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2012年3月23日 (金)

最近気になった判決二つ

トンデモ判決とまでは言わないものの何かしらひっかりを覚える判決というのは時折ありますが、最近目についたものの中から二つばかりを取り上げてみましょう。

歩道の段差につまづき86歳重傷、市に賠償命令/兵庫(2012年3月17日読売新聞)

 兵庫県西宮市の男性(86)が市道の段差につまづき、重傷を負ったのは、市の道路管理に問題があったためと、市に790万円の損害賠償を求めた訴訟の判決公判が16日、地裁尼崎支部であり、善元貞彦裁判官は「市道としてあるべき安全性を欠いていた」として、市に416万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

 訴状などによると、男性は2009年8月、同市奥原の市道を歩行中、街路樹の根元を保護する鉄網の段差に足を取られて転倒。左腕や右手の指を骨折する6か月の重傷を負った。

 同市は公判で「前方を注意していれば、段差を簡単に見つけられた」と主張したが、善元裁判官は判決で、「市が歩道中央にある段差を放置した責任は免れない」と退けた。

何しろ86歳ですからちょっとした段差でも躓いて転んでしまうというのはあり得ることでしょうし、当然ながら堅い地面で転べば大きな怪我を負ってしまう状態でもあったのでしょうが、それでは普通の人間が転ばないような場所で自己責任?で転んだものまで市が面倒を見なければならないのか?とも感じてしまう話ではあります。
一般的には結果の重大性と道路としての管理状態とを勘案しながら「まあこのあたりでどうですか?」と言う妥協点を裁判所が提示してくるのでしょうが、今回元々の請求額が790万円という微妙な金額であったからこそ相応に大きな割合で賠償が認められたのかも知れず、例えばこれが数千万円の賠償請求でしたらいわゆる見舞金程度で終わっていたかも知れませんね。
ただ実際問題として道路そのものはともかく、こうした辺縁の部分まで完全に段差を解消することは難しいと思われるだけに、片っ端から同種の請求が続発するようなら困ったことになるんだろうなあと思ってちょいと調べてみましたところ、数年前のこんな記事が出ていました。

長期病欠の奈良市職員、高級外車の傷を市に補償要求(2006年10月25日読売新聞)

 病気を理由に5年間で8日しか出勤しなかった奈良市環境清美部の男性職員(42)が、病気休暇中の今年8月、運転していた外国製高級スポーツカーが市道の段差で傷ついたとして、市役所を訪れ補償を求めていたことがわかった。

 市によると、職員は8月9日、市道から県道に出る際、8センチの段差で底をすり、特殊なナットが損傷するなどした。市道の穴にタイヤがはまるなどして車に損傷が生じた場合、補償することはあるといい、市は今回も補償する方針

一般的に道路の段差がどの程度まで許容されるのかですが、恐らく「外国製高級スポーツカー」でなければ問題は生じなかったのではないかとも考えると、当○り○とまでは言わないにしても市職員であることとも合わせてなんとも微妙な感じのする話ではありますよね。
ちなみにこの職員、長期病欠を名目に出勤しないまま給料だけ受け取ってポルシェを乗り回していたということで有名になった方で、さすがにマスコミ各社にも取り上げられた結果ようやく奈良市も分限免職処分厳格化に乗り出したという経緯があります(ただし、過去に遡っては適用されないという落ちがついていますが)。
もちろん西宮市のご老人の場合はあくまで一般の通行者が運悪く転倒から重大な結果になってしまった不幸な事例でしょうが、悪用する気になれば幾らでも悪用できるということが証明されているとも考えると、単に結果の重大性のみで判断するのではなくきちんとした道路整備の基準が必要となりそうですね。

さてもう一つ、このところてんかん患者が運転中に発作を起こし事故につながるというケースが問題視されていて、事故そのものもさることながら持病を隠していたり服薬を怠っていたりというケースが事故につながっていることから、てんかん患者の運転免許取得を認めたことがそもそも間違いだったのではないかという論調すら出てきています。
これに関して当ぐり研でも「危ないのはてんかんばかりではない。数を考えれば糖尿病など幾らでも危険と言える患者はいるではないか」という声がありましたが、危惧された事態が実際に起こってしまった結果どうなったかという記事がこちらです。

低血糖でもうろう、男性無罪=1型糖尿病の患者-高校生ひき逃げ・横浜地裁(2012年3月21日時事ドットコム)

 横浜市で2009年、自転車の男子高校生=当時(17)=を乗用車ではね、けがをさせたのにそのまま逃げたとして、道交法違反罪に問われた運転手の男性被告(46)の判決が21日、横浜地裁であった。久我泰博裁判長は「被告は事故時、1型糖尿病に起因した無自覚低血糖のため分別もうろう状態となり、責任能力がなかった」と述べ、無罪(求刑懲役1年)を言い渡した
 判決によると、男性は09年9月1日夜、糖尿病治療のインスリンを注射し夕食を取った後、スポーツジムから車で帰る途中、横浜市中区で高校生をはね、頭に傷を負わせた。事故の約20分後、警察官がフロントガラスが割れたまま走る車を見つけ、男性に職務質問。男性は「後方で何かにぶつかった」と答えた
 久我裁判長は専門家の鑑定に基づき、男性は血糖コントロールが必ずしも良好でなく、無自覚低血糖のため以前から分別もうろう状態で周囲の状況を正しく理解できないことがあったと認定した。
 その上で事故について「車に何かがぶつかりガラスが割れたと認識しても、何をすべきかまで思い至らなかった疑いが残る」とし、男性は相手の負傷まで分かっていたとは言えないとした。
 神奈川県警は事故当日、自動車運転過失傷害と道交法違反容疑で男性を逮捕。高校生はその後、死亡した。横浜地検は09年12月、同過失致死罪について嫌疑不十分で不起訴とし、ひき逃げの道交法違反罪で起訴した。

検察側の判断も微妙な様子ですからなかなかに難しいケースであったのだと思いますが、いずれにしても亡くなった高校生に関してはお悔やみを申し上げるしかないところですね。
さてこの事件、当然ながら昨今続いているてんかん患者の事故と絡めて論じている人が多いのですが、こう言ってはなんですがこれが1型糖尿病だったからまだしも、生活習慣に起因する部分の大きい2型糖尿病であったならどういうことになっていたのかと思わないではいられません。
ちなみに免許更新時にてんかんを申告しておらず、しかも数日間服薬を怠った上で死亡事故を起こしたてんかん患者に対して昨年末に禁固2年の実刑判決が出ていますが、判決では病気について「無自覚で安易な姿勢」を指摘され、「被告には自動車の運転を差し控えるべき注意義務があった」と述べられています。
てんかん患者の場合たびたびこうして司法判断に委ねられ、その結果も有罪、無罪と様々に判断が分かれていますが、本人が病気を隠すとか服薬を怠るといった行為があったかどうか、そして過去にも発作を起こし危険性を認識できる状況にあったかどうかが問われるようですね。
糖尿病の場合は免許取得にあたって申告の義務はないとはいえ、当然ながら治療を怠るとかいった状況でたびたび発作を繰り返しているのに運転を続けていたとすれば当人の責任が問われる可能性がありますが、では医師の指示通りに治療を受けていたにも関わらず低血糖(あるいは高血糖)を繰り返し事故を起こした場合本人はともかく医師の責任が問われることはないのかです。

ご存知のように糖尿病において極端な高血糖あるいは低血糖の場合に意識障害を来すことがありますが、単に意識障害を来さないことを目的とするならばかなり緩めの血糖コントロールを行い高めの血糖値を保っていれば発作の危険性も少ないし、ついでに高血糖による神経の麻痺によって患者本人も何も苦痛を感じず楽であるということになりますよね(それこそ心筋梗塞を起こしても気づかないくらいに)。
しかし実際には持続的な高血糖に伴い各種の合併症が飛躍的に増えることが知られているからこそ近年ますます血糖管理が厳しくなされるようになってきたわけですが、当然ながら厳しい血糖管理は一歩間違えると低血糖のリスクを増すことになり、とりわけ強力な薬物療法が行われている重症の糖尿病患者ほどちょっとしたことで低血糖発作の危険性は高まるわけです。
今回は道路交通法違反ということで患者本人が裁かれた形ですが、仮にこうした判決に納得がいかないと遺族が民事に訴えた場合、「より確実に勝てそうな相手を訴える」弁護士の立場からすると患者を訴えるよりも担当医を訴えた方が勝ち目があると考えない保証はないですよね。
JBMということが言われて久しいですが、外出中の精神科入院患者が殺人を犯した結果入院先の病院が訴えられたという「いわき病院事件」などを見ても、単に医療が目の前の患者の病態に責任を負うだけでは済まされない可能性は常に念頭に置いておかなければならない時代だと言うことでしょうか。

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コメント

道路交通法 第六十六条  何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。

道路交通法 第九十条  公安委員会は、前条第一項の運転免許試験に合格した者(当該運転免許試験に係る適性試験を受けた日から起算して、第一種免許又は第二種免許にあつては一年を、仮免許にあつては三月を経過していない者に限る。)に対し、免許を与えなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、政令で定める基準に従い、免許(仮免許を除く。以下この項から第十二項までにおいて同じ。)を与えず、又は六月を超えない範囲内において免許を保留することができる。
一  次に掲げる病気にかかつている者
イ 幻覚の症状を伴う精神病であつて政令で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの
ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの

道路交通法施行令 第三十三条の二の三
2  法第九十条第一項第一号 ロの政令で定める病気は、次に掲げるとおりとする。
一  てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
二  再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であつて、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
三  無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く。)

したがって、「男性は血糖コントロールが必ずしも良好でなく、無自覚低血糖のため以前から分別もうろう状態で周囲の状況を正しく理解できないことがあったと認定した。」
ということであれば、そのことを申告して運転免許を返上すべきだったと思われます。てんかんと扱いが異なるとは思えません。

投稿: JSJ | 2012年3月23日 (金) 08時50分

本来であれば運転してはいけない状態だったと思いますが、糖尿病の場合は社会通念上そこまでの扱いを受けていなかったということではないかと。
コントロール不良の場合は同様の危険性があるのに特定の疾患に限って免許取得を制限するという話になるのも差別とは言えるかも知れません。

投稿: ぽん太 | 2012年3月23日 (金) 09時32分

調べれば事故の背後にいろいろと基礎疾患が出てきそうだ
ところで当直空けにいつも睡眠不足なのが判ってた場合は申告して免許返上すべきなんだろうか

投稿: kan | 2012年3月23日 (金) 10時00分

>ところで当直空けにいつも睡眠不足なのが判ってた場合は申告して免許返上すべきなんだろうか

過労運転はふつーに道交法違反ですよw
*確か酔っ払い運転並みに重罪だったかと。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年3月23日 (金) 11時13分

むしろ医師免の方を(r

投稿: aaa | 2012年3月23日 (金) 11時20分

実際に糖尿でも同種の事故も起こっている以上、てんかんだけを特別視するならその理由(事故率が高い、疾患を隠す者が多いetc)を出さないとならない理屈になります。
ただメタボ検診で糖尿持ちが激増してきている昨今、差別無く全てのリスクある疾患を規制するとなると社会的影響が非常に大きそうですが。
そもそも危険は低くとも患者数が多い疾患と、危険が相応に高くても患者の少ない疾患でどちらが危ないものなのか?
いずれにしてもまずは基礎疾患が事故発生にどの程度影響しているのかという基礎的なデータが欲しいですね。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月23日 (金) 12時55分

全ての糖尿病患者を問題にする必要はありません。
それは、突発性脳波異常のある全ての人を問題にする必要がないのと同様です。
でも自分で状況をコントロールできないような低血糖を経験したらアウトでしょう。血糖コントロールのやり方を低血糖がおこらないように変更するか、運転免許を返上するか二つに一つです。
法の扱いも、「てんかん」と同等に扱われているのは「糖尿病」ではなく「無自覚性の低血糖症」です。そこに矛盾はないと思います。

投稿: JSJ | 2012年3月23日 (金) 14時31分

事故ったら片っ端から免許取り消しにしていけば当面の対策になるんじゃ?
行政処分って本来そうしたところで弾力的に使えるものでしょ

投稿: 横入り | 2012年3月23日 (金) 16時20分

うちの患者も低血糖でヨイヨイになって通報されたことがあるんだけど、その場合担当医は何か義務を負うんでしょうか?

投稿: 藪の中の医師 | 2012年3月23日 (金) 17時59分

>>うちの患者も低血糖でヨイヨイになって通報されたことがあるんだけど、その場合担当医は何か義務を負うんでしょうか?

無自覚性の低血糖発作の可能性あり、自動車、バイク、自転車その他を運転しないように説明して、カルテに記録として残しておく。
その時には、以上の説明を受けましたって患者にもサインしてもらって記録を残しておけばより完璧ですね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年3月24日 (土) 10時51分

こういう時代だけに言わざるを得ないでしょうね。
ただ低血糖については医原性が多いと考えられるだけに、患者の納得が得られるかどうかは微妙だと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月24日 (土) 17時44分

保険会社に聞いてみたのですが、
「過労、病気、薬物の影響その他の理由により」なので、
たとえ、風邪を引いて、病院へ車へ向かう途中で事故を起こしたときでも「病気」なので、
保険料は、自損は下りるが、対人対物は下りないこともあるとのことでした。

つまり、風邪を引いたら、自転車ですら運転をしてはいけないのです。
運転したら罰則ですね。
もちろん、全員が全員、取り締まりきれていないのが実態だと思いますが。

投稿: | 2013年3月 3日 (日) 13時09分

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