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2012年4月19日 (木)

また日医あたりが文句をつけそうですが(苦笑)

すでに以前から言われてきたことですが、やはりそうなったかというのがこちらのニュースです。

健保組合の保険料率8.3%に上昇 12年度、9割赤字(2012年4月16日日本経済新聞)

 健康保険組合連合会は16日、大企業の会社員などが加入する健康保険組合の2012年度予算をまとめた。健保全体の平均保険料率(労使合計)は11年度比0.4ポイント高い8.31%で、5年連続で上がる。高齢者医療制度に拠出する支援金が増えるためだ。ただ9割の健保は保険料収入で医療費や支援金などの支出を賄えずに赤字になる。

 健保連に予算を出した1346組合のデータを基に、全1435組合の収支を推計した。保険料率は02年度以来の高水準で、過去最高の584組合が引き上げた。収入から支出を引いた経常収支は5782億円のマイナスで、5年連続の赤字。高齢者支援金が11年度比9%増の3兆1355億円に膨らむためだ。

 赤字の健保は積立金を取り崩すが、健保連の試算では14~15年度に積立金が枯渇する。「現役社員への負担増は限界で、解散を選ぶ健保が出かねない」(白川修二専務理事)。健保連は社会保障と税の一体改革を実施した場合の見通しも公表した。赤字を出さないための実質保険料率は11年度の8.48%から16年度に10.24%に上がる

すでに2010年5月に成立した健康保険法の改正によって、大企業の健康保険組合(組合健保)への負担を増やし中小企業の健康保険協会(協会けんぽ)の保険料を肩代わりさせることになったことはお伝えした通りですが、こうした年々増すばかりの負担から保険料値上げを強いられ自前で健保組合を持つ意味がなくなったと組合を解散する企業が近年増えてきていると言います。
かつては社保庁が運営していた当時の政管健保の保険料率は2008年までは8.2%であったものが、同年から健康保険協会に移管され都道府県単位で保険料率が決められるようになった結果毎年のように大幅な引き上げが続いている、とは言ってもまだ高くても9%台半ばというところですから、組合健保の保険料が10%を越えるようなら当然割高な保険料を徴収してまで維持する必要もなくこちらの乗り換えれば済む話です。
しかし大企業が自ら赤字を被ってまで維持してきた組合健保組が大挙して流入してくれば健康保険協会の財政が一気に悪化するのは目に見えていますし、慢性的な赤字のため組合健保の百倍以上という巨額の国庫負担による支援を必要としている協会けんぽがこれ以上肥大化することは国としても避けたいのは当然ですよね。

こうした状況で保険料もこれ以上無闇に引き上げるわけにはいかない、もちろん財政的な支援も多くは望めないとなれば給付の削減ということに話が及ぶのは当然で、近ごろではどこの医療機関でも患者さんの方からジェネリックに変えてくれと言われるようになったケースが増えてきているのも、単純に安いからという以前に保険者側からの指導が厳しくなってきているという事情もあるわけですよね。
ただ日経のバイアスがかかった記事とは言え「現役社員への負担増は限界」だの「高齢者支援金が膨らむため」だのという文言が並んでいるというのは、要するに増え続ける高齢者医療費をどこまで現役世代が負担しなければならないのかということを言いたいのは見え見えでしょう。
とっくに決まっているはずの70歳~74歳の医療費自己負担を2割にするという話をいつまで引き延ばすのかと先日岡田氏も苦言を呈していましたが、さすがに団塊世代の高齢化が現実化してきている時代にいつまでも特例だ、暫定的措置だと言っていられないのは当然で、皮肉にも民主党政権時代にあって高齢者医療が問い直されるという時代になってきています。

医療費の高騰で財政はもたない。「病気」を定義し、高齢者も応分の負担を/大前研一(2012年4月16日日経BP)より抜粋

 70~74歳の医療費の窓口負担について、1割負担で据え置かれている現状を改め、2割負担にすべきとの議論が起きている。逼迫している財政事情を考えれば当然の話だ。しかも、何でもかんでも「病気」として扱うのではなく、「病気」の定義を明らかにして、膨張する医療費に歯止めをかける必要がある。
(略)
 そもそも70~74歳の医療費の窓口負担は、2008年度の後期高齢者医療制度スタートに合わせて、それまでの1割負担から2割負担に引き上げられるはずだった。ところが当時の自公政権は「激変緩和措置」として負担引き上げを凍結し、現在まで1割負担で据え置いたままだ。負担引き上げの凍結には、毎年2000億円超の予算が投じられている。
(略)
 ご覧の通り、日本の医療費は次第に上昇しているのがわかる。特に70歳以上の医療費の伸びが顕著だ。

 1997年度と2009年度を比較すると、65歳未満の全人口は約15兆4000億円から約16兆1000億円へと7000億円の増加であるのに対し、70~74歳は約3兆2000億円から約4兆3000億円へと1兆1000億円も増えている。わずか5歳分の人口で、である。

 75歳以上に至っては、約7兆2000億円から約11兆7000億円へと4兆5000億円の大幅増となっている。この部分に対して従来の自公政権は特に「優しかった」わけだが、そこが歯止めのきかない医療費の根源となっている。
(略)

ま、高齢者の医療費だけがどんどん伸びているというのは年代別人口比率の変化(現役世代は減少し高齢者が増えている)ことの反映でもあって、一人あたり医療費単価からすればむしろ現役世代の方が高くなってきているとも言える話なんですけれども、こうしたマクロの話をする上では個人個人がどうこうよりも集団としてどうこうとなってしまうのはやむを得ないところですかね。
ただいずれにしても高齢者比率が高まる一方で現役世代は少子化で減っていく、そして稼ぎも一向に上向かないとなれば現にお金を持っている高齢者にだけ特例を認めるというのもおかしな話で、高齢者切り捨てとは言わないまでも少なくとも現役世代と同等の負担はお願いするのが筋ではないかという意見は今後ますます力を得ていくでしょう。
その観点からも後段で大前氏も紹介している世界各国での実際的な保険給付抑制策というものが興味深いのではないかと思うのですが、単に高齢者を窓口負担を1割にするか2割にするかなんてレベルの議論に留まっている日本がこれら諸外国と比べると何とも幼稚な段階に留まっているとも言えそうです。

 北欧の国々では、高齢者の医療費負担はゼロである。高齢者にかぎらず、若者を含む全世代の医療費負担がゼロとなっている国もある。しかし、日本のような財政問題は発生していない。税金が高いことが一番の理由であるが、税負担を極端に嫌う日本人は同時に一度手に入れた公共サービスを手放さない、という集団習癖がある。

 しかし公的負担を減らす工夫において、日本と北欧諸国との大きな制度上の違いに関しては今まであまり話題にならなかった。具体的には、北欧の国々では「病気」の定義をしている。たとえば「風邪を引いた」と言っても、風邪は「病気」に含まれないので、公的負担で病院にかかることはできない

 北欧の国々では体調が悪くなった場合、まず病院に電話をかける。「私、お腹が痛いんです」と訴えると、最初に細かく症状について質問される。質問に答えると、病院側が「その場合にはこの薬を飲んでください」と、OTC薬をすすめてくる

 OTCとはOver The Counter(カウンター越しに販売する)の略で、OTC薬は医師の処方箋がなくても購入できる一般用医薬品のことを意味する。つまり、ドラッグストアなどで市販されている薬で我慢しなさいというわけだ。

 「病気」の定義に当てはまらない場合は、患者は診察の予約を取ることすらできない。医療費をすべて国庫で負担している国では、「病気」というものがちゃんと定義されている。

 一方、日本では、ただの腹痛でもすぐに診察して高い薬を出す。患者も風邪なのにインフルエンザのような顔をして病院に行き、血液検査をして薬をもらって……と、お金がかかることばかり要求する。その結果、日本の医療費は膨れ上がってしまった。

 「ちょっと日曜日に歩きすぎて、足がむくんで痛いんです」という理由でも、病院で診察が受けられて、ご丁寧に湿布薬までもらえる。しかも高齢者なら本人はたったの1割負担である。これが北欧ならそうはいかず、「勝手にしなさい」と言われてしまう

 日曜日にテニスをやり過ぎて、テニス肘になってしまったとしよう。アメリカでは、テニス肘の医療費は公的保険から出るだろうか。答えは「出ない」である

 もちろん骨が折れたとなれば話は別だ。しかし、テニス肘のような「病気やけが」かどうか決めかねるようなものについては、保険の対象外にするという議論がアメリカではクリントン政権の時にヒラリー夫人が中心となってまとめた医療改革で出てきているし、オバマ大統領の医療改革でもこうした議論が出てきている。日本みたいに、「病気」の定義をきちんとしないで医療費をばらまく国は実は珍しいと言える。

 同じような問題は救急車の手配においても見られる。諸外国では救急車の手配は有料化が進んでいるが、日本では無料だ。「タクシーよりも安い」ということで、119番する不心得者も後を絶たない。

 アメリカでは都市によって値段が違うがだいたい2万円から4万円くらいである。ドイツやフランスでも2万円を超えるところが多い。オーストラリアでは1万円程度である。これでタクシー代わりに呼ぶ人は減るだろうし、公的負担は大幅に削減される。もちろん重病であったり、医療費負担が苦しいといった事情のある人は治療代などの請求段階で調整することも可能であろう。

近年日本でも時折思い出したように出てくる救急搬送有料化の議論などでも決まって話題になり、大前氏自身も言及しているように「もしかしたら本当の重症患者が大変なことになるのでは」という懸念はもちろんあるわけですが、例えば近年相次ぐ大野病院事件、大淀病院事件などでJBM的にも示されたように、ひょっとしたら万一…という可能性の全てに万全の体制を求めると結局何も出来ないという現実があります。
お産をするのに全ての起こりえる状態に対処出来なければ扱えないとなればナショナルセンターレベルでしかお産は出来ないことになりますし、腹痛もひょっとしたらとんでもない病気かも知れないとなればこれまた立派な地域基幹病院で専門医に診てもらわなければ何も言えないということになってしまいます。
むろんそんなことをやるだけのスタッフもコストも医療現場にないのは言うまでもありませんが、例えばちょっと風邪を引いたから、腹具合が悪いからと近所の医院にかかったらその都度「万一のことがありますからあなたは100km先の大学病院に行ってください」と言われたのでは患者の方もやっていられませんよね。

医療に限らず飛行機の事故などでも万一に備え万全の上にも万全をと言うのは簡単ですが、あまりに過剰な安全性を求めていくと結局飛行機を飛ばすことは出来なくなる、あるいは現在日本中で話題になっている原発再稼働問題なども同様で、あまりに過剰な安全性の追求は何も出来ないということにつながり、結局社会全体としてはより大きなリスクを背負い込むということになってしまいます。
そもそも日本では医療と言えば医療崩壊と言われるほど需給バランスが崩壊し現場が悲鳴を上げている、そして財政上もこれ以上の負担はもう無理だと言われている中で、ひょっとしたら万に一つにも…という懸念ばかりをあげつらっているよりは目の前の現実的な問題に確実に対処することを選んだ方がリソース振り分けの最適化にもつながり、本当に必要とする人々への医療はむしろ手厚く出来る可能性すらあるわけですよね。
別にお年寄りだけを狙い撃ちしようと言うわけでもなく、そろそろ日本でも給付の制限というものを議論していく必要があるというのであれば、代案もなく単なる反対のための反対に終始したりつまらない数字あわせのやり方にするのではなく、本当に必要な人にとっては以前よりも速く良い医療を受けられるようになるような実効性あるやり方を考えていくべきでしょう。

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コメント

高齢者の医療費がかかることよりも、高齢者の医療費を現役世代が負担する形になっていることが問題に思えます。
高齢者自身が自分で支払ってよい医療を受けるだけならむしろ優良顧客でしょう。
世代間の負担の仕組みを見直すことが不公平感の解消につながるのでは。

投稿: ぽん太 | 2012年4月19日 (木) 09時03分

救急車を有料化してはならない理由がどうしてもわからん

投稿: aaa | 2012年4月19日 (木) 10時44分

普段から健康に気を使うことって大事ですね。

投稿: 神仙桑抹茶 | 2012年4月19日 (木) 11時27分

何をどう保険対象外と判断するかに難しさはあるが、なんでも3割負担にしてしまうのも問題なのは確か。
今現在でも健診か何かと勘違いしたかのように過剰検査を保険診療で要求する患者は多いからな。
まずは患者都合による診療は自費扱いだという原理原則を徹底していく必要があるだろう。

投稿: kan | 2012年4月19日 (木) 11時53分

客観的データからしても国民感情からしても財政上からしても、少なくとも高齢者だからというだけで優遇するのは受け入れられなくなってきていると思います。
保険料負担の見直しはまた議論がまとまりそうにありませんが、とりあえず窓口負担は早急に是正する必要があるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2012年4月20日 (金) 10時15分

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