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2012年2月 6日 (月)

思いつきでひょいと変わるほどたやすいものじゃありません

報道番組などでコメンテーターと呼ばれる人々が畑違いの分野に延々とコメントをつけるというスタイルは日本独特だとも言うのですが、そんな状況に馴染んでいるせいか他のメディアにおいても専門外のコメントに一言つける人々は少なからず登場しますよね。
大前研一氏と言えば本業が経営コンサルタントで経済評論家としても活動している人物ですが最近妙に医療への言及が目立っているようで、もちろん外部からの視線で思いがけない盲点を突かれるということもないわけではありませんが、見ていますとちょっと現状認識にあまりに問題があり過ぎるコメントが多いようなのですね。

日本の大学病院は無用の長物 学生教育に徹せよと大前研一氏(2012年2月1日NEWSポストセブン)

かねてから日本の大学病院は「白い巨塔」と呼ばれ、患者よりも学会で発表することを優先している、と批判されてきた。大学病院における医療の問題点を、大前研一氏が指摘する。

* * *
ハーバード大学やジョンズ・ホプキンス大学など海外にも大学が病院を経営している例はあるが、その場合は病院側が圧倒的に優位に立っている。日本のように大学側が優位に立つと、医学部生が専門を決める際に医局のパワー争いになり、人員が不足している科ではなく、ボスの力が強い科に人が集まる、ということが起きる。

かねてから大学病院は「白い巨塔」と呼ばれ、患者よりも学会で発表することを優先している、と批判されてきた。大学病院はインターンを薄給で雇えるため、どうしても経営が甘くなりがちである。

一方、患者は学会で治療や手術の事例を発表するためのモルモットにされる、というきらいがある。それがなければ医学の進歩はないという側面もあるが、そういうことは研究所の役割にして、大学は病院を経営せず、学生の教育に徹するべきではないか。患者の位置づけが不明確な日本の大学病院は、もはや無用の長物になったといわざるを得ないだろう。

しかし今どきインターンって一体いつの時代に生きていらっしゃる方なんだとも思ってしまうのですが、医療という世界はどうも昔から経済畑の方々にとっては思わず口出しをせずにはいられないものであるらしいのですね。
ご存知のように日本において営利目的の病院経営というのは保険診療上(少なくとも表向きは)認められていないこともあって、未だに経営の観点からするとそれはちょっとどうなのよ?と思うような古い慣習が受け継がれている局面が多々ありますから、他分野の視線でチェックしてみるということも時々心がけておいて損はないとは思います。
大学病院無用論についても医療機関としては極めて非効率な大学病院を大学が経営すべきでないという結論はもちろん経営的な観点からは十分にありな話なんですが、ではその代わりに大学病院が担ってきた非効率な医療をどこの誰が引き受けるのかということへの代案を示さなければ何より患者が納得しないですよね。
無用の長物になったものが何故今も生き残っているのかという背景をどう解消するかを考えなければ経営コンサルタントとしてもゼニの取れる仕事にはならないんじゃないかと思いますが、どうやら大前氏は他にも気に入らない部分が多々あるらしく、同じく医療に関してこんなことも言及しています。

外科医の給料を内科の十倍にすれば医師不足解消と大前研一氏(2012年2月3日NEWSポストセブン)

医師不足が深刻だ。特に、地方の診療所の人員不足が顕著であり、地域偏在が大きな問題となって横たわっている。これを解決する方法はないのか。大前研一氏が、その具体的施策を提案する。

* * *
医師の不足や地域偏在の問題の元凶は、医師や病院が厚生労働省の管轄なのに、医学部を文科省が管轄していることにある。

このシステムのままでは、いくら医学部の定員を増やしても、あるいは医学部を新設しても、医師が人員不足の診療科や地域に行くとは限らない。医師の養成は「医療行政」の問題だから、医学部は他の学部と切り離し、厚労省が必要な人材、場所、制度を作っていくべきなのだ。

日本の場合、医師が何科の看板を掲げるかは自由である。医師免許を取得した者は人間の身体について全部理解しているスーパー・ゼネラリストであり、内科の診断もできれば外科の手術もできるという前提になっているからだ。

しかし、実際には大学在学中に専門分野を決めるので、血を見たり、手先の器用さが要求されたり、医療過誤で訴えられる可能性が高かったり、診療効率(患者の回転)が悪かったりする外科、産婦人科、形成外科、小児科などは人気がなく、聴診器を当てて薬を出すだけで済む内科は人気が高いのである。

この問題は医学部を「学問の府」とみなして、文科省が管轄している限り解決できないが、厚労省が管轄して患者の立場から考えればメスを入れることができると思う。つまり、医療行政の一環として診療科ごとに医師を養成し、医療現場の必要に応じて不人気な科の定員を増やし、人気がある科の定員を減らせばよいのである。

もしくは、外科医の給料を内科医の10倍にすればよい。医師の地域偏在についても、医師が不足している僻地などに赴任する場合は給料を格段に高くすればよいのである。

あるいは、不足している地域に15年以上赴任する場合は返済不要な奨学金を出す、などの策が自在に設計できる。 そのように地域と専門分野別に給料や授業料などでインセンティブを与えれば、医師の最適配分が可能になるはずだ。

キャッチーなタイトルに対して最初に言っておきますと、例えばある分野で極端に人材不足が起こっているという場合、その分野で圧倒的に好条件を提示して人材をかき集めるという手法自体は決して間違っているわけでもありませんし、外科医と言わず不足している診療科なり地域なりの医師報酬を十倍にというアイデア自体はありだと思います。
少なくとも医者が足りないから国が強制的に医師を徴用して配置せよ!なんて暴論よりはよほどまともな発想だとは思いますが、そもそもこのところの診療報酬改定においても不足しがちな診療科を厚遇しようなどという話自体は出ていて、診療報酬上優遇されている状態が続いてきたわけですよね。
ところが実際には何ら著効を示さなかったという理由として、診療報酬とはあくまでも医療機関に対する収入として支払われるものであって、そのうち診療科毎にどのような配分をするかは医療機関側の裁量によるという背景事情があったわけです。
それではドクターフィーを…と言う話も出るでしょうが、そもそも医師の取り分は診療報酬の一割強に過ぎないことに現れているように、全ての収入の道が結局医師の指示から発する極端な中央集権体制である医療現場において各スタッフの実入りをどう評価すべきか、それがフロア係のもらうチップですらも厨房スタッフへも分配すべきだなどと考えてしまう日本人の考え方と相容れるかという問題もあるでしょう。

アイデアそのものの是非はさておくとしても、誰でも知っているそうした現実のハードルをどう解消しアイデア実現に結びつけるかという道程をきちんと示さないでコンサルティングが済むのであれば、「なに経営不振で倒産の危機?そんなもの顧客をどんどん集めてバンバン売りつければすぐ解消ですよワハハ!」なんて放言と同レベルの仕事にしかなりませんよね。
従来でも経営不振の続く全国公立病院に対して、民間に委託することで経営改善を図るというPFI化が大流行しましたが、その先駆けとなった高知医療センターが大騒ぎの果てに契約打ち切りとなったり、近江八幡市立医療センターを始め全国あちこちで思い描いていたバラ色の将来像が頓挫するなど、全くと言っていいほど成果を上げられずに終わったのは記憶に新しいところです。
この背景には結局病院の収益を改善するために一番必要であることはいかにして医師らスタッフの頭数をそろえるかであり、そのためにはどうやってその労働環境を改善するかに意を注ぐべきということを理解することなく、とにかく釣った餌には餌など不要、使えるだけこき使えばいいんだと地方紙に過酷すぎる職場として特集記事を組まれるような労働環境を強いた病院管理者側の旧態依然とした発想もあるでしょう。
そしてもちろん、過去半世紀におよぶ皆保険制度下の医療に特化した結果、非常に独特の内部慣行に染まりきって「医療の常識は世間の非常識」と言われるまでになった医療業界の事情もあるわけですから、まずは医療環境を劇的に変革していくためには何をどうすべきかというところから話を進めなければどうしようもないでしょう。

大前氏が単なる一時のネタとしてではなく真面目に医療業界に改善策を提示したいというのであれば、いずれにしてももっと深く内部に踏み込んで業界人をもうならせるようなしっかりしたアイデアを出してこなければ説得力がないというものですが、医師養成の厚労省移管はともかく国政レベルでの改革が必要だという視点には同意します。
近来も「金曜日の入院は長くなりがちだからやめさせよう」なんてことまでお国が言い出すほどに規制で雁字搦めになった医療をどうこうするのに単なる素人の思いつきなど通じるはずもなく、きちんと状況の判った人間と斬新なアイデアを出せる人間とがタッグを組んで本腰を入れてやらないことには太刀打ち出来るはずがありませんよね。
別に医者も石頭ばかりでもないでしょうし、部外者は余計な口を出すななどと狭量なことを言わず耳を傾ける人間も少なからずいるでしょうから、話を聞いた者が思わず持った湯飲みをバッタと落とし、小膝叩いてにっこり笑うような思いがけないアイデアを出していただければそれに越したことはないんですけどね…

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コメント

経営が難しい病院が多いと聞きますが、病院向けのコンサルト業も盛んなのでしょうか?
実際に経営再建を果たした実例があればより説得力があるように思うのですけど。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2012年2月 6日 (月) 10時40分

医療コンサルは通常関わったら負け組確定という負の存在とも言われているわな
もともとが世俗に無知な相手につけ込んで金だけがっぽりという商売w

投稿: aaa | 2012年2月 6日 (月) 12時12分

まあ開業コンサルも中には自分たちの儲けしか考えていない業者もいるんでしょうけど…

病院経営の方法論として、一つには保険診療の枠内で最大の儲けを目指すのか、それとも保険診療の枠を外れても構わないと考えるのかという部分が大きな分かれ道ですよね。
美容クリや亀田などは後者の方向を目指しているように見えますし、今回の提言もいわば保険診療の枠自体を動かすという方向の話だと思います。
一方で現実的には前者の方が圧倒的多数派だと思いますけど、これも単に儲けを考えるなら儲からない患者や業務は徹底的に切り捨てるといった世の中で当たり前のリストラ策もあっていいはずですよね。
ところがそういうことをやるとどこかの病院のように社会的にバッシングされる、それならそれで医療は公共資産だという観点から報酬体系も設定していくべきなのだと思います。
全ての医療機関は本質的に同質であるという皆保険制度の大前提が実態に即していないということでしょうかね。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月 6日 (月) 14時39分

大前研一も単なる老害になって週ポス程度にしか相手にされてないから

投稿: スイ | 2012年2月 7日 (火) 15時56分

いくら、給与を10倍でも聖地認定された病院で1人でノコノコと行くような人は、チャレンジャーとしか思えません。病院の現場で働く側からすると、当直体制が一部の医師に大きな負担(肉体的、リスク)となることが一番問題な気がします。

<患者側>
 不要不急の受診(当直帯)→夜間は受け入れない、有料化
 患者の要求水準の向上、訴訟リスク→当直を複数体制、オンコール、遠隔画像診断
 モンスター患者 → 警察 or 警察OB 24時間配置
<病院経営陣>
 全例救急受け入れ → 医師の能力の範囲で
 当直は常勤で→バイト医で常勤医の負担軽減を
 医療事故時の不十分な対応(医者に押し付けるだけ)

病院の数を半分に集約できればいいのですが、それも難しいので折衷案としてこんなのはどうでしょうか。

病院の日勤帯の体制は現状通りで当直システムのみ変更
 A:救急、時間外受入れの病院を1/2から1/3に集約(救急あり)
 B:他の病院は院内当直のみ(当直帯は受け入れしない)

  Aの病院は医師複数の当直 (健康保険+夜間加算(全額自費))
   (自己負担が発生するので時間内に誘導、生活保護でも夜間は負担)
    Bの病院の患者でもとりあえず夜中はAの病院に入院、おちついた時点で転院
   (救急ベッドは空きベッドでもコストは自治体から補助される)

  Bの病院は寝当直のみ(全額自己負担)
    (十分な医療体制が提供できない夜間受診は健康保険をきかなくする)

Aの病院に集中することになるが、疲弊しないために
  入院基本料の基準に 常勤医の労働時間(当直も労働時間) も含める(平均時間ではない)
  医師の労働時間が週50時間以上超えると入院基本料が段階的に下がるようする。
  
 当直なし、8時間x5日=40h
   当直あり 8時間x4日+当直16時間=48h
     
  当然、常勤医だけでは無理なので、バイト医を集めることになる。
  (ドロッポ医、Bの病院の医師、場合によっては若い開業医)
  当直医も複数いるほうが、補助金、診療報酬も高くなるようにする。
  当直帯の読影もネット経由でもできれば加算するようにする。
  (当直の内科医にとってはあればめちゃくちゃ有難い)

Bの病院は宿直(寝当直)だけなので楽になる。こちらは宿直なので時間制限はゆるくする。

これに先立つインフラとして
・診察券の共通化 個人もちの健康保険証or生体認証
・電子カルテの相互接続(できないと保険点数減額にすれば一気に進むはず)
・24時間遠隔読影システム(これだけでも商売にできそう)

<利点>
夜間加算は健康保険から出さなくなる(医療費の抑制)
患者も不必要な出費をいやがって、コンビニ受診の抑制が期待
受入れ病院の集約化で当直帯の医療水準を底上げ(夜間の診断ミスがリスク)
医師の労働環境改善と病院の経営改善の方向が一致
医療崩壊地域で中途半端な病院をやらなく(やれなく)なる

こんなのどうですかねー
医者増やさなくてもできると思うのですが。

投稿: 元勤務医 | 2012年2月13日 (月) 02時51分

救急を断っていても押しかけてくる人はいますから、金銭的ペナルティをかなり強化しないと患者の誘導は難しいでしょう。
ただかかりつけの問題がありますから、夜間帯の受け入れ集約化実現には診療情報共有がどれくらい出来るかがカギではないかと。
電カルになるととたんに記述さぼって何やってるのかも判らない先生もいますからねえ…

投稿: ぽん太 | 2012年2月13日 (月) 09時15分

思うんですが、被災地の特区で応召義務の制限を試してみたらいいと思うんですよね。
夜間救急は指定医療機関以外は断ってもいいということにするとか。
もちろんきちんと受け入れ先が整備されないと難しいですけど、たぶん田舎病院での勤務環境改善には結構有効なんじゃないでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月13日 (月) 12時19分

今回の震災、津波被害で病院ごとカルテが流されてしまったというのも結構でておりました。また手伝いに行ったドクターも診療不足で困ったという話しを聞きました。
おじいちゃんがいても、何の薬飲んでるか知らない。さてどうするか、カルテもない。病名も薬も、これまでの検査データもわからない(自分の名前も覚えていない人もいますが)。

慢性疾患の場合、病名、禁忌、内服薬、過去の検査データぐらい病院なくなってもわかるようにしないと、災害時に医者を派遣してもあまり役に立ちません。

災害医療への備えという大義名分で
・最低限のデータだけでも、全国数か所で複数のバックアップ(クラウド化)
・生体認証
してくれませんかね

これができれば、避難所にパソコンとUSBの生体認証装置、衛星通信で
慢性疾患に対応できる診療所のできあがり、
医者にとっても患者にとってもメリット大きいのですけど

また医療の集約化なども容易になります

これに反対するのは患者逃げると困る先生、他社に逃げられると困るメーカー

投稿: 元勤務医 | 2012年2月14日 (火) 01時18分

本式にオンラインで結ぶとなるとシステムのすりあわせやら利権やらで調整が大変でしょうけど(苦笑)。
以前から思っているのですが、健康保険証か地域の医療機関が協力して診察券にでも基本的なデータをチップで読み書きできるようにすればずいぶん違うんじゃないかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月14日 (火) 07時49分

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