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2012年4月 9日 (月)

メディカルツーリズムが医療に変革を強いる?

以前からその推進が図られているメディカルツーリズムというものが、地方都市においても次第に滲透してきているというのがこちらの記事です。

中国の富裕層に「医療ツーリズム」 浜松の弘遠会/静岡(2012年3月28日静岡新聞)

 浜松、磐田市で「すずかけ病院」など五つの病院、高齢者医療施設を運営する医療法人弘遠会(浜松市中区、竹下力理事長)は27日までに、中国・貴州省の中医学院(孔徳明代表)と医療交流、連携の協定書を締結した。日本の西洋医学と中国の東洋医学の技術交流や、双方の人材交流を図る。
 中医学院は3千床の病床を有する付属病院と医大を抱える。弘遠会が今年11月、検診設備を備えた新病院を浜松市内に開設するにあたり、中国の富裕層を対象にした医療ツーリズムに着目したのが協定締結のきっかけで、「ツアー後の2次検診や治療を、現地(中国)でフォローする体制をつくれないか」と連携を決めた。
 高齢者医療を専門としてきた弘遠会にとっては、課題だった「加齢に伴う障害、難治性の痛み、不快」に有効な漢方の技術、知識が得られれば、日本での治療の選択肢も広がるとみている。
 一人っ子政策をとる中国も近い将来、少子高齢化に直面することが予想される。
 弘遠会は健康保持の意識高揚や介護のノウハウなどで貢献でき「ウインウインの関係が築けるのでは」と期待する。

亀田のような急性期の大病院ではなく高齢者相手の医療を行っている施設でこういう商売に手を伸ばすというのも少し意表を突かれたのも確かなんですが、当然ながら富裕層と言えば相対的に年配の顧客も多いでしょうし、そうなると高齢者相手の診療に慣れているということも一つのアドバンテージにはなり得るのでしょうか。
メディカルツーリズムに関してはそもそも商売になるのかという懸念はともかくとしても、以前から異常が発見された場合にフォローアップをどうするのかという問題が指摘されていましたが、今回の静岡の方式では現地の医療機関と連携して事後の診療に当たるという対策を打ち出してきたということですよね。
ただそれもあくまでも危急のものではないということが大前提であって、いざ何かが起こってしまうと一気に面倒なことになってしまうというのが国境をまたいだ医療の難しさということでしょう。

医療ツーリズム 治療費未納で帰国 中国人家族提訴へ…泉佐野の病院/大阪(2012年4月7日読売新聞)

 外国人向けの国際外来のある「りんくう総合医療センター」(大阪府泉佐野市)が、治療費約660万円を滞納した中国人男性(故人)の家族を相手取り、今月中にも支払いを求めて中国で訴訟を起こす方針であることがわかった。同センター一帯は今後、観光と最先端治療をセットにした「医療ツーリズム」の拠点として整備し、外国人患者を受け入れる予定で、こうした未収金問題への対応が課題となりそうだ。

 同センターでは外国人が治療費を払わないまま帰国するケースが相次いでおり、経営を圧迫しかねないと判断、異例の提訴に踏み切ることになった。

 センターによると、この中国人男性(当時72歳)は2010年9月、妻と観光目的で来日したが、関西空港近くのホテルに到着後、持病の心臓病が悪化。同センターで手術などを受けたが約2週間後に死亡した。

 男性は旅行者用の保険に加入していたが、持病は適用外で、治療費約674万円全額を支払う必要が生じ、男性の妻が約14万円を支払い、残金は分割払いをするとの誓約書を書いて帰国。だが、その後は支払い督促にも応じないため、中国での提訴を決めたという。

 同センターは、関空に近い立地を生かし、外国人観光客らにも対応できるように06年、医療通訳を常駐させる国際外来を開設。在日外国人も訪れるほか、急患で運び込まれる外国人観光客も多く、利用者が増加。しかし、観光などで来日した外国人患者の治療費の未収金は、今回の中国人を含めフランス人やトルコ人、韓国人など計11人約1270万円に上るという。

 日本政策投資銀行は医療ツーリズムで来日する外国人は、全国で20年に中国や欧米中心に43万人、市場規模は5500億円に上ると試算する。

 同センターの担当者は「観光医療では、診断の結果、ツアー料金以外の治療や急を要する手術を迫られることもある。外国人の未収金問題は、医療ツーリズムの拡大でより深刻になるだろう。帰国されて連絡すら困難になる場合も多いが、今後の経営を考えれば、放置できない」としている。

 医療ツーリズム 医療を目的とした長期滞在型海外旅行。日本ではアジアの富裕層に先端医療と観光を合わせて売り込むことが検討されている。大阪府は、関空対岸の「りんくうタウン」に、外国人患者にも対応できるメディカルセンターなど最先端の医療施設を2014年度にオープンさせ、医療ツーリズムの拠点とする予定。漢方や食事療法、健康診断などのサービスを提供できる事業者も誘致する。徳島県は徳島大病院などで糖尿病検診と観光をセットにした取り組みをスタート。神戸市などでも検討が進められている。

この関空で発作を起こしたという中国人男性の事例については以前にも紹介した通りなんですが、たまたま観光旅行で訪れた先で急な大病に襲われれば治療を受けざるを得ず、保険が治療費に対応しないとなるとあっという間に支払い困難になってしまうという怖さは日本人の海外渡航においても危惧されるケースではありますよね。
これ自体はメディカルツーリズムと直接には関係のないケースなのですが、外国人顧客相手の体制を整えている施設はこうした場合にも搬送先として選ばれる可能性が高くなるでしょうし、当然ながら同様のリスクは今後ますます高まっていくことが予想されます。
そして記事にもありますように、単なる健診のつもりでも思いがけない重病が見つかってしまうということはままあるわけですから、突然に巨額の支払いを迫られる可能性もあるというリスクを前提にツアーを組み立てていかないことにはトラブルが避けられませんよね。
前回取り上げた際にも紹介しましたが、むしろ国際相場に比較すれば日本でのコストはかなり割安についているというのも確かで、アメリカなどでは急病で入院したところ実際に一桁違う金額が請求されてきたというケースが少なからず報告されていますから、中国などと比べても決して割高ではないという説明は可能なのですが、それでも払ってもらえない場合にどうするかです。

日本ではそもそも未払い顧客に対する追求を厳しくしてこなかった現実もあり、特に一部公立病院などは現状でも踏み倒し放題だと未払い常習者、無保険者などに狙われている状況ですが、立ち上がりから同じ轍を踏まないためにも気の毒ながら提訴に至ったというのはやむなきところですが、今後はこうしたケースに備えてツアー料金に独自の保険を組み込むといった対策も必要でしょう。
そもそも論として考えると、もともとは南アジア諸国などで外貨獲得の手段として盛んなメディカルツーリズムですが、こうした国々では母国では到底受けられない高額医療を医療費の安価な国で受けたい海外顧客からの需要が非常に大きいだけにむしろ懐事情のシビアな方々が多いわけで、専ら富裕層向けの医療を提供するという日本のやり方はかなり異端かつ虫のいいものではあるわけですよね。
いくら国を挙げてメディカルツーリズムを推進すると言っても、安価で高質な医療を提供するメディカルツーリズム先進国に伍して日本が国際競争力を発揮出来るのは健診くらいしかないという声もあって、もちろん未払いリスク低減のためにも当たり障りのないことだけやっていればいいという意見も間違いではないのでしょうが、仮にも世界一の称号を手にしたことのある日本の医療がその程度に留まるとは寂しいのも確かですね。
医療主導の経済成長戦略ということの両輪として一つには国内需要を更に喚起していく、そしてもう一つはより多くの外貨を稼いでいくという二つの道が考えられますが、どちらの道を辿っても過去半世紀にわたってドメスティックな保険診療一本槍でやってきた日本の医療にとっては、相当に腹を据えてかからなければ越えられないハードルが待ち構えていそうです。

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コメント

国内の患者の未収金の回収ですら苦労しているのに、海外に逃げられたり、
今回のケースのように債権者が海外にいたりしたら大変ですね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年4月 9日 (月) 09時40分

海外に逃げられたら大変ですから債権回収をもっとマジメにやってくれればいいんですけど。
とかく今までは未払い患者への対応があまりにいい加減過ぎたんで、これからちょっとは真剣にやってもらいたいです。
いくら売り上げを伸ばせと言われても事務方がお金を回収してもらえないんじゃただ働きじゃないですか。

投稿: ぽん太 | 2012年4月 9日 (月) 09時47分

いくら取りっぱぐれがなくても生保ばっかりになると、外来の雰囲気ががらっと変わって
一般の患者さんが逃げ出しますからねー。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年4月 9日 (月) 10時16分

儲けにもならんでトラブルばっかりの患者いつまでも放置してる医者ってどうなんだって思うわ
しかも夜中に来て騒いだんで入院させといたら「ボクみれないから先生みて」ってふざけんな!
てめえが飼ってるDQNの尻ぬぐいくらいてめえで最後までみろや!

投稿: 場末の内科医 | 2012年4月 9日 (月) 11時57分

日本の高度医療や先端医療が先進国としては安価なのは保険システムのおかげ、
つまり、比較的健康的な人や医療従事者の頑張りの上に成り立っていると思うのですが、
メディカルツーリズムの利用者からは、それらを考慮した上での料金を頂いているのでしょうか?
結構な額でないと、当の医療機関だけで見れば儲けが出たとしても、
日本の医療システム全体で見ると赤字になってしまいそうな気がします。

投稿: umipen | 2012年4月 9日 (月) 12時38分

どうせハイソ相手に限定するなら、むしろ遠い欧米諸国の患者相手に日本は割安だとアピールしていた方がよかったのかなとも思ってるんですが。
お隣近所の方々が利用しやすくすればそれだけ数は稼げるでしょうけど、ターゲット層以外も受診しやすくなるのは当然ですしね。
まあ始めたからにはそうした想定外の利用者も含めてどう対処するかを考えてもらいたいし、逆にここでトレーニングを積めば国内の未払い受診者に対してももっと適切な対応が出来るようになるかも知れませんし。
とにかく保険診療だけしか知らないでそれを大前提にした医療ばかりやっているのは何か違うんじゃないかと言うのは、それ以外を経験しないと判らないですからね。

投稿: 管理人nobu | 2012年4月10日 (火) 07時54分

日本国内の開業医ドモの不正請求を医療業界が温存してる限りあらゆる問題は好転できません。
薬の通販規制をもって貧困者は近代医療から完全に隔離されてしまいました。日本人の患者が減るから海外から患者に来てもらうとかいう話は強く抗議します。海外からの患者が持ち込む日本では馴染の無い病原菌等で医療から隔離されている貧困者のリスクは高まります。
国民の健康に対して害悪しか与えて居ない厚生省は即刻解体し関わっていた公務員全員処刑するべきです。その際浮く人件費で貧困者医療問題はとりあえず先送りできるでしょう

投稿: | 2012年4月10日 (火) 10時53分

現代日本に医療貧困者など存在しないんだよw

投稿: aaa | 2012年4月10日 (火) 11時59分

まあお金がなくても公立病院に飛び込めば(少なくとも本当に悪いのなら)ちゃんと治療はしてくれますから、そういう意味では最低限何とかなってしまうとは言えるでしょう。
むしろ当座命に関わらない慢性疾患の方がお金の問題には厳しいですよね。
それこそ今話題のてんかんなども中には経済的困窮からコンプライアンスの悪い患者もいるかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2012年4月11日 (水) 14時32分

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