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2012年5月21日 (月)

印刷会社で胆管癌が多発

いったい何が起こったのかと思うような話なんですが、調べて見ると実は大変なことになっていたというのがこちらのニュースです。

同じ職場 胆管がんで4人死亡(2012年5月18日NHK)

大阪の印刷会社で、インクの洗浄作業に1年以上関わっていた、およそ40人の従業員のうち、4人が胆管がんで死亡していたことが、産業医科大学の調査で分かりました。
平均的な日本人男性の胆管がんによる死亡率と比べ、極めて高い値だということで、研究グループでは、職場で使われていた化学物質などを調べるとともに、全国で同様のケースが起きていないか調査すべきだとしています。

調査を行ったのは、産業医科大学の熊谷信二准教授らのグループです。
それによりますと、大阪府にある印刷会社で、平成17年までの17年間に、印刷機に付いたインクを洗浄する作業に1年以上関わっていた、およそ40人の従業員のうち、男性5人が胆管がんと診断され、このうち4人が死亡しました。
これは、平均的な日本人男性の胆管がんによる死亡率と比べ、600倍以上の極めて高い値だということです。
また、胆管がんは、ウイルス性肝炎や胆管結石などが危険因子として知られ、60歳以上が患者の大半を占めますが、今回死亡した4人は、20代から40代だったということです。
こうしたことから研究グループでは、何らかの危険因子があるのではないかとみて、従業員がインクの洗浄作業で使っていた溶剤の化学物質などを詳しく調べるとともに、全国的にも同じ溶剤を扱う職場で胆管がんを発症していないか、調査が必要だとしています。
熊谷准教授は、「普通では考えられない高い頻度でがんになっている。労働基準監督署にきちんと調査してほしい」と話しています。
これについて、印刷会社の顧問弁護士は、NHKの取材に対し、「事態は把握しており、従業員の安全のために原因究明の調査を、現在しています」と話しています。

<胆管がん>校正印刷会社の元従業員4人が死亡(2012年5月19日毎日新聞)

 西日本のオフセット校正印刷会社の工場で、1年以上働いた経験のある元従業員のうち、少なくとも5人が胆管がんを発症、4人が死亡していたことが、熊谷信二・産業医科大准教授(労働環境学)らの調査で分かった。作業時に使われた化学物質が原因と強く推測されるという。遺族らは労災認定を求め、厚生労働省は調査に乗り出した。

 熊谷准教授によると、同社では91~03年、「校正印刷部門」で1年以上働いていた男性従業員が33人いた。発症当時の5人の年齢は25~45歳と若く、入社から7~19年目だった。熊谷准教授が今回の死亡者数を解析したところ、胆管とその周辺臓器で発生するがんによる日本人男性の平均死亡者数に比べ約600倍になった。

 校正印刷では、本印刷前に少数枚だけ印刷し色味や文字間違いなどを確認するが、印刷機に付いたインキを頻繁に洗うので結果的に洗浄剤を多用する。洗浄剤は、動物実験で肝臓にがんを発生させることが分かっている化学物質「1、2ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」などを含む有機溶剤。会社側は防毒マスクを提供していなかったという。91~03年当時、ジクロロメタンは厚労省規則で測定や発生源対策が求められていたが、1、2ジクロロプロパンは規制されていなかった。

 熊谷准教授は「これほど高率になると、偶然とは考えられず、業務に起因している。校正印刷会社は他にもあると聞いており調査が必要だ」と話す。

 元従業員らが労災認定を求めたことについて、会社側は「真摯(しんし)に対応させていただいている。個人情報などもあり、お答えできない」としている。【河内敏康、大島秀利】

 上島通浩・名古屋市立大教授(労働衛生)の話 大変重要な事例で、食事など地域性の要因も含め調査が必要だ。

 ◇胆管がん 

 胆管は肝臓で作った胆汁を十二指腸に運ぶ管状(長さ約8センチ)の器官。がんは上皮からできるとされる。胆管結石との関連も指摘されるが、原因は不明。日本人男性の年間死亡率は10万人あたり10.5人(05年)で、発生率は75歳以上で最も高い

まずは亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに、ご家族にお悔やみを申し上げます。
20代などというちょっと普通では考えられない年齢での発症にも驚くしかありませんが、同時にこれは明らかに労災であると思われますから、今後ご家族の方々に適切な補償などが早急に行われることを望みたいですね。
ちなみに印刷会社で起こったということでそこらのインクや印刷物も危険なんじゃないかと思ってしまいそうですが、インクや印刷物ではなく印刷機のインクを洗浄するために用いている薬品が猛毒であるということで、記事にも出ているジクロロメタンにしろ1,2-ジクロロプロパンにしろもともと肝毒性があることは知られていましたが、これほど強力な発癌性があるとなれば大問題ですよね。
当然ながら多くの会社では強力な換気システムなど対策を講じているらしいのですが、今回のケースでどの程度の対策が取られていたのかも今後検証されていくことでしょうし、無論未だ明らかになっていない別のリスク要因が隠れている可能性も排除せず調査を進めていただきたいところです。

ちなみにこの胆管癌というもの、肝内に発生したものは肝癌の一種として扱われていますが、肝炎などを下地にして発生してくるいわゆる肝癌(肝細胞癌)とは全く別物で、葡萄の房にたとえれば実の部分(肝実質)から出来てくるのが肝癌であり、一方で茎の部分(胆管)から出来てくるのが胆管癌ということになるでしょうか。
それぞれ組織学的にも肝細胞癌、胆管細胞癌と言うように全く性質の異なるものですし、当然ながら発症のリスクとなる要因も異なっていて、肝細胞癌であれば肝炎など肝細胞自体へのダメージが原因になりますし、胆管癌であれば胆管炎や胆石、あるいは膵胆管合流以上などによる各種の物理的、化学的な胆管への刺激がリスク要因となるとされています。
当然ながら外から入ってきた化学物質なども胆管に刺激を与えればリスクになり得るはずですが、もともと数が少ないもので易学的研究がさほど進んでいなかった中で今回かなり限定された状況でこれだけの患者が集中発生したということで、はっきりしたリスク要因の一つが明らかになるのではないかという期待もあるわけですね。
ところでそもそもこうした調査に至った理由というものも気になっていたのですが、どうも元々は家族から熊谷准教授に直接相談があったことがきっかけであったようで、これも今の時代一歩間違えれば調査の道が途中で途絶えてしまいかねない状況でもあったようです。

胆管がん多発:死亡男性「有機溶剤で悪環境」(2012年05月19日毎日新聞)

 「元同僚が同じようながんで次々死んでいく」−−。西日本のオフセット印刷の校正印刷会社で、発症が相次いだ「胆管がん」。遺族らは厚生労働省に全容の解明と被害拡大の防止を求めている。 

 きっかけは昨年春から、胆管がんのため40歳で死亡した男性の遺族らが熊谷信二・産業医科大准教授に相談したことだった。男性は両親に「職場は有機溶剤が漂い、環境が悪い」と言い退職した。5年後に胆管がんを発症すると、両親に同僚が同様の病気で若くして亡くなっていることを明かし、苦しみながら帰らぬ人となっていた。父は「人生半ばで亡くし非常にショックだったが、労働環境を改善してもらわねば」と調査を願った。

 熊谷准教授は、男性が受け取っていた年賀状をもとに、31歳で死亡した同僚の兄あてに手紙を送って調査の協力を依頼。その母親から電話で「実は、兄も弟と同じ会社に勤めていましたが、4年前に46歳で亡くなった。2人とも胆管がんでした」と告げられた。

 熊谷准教授が遺族らに手紙を書くなどして元従業員らに当たると、仕事中に吐き気がしたり、少しアルコールを飲んだだけで肌がまっ赤になる同僚もいて不思議だったなどとの証言も出てきた。遺族に病院への開示請求などをしてもらい、医学資料を集めると、5人が胆管がんにかかり、うち4人が死亡していた。

 息子2人を失った母親は「悔しくて無念です。これから働く人のために病気をなくしてほしい」と厚労省の調査の行方を見守っている。【大島秀利】

大学の先生とは言え全く無関係な事例に関わってこれだけの成果を挙げた熊谷先生の努力も称えられるべきでしょうが、同時にご遺族や同僚の全面的な協力があってこそ事態の解明に結びついたということも見逃せませんね。
こういう話を聞くと思うのですが、今の時代ちょっとネットにつなげば誰がその道の権威かすぐに判るし、場合によっては専門家と直接対話も出来るようになったということで今までは見過ごされていた事例も見いだされるようになったケースが増えただろう一方で、何でも即座に調べられる時代だからこそ個人情報やプライバシー保護との兼ね合いも難しいんだろうなと言う気がします。
一見同じような素人のささやかな疑問に端を発して、中には調べて見れば非常に重要な疫学的情報が隠されている場合もあれば、他方では単なる根も葉もない風評に過ぎないと判るケースも多いのでしょうが、特に前者に比べて後者のケースでは「調べて見ましたが結局何もありませんでした」の部分にニュースバリューが乏しいと見なされるのか、しばしば続報部分がスルーされ噂だけがいつまでも独り歩きを続けがちですよね。
大量の情報を集め分析するという部分が進歩した時代だからこそ様々な領域で調べれば幾らでも重要な新発見があるんだろうと思うのですが、一方で先日のように慶大の教授ですら倫理指針に逸脱して好き放題やっていたというケースが明らかになってくると、各方面の専門家は改めて社会的に求められているモラルというものを肝に銘じておかなければならないのだろうなと思います。

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コメント

怪談や都市伝説じみた噂話は数あるが、実際に起こってみるとたまったものじゃないんだろうなあ
犠牲者の方々のご冥福を祈り申し上げる

投稿: kan | 2012年5月21日 (月) 09時16分

以前に知り合いがこの会社で働いていて、同じ癌で亡くなりました。

同じ癌を発症する人が後を絶たず、職場環境に問題があるのではとずっと
思っていました。

今回で因果関係が明るみになる可能性も出てきて、少しほっとしています。

ブログに取り上げて頂いてありがとうございます。

投稿: 匿名 | 2012年5月21日 (月) 10時29分

熊谷准教授ですが,昨年度までは大阪府立公衆衛生研究所に所属しておりました(産業医大に移られたのは今年の春からのようです)。
従いまして,今回の件は大阪府公衛研時代に相談が寄せられ,調査していたものかと思います。

投稿: saitoh0619 | 2012年5月21日 (月) 10時45分

皆様の貴重な情報ありがとうございます。
関係者の方々にも重ねてお悔やみを申し上げます。
今回の現場がたまたま常識外れに環境が悪かったのか、それとも標準的な環境であったのかも今後問題になりそうですね。
そして零細な会社も多いだろうだけに、今回の事件から今度は過剰な対策が求められるようになればこれまた社会的影響も大きなものとなるでしょう。
放射線問題などと同様に適切なリスク評価と、科学的な判断に基づいた合理的な対策が求められるのだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月21日 (月) 10時59分

ご遺族の皆さんにお悔やみを申し上げます。
死亡フラグなんて俗な言葉がありますが、こんな状況であるのに作業を命じられたら自分にもフラグが立ったと感じざるをえないんでしょうね…
福島の事故現場で決死の覚悟で作業に当たられた方々が思い出されました。

投稿: ぽん太 | 2012年5月21日 (月) 12時11分

これ他の印刷会社でもおおぜい患者が出てる可能性もあるの???
なにそれこわいんだけど(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

投稿: 赤沢 | 2012年5月21日 (月) 13時38分

椅子再生工場。洗浄剤。肺。肝癌。あり。

投稿: | 2012年5月21日 (月) 14時49分

六ヶ所村の事故などでも自分たちが扱っているものがどれほど危ないものかを理解しないまま作業をやっていたと言いますが、最低限の従業員教育はやはり必要なんじゃないかなと改めて思いますね。
http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/5ee4aad3ce363706f6beddfbbf2b693f
例えば医療現場においては院内に入ってゴミを回収していく業者の針刺し事故からの感染が時々問題になりますが、出入りの業者に対して適切な教育をしている施設がどれくらいあるものでしょうか?

投稿: 管理人nobu | 2012年5月22日 (火) 15時20分

4人が亡くなったと大々的に報道されていますが、実際は6人の方が
亡くなっています。
もしかしたら、もっといるかもしれません。


『平均的な日本人男性の胆管がんによる死亡率と比べ600倍以上の極めて高い・・・』
 ↑
実際はもっと高い確率で発症していることになります。

投稿: 朝日 | 2012年5月22日 (火) 16時15分

1.2ジクロロプロパンはかなりヤバイと思います。石油缶の腐食の仕方も尋常でない。人体なんか一撃。
ジクロロメタンとは比較になりません。いろんな意味で。間違いなく原因は1.2ジクロロプロパン!

投稿: | 2012年5月25日 (金) 22時16分

 大阪市の印刷会社元従業員5人が胆管がんを発症した問題は、東京都と宮城県でも同様の事例が報告されていたことが明らかになり、問題が全国に拡大する可能性が出てきた。発がん性が指摘される化学物質との因果関係は不明だが、厚生労働省が原因特定を待たず実態調査に乗り出す背景には、「第二のアスベスト禍」への懸念がある。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/120612/wlf12061210590009-n1.htm

投稿: 続々拡大中 | 2012年6月12日 (火) 12時48分

自動車部品を洗浄する作業を担当しています。
そこでは、フ〇イントップ(商品名)という溶剤が、
使用されています。作業後は胃や喉がおかしくなり
心配です。

投稿: | 2012年7月 8日 (日) 10時36分

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