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2012年5月14日 (月)

生レバー食中毒問題 朝日が突然…

ひと頃から生レバーによる食中毒が大きく報じられるようになっていますが、そんな中で先日朝日新聞がこんなことを書いていたのをご覧になりましたでしょうか。

天声人語(2012年4月8日朝日新聞)

 肉料理を書いてうならせる本は多い。近刊ではカナダの旅行作家、マーク・シャツカー氏の『ステーキ! 世界一の牛肉を探す旅』(中央公論新社)だろう。例えば神戸牛はこう描かれる。

 「牛肉ならではの甘くて木の実のような風味がしたものの、温かいバターでコーティングした絹糸よりもなめらかな食感と比べると、それすら付け足しみたいなもの」(野口深雪訳)。この幸せ、肉を焼くという手に気づいた先人のお陰である

 アフリカ南部の洞窟で、100万年前の原人が肉を焼いた跡が見つかった。シャツカー氏の母校でもあるトロント大などのチームが古代の地層を調べ、狩りの獲物とみられる燃えた骨、草木の灰を確認したという。

 調理の証拠としては、従来の説を約30万年さかのぼるらしい。火の使用と、焼いて刻む「料理」の発明は、モグモグの作業を短縮し、食以外に回せる時間を生んだ。皆で炎と食料を囲む日常は、より進んだ集団生活をもたらしただろう。

 むろん加熱だけが進化ではなく、生(なま)を貴ぶ食習慣が各国に息づく。政府が法律で禁じるというレバ刺しの滋味は、火を通せば消えてしまう。そもそも食い道楽は自己責任を旨とすべきで、国の出る幕とも思えない

 肉食はタブーと偏見に満ちている。食べる食べないに始まり、動物の序列や調理法は万別だ。だが〈味わいは議論の外にある〉ともいう。食の始末はまず、自分の舌と胃袋に任せたい。地球で一枚目のステーキを焼いた、無名の原人のように。

ちなみに個人的には生や牛に限らず食肉としての肝臓系にはさほど関心がないほうなのですが、朝日さんの場合は記事を見る限りでもよほどに思い入れがあるのでしょうね。
韓国人などに言わせると日本の多くの店での生レバーの扱い自体が間違っているというのですが、海外で外国人のやっているスシバーでの生魚の扱いが日本人の目で見て疑問符がつくのと同様、やはり長年の食文化に根ざした知恵を無視してはならないということなのでしょうか。
ただこの記事を見て多くの人々が違和感を感じたのが、平素から何であれ行政なり生産者なり他者の責任転嫁に熱心な朝日が食中毒を起こしても自己責任だとも取れるような態度を示したということで、かつて生産者に対するバッシング紛いの報道までも行ったこんにゃくゼリー問題との温度差を指摘する声などは少なからずあるようです。
いずれにしても焼き肉店などでも生レバーを炙りレバーなどという商品に変更して表向き生食は避けるという対応に出ているようなのですが、そんな中で再び生レバーによる食中毒が発生したというのですから各界の反応が注目されますね。

姫路の焼き肉店で8人食中毒 生レバーが原因か/兵庫(2012年5月8日産経ビズ)

 兵庫県姫路市保健所は7日、同市広畑区正門通の焼肉店で4月25日に食事をした男女8人が下痢や発熱などの症状を訴え、男女4人から食中毒菌のカンピロバクターを検出したと発表した。入院者はなく、全員快方に向かっている。共通の食事が同店しかなく、市保健所は同店が原因とする食中毒と断定し、7日から3日間の営業停止処分にした。

 市保健所によると、8人は牛タンやカルビといった焼き肉のほか、生レバーやサラダなどを食べた。原因は調査中だが、メニューの中の生レバーは、昨年7月に厚生労働省が販売業者や焼き肉店などに提供や販売の自粛を要請し、現在は販売禁止が検討されている食材という。

 同店は市保健所の指導を受け、今月2日に生レバーや生センマイ、トリユッケといった生肉の提供を取りやめたという。

生レバーに限らず食中毒というのもいろいろなパターンがあって、家庭などでも時々あるように古くなった食材があたったというのは分かりやすいのですが、例えば生牡蠣などがあたるというのは元々汚染されているものを食べれば海から引き上げたばかりの新鮮なものでも食中毒を起こし得るわけです。
鶏肉汚染で有名なカンピロバクターやひと頃話題になった病原性大腸菌などは鳥獣の腸間内に存在したものが食肉を汚染すると言いますが、解体過程で完全にこの汚染をゼロにすることは技術的に困難であることもあって、実際に流通している食肉の検査でも相当に高い割合で各種食肉が汚染されているということですから、仕入れたばかりのフレッシュなものだから安心とは言えないわけですね。
牛レバーなどは厄介なことに肉の内部までも汚染されている場合があるということなので生食でのリスクは完全に除くことは出来ないんだと思いますが、そうであるからこそ恐らくは今までも当たり前に各地で食中毒は発生していたと考えられ、それが単に一週間以上にもなるという潜伏期の長さもあって集団発生と気づかれることもなく見過ごされていただけなのかも知れません。
今回の姫路のケースにしても散発した患者への聞き取りによる状況証拠からようやく判明したというくらいですから生レバーへの関心が高まっていなければ見過ごされていたかも知れませんが、こういう話を聞くと朝日ではありませんが今回の生レバー騒動、自己責任と言う事を考える上でなかなかに得難い教材ともなり得るんじゃないかという気がしてきますね。

かつてのこんにゃくゼリーの場合にも客観的なデータから見ればこんにゃくゼリーが特に危険な食品であるなどとは到底言えず、ましてや死亡例にしてもわざわざ凍らせた物を子供に与えるという素人目にも「それはやっちゃ駄目でしょ?」なケースであったりしたにも関わらず、識者の方々は「こんな危険なものが野放しにされているとはとんでもない!直ちに法的規制を!」とヒステリックに叫び声を上げたわけです。
製造物責任だと裁判にまでなったこんにゃく事件では原告側の賠償を求める請求は裁判所によって棄却されましたが、こんにゃくゼリーに限らず白か黒かではなく各々のリスクに応じてきちんと各人が食品を評価し、自己責任において利用していくという姿勢を持っていくべきではないかという点では不本意ながら朝日の意見に賛成せざるを得ません。
例えば近年増え続ける嚥下機能の低下した高齢者の食事などもそうですが、一方でご家族から預かる立場の介護施設などでは正月だからとうっかり餅などを食べさせないようにするのは妥当な判断と言えますし、他方でご家族が本人の大好物だから、もう食べられないかも知れないからと敢えて餅を食べさせるというのも窒息のリスクを承知した上で行うのであれば全く自己責任というものですよね。
それを味覚や好みよりも管理責任を優先する立場の人達に「何故大好物なのに餅も食べさせてくれないんだ?!」と詰め寄ったり、最後に好物を食べて本人も家族も満足できたかも知れないのに「こんな危ないものを食べさせるなんて!」と責め立てたりするのも妙な話ではないかということです。

昨今は国にしても何かあれば朝日を始めとするマスコミ諸社にさんざん叩かれますから、消費者庁始めこうした問題にナイーブにならざるを得ないのは確かですけれども、こんにゃくゼリーが叩かれても餅は叩かれないことから考えても、DHMO問題のように対象が社会生活に広汎に根ざしたものであればあるほど何でもかんでも禁止で済ませるのではなくあれ?ちょっと待てよと踏みとどまって考えられるようになるのでしょうか。
生レバーのリスクにしてもすでに散々情報は出ている中で、その程度のリスクであればあの滋味には代え難いと敢えて食べ続けるか、別にそれほど好きなものでもなしとやめておくのかは各人の自由というもので、ただその利用者の自由度を尊重すべく努力している店側だけが一方的に叩かれるからおかしな感じがしてくるというものでしょう。
むそん当人は自己責任だと覚悟して食べていても万一の事があればご家族などは納得出来ないというケースもあるでしょうが、例えば河豚好きに河豚保険といったように生活上のリスクに備えた保険を考えて見るとか、広範な無過失補償の制度を検討してみるとかいった方向に議論を進めてみる方が、一律禁止で終わりよりも話が広がって面白そうじゃありませんか?

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コメント

アカヒが言うとなんでも嘘くさくなるから困る

投稿: aaa | 2012年5月14日 (月) 11時23分

そう言えば医師会の言う事だから反対しておこうなんて言ってたマスコミの方もいらっしゃいましたね。
信用され無さではどちらも丙丁つけがたい感じですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月14日 (月) 12時02分

天声人語の中の人の意見はそれとしても朝日全体での見解はまた別かも知れないですけど。
それにしても汚染度の高さをみるとレバ刺しはずいぶんとリスクを伴う行為なんですよね。
レバ刺し好きな人にとっては自己責任でと言われても悩むところじゃないですか?
いずれ無菌で臓器培養が可能になれば安全に食べられるレバ刺しも出来るかも…

投稿: ぽん太 | 2012年5月14日 (月) 13時13分

生レバーの危険性は医学的に証明されたので、今回の通達が出たわけで、その辺をすっ飛ばして
天声人語でこんなコメントを出されてもね。 むしろ、こういう危険があることが医学的に明らかに
なったって マスコミが報道して 一般の方に啓蒙する責務があると思うんですけどね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年5月14日 (月) 14時22分

日本人に自己責任てものが根付かないのは、その方が手厚い補償が得られてオトクだからでしょ

投稿: 鉄 | 2012年5月14日 (月) 19時27分

さらにその元をたどればマスコミが強力に支援してくれていたからという歴史もあるでしょうね。
その結果プロ弱者とかプロ市民と言われる人達も育ってしまったと言えますけど。

投稿: ぽん太 | 2012年5月15日 (火) 08時50分

国権が強くて社会保障も弱かった戦前戦中頃までであればそうした姿勢も有意義だったのかも知れませんけれど、その時代には日和っておいて戦後になってから急に大きな顔し始めたってのがどうなのかと。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月15日 (火) 12時08分

寄生虫が入ってれば「却って免疫がつく」、農薬入りの食品食べて死にかけたら「浮ついた食生活していた方にも原因がある」とマスコミが被害者に冷たい態度を取ることは時々あるようです。

投稿: | 2012年5月15日 (火) 14時54分

寄生虫キムチに農薬入り食品、焼き肉屋といったケースではマスコミが全力で援護してくれるとか
いったいなぜなんでしょうね?これらに共通点でもあるんでしょうか?
不思議不思議

投稿: てんてん | 2012年5月15日 (火) 15時22分

そらあおやこんな時間に誰か来

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年5月16日 (水) 10時28分

まあマスコミの中の人も木石じゃありませんから、浮世のしがらみに縛られるのは仕方ないとは思いますよ。
そういうバイアスを知った上で利用する分には別に問題ないんじゃないですか?
背後関係を考えながら楽しめるようになってくればマスコミウォッチャーの仲間入りですよ。

投稿: 管理人nobu | 2012年5月16日 (水) 10時33分

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