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2012年4月26日 (木)

案外普通っぽい?医師の行動パターン

名古屋市立大産科婦人科教授の杉浦真弓先生が先日こんなことを書いていました。

コラム「紙つぶて」 「白い巨塔」の今(2012年4月16日中日新聞)

教授に関連病院の人事権なし

 医学部の権力闘争や教授を頂点とした大学、関連病院、開業医のヒエラルキーを描いた「白い巨塔」は、山崎豊子さんの小説、故田宮二郎さんのドラマとも熱中しました。

 実は平均年収はその逆で、大学は高い社会的地位によって均衡を保ってきました。かつて教授の権力は絶大で、私も教授命令に従って遠方の病院に赴任しましたが、今、私が命じても、地方勤務は敬遠されます。法律的なことを言えば、教授に関連病院の人事権はありません。

 ハイリスク分娩(ぶんべん)が集まる大学や公的病院は、医療事故のリスクも高く、勤務医の社会的地位も低下している感があり、診療所に医師が移動するのは資本主義社会の自然の摂理です。現に中堅医師の引き抜きによって分娩が困難になった公的病院もあります。教員の人事異動のような仕組みが医師の世界には存在しないので、医師の地域偏在は歯止めが利きません。「白い巨塔」には、世の中の役に立つこともあったのです。

 日本は国内総生産に占める医療費比率が先進国の中で低く、医療レベルは高いことが知られています。産科でいえば妊婦死亡率、新生児死亡率の低さは世界トップレベル。これは、勤務医が労働基準法に守られることなく働いてきたためです。が、法令を順守すれば、今の医療レベルを保つことは困難です。どうしたものか。山崎先生、「白い巨塔」の現代版を書いていただけないでしょうか?

ま、いつまでも時代遅れの古いフィクションで現代医療を語るというのもおかしな話だとは思いますけれども、このところの医療崩壊という現象に注目が集まってくる状況において、かつてあれほど世間から目の仇にされてきた白い巨塔(笑)が密かに見直されつつあるのは確かですよね。
都道府県などが医師を登録して派遣するなんて事業は今や珍しいものではなくなってきましたが、これなどまさに世間が長いこと反対を唱えてきた白い巨塔の現代版というもので、ただ医師の人事を行うにあたって同じ医師である教授や医局長がそれをなすのか、それとも医療の素人である役人がそれをなすのかというだけの違いです。
もちろん実際にこうしたシステムにさっぱり医師の応募がないということから現場の医師達にどのような評価をされているのかは明白ですが、今や末は大学教授などと夢を抱く若手も決して多くはない時代にあって別に教授に逆らうと怖いなどと思っているわけではなく、御恩と奉公よろしく苦労した分は応分の見返りがあることを期待していたからこそ長年にわたって支持が得られてきたシステムでもあったわけです。
すなわり妥当な恩(見返り)がないところに奉公(労働)もないわけで、「近ごろでは下手な病院に行ってくれなどと言い出せばすぐ医局を辞められてしまう」などという教授の嘆きは今や全国共通ですけれども、それでは現場の医師達はどういう基準で職場の良い悪いを選んでいるのかということを考える上で一つの目安となるデータが出てきました。

医師の転職、収入重視が約4割で最多- メドピア調査 (2012年4月25日CBニュース)

 転職する際、収入を重視する医師が最も多く、4割近くに上ることが、メドピア(東京都港区)の調査で分かった。家庭優先で働けるかどうかが2割程度、人間関係が1割程度などでこれに続いた。

 メドピアは3月19-25日、転職時に重視することについて、同社の運営する医師限定のコミュニティーサイト「MedPeer」の会員を対象に、インターネット調査を実施。2542件の有効回答を得た。

 それによると、「仕事に見合う収入(給与)」が37.4%で最も多く、以下は「家庭優先で働ける環境」(22.8%)、「人間関係」(12.7%)、「医師の人数が多い(過重労働にならない環境)」(11.0%)、「その他」(10.4%)、「最先端の医療や医学が学べる」(4.9%)などの順だった。

 自由回答では、収入を重視する医師から、「子どもにお金が掛かるので、経済的な条件を無視しての転職はあり得ない」「家族を持つとお金の重要性が高くなる」「収入がよければ仕事量・環境がある程度悪くても許せる」などの声があった。

 「その他」と答えた医師からは、自分の専門性を生かせる職場や、キャリアにプラスになる職場がいいとの意見が出た。

ちなみにこのメドピアという会社、現役医師らが中心になって設立された医師限定ソーシャル・ネットワークで「日本で唯一の医師による医療用医薬品のクチコミ評価サービス「薬剤評価掲示板」を中心に、日々日常診療に関する建設的な意見交換が行われて」いるということですが、予想通りと言うのでしょうか医師人材派遣などにも関わっているようですから、そうした関心を持つ先生方が対象ということになるのでしょうか。
転職を考えるようになる理由はいろいろとありますけれども、人間誰しも勤労に見合う待遇が得られないということは非常なストレスでしょうから「仕事に見合う収入」が1/3以上と最多を占めたというのは納得なのですが、実は世間一般の転職理由というものを調べたケースでは「会社の将来性が不安」だとか「他にやりたい仕事がある」といった理由が収入よりも上位に来るらしいのですね。
そう考えますと医師という職業は基本的に景気のいい、悪いにさほど左右されず安定はしているし、医師という仕事自体には皆さんそれなりに納得(満足)しているということなのでしょうが、そもそも世間一般で言う転職のように業種そのものを変えるという人はほとんどいないと言う点からしても少し特殊な職業であるとは言えそうです。

「医師はお金のことばかり考えている」とも受け取れる結果が出ますとまたどこかの新聞あたりには「だがちょっと待って欲しい」なんてことを書かれてしまいそうですが、しかし考えて見れば基本的に公定価格の保険診療を行っている医療の場において、待遇を良くしてスタッフを集められる施設というのは経営上手な施設であるとは言えそうですよね。
今や崩壊著しい全国田舎の中小公立病院などはどこも慢性的な赤字垂れ流し状態であることが知られていますが、こうした病院では医師の給与は冷遇する代わりに公務員である事務方の給与はあり得ないほど高いという不思議なことをやっているという共通点があり、一方で到底医師のやることには思えないような様々な雑用が何故か医師に押しつけられているということでも知られています。
考えて見れば夕方5時を過ぎれば高い残業手当を出さなければならない事務様を使うよりは、幾ら残業しようが院内で寝泊まりしようが一切支払いには響かない実質年俸制の医師らを限界まで酷使した方がお得なのは当然ですし、どうせ彼らからすれば医者など黙っていても毎年大学から勝手に送られてくるものという認識ですから、これはこれで合理的な理由があったとは言えるわけです。
無論今どきそんな病院に行きたがる医師などいるはずもなく「医師は地方勤務を嫌う」などと泣き言を言っていますが、田舎暮らしも嫌われるかも知れませんがそれ以上に自分たちの病院が嫌われているのだということを理解してもらう必要がありそうですよね。

いささか脱線しましたけれども、こう考えてみると給与と言うのはその施設がどれくらいスタッフを優遇しているかという一つの簡便な指標にもなり得るのは確かなようで、もちろん給料も高いが過労死しかねない奴隷労働という病院も中にはあるのかも知れませんが、幸いにしてと言うべきか不幸にしてと言うべきか日本の医療現場ではこうした奴隷病院はほぼ例外なく安月給という現実があります(苦笑)。
逆に言えば収入に見合わない労働環境を押しつけてくるような「ブラック病院」がこうした常識的な医師達の選択によって次第に淘汰されていくのだとすれば、医療環境のモラル(士気)向上と共にスタッフの過労から来るイライラやうっかりミスも減少し、結局は患者さんにとっても居心地の良い病院が実現していくということにもなりますね。
無論、単に「給料の多寡」ではなく「仕事に見合う収入」であるわけですから、仕事と収入とのバランスも重視されているのは当然でしょうが、白い巨塔が崩壊した時代にあって医師を呼びたいと考えている各施設の人事担当はこうした調査結果も一つの参考になるんじゃないでしょうか。
しかし選択式の回答ですからある程度答えにもバイアスがかかっているところはあるのでしょうが、医師のものの考え方もそれほど奇をてらったものではなく常識的な線に落ち着いてきているのだなと安心させられる結果ではありました。

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コメント

金だけでいいのか?と言うのはたいていが金すら出さない連中であるという法則

投稿: aaa | 2012年4月26日 (木) 08時38分

公立病院も公務員ですから長く務めれば給料は悪くないんですよ。
退職金もボーナスもろくに出ないのは誰も永くいたがらないだけなんで。

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年4月26日 (木) 11時21分

ま、なんだかんだ言って 恵まれているのだと思いますよ。 <今の医師。
いまだに「現在の自分の職場は自分の意思によるものではない」なんて言っている医師がいたとしても同情する気にはなれません。

投稿: JSJ | 2012年4月26日 (木) 12時38分

ワーワー騒いでいた中堅どころのDrも現実を受け入れ始めたんでしょう。

投稿: RF | 2012年4月26日 (木) 18時21分

ちょうど大学でバリバリ働いてる(働かされてる)後輩とあってきました。
相変わらず超勤なんてまともに認めない癖に、ちょっとでも超過すると呼び出されて説教食らうのだとか。
「説教聞いてる暇があったら超勤なんてつかんわ!」と切れてました。
これで月給20万ですから近々逃散予定と言う口ぶりなのも当然ですよ。
同じ科で医長やってる同期も切れかけてるのでまた講座崩壊になるかも知れません。
さすがに不当な環境にあえて甘んじてる人間は自業自得と言われれも仕方ないですよ。

投稿: ぽん太 | 2012年4月26日 (木) 22時08分

立ち去り型サポタージュはすっかり定着したな
今じゃ立ち去らない者が変わり者と思われる
言って判らない相手には行動で判らせるしかない

投稿: kan | 2012年4月27日 (金) 09時21分

>相変わらず超勤なんてまともに認めない癖に、ちょっとでも超過すると呼び出されて説教食らうのだとか。

説教って教授がするんですか?まさか公務員事務とかww?

>立ち去り型サポタージュはすっかり定着したな
今じゃ立ち去らない者が変わり者と思われる

2ちゃんでななしで奴隷医を煽り倒して「それでも医者か!」と罵られていた頃が懐かしい…w

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年4月27日 (金) 10時37分

>説教って教授がするんですか?まさか公務員事務とかww?

病院長とかそういう人達らしいですね。
どういう説教をするのか聞いてみたいですが。

投稿: ぽん太 | 2012年4月27日 (金) 11時50分

駄目な病院の経営陣や事務方は口で言っても聞く耳持たないのは昔からの伝統ですからね。
ならばと黙って立ち去ってみたところ全くデメリットはなかったばかりか、結果的に労働環境もよくなってきたんですから広まりますよ。
ある程度あくどい病院が淘汰されてくれば業界の風通しもよくなってくるかと期待してます。

投稿: 管理人nobu | 2012年4月27日 (金) 12時33分

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