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2012年4月10日 (火)

産科補償制度 改善ももちろん重要ですが

傘下無過失補償制度については先日14年始めからの制度改正を目指して議論をしていくという話が出ていましたが、制度が始まった09年から11年までの間に補償対象として認定されたのがわずかに252人と、当初の想定を大幅に下回る数字が続いています。
もともとこうした無過失補償のシステムでは広く浅く補償することで医療訴訟に至ることを阻止するという効果も期待されていたわけですが、当初から認定の範囲が狭すぎるのではないかと懸念されていた通りの状況ですから、これでは井上清成弁護士が言うところの「裏の皆保険」などとは程遠い状況と言うしかありません。
無論そうした問題が山積しているからこそ見直しの議論をしていきましょうという話になっているのですが、どうも微妙に話の方向性が違うんじゃないかという気がしないでもないのが先日開かれた運営委員会の様子です。

産科補償、「重症度で支払い額に差を」- 運営委で審査委員長(2012年4月6日CBニュース)

 分娩に関連して発生した重度脳性まひ児について、一定の条件下で補償金を支払う「産科医療補償制度」の見直しを検討している日本医療機能評価機構の運営委員会(委員長=小林廉毅・東大大学院教授)は6日、関連委員会の委員長などから意見を聞いた。この中で審査委員長の戸苅創氏(名古屋市立大理事長・学長)は、児の重症度などに応じて、補償額に差を付けるよう提案した。

 現行の制度では、児の重症度や生死にかかわらず、補償額は一律3000万円。まず、準備一時金として600万円を支給し、その後は、児が20歳になる年まで毎年120万円ずつ支払われている。

 戸苅氏は、児が入院しているか、施設に入所しているか、在宅療養かなどによって、保護者の負担が変わるため、補償額が一律だと「不公平感が否めない」と指摘。児の重症度や、介護負担に応じて補償額に差を設けるよう提案した。
 さらに、死亡した児に対する補償金の必要性についても検討を求めた。

 死亡児への補償金については、制度導入前に打ち切りが検討されたが、生存率に関するデータの不足などを理由に見送られた経緯があるが、近藤純五郎委員(弁護士)は「多少は実績が分かってきている。死んでいる方と生きている方の差は付けてしかるべきだ」と述べた。

■「周産期」に対象拡大を
 また戸苅氏は、補償対象の拡大にも言及。分娩に関連した例だけでなく、出生前や新生児期も含めた「周産期」に発生した例にも対象を拡大するよう提言した。

 現行制度では、「先天性の要因、または新生児期の要因による脳性まひ」は補償対象から除かれているが、戸苅氏は「『先天異常』を定義することが難しく、審査していて非常に迷う」と説明。「産科管理にかかる重度脳性まひ」などと幅広く定義することで、紛争の防止や早期解決が期待できるとの見解を示した。

もちろん皆保険制度によって運営される一般的な医療と、原則として自費診療になるお産とでは全く同じというわけにはいかないのは当然ですが、記事の書き方が悪いのか目標としているのは広く浅くというよりも深く狭くという方向への改訂なのか?という印象も受けますよね。
無論、脳性麻痺の生涯は一生残るものですからどうせ補償するなら一生行うべきだという話も判るし、現実問題として障害の程度も様々なのですから一律同額というのもおかしいという考えも判るのですけれども、脳性麻痺の中で分娩に関連して発生する例は決して多くないとも言われる中で、ごく限られたケースだけを取り上げて手厚く補償しましょうでは全体としての不公平感はますます強まりそうにも思えます。
そもそも脳性麻痺がいつどうやって発祥したのかの診断自体が難しいと言うのですから、思ったよりも補償対象が少なくお金も余ったと言うなら対象を広げて救済されない脳性麻痺児が出ないようにする方向へ進めばいいのにと思うのですが、どうも当初から対象の拡大については非常に及び腰ではないのかなという印象を受けますね。

医療訴訟防止という観点から援護射撃を試みてみますと、障害の程度に応じて補償額が変わるということになれば元々「なぜうちの子がこんな目に」とやり場のない根本的な不公平感を抱いているご両親にとっては、重症度に応じた補償と言うのはある程度状況を受け入れるためのインセンティブとして作用する可能性はありますよね。
また障害認定を正しく受けるためには担当医とも密に相談していかなければならないはずですから、こうした無過失補償の重要なメリットの一つである「被害を受けた患者と医療従事者とが一つの問題克服のために協力する」という関係を結ぶ契機にもなり得るとは思います。
しかし一方で脳性麻痺患児の多くが補償対象外であるという根本的な不公平は残されるということになれば、一部の方々にのみ手厚い補償を行うほど対象外になった人々からの不満が高まるのは必至であって、その不満がどこに向かうかと言えば補償対象を決めた国よりも現場医療従事者に向かいがちであるということを何より制度改定の大前提にしていただきたいものですよね。

ただ根本的な問題としてこれは以前から繰り返し取り上げていることですが、晩婚化と出産年齢の高齢化が進むほど分娩にまつわる様々なリスクが高まるのは医学的な常識であって、先日も静岡で分娩時に40代の妊婦が亡くなったことが裁判沙汰になった件でネット上に怪情報?が飛び交っていると話題になっていますけれども、やはり高齢出産はリスクが高いということを社会全般での常識にもしていく必要はありそうですよね。
近ごろではマスコミなどもかなり力を入れて高齢出産のリスクの広報活動を行うようになってきていますが、そもそも結婚し子供を育てる状況にないのに突然危ないからさっさと産めなんて言われても無理だろjkと当事者達が言うのも当然ですから、20代のうちに出産できるような環境を当事者と社会が手を携えて整えていくことももちろん必要です。
しかし生める状況にあるのに何となく生まない、そろそろ年齢も高くなってきているのに何ら危機感がないまま日々過ごしている人々のうちで、後になって「あのとき知っていれば別な道もあったのに」と後悔する人を少しでも減らすためには、お金や就労などにおけるデメリットと同等かそれ以上に高齢出産もまた人生におけるデメリットとなるのだと、根気強く周知していくしかないのでしょうか。

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コメント

若くして産むほど手当をはずむようにすればいいのでは?

投稿: 梵 | 2012年4月10日 (火) 10時53分

補償の金額も大きいですから、一律同額の支給ではかえって対象を制限することにつながるのなら差をつける意味はあるんじゃないですか。
ただ児が亡くなれば金額が大幅に減るとなると、これまた処置が不十分だったからだとトラブルの種になりそうな気が。

投稿: ぽん太 | 2012年4月10日 (火) 13時09分

井上弁護士が日本の問題点を挙げて無過失補償をそのまま導入することの難しさを説明してる

http://medg.jp/mt/2010/07/vol-238.html
井上
「それこそアクシデントということで考えて、アクシデントに対する補償というのは、この位のものなんだという金額レベルの国民的コンセンサスがあれば、権利を制限したことにはならないわけです。たとえば今、医療過誤訴訟の裁判で慰謝料3000万円を取れるという時に、3000万円という金額自体が本当に権利なのかという問題はあります。世によって時代によって大きく動きます。それを考えると、皆で決めた場合には、必ずしも奪うことのできない権利と言うことはできません。そうなればニュージーランド風に事故はこの位の金額のものなんですよと、皆で考えて、不当でない金額で合意してしまえば、そうすればそれはそれで終わるということで決まりますよね。もう少し実務的にやるのがスウェーデン。補償の金額と裁判の金額がほぼ同じなんですよね。だから裁判をあえて起こすインセンティブがないので、医療過誤訴訟もないんですね。わざわざ弁護士頼んでも同じ金額なら、そりゃ無過失補償にしますよ、当たり前の話です。ただ、ここにはトリックがありまして、例えば慰謝料が概ねないとか、元々の裁判の金額の水準が低いとかの背景事情があるわけです。ところが日本は、戦後すっかりアメリカナイズされてしまったので、損害賠償が高額化してしまったんですね。皆がその意識を持っているので、そのベースで考えると、なかなかスウェーデン風に無過失の金額を裁判に揃えるというのは難しいです。残念ながら現在の国民の意識として、スウェーデン方式を直輸入するわけにはいかない」

投稿: | 2012年4月10日 (火) 15時08分

おっしゃるように訴訟沙汰に発展して現場に負担を強いるということを避ける目的が一つあるわけですから、まずその目的に合致するかどうかが議論の基本線となるはずなんですが、どうもそういう論点が報道されている中では見えないんですね。
個人的には結果として同じ障害を持って暮らしていくことになるのに一方は救済され、他方は救済されないというのはやはり一番釈然としないものがありますし、たぶん親の気持ちも同じなんじゃないでしょうか?
特に高齢出産が増えてきているわけですから、障害児を産んでしまうというリスクに対しても社会として対応していくべきかなと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年4月11日 (水) 14時30分

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