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2012年3月21日 (水)

慶大教授が無茶しやがって…(AA略)

どうも何故こういうことが起こるのか判らない事件というのは時々ありますけれども、天下の慶大医学部でこんな妙な事件が起こったと言いますからそれは各紙一斉に報道もしますよね。

慶大医学部教授ら、手術の際に無断で骨髄液採取(2012年3月19日読売新聞)

 慶応大学医学部は19日、同大病院呼吸器外科の教授らが患者を手術する際、治療に必要ない研究用の骨髄液採取を本人の同意を得ずに行うなど、国の倫理指針の違反があったと発表した。

 同大は50歳代の男性教授と40歳代の専任講師の男性を懲戒処分にする方針だ。

 厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針では、研究を行う際に、医療機関内に設けた倫理委員会の承認と、患者の同意が必要と定めている。教授らは、倫理委の承認手続きが完了していないのに、昨年10月から今年1月にかけて手術を行った40~84歳の肺がん患者の男女26人の肋骨(ろっこつ)からそれぞれ骨髄液2ccを無断で採取していた。

 また、肺がん患者の骨髄液と比較するため、倫理委に申請していない気胸などの患者5人に対しても、手術の際に、同意なしで肋骨から骨髄液を採取した。

 採取は、直径1ミリの太い針を骨に突き刺して行い、患者の負担となる。今のところ、患者の健康被害は確認されていないという。

患者に無断で骨髄液採取 慶応大(2012年3月19日産経ニュース)

 慶応大学は19日、医学部の呼吸器外科の教授らが肺がんの臨床研究のため、がん患者ら31人から同意を得ずに骨髄液を採取していたと発表した。健康被害は発生していないが、厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に違反しており、慶大は関与した50代の教授と40代の専任講師の2人について、病院での権限を停止、懲戒処分を検討している。厚労省は慶大に対し、原因究明と再発防止を指示した。

 慶大によると、教授らは医学部倫理委員会の臨床研究の手続きが行われる前の昨年10月下旬から1月11日まで、説明や同意がないまま、慶大病院(東京都新宿区)の40~84歳の男女の肺がん患者26人の手術中に、肋骨(ろっこつ)から骨髄液2ccを採取した。さらに、データを比較するため、研究対象外の肺疾患の患者5人からも無断で手術中に骨髄液を採取。手術で切除した肋骨から骨髄液を採取した例もあるという。

 厚労省は指針で、臨床研究をする場合は患者らに趣旨や危険性などを十分に説明し、同意を得るよう定めている

 また、別の肺がんの臨床研究で、一昨年3月31日の研究期間終了後も昨年10月まで研究を継続していた。

 慶大では、骨髄液を無断採取した患者に主治医を通じて謝罪。呼吸器外科から申請され、承認されている23件の臨床研究を停止している。慶大は19日、会見を開き、「今回の事例を深刻に受け止め、再発防止に努めたい」と謝罪した。

骨髄液無断採取:がん患者ら31人から 慶大、懲戒検討(2012年3月19日毎日新聞)

 慶応大病院(東京都新宿区)の呼吸器外科の教授らが、患者に無断で手術中に骨髄液を採取していた問題で、同大は19日記者会見し、同意を得ずに採取していた肺がん患者らが31人に上ることを明らかにした。厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に違反しており、同大は関与した50代の教授と40代の専任講師の懲戒処分を検討している。また同日付で2人の病院内での権限を停止した。今後1年間の研究成果の発表や新規臨床研究の申請停止も決めた。

 厚労省は「患者の同意を得ることは基本中の基本。適切な手続きを経ずに研究が行われていたことは残念」として、他の臨床研究の同意の取得状況や再発防止策について同大に詳しい報告を求めた。

 同大医学部によると、教授らは骨髄液からがん細胞を見つける臨床研究に携わっていた。学部の倫理委員会に申請する前の昨年10月24日から、肺がんの手術を行う40~84歳の患者26人に対し、事前の説明や同意のないまま、肋骨(ろっこつ)から骨髄液2CCを採取していた。さらに、「比較するデータが必要」として、がんでない患者5人から無断で手術中に骨髄液を採取。他に手術で切除された肋骨の断片からも骨髄液を採取していた。採取による健康被害の報告は今のところないという。

 今年1月に病院長あてに内部告発が寄せられ発覚した。教授らは大学の調査に対し、事実関係を認めた上で、「成果を急ぐあまり必要なプロセスを飛ばしてしまった」と話しているという。

 骨髄液は骨の内部にあり、血液成分の元になる造血幹細胞が豊富に含まれている。骨髄液からがん細胞を見つけ、病状の進行を予測する研究は2000年代に始まり、世界各国で競争が激しい。会見した末松誠・同大医学部長は「倫理指針に抵触した臨床研究が行われていたことを深くおわびします」と謝罪した。【斎藤広子、佐々木洋】

 ◇解説 臨床研究の根幹無視

 慶応大教授らが、患者への説明・同意がないまま骨髄液を採取していた問題は、臨床研究の根幹にかかわる重大なルール違反だ。位田隆一・京都大教授(国際生命倫理法)は「医師は患者のために何をしてもいいわけではない。ルール違反を、指導的立場の教授が主導したのは信じられない」と驚きを隠さない。

 無断で組織を採取し、研究に使うことは人体実験にも通じる。ヒトを対象とした医学研究に関する世界の大原則である「ヘルシンキ宣言」(1964年)は、ナチス・ドイツの人体実験への反省から、患者の尊厳を損なう不適切な人体への介入や組織の使用を防ぐために作られた。「被験者の自由意思に基づく承諾(インフォームド・コンセント)が必須」と明記され、国内でもそれに基づき臨床研究のルールが構築されてきた。

 厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針は、08年の改正で「研究者の教育機会の確保」を盛り込んだ。このため、若手研究者には研究倫理への意識が浸透する一方、ベテラン研究者の意識向上が課題だった。生命倫理に詳しい※島次郎・東京財団研究員は「研究は直接患者に利益があるわけではないから、どんな軽い行為であっても、計画と説明内容に関する事前の承認と患者の同意が必要だ。臨床研究は医師の裁量を超えた行為という原則を徹底してほしい」と訴える。【永山悦子】 ※は木ヘンに勝=ぬで

どうもこのニュースを聞いて最初に理解出来なかったのは、今どきの医学雑誌はどこも臨床研究に関するインフォームドコンセントというものが非常に厳しく問われるようになっていて、きちんと同意を取っておかないと掲載されないはずなんですが、この教授達はこれでデータを取ったはいいとして一体どうやってその成果を公にしようと考えていたのでしょう?
もちろんそんなものは書類を適当に捏造して形を整えておけばいいだろうと考えたのかも知れませんけれども、手術中に取ったと言いますから恐らく患者本人には苦痛のないやり方であったのだと思いますけれども、それだけに術前に書類をお願いして一筆書いていただいた方が自分で捏造するよりもよほど手間もかからなかったんじゃないでしょうか。
いずれにしても内部告発があったくらいですから回りの人間も「このおっさん何やってんの?」状態だったのかも知れませんけれども、毎日の記事にあるように「若手研究者には研究倫理への意識が浸透する一方、ベテラン研究者の意識向上が課題だった」という状況にあったとして、本当にこんなレベルの認識でいたというのであればさすがに常時知識のアップデートが必要な本業の方の適性も大丈夫なのか?と心配になってきます。
この機会にもう一度厚労省の指針を確認してみたのですが、厚労省の「臨床研究に関する倫理指針」にはインフォームドコンセントに関してこのような記載がなされています。

1.被験者からインフォームド・コンセントを受ける手続

(1) 研究者等は、臨床研究を実施する場合には、被験者に対し、当該臨床研究の目的、方法及び資金源、起こりうる利害の衝突、研究者等の関連組織との関わり、当該臨床研究に参加することにより期待される利益及び起こりうる危険、必然的に伴う不快な状態、当該臨床研究終了後の対応、臨床研究に伴う補償の有無その他必要な事項について十分な説明を行わなければならない。

(2) 研究者等は、被験者が経済上又は医学上の理由等により不利な立場にある場合には、特に当該被験者の自由意思の確保に十分配慮しなければならない。

(3) 研究者等は、被験者が(1)の規定により説明した内容を理解したことを確認した上で、自由意思によるインフォームド・コンセントを文書で受けなければならない

(4) 研究者等は、被験者に対し、当該被験者が与えたインフォームド・コンセントについて、いつでも不利益を受けることなく撤回する権利を有することを説明しなければならない。
(略)
3.その他

 試料等の提供時に、被験者又は代諾者から臨床研究に用いることについてのインフォームド・コンセントを受けていない試料等については、原則として、本指針において定める方法等に従って新たに被験者又は代諾者等からインフォームド・コンセントを受けない限り、臨床研究に用いてはならない(ただし、倫理審査委員会が承認した場合を除く。)。

このように見て見るとインフォームドコンセントが十分果たされていない場合には研究そのものが認められないし、当然ながら仮に同意も無しに得られた試料を用いて行った研究は成果として発表する事も出来ないということになるのですが、よく見ていくとこの指針の対象となるかどうかにもなかなか微妙な定義の問題があって、たとえば同指針においては言葉の定義としてこのような一文が示されています。

3.用語の定義

(1) 臨床研究
 医療における疾病の予防方法、診断方法及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究であって、人を対象とするもの(個人を特定できる人由来の材料及びデータに関する研究を含む。)をいう。
(略)
(3) 試料等
 臨床研究に用いようとする血液、組織、細胞、体液、排泄物及びこれらから抽出したDNA等の人の体の一部並びに被験者の診療情報(死者に係るものを含む。)をいう。ただし、学術的な価値が定まり、研究実績として十分認められ、研究用に広く一般に利用され、かつ、一般に入手可能な組織、細胞、体液及び排泄物並びにこれらから抽出したDNA等は、含まれない。
(6) 個人情報
 生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

その上でこの指針の対象となるのは「個人を特定できる臨床研究」のうちで「他の指針に該当しないもの」であって、例えばもともと個人を特定する対象を扱わない疫学研究研究などは対象にならないし、いわゆる症例報告も対象外(こちらは「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」の範疇)になってきます。
「個人を特定できない」人由来の材料を用いた研究も対象外ですが、例えば感染症として疾患を扱う目的ではなく微生物そのものを研究対象とする場合には、患者から分離された微生物を用いた研究であっても対象外となります(得られた成果を臨床情報と合わせて研究を行った場合は対象となる場合がある)。
また患者への治療などを目的とせず単に健常者から試料を採取して行う医療行為を伴わない研究であるとか、尿や便のように採取に当たって患者に侵襲を与えないと考えられる試料を用いた研究も対象外だと言うことですが、要するに指針の対象となるかどうかには身体的精神的、あるいはプライバシーといった面で特定個人に危害を及ぼす恐れがあるかどうかがポイントになるということですね。
しかし前述のような同指針の基準から解釈すると、例えば今回のケースでも患者に特別の侵襲を与えることなく手術で切除した骨片からのみ骨髄液を採取し、かつその試料を個人情報と完全に切り離して扱っていた場合には同指針違反を問われることはなかったと言うことになるのですかね?(「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について」では組織摘出には説明と同意が必要という文言がありますが)。

ま、厳密に同指針に該当するか否かに関わらず同意書も何もなしで黙ってやっていた時点で今の時代にありだとは到底言えませんが、改めて感じることには今回も研究期間終了後も研究を継続していたことが問題視されていますが、病理組織など保存資料を用いた研究でも同意を得た内容と異なる研究に使うならその都度同意を取り直せだとか、指針には実際の運用を考えると大変そうな項目が結構あるのも確かですよね。
医療訴訟だ、JBMだなんて言葉が最も賑やかしく語られていた数年前に副作用や合併症に関する症例報告が激減したと話題になりましたが、医学研究全般に関しても実は旧世紀末頃から医学研究者がどんどん減少し、東大あたりでもすでに基礎系に進学する人間がゼロになってきているという話があって、人によってはその傾向にとどめを刺したのが平成16年の新臨床研修制度導入であるとも言います。
ノーベル賞を取るような偉大な研究が成されるのは20代~30代の若い研究者に多いという話が昔から言われていて(ただし異論もあり)、特に理論物理などでは10代の頃から暖めてきたアイデアが研究の骨格になるケースも多いと聞きますが、医学研究者を目指すにしても若くて一番頭の柔らかい時期を臨床にどっぷり浸からざるを得ない状況を強いられるのは不利なんだろうなとは思いますね。
ただでさえそんな危機的状況にある中でこうした事例が発生して世論が沸騰し「なんたるモラルの欠落か!これはさらに指針を厳しくしなければ!」なんて話になった日には、研究する時間よりも説明と同意のための時間の方にずっと手間暇かかってしまうなんておかしな状況にもなりかねませんから、真面目な研究者の方々ほどこういう事件が起こるのは良い迷惑だと感じているんでしょうね。

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コメント

KOの権威も地に落ちたな

投稿: aaa | 2012年3月21日 (水) 08時30分

後でどうとでもなると考えていたならちょっとお寒いですね。
この講座の論文は全部色眼鏡で見られそうでお気の毒です。

投稿: ぽん太 | 2012年3月21日 (水) 10時21分

報道から見る限りではちょっとお粗末すぎる事件と言うしかないです。
ただグレーゾーンを突き詰めていくと臨床研究もなかなか面倒ですから、最初にデザインをしっかりせずに始めてしまうと泥沼です。

投稿: 管理人nobu | 2012年3月21日 (水) 11時49分

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