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2012年3月 2日 (金)

「○○はお金では買えない」が体のいい言い訳に?

本題に入る前に、先日あったこんなニュースを紹介してみましょう。

聖マリ医大で助教が研修医に暴力/神奈川(2012年2月28日日刊スポーツ)

 川崎市宮前区の聖マリ2 件アンナ医大で、耳鼻咽喉科の男性助教(39)が男性研修医(28)に殴る蹴るなどの暴力を振るったとして諭旨退職の処分を受けていたことが28日、大学への取材で分かった。研修医は全身打撲などで2週間のけがをした。

 助教は「耳鼻咽喉科に入局すると約束していたのに、別の科に入局しようとしたことに腹が立った」と暴行を認めており、27日付で退職した。大学は「社会人としてあるまじき行為で誠に遺憾」としている。

 大学によると、助教は6日正午ごろ、耳鼻咽喉科の医局に研修医を呼び出して約30分間、罵声を浴びせて殴ったり蹴ったりした。助教と研修医は学生時代、空手部の先輩と後輩だった。

 研修医がその日のうちに大学側に相談し発覚。その後、教授会はいったん懲戒解雇処分を決めたが、寛大な処分を求める嘆願書などを考慮し、諭旨退職とした

 暴行があった時、医局には別の医師2人がいたが制止しなかった。大学は監督が不十分だったとして、耳鼻咽喉科の教授(55)を27日付で戒告処分にした。(共同)

しかしまあ、ひと頃は医局勧誘合戦の流れでさんざん歓待されながら平気で食い逃げする奴が多発していた時代もあったようですが、入局の約束というのがいつの時期のことだったのかは記事からは判りませんが、臨床研修を通じて学生時代の想像を是正される機会を得た上での進路変更だったのだとしたら仕方のないところだとは思うのですけどね。
いずれにしても親しき仲にも礼儀ありで暴言暴行には一社会人として全く同情の余地はありませんが、今の時代どこであれ医師確保にそれだけ御執心であるという現実も見える話で、特に大学医局もますます専門分化が進んで乱立気味になってきますと一医局辺りの入局者数が減ってくるのは当然ですから、どこも人材確保は死活問題にもなりかねないでしょうね。
以前から地方公立病院などは医局人事に頼りきりで医師の待遇などまるで顧みることなく使い潰してきた結果が今の惨状を招いているとも言え、これに対して地方自治体を中心に国が医師を強制配置すべきだなどと人権無視も甚だしいことを主張していますけれども、何故そうなったのかという部分に対する自省も改善の意志もまるで見られない彼らの態度を当の医師達がどう思っているかという想像力は必要です。
一方で大学病院などにおいても以前よりは改善傾向だとは言え分娩手当を支給する大学が未だ6割程度、時間外手術に対する手当に至っては半数以下に留まるなど待遇改善が不十分な状況が明らかで、それは外病院での研修生活を知った後でわざわざ大学医局に入局したいと考える人間も減るのは当然だろうなと感じる数字です。

要するにどこの業界にでも共通する話として人が足りない、もっと優秀な人材に来て欲しいと心底思っているのなら、それに相応しい労働環境くらい整備しておくのが当たり前だろうということなんですが、基本的に労基法の限度を超えて多忙である医師という人種は単に給料さえはずんでもらえれば喜んで幾らでも働く(働ける)というものでもないとは言え、やはり待遇改善を図るにも先立つものの手配は最優先課題になってきますよね。
その点で自治体病院などは年中赤字垂れ流しが当たり前になっている以上、スポンサーたる自治体の財政も厳しい折おいそれと待遇改善は無理だという言い訳をしていますが(もっとも、何故そうなったのかという内情を知ればそう単純な話でもありませんけれども…)、それならそれで他に手段はないのかと言えば必ずしもそうではないはずです。

横須賀市が医療者不足対策に基金設置、市民からも寄付募集/神奈川(2012年2月29日カナロコ)

 医師や看護職など医療従事者の不足問題に対応するため、横須賀市は必要な財源に充てる「いのちの基金」の設立を決めた。趣旨に賛同する市民から寄付を募り、財政からも同額を拠出して積み立てる構想。4月に関連条例を改正し、7月からの寄付金募集開始を目指す。

 2012年度当初予算案に関連事業費として1千万円を計上した。積み立てられた基金は、市内の地域医療機関に対する産科医確保や看護師の離職抑止研修、不育症治療などの財源の一部に充当される。

 吉田雄人市長は29日の定例会本会議で「使い道を分かりやすくして、善意の寄付を呼び掛けたい」と説明した。自治体が設立する基金に対する寄付は、税法上の優遇措置として所得控除の対象とされる。

 横須賀市内では産婦人科などで厳しい地域医療体制が続く。市立市民病院(同市長坂)では昨年から産科の分娩(ぶんべん)が休診中。病院の指定管理者運営への移行に伴って看護師の一部が退職したため、病棟も一部が閉鎖された。

 市は昨年から産科医を増員した地域医療機関に人件費を助成する制度を施行したが、利用例は出ていない

先日は兵庫県の方で救急車の充実にと遺言で一億円を寄付してくれた方の話題を取り上げましたが、医療というものの最大の受益者が患者である国民である以上、国民の側も医療崩壊という現象にもう少し当事者意識を伴った危機感を持っていただきたいというのは必死に現場を支える医療従事者の素朴な気持ちでもあるはずです。
ひと頃から各地の自治体で地域の病院を守ろうという住民主体の運動が起こってくるようになり、もちろん不要不急の時間外受診をやめましょうなどといった意識が滲透してくればそれはそれでありがたいことではあるのですが、多忙な現場スタッフにとって「もっと医師を!」と署名を集めていただいたり、「いつもありがとう」と寄せ書きをもらったりしても実効性の点からすると正直さほどに…という部分はありますよね(申し訳ないですけど)。
これを称してごく直裁的に「同情するなら金をくれ」などと言う人々も一部にいますけれども、地域でもっと充実した医療が必要だと言うのであれば何故それにもう少しお金を出そうとしないのか、自治体に納税しても余計なところにばかり無駄遣いされるのが嫌なら使途を明記して寄付をするなり気持ちに実利を込める手段はもっとあるだろうと言う声が以前からあったのは確かです。
今回の横須賀市のやり方はそうした気持ちを現実的な動きに結びつけるための公的ルートを整備したものと言えそうですが、実際にこうしたシステムがどの程度有効に機能するかという以前に、今の時代の医療従事者はそこに形として現れる市民の意思がどの程度のものなのかということにも注目していることを知っておかなければなりませんよね。

地理的な僻地と心の僻地はイコールではないということが以前から言われていますし、心は形では表せないというのも一面の真実でしょうが、別に地域に生まれ育って住民とは以心伝心というわけでもない大多数の医療従事者にとってみれば形で現れないものはないも同じであるというのも現実である以上は、住民側もそれを形として示すという努力は必要なんじゃないかということですね。
日本もJリーグが出来てからずいぶんと経ちましたが、サッカーなどは地域住民がサポーターとしてクラブを支えるという伝統があって、特に全国区などには程遠いマイナークラブほどどれほど住民が地域ぐるみでサポートする意識があるかがチーム運営上極めて重要な意味を持っています。
その意識が妙な方向に逝きすぎるとサッカーで言うフーリガンであったり、「俺らの税金で食ってるんだろうが!黙って俺の言う通りにしろ!」なんてことを言い出す公立病院にありがちな困ったちゃん患者にもなりかねませんけれども、皆保険制度による公定価格で誰でも定額で医療を受けられる日本にこそ、プラスアルファの気持ちを目に見える形として表せるこうしたルートがもっとあってもよさそうに思いますね。

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コメント

どうせたいした額は集まらないだろ
市民からすれば市や病院を批判してる方がよほど楽なんだから

投稿: aaa | 2012年3月 2日 (金) 12時01分

本題から外れますが、同じ部といっても10年以上違えば同じ釜の飯を食った仲ではないですよね。
空手部ではこれだけ歳が離れていてそんなに濃厚な先輩後輩の関係があるんですか??
うちの部も体育会系ですが、一回り違ったらお互いかなり遠慮がありますけど…

投稿: ぽん太 | 2012年3月 2日 (金) 15時30分

「●●はお金では買えない」という奴に限って、セコくて、出し渋るんですよね

お金の限界がどこまであるのか、一度は見せてから言うべき言葉だと思います

お金もそうだけれど、元々誠意がないことの、誠意を出すつもりがないことの言い訳にしか聞こえないなぁ。。。

投稿: Med_Law | 2012年3月 2日 (金) 20時32分

>「●●はお金では買えない」という奴に限って、セコくて、出し渋るんですよね

それを言っちゃあ(苦笑)。
しかし広い意味での民度の問題は自治体病院についてまわる話で、近頃はどこもこの問題にセンシティブになってきているんだなあと実感しますね。

苫小牧市立病院、麻酔科常勤医不在に? 札医大が派遣打ち切り打診
http://www.tomamin.co.jp/2012t/t12030202.html
 苫小牧市立病院の麻酔科で、4月から常勤の医師が不在になる見通しだ。医師を派遣している札幌医科大学が、市に派遣打ち切りを打診しているため。
医師不足や札医大と苫小牧市立病院の信頼関係が崩れたことも背景にあるよう。出張医などの対応で、全く医師がいなくなることは避けられそうだが、
市では医師会などと連携しながら診療態勢の確保に奔走している。
 市などによると、昨年暮れに札医大から医師派遣の打ち切りの打診があった。同医大麻酔科には40人の医師が所属しているが、女性が4割を占めている。
さらに6人が産休に入ったことなどから、同医大の山蔭道明教授は「医師不足の中で、(派遣を)引き上げざるを得なくなった」と説明する。
 さらに、一昨年、苫小牧市立で起きた医療事故の対応をめぐり、医師と病院側の信頼関係にひびが入り

「そういう対応の病院では勤務できない、という医師もいる」(山蔭教授)。

 市立病院では既に、2月末に1人退職。残り2人も3月末での退職が濃厚。同病院で麻酔科が関わる手術は年間約1700件と多く、これを3人でこなしていた。
仮に常勤の医師が不在になれば、緊急手術などへの対応が難しくなる。特に、同病院は、重症患者を受け入れる急性期病院の位置付けで、
東胆振の中核病院としての機能低下は避けられない。
 このため、市幹部は道などと連携して札医大に断続的に派遣を要請してきたが「常勤医は困難」(山蔭教授)と言う。札医からの1泊2日の出張医対応と、
市内の医療機関からの応援で診療態勢を維持する方向を含め、医師会との協議を進めている。市は「患者に迷惑が掛からないように全力を尽くしたい」としている。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月 3日 (土) 08時18分

2012年3月2日付朝日新聞夕刊「窓 論説委員室から」
プライスレス
 真新しく、広々とした県立病院。記者会見で発表されたのは「医者の数が足りず、出産の取り扱いを休止する」ことだった。
 2007年、勤務していた長野県での出来事である。ぴかぴかの立派な建物と、へとへとの産科医とのコントラストが強く印象に残る。
 同じ年、兵庫県丹波市の県立柏原病院でも、小児科が閉鎖の危機にあった。過酷な勤務に疲れ、唯一の小児科医が去ろうとしていた。
 それを救ったのは、母親たちだ。「コンビニ受診を控えよう かかりつけ医を持とう お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」と呼びかけ、
行動した。自分たちに何ができるか考えたのがポイントだ。要求するだけの運動と、そこが違う。
 先日、病院に確認したら、小児科医の数は7人に増えていた。大学の医学部が安心して医師を派遣してくれるようになったという。
「医療の値段」である診療報酬の改定で、厚生労働省は「病院勤務医の負担軽減」を重点目標に掲げる。
ただ、お金だけが解決策でないことを、この事例が教えてくれる。
 母親たちは、患者が医師へ感謝を伝える「ありがとうポスト」を病院に設けている。そこに着想を得て、社説で
「感謝の心 プライスレス」という見出しを考えたが、採用には至らなかった。
〈浜田陽太郎〉 

投稿: お金だけが解決策でない | 2012年3月 4日 (日) 08時57分

>お金だけが解決策でないことを、この事例が教えてくれる。

もちろんコンビニ受診抑制など地道な活動が功を奏したのでしょうが、こういう言葉はしばしばお金すらも出す気がない人に便利使いされてしまうものなんですよね。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月 5日 (月) 11時58分

とりあえずちょっとだけ延命らしいけど、市側も問題があったことは認めているみたいね。

苫小牧市立病院 5月までは麻酔科常勤医確保
http://www.tomamin.co.jp/2012t/t12030601.html
 また、市長は札医大が派遣引き揚げの方針を示したことについて、医師不足のほか、一昨年6月の医療事故に対する「病院の対応も影響している」と説明。十分な事故解明を行わず、麻酔による事故として議会報告したことについて「麻酔科医師、大学医局関係者に大変不快な思いをさせ、心からおわびしたい」と不適切な対応を陳謝した。沖会長も「(病院側の対応は)医師の立場から、麻酔科医が病院から離れていくことにつながる可能性は十分にあり得た」との認識を示した。

 こうした状況を踏まえ、事故原因や過失の有無などを再検証する医療事故調査検討委員会を中旬に設置することを改めて説明。医療事故に対する院内組織の強化にも言及した。

投稿: 苫小牧続報 | 2012年3月 7日 (水) 16時32分

なるほど、議会でそういう扱いがあったということですか。それなら納得です。
ここまでされてもまだ医師を送る札幌医大には感心しますけどね。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月 8日 (木) 08時30分

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