアンスが感じられる。

 すると、一部の先発品メーカーがこの通知に強く反発した。臨床試験を行い適応拡大してきたにもかかわらず、その企業努力を無にする制度は受け入れ難い、というわけだ。

 そうした声に配慮してか、厚労省は本誌の取材に対し、この通知について「従来通り審査は個別に判断してもらいたいという意味だ」(保険局医療課)と説明する。つまり、問題は何ら解決していないことになる。

 そもそも一般名処方は、厚労省が推進する後発品への切り替えに医療機関が協力するもの。それなのに逆に査定されるのでは、後発品推進政策に黄信号がともる

 では、実際のところどうなるのか。レセプト審査に詳しいある関係者は、「心配する必要はないだろう」と予想する。その理由は、仮に適応症の違いによって適応外処方になったとしても、その責任を薬局に問うのか、医療機関に問うのか、判断が難しいからだという。

 「薬局には患者の疾患名が知らされないため、その薬剤が適応外になるかどうか知りようがない。医師にも、先発品と後発品の適応症に違いがあることがきちんと周知されているとは言い切れない。どちらを責めるわけにもいかないので、支払基金は『査定はできない』と判断するのではないか」(前出の関係者)

 もっとも医療機関にしてみれば、無用なトラブルは避けたいところ。日本臨床内科医会の保険担当理事を務める、阿部医院(東京都目黒区)院長の清水惠一郎氏は、「普段よく使用する薬剤については、適応外処方になる可能性がないかチェックしておくべきだろう」と語る。

 薬局でも、医療機関との連絡を密にするところが増えている。しばらくの間、医師は一般名処方を巡る疑義照会への対応に追われることになりそうだ。

ジェネリック問題に関しては当「ぐり研」でもたびたび取り上げていますけれども、ともかく国と保険者が足並みをそろえて推進していることに対して現場では今ひとつ乗り気でないことの根本には、やはり全国数千万もの顧客を相手に間違えが許されない商売をしている現場で、不要不急の切り替えを急進的に推し進めれば取り違えなどの単純ミスだけでも増えずにはいられないのでは?という懸念があるのだと思います。
上記の記事中にある先発品とジェネリックとで適応症が異なる問題にしても以前から「同じ薬だと言いながらゾロに切り替えるたびに病名を変更しろと言うのか」と処方する側からは不満の声が挙がっていたものですが、先発品メーカーの企業努力を無にするのかという声も全くもってもっともなことで、本来そう簡単に解消するものではないにも関わらず切り替えだけを急げ急げと押しつけてきたわけです。
仮に適応外だとしてその責任を薬局と処方医のどちらが負うべきかという話も非常に重要かつ解決困難な指摘なのですが、いずれにしても冒頭のネット販売に対する過剰なほど慎重な対応と比べて見れば、これが同じ省庁のやる仕事なのか?と思うほどにあまりに適当にも見えてきますよね。
今のところは希望的観測?も込みで「まあ査定する側も何となく適当に処理するのでは?」などと甘い予測が出ていますが、過去にあり得ないような数々の伝説を残してきた査定という作業の歴史に思いをはせる時、レセプトチェックには今まで以上に力を入れてかからないと大変なことになるかも知れません。

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コメント

まずは危険度の低い薬からという方針はそれほどおかしくはないと思うんですが、対面販売だから安全というのは違うんじゃないかと。
ネットで売るなら対面販売に準じた個人確認が欲しいですが、まず業界が自主的に何かやってみてはどうでしょうね。
国民総背番号で全ての情報が一元管理出来るようになればネット販売も安全になるんでしょうけど。

投稿: ぽん太 | 2012年5月 2日 (水) 10時27分

空気読まずに嬉々として査定しまくる保険者の登場を期待w

投稿: aaa | 2012年5月 2日 (水) 14時48分

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