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2012年3月26日 (月)

尊厳死法案、妙な形で表に出る

先日以来断続的にお伝えしているところですが、いわゆる尊厳死というものに関する医師の免責を認める法案が初めて公開されましたが、これが何やら期待されたものと随分違って妙なことになっているようなのですね。

延命措置しなくても、責任問われず 尊厳死法案(2012年3月23日朝日新聞)

 超党派の国会議員でつくる尊厳死法制化を考える議員連盟(増子輝彦会長)は22日、終末期の患者が延命措置を望まない場合、措置を始めなくても医師の責任が問われないとする法案を、初めて公表した。この日の総会では異論も出たため、とりまとめは、次回以降に持ち越された。

 法案は、適切な医療を受けても回復の可能性がなく、死期が間近と判断される状態を「終末期」と定義15歳以上の患者の意思が書面などで明らかで、2人以上の医師が終末期と判断すると、生存期間の延長を目的とした人工呼吸器の装着や人工栄養の補給を始めなくても、医師は民事、刑事、行政いずれの責任も問われないとする。

 知的障害がある人や意思表示ができない人などは、対象としない。

 法案をつくるにあたり、延命措置の中止も含むべきだという意見があったが、治療を開始すると本人が意思を示せなくなることもあるため、最も範囲の狭い「延命措置を始めないこと」に限定した。

 法案は、国や自治体に終末医療の啓発をすることも盛り込む。延命措置を希望するかどうか、運転免許証や保険証に記載できるようにするとした。

 2005、06年に北海道や富山で医師が人工呼吸器を外し、患者が死亡したと明らかになり、厚生労働省などは終末医療の指針を作った。だが明確な手順を決めたものでなく、法的根拠もない。医療現場からは「責任を追及される可能性があるからとどんな状態でも延命措置を始め、一度開始すれば続けるしかない」という指摘が出ていた。

 総会に出席した関連団体からは「適切な医療や死が間近とはどういうことか。議論の前提を欠いている」(日弁連)、「人工呼吸器などは使ってみないと価値がわからない」(障害者インターナショナル日本会議)と反対意見も出た。

 増子会長は「生を大事に、個人の意思を尊重することを一番に考えてまとめた上で、今国会への提出を目指したい」と話した。

 終末医療に詳しい国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の三浦久幸・在宅医療支援診療部長は、「病状と共に変わっていく本人の気持ちを把握して実現できるよう、書面に意思を残すことに加え、希望をかなえる組織づくりも進めていかねば」と話す。

 会田薫子・東京大特任研究員(死生学)は「大事なことは法律の条件を整えることではなく、本人がその人らしく生きるための最善の選択肢を探り、実現していくこと」と強調する。 (辻外記子)
(略)

延命治療しない医師免責 議連が法案、終末期患者の意思なら (2012年3月22日日本経済新聞)

 超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」は22日、終末期の患者が延命措置を望まない場合、延命治療をしない医師の責任免除などを柱とする法案を初めてまとめた。終末期かどうかは2人以上の医師が判断。「延命措置の不開始」の意思表示には書面が必要としている。

 議連は各党内の議論を経た上で、今国会で議員立法の提出を目指すが、「尊厳死」を巡っては賛否が割れており、法案提出の行方は不透明だ。
(略)
 議連総会には各団体が出席した。日本尊厳死協会が「希望通りの死を迎えられていない患者が多い。法案は延命措置の中止は盛り込まれていないが、患者の意思が尊重されている」と賛成を表明。障害者団体「DPI(障害者インターナショナル)日本会議」は「終末期の認識は個々人で異なり、法律で決められない。白紙撤回すべきだ」と強く反発した。

延命措置の「不開始」で、医師を免責-超党派議連が法案原案を提示(2012年3月22日CBニュース)

(略)
■日医、日弁連などから慎重論相次ぐ
 この日の総会では、日本医師会や患者団体、日弁連などからヒアリングを行ったが、各団体からは同案への反対意見や慎重論が相次いだ。

 日医の藤川謙二常任理事は、「(延命措置の)差し控えだけを法律化することが、本当に意味があるのか。中止の問題も含めて、やはり非常に境界が難しい」と指摘。その上で、「終末期で度重なる訴訟が起こるのはとんでもない」との危機感を示し、慎重な議論を求めた。
 また、障害者団体「DPI日本会議」の三澤了議長は、「なぜこのような法律が必要なのか。誰のために必要なのか」と反対の考えを強調。日弁連の人権擁護委員会医療部会の平原興部会長も、同案に反対の立場を表明した上で、「意思表示の撤回の方法や、その有無の確認も含め、過去の意思の表示から、いかに現在の本人の意思を判断していくのか」と問題提起した。
 一方、日本尊厳死協会の副理事長で内科医の鈴木裕也氏は、「医学の進歩によって、医師主導型の行き過ぎた医療が進んだ」とし、患者のQOLの観点から、制度の必要性を指摘。また、同協会の常任理事で、同じく医師の長尾和宏氏は、「尊厳ある生を支えながらも、あくまで患者さんの意思、基本的人権を尊重したい」と述べた。

 同議連では、今国会への法案提出を目指しているが、増子会長は「拙速に法制化する考えは全くない」とし、「それぞれの政党にお持ち帰りいただいて、われわれが出した案をご検討いただいた上で、最終的な取りまとめに入りたい」と述べた。

当然ながら異論も反論も幾らでも出てきそうな話ではあるのですが、とりあえず医療現場へ与える影響というものを考えて見た場合に、この法案の効果は非常に限定的なものに留まるのではないかという気がします。
様々な反対意見が出ることが予想される(実際すでに出ているわけですが)法案であるだけに最初は適用範囲を限定した状態でスタートしたいという意図は理解出来ますが、特に注目すべきなのはこの法案の対象が「適切な医療を受けても回復の可能性がなく、死期が間近と判断される状態」に限られているということです。
当然ながらこうした状況にあっては何をやろうが死期が間近であることに変わりはないわけですから、何かをやってもやらなくてもほとんど同じでしょ?それでもやるんですか?と言いやすい状態ではあるのですが、同時にこうした状況になってしまうとわざわざ患者家族を呼んで長々と話し合いの時間を持ち、さらに患者の意志や複数医師による確認などの手間をかけるよりそのまま現状維持で死を待つ方が話が簡単ですよね。
どんな医療を行うか指示する医師としてみればこの様な患者であればただ黙って昨日と同じ治療を今日も続けるよう指示するのが一番簡単なのですから、わざわざ制度に則って面倒な手続きを始めたいと考える医師がどれほど出てくるのか疑問視せざるを得ません。

加えて延命措置の中止を認めず開始しないことのみを免責の対象にするというのも大問題で、たとえば救急医療や急変患者について考えてみると、何をやっても死期が間近に迫っている状況と言えば当然ながら一刻も早く緊急処置を始めざるを得ない差し迫った状況でもあるはずですから、こうした患者に遭遇した医師はまずは心肺蘇生なりの処置を始めないわけにはいかないでしょう。
そしてひとたび始めたところでやはりダメだなと感じても中止することは出来ないし、ましてや最初にこうした患者を診た段階で複数医師で相談し本人の意志も確認した上で措置をしませんと決定するような余裕があるはずもありませんから、急性期の患者に対してはほとんど関係ない話ということになってしまいますよね。
となると、この法案の対象となるのは以前からいずれ死が確実にやってくるような状況が予想された患者(例えば癌などの疾患でしょうか)が長年何とか安定状態を保ってきた、それがいよいよダメになってきた時にきちんと今までの経緯を知っているかかりつけ医に担ぎ込まれた時だけが対象で、下手すると在宅担癌患者が急変して救急車でその日の当番病院に運ばれてしまったというケースですら希望通りの対応は難しそうです。
日医のコメントに同意するのはいささか不本意なのですが、これではまさしく「なぜこのような法律が必要なのか。誰のために必要なのか」というもので、正直こんな極端に限定的な法案で尊厳死を認めましたなんて顔をされるくらいなら、最初から法案を出しても出さなくても同じじゃないかという気もしないでもありません。

無理矢理に好意的に考えていくとすれば、もちろんこれはあくまでも最初のスタートラインというもので、実際に運用をしながら国民や医療現場も尊厳死というものに慣らしていき、順次対象を拡大していくというシナリオなのかなとも思うのですが、失礼ながら現在の流動的な(苦笑)政治の状況を見るとその頃に彼ら議員連の方々が現在の椅子に留まっているかどうかもはっきりしませんよね。
超高齢化社会で医療財政上も寝たきり高齢者にどこまで医療を続けるべきかが議論されている、そして医療現場においてもいったん始めてしまったら延命的処置はやめられなくなるということが心理的重圧をもたらしているのですから、たとえ対象が限定されることになったとしてもここはもうひと頑張りして「延命措置の中止」にまで踏み込んでおくべきではなかったかという気がします。
もちろんどんな内容になったとしても反対する方々は出ないはずがない話ですから、単にやらない、望まないという方向での意志表示に限らずやって欲しいという意志表示もしっかり担保されていることが大前提となることは言うまでもありません。

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コメント

私は、この法律が成立した場合、逆に本人が文書で意思を表明していない場合の扱いがどうなるか、ということを懸念しています。
つまり、本人が書面で意思を示していない限り必ず延命処置をする、という話になるとイヤだなぁ と思っています。

投稿: JSJ | 2012年3月26日 (月) 08時24分

おそらくその場合は今まで通りになるのでしょうけど、わざわざ免許に書くほどありがたみのある意志表示でもないような…
医師にしてもたとえ意志表示があってもその時は助けられると思って手を出すケースが多いでしょうし、ちょっとこのままじゃ使いにくい感じです。
これメンバーをよく知らないんですが、医療畑出身の議員さんは加わっているのでしょうか?>超党派議員連盟

投稿: ぽん太 | 2012年3月26日 (月) 10時04分

>医師は民事、刑事、行政いずれの責任も問われないとする。

…私は法曹ではないんでよく判らないんですが、これって法学論的に可能なんですかね?もし可能なら、救急とか産科とかとっとと全部免責にすればたちどころに医療崩壊は回避出来るかとw

*モトケンさんとこでは確か、特定の職業のみ民事刑事行政免責ってのは法学論的に不可能って結論だったような。
*人間が決めた事なんだから人間に変えられん筈はないと法曹ではないわてくしは思うのでありますがw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年3月26日 (月) 11時16分

刑事は法律の文言で何とかなるかも知れませんが、民事を責任を問われないようにするってのがよくわからんです。
訴えさせないようにするということは不可能ですし、行政の何かしらの行動で民事判決の行方が左右されるものなのかどうか。
安楽死関連に関しては全て行政処分の対象とするということにしておいて、行政処分の方でこれこれの場合は処分しないと明文化しておけば何とかなる、んでしょうか?

投稿: 管理人nobu | 2012年3月26日 (月) 11時55分

この程度のことにも反対する関連団体は他人の意志に干渉しすぎじゃないのか?
別に何も強制することじゃないのに自分たちに必要ないからいらないというのはどうもね

投稿: kan | 2012年3月26日 (月) 13時33分

裁判官は民事刑事行政免責っぽいですけど、違うのかな?

投稿: クマ | 2012年3月26日 (月) 13時54分

>裁判官は民事刑事行政免責っぽいですけど、違うのかな?

法曹でない上ウロなんですがこれまたモトケンさんとこによると、裁判官は国家権力そのものだから、だとかなんとか…。
まあ裁判官は民事刑事行政免責でないと、そもそも裁判ってシステム自体が成り立たちませんやね。
*あれどっかで聞いたようなw?

基本的に素人が感じるような疑問はその道のプロが既に散々検証済みなワケで、その上で構築されているのが現在のシステムなワケで一見不合理でもそれなりに理由があるものなんだそうです。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年3月26日 (月) 16時34分

国家権力ですか・・・
それだと、国家権力そのものとおぼしき警察官が免責でないのが不思議ですね。

投稿: クマ | 2012年3月26日 (月) 17時51分

三権分立の一角ってことで保護されてるのでは?
現職議員もいろいろ保護されてたような気が

投稿: | 2012年3月26日 (月) 20時28分

>三権分立の一角
まあ、そうなんでしょうねえ。
ただ、そういう人達が免責されているのも人間の作った法がそういう風にできているからだと思うのですけど、何で法学者は免責できないって言い切っちゃうのかなあ。
電子カルテのSEさんが「それは技術的に不可能です」って言うのと同じ空気を感じてしまう。

投稿: クマ | 2012年3月26日 (月) 22時41分

ちょっと話はずれますが、今回の法案では確信犯的に対象をおもいきり絞り込んだようです。
倫理的な問題もあったんでしょうが、医師の免責をするということへの感情的な反発もあったんじゃないかと思ってしまうのは自分だけでしょうか。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201203/524171.html
 同法案は既に実施されている延命措置の中止を対象外としているほか、家族の判断ではなく、あくまで患者の意思がある場合のみを対象とするなど、「尊厳死としては、非常に狭い範囲を対象としたものだ」(「尊厳死法制化を考える議員連盟」会長:参議院議員の増子輝彦氏)。

投稿: ぽん太 | 2012年3月27日 (火) 09時09分

>民事を責任を問われないようにするってのがよくわからんです。
訴えを起こせないようにするのは不可能だと思いますが、訴えても勝てなくするような文言を法律に入れるのは可能ではないでしょうか。
民事でも時効によって請求権が消滅するという概念はあるわけですから、特例によりはじめから請求権を認めない、とするのは可能なように思えます。

>今回の法案では確信犯的に対象をおもいきり絞り込んだようです。
絞りすぎて、誰のための法律か分からなくなっちゃった、と。
「治療を開始すると本人が意思を示せなくなることもある」という理由で法律の対象に「延命措置の中止」を含めなかったというのなら、
「延命措置を始めない」という意思の表示も、まさにその選択を迫られた時にしないと無効になるような気がします。
こういったことが可能な状況では、今でも普通に本人に選んでもらっているわけで(ALSの胃瘻や人工呼吸 等)、法律に介入してもらわなくていいです。

投稿: JSJ | 2012年3月27日 (火) 10時20分

尊厳死を考える~の元会長である民主党の桜井充議員は医科歯科大卒の呼吸器内科の医師ですね。
医療現場に限界を感じ政界に転じたというのであれば、現場の声をきちんと主張してくれればよかったのですが。
http://www.dr-sakurai.jp/page0101.html
http://www.arsvi.com/d/et-2010.htm
患者の自己決定権のためにも医療現場の葛藤の解消のためにもほぼ意味がなさそうな法案なのに、どういう気持ちでこれでいいと考えたのか、ご自身のメルマガでなりとぜひ発信していただきたいです。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月27日 (火) 11時46分

>医療現場に限界を感じ政界に転じたというのであれば、現場の声をきちんと主張してくれればよかったのですが。

現場にクソ垂れて砂かけてこそドロッポ医wwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年3月27日 (火) 15時22分

一応は医師らしい主張もしてるっちゃしてるようなんだが、どうももともとが医療よりも政治向きのキャラであるように感じる>桜井充
http://globe.asahi.com/feature/100322/side/01_08.html

投稿: kan | 2012年3月27日 (火) 15時41分

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 職務経歴書の形式 | 2012年4月29日 (日) 10時33分

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