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2012年5月 8日 (火)

安ければ安いほどいい?

さて本日の前振りとして、先日の不幸なバス事故で格安運行会社のリスクというものににわかに注目が集まっていますが、安いのにはそれなりの理由があるというのがこちらの記事です。

他社便へ振り替えなし ピーチ、欠航時に混乱(2012年5月6日東京新聞)

 格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションで、欠航時に一部の利用客の間で混乱が生じている。低価格運賃の実現のため他社便への振り替えがないためだ。世界的にみられるLCC流の対応だが、日本では知らずに利用する客も多く、専門家は「よく調べてから乗って」と注意を呼び掛けている。

 ピーチは関西空港を拠点とし、三月一日に就航。最初の一カ月の平均搭乗率は83%で、75~80%とした予測を上回り、今のところ好調。徹底的なコスト抑制策で実現した低価格運賃が最大の魅力だ。

 しかし、日航など大手は、機材故障などの自社都合で欠航すると、他社便への振り替えのほか、ホテルを手配するケースもある。一方で、ピーチは自社便の中で振り替えるか、払い戻すしか選択肢がない

 三月に長崎発関西行きの便が欠航した際は、福岡発の便に振り替え。長崎から福岡までの交通費は利用客の負担で「他社便は乗れないのか」「滞在費を負担して」と不満の声が相次いだ

 同社はホームページで「他社便への振り替えはできない」と呼び掛けるが見落とす客も多く、手元に残る予約確認書にも記載する方向で検討に入った。

 LCCに詳しい桜美林大の丹治隆(りゅう)教授は「LCCはトラブル時に補償がない分、運賃が安い。欠航時などの対応を調べてから利用することが必要だ」と指摘している。

無論安全性などをきちんと担保しているという前提であれば欠航時の不便さそのものは一概に非難されるようなものではなくて、自分でリスクとコストとをはかりにかけて会社を選ぶのが健全な自由主義社会での商売のあり方というものではないでしょうか。
ただ今までの日本では言わずともこうした部分はフルコースで用意されているのが当たり前という感覚があって、そうであるからこそリスクとコストを比較検討するという習慣が根付いていなかったとも言えますから、当分は窓口の担当者さんも苦労が絶えないんだろうなと思いますね。
いずれにしても何であれリスクあるいはベネフィットとコストとをどうバランスさせるかという判断をするためには、そこにどんなリスクがありコストが幾らかかるのかということを各人が承知していなければならない理屈ですが、例えば医療などに関しても日本では医療のベネフィットとコストの関係を国民もあまり考えてきたとは言えず、当の医療従事者でさえ医療はコスト度外視でただ最良を追求すべきものだと考えていた気配があります。
通常はそうした野放図なことをやっていればとんでもない高コストなものになっていてもおかしくないのですが、幸いにも?日本では官僚の皆さんがきっちりと手綱をコントロールしてくださっていたおかげか世界一のコストパフォーマンスを誇る医療だと言われてはきたわけですね。

日本の医療支出は先進工業国で最少、最高は米国 米調査(2012年5月6日AFP)

【5月6日 AFP】米国の医療制度改革を推進する民間団体コモンウェルス・ファンド(The Commonwealth Fund)は3日、13の先進工業国の医療制度を比較調査し、医療関連支出が最も少ないのは日本、そして最も多いのは米国とする報告書を発表した。報告書ではまた、米国ではその高い支出に見合う医療サービスが提供されていないことにも触れている。

 調査は経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development、OECD)などによるデータを基に、英国、オーストラリア、オランダ、カナダ、スイス、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、日本、ニュージーランド、ノルウェー、フランス、米国の医療サービスを比較した。

 調査の結果、米国では2009年、1人あたりの医療支出が8000ドル(約64万円)近くに達した。一方、最も少なかった日本では2008年、1人あたりの医療関連支出は2878ドル(約23万円)だった。国内総生産(GDP)に対する医療支出の割合は、2009年の米国では17%以上だったが、日本では9%にも満たなかった

 報告書は、日本が出来高払い制を採用しつつも、専門医や病院、さらにはMRI(磁気共鳴画像装置)やCTスキャナー(コンピューター断層撮影装置)の利用も制限されていないことに触れ、医療サービスの利用制限によりコストを抑えるのではなく、政府が割り当てる予算内に医療支出が収まるよう医療費を設定しているとした。

 これとは対照的に、米国では高額な治療費と容易に利用できる医療技術、さらには肥満のまん延から医療支出が増えているという。

 報告書を執筆したコモンウェルス・ファンドの上級研究員、デービッド・スクワイヤーズ(David Squires)氏は、「米国人は他の国より多くの医療サービスを享受していると思われがちだが、実際のところ米国人は医者や病院にそれほど行かない」と話す。

「米国の医療支出が多い理由は、高い医療費と高額な技術の頻繁な利用にある可能性が高い。残念ながら、この高い医療支出に見合うサービスは提供されていない」

しかし言ってみればこれだけ価格競争力のある日本の医療業界(の一部の方々?)がTPPに絶讚反対中というのも興味深いものがありますが、いずれにせよアメリカの医療費の高さはすでに各方面からの紹介で有名になっていて、なにしろ人間生活にゆとりが出来れば一番大事なのは命と健康なのは当然ですから、基本的に先進国と言われる国々ほど医療費は高くなっていくのは当たり前の現象と言えるでしょう。
そんな中で日本では全国民に対し一律定価(しかも廉価)販売の皆保険制度というものを導入した上で、医療現場のいろいろな事情をさっくり無視してともかく財政支出が幾らになるかという観点だけから医療費というものを決めてきた経緯があり、安く上がっていること自体はそう不思議というものでもありません。
ただ諸外国と日本の医療制度を比較して誰しも驚くのが、これほど廉価の医療を提供している日本が往時の英国のように皆保険医療の実質的破綻に至るわけでもなく、迅速なアクセスに高い質、そして現場のモチベーションを維持し得ているという点についてであったわけですが、その秘密は現場スタッフの「聖職者さながらの献身(ヒラリー)」という、いわばシステムとして組み込みがたい特殊要因に依存していたわけですね。
ひと頃から話題になった医療崩壊という現象が単に物理的な多忙や数の不足といったものではなく、立ち去り型サポタージュに象徴されるような現場のモチベーション崩壊こそその本質であると言われる所以ですが、一方ですでに皆保険制度下でスタッフのモチベーションが落ちるところまで落ちて国外逃散が相次いだという医療崩壊先進国イギリスでは、不確実なモチベーションに頼らずシステムの方で対応を試みているようです。

◆ 林大地の「誰もが“無料”で医療を受けられる国、イギリス」 担当科の仕事が忙しいほどうれしい夜勤(2012年1月13日日経メディカル)より抜粋

 前回の結びで「次回は、医師の夜勤制度導入に関連して生じた、イギリスの医師の勤務体系にかかわるもう一つの変化についてご紹介します」と書きました が、それはいったいどのような変化だったのでしょうか。端的に言えば、夜勤中も日勤中と同じく、「勤務時間内は常に働いていること」を求められるように なったことです。

(略)

 慢性的な財政難に苦しむイギリスのナショナル・ヘルス・サービスの病院は、人件費を極力抑える必要がある一方 で、前回紹介した欧州労働時間指令(European Working Time Directive)による医師の労働時間制限も遵守しなければならないという板挟みの立場に置かれています。一見不可能に見えるこの2つの条件を両立さ せるための方法の一つが「科をまたいだ夜勤制度」だったのだろうと思います(※注2)。このように、合理性を徹底的に追求した勤務体系を取らざるを得ない のも、「誰もが“無料”で医療を受けられる国、イギリス」の特徴なのかもしれません。

このシステムがどのようなものかと言えばごく簡単で、例えば内科の患者が集中して内科夜勤医の手に余るようになれば暇な他科の医師が呼び出される(他科医とは言え、半年間の内科初期研修は受けています)、そして問診や検査オーダー出しを行い、その結果を見て内科医が最終的に治療に当たるという応援システムであるわけですね。
考えて見れば判りますが同じ夜勤とは言っても全科同時に同じように働いているはずはありませんから、病院側からすれば追加投資一切無しに労働力の有効活用を図れるという非常にありがたい制度で、あるいは日本においてもローテート研修が必修化されたのは将来的にこうした制度の導入を考えてのことかとも思ってしまいます。
もっとも専門医としてのキャリアを積んでいくほどに専門外の仕事にかり出されるということに不満が貯まるのは当然で、実際に「この「臨時助っ人」としての仕事を心から喜んでやっている医師はいない」ようだと言うのですから細々した不満は幾らでもあるのでしょうが、夜勤医には前後の通常勤務を免除するなど、少なくとも労働環境に関しては日本よりもずっと配慮しているとは言えそうです。

さほど長い記事でもありませんから詳細はご一読いただければと思いますが、応用編として勤務時間内の医師を目一杯効率的に働かせることで過酷な超勤などを減らすシステムとしても使えそうですし、とりあえず金銭的に優遇が出来ないなら労働環境だけでも配慮するという点では、これはこれで合理的なやり方かも知れません。
無論のこと、イギリスのやり方が素晴らしいなどと言いたいわけでもなく、あくまでもこうしたやり方もあるということなのですが、前述のような医療費決定のシステムにより金銭的な面でこれ以上大きく現場に報いるということがまずもって非現実的になっている中で、現場担当者個々の頑張りという非常に不確実なものだけに頼っている日本の医療は極めて危なっかしい状況にあるという現実は知っていくべきでしょうね。
例えば昨今では小児科がこれほど多忙であると社会問題化しているにも関わらず小児医療費無料化は対象が拡大される一方だと言うことですが、アメリカ政府が資金を出して行った調査によっても医療費の無料化はモラルハザードを招き、結果として社会全体の医療費支出を増大させるという当たり前の現象はすでに確認されていますから、財政面だけで見ても選挙対策でとにかく安ければいいというものでもないはずです。
ましてや医療費無料なのをいいことに、毎日どころか昼夜何度も子供を病院に連れてくる保護者なども実在していて現場担当者のやる気を日々奪っている現実を思えば、ただ安ければいいと盲信することの怖さも承知しておくべきで、医療においても利用者はコストとベネフィットとに関わる諸事情をきちんと知った上で判断していくべきではないでしょうか。
そして医療従事者も自分たちがどのようなコストを使って、どんな水準の医療を目指そうとしているのかということを判断材料として提供していくべきであって、いつまでも「命はお金にかえられません」で何も考えずに猪突猛進しているばかりでは社会の納得と理解は得られないはずなんですが、TPP絶対反対!皆保険絶対死守!などと叫ぶだけで思考停止している日医あたりにその辺りのビジョンが示せるかと言えば…

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コメント

低価格が売りのサービスは従業員にかけるコストも抑制してますが、ピーチ・アビエーションも客室乗務員は1年ごとの契約社員で契約更改は2回までと決まってるそうです。
その他の従業員の待遇も推して知るべしで、会社のために規定の仕事以上に頑張ろうという気にはならないでしょう。
遅れるくらいならいいですけど、飛行機は何かあると命がけですから…

投稿: ぽん太 | 2012年5月 8日 (火) 09時01分

先進国最低の医療支出でもまだまだ医者は儲けすぎだと叫ぶ国民w

投稿: aaa | 2012年5月 8日 (火) 09時44分

ただネットを見ている限りではひと頃の根拠もない医療バッシングはすっかり下火になり、現状理解はずいぶんと進んできているとは思いますよ。
マスコミや官僚のバイアス無しで現場と国民とが直接理解を深めていくことが遠回りなようでも一番手っ取り早い改善策なんじゃないかという気がします。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月 8日 (火) 11時11分

イギリス式の分業って日本ではどうなんでしょう?
よけいな仕事が増えて嫌がられるでしょうか?

投稿: 通りすがりのただの人 | 2012年5月 8日 (火) 15時54分

当直ではなくて夜勤であると徹底されるなら受け入れられるかも知れませんね。
ただマイナートラブルは数多く出てきそうですけど。

投稿: ぽん太 | 2012年5月 9日 (水) 08時48分

他科の仕事を分担するのはともかくとして、以前から言われているように、医師も看護師同様交替勤務制を検討すべき時期なんじゃないかと思いますね。
別に全国どこでも同じ対応でなくとも当直が当直らしくある施設では今まで通り、当直が実質夜勤になっている施設では交替勤務制と、使い分ければいいんじゃないかと。
救急車が何台も来る施設で日勤、夜勤、日勤で日常的に40時間連続で働けという方が非常識です。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月 9日 (水) 11時17分

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