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2012年2月15日 (水)

利益の追求=悪ですか?

そろそろまた日医会長選の季節でもありますが、その日医からまたぞろこんな報告書が出ているということです。

医療の営利化「許してはならない」- 日医の有識者会議が報告書(2012年2月8日CBニュース)

 日本医師会は8日、日医の「医療政策会議」が取りまとめた報告書「医療を営利産業化していいのか」を公表した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、医療ツーリズムなどに対する有識者の見解をまとめたもので、田中滋議長(慶大大学院教授)は「『医療本体の営利産業化は許してはならない』ことは当然の前提」と強調している。

 同会議では、2010年7月に日医の原中勝征会長から諮問を受け、12年1月に答申した。

 報告書は、▽「ポスト311の社会保障と政治」(山口二郎・北海道大大学院教授)▽「TPPと今後の日本医療」(二木立・日本福祉大教授)▽「医療の営利産業化より医療関連産業の強化を」(桐野高明・国立国際医療研究センター総長)▽「医療保障政策と医療団体の政治経済学的位置」(権丈善一・慶大教授)―の4章構成。

 TPP参加について、山口氏は「無原則な自由化が医療のみならず、日本の社会的共通資本を荒廃させる恐れがあることに鑑み、十分な議論を尽くす必要がある」とけん制。二木氏は、日本がTPPに参加すれば、米国の要求は「日本の医療機器・医薬品価格規制の撤廃・緩和」「医療特区(総合特区)での株式会社の病院経営の解禁と混合診療の原則解禁」「全国レベルでの株式会社の病院経営解禁と、混合診療の原則解禁」の3段階に及ぶと分析。各段階の実現可能性について、第1段階は高く、第2段階も長期的には否定できないものの、第3段階はごく低いと判断している。ただし、第3段階が実現すれば、国民皆保険制度の基本理念は変質し、給付も大幅に劣化するとの見解を示している。

 こうした各章の内容を受け、田中議長は「医療は、資本利得のために用いられるべき産業分野ではない」とまとめた。さらに、4人の執筆者に共通する考え方として、▽健全な(非営利・公益)産業として、医療は世の中に大きな貢献を果たす▽医療関連産業の活性化も、日本経済のために重要な課題▽TPPが政治アジェンダ(検討課題)に挙げられている情勢下では、国際的視点がますます不可欠―などを挙げている。

すでにアメリカ側からは医療制度に関しては当面TPPのターゲットとする意志はないという意志表示が出ているとも言いますが、十分な議論といいつつ日医としてはTPP交渉への参加そのものに反対というのが本音なのはすでに明らかになっています。
しかし医療が「資本利得のために用いられるべき産業分野ではない」という日医の分析の正否はさておくとして、現実問題としてどこの施設でも少しでも利益率を上げようと診療内容に工夫を凝らし、皆保険制度下という制限の元とは言え様々な挑戦を続けていることは言うまでもありませんし、そもそも資本利得の向上も全く見込めなければ向上させる意志もないような施設に銀行もお金を貸しませんよね。
先日も書きましたように医学部人気が高まっているというのも医師になれば確実な収入が見込める、負け組に転落するリスクが最小化出来るという考えあってのもので、医師という人種がよほど社会の平均とかけ離れた感覚の持ち主ばかりとでも言うのでなければ、個人レベルで考えても経済的なメリットというインセンティブがモチベーションに大きく関わってくるのは当然です。

佐賀大病院で外科医に「インセンティブ手当」手術料の5%を術者に支払い(2012年2月13日日経メディカル)

 人手不足が深刻化している外科勤務医。特に民間病院に比べて給料が少ない国立大病院では、外科医の確保に頭を悩ませている。佐賀大病院ではその対策として、外科医への手当を充実させた。

 重労働の割に給料が安いなどの理由から、若手医師の間で外科が敬遠され、将来の外科崩壊が懸念されている。2010年度の診療報酬改定では、外科医療の再建が重点課題の一つに掲げられ、外科の診療報酬が大幅に引き上げられた。難易度の高い手術の点数は、30~50%の大幅アップとなった。

 外科医の待遇改善につながると期待されたが、実現したとは言い難い。日本外科学会の調査によれば、報酬改定による増収後に外科医に特化した待遇改善策を取ったのは12.3%(学会指定・関連施設の病院長への調査、n=553)にとどまる。

 中でも給料面で見劣りするのが国立大病院だ。同学会が会員を対象に実施した調査によれば、大学病院(旧国公立)に勤務する外科医の税込み年収は平均1187万2000円。私立病院(1746万1000円)はもとより、国立病院機構(1283万7000円)よりも低かった(図1)。公務員の給与制度上、「教育職」に分類される大学病院の医師は、一般的な医療職より安い俸給表が使われていることが関係している。

手術料の5%を術者に払う

 佐賀大病院長の宮崎耕治氏は、08年に病院長に就任して以来、「高度な医療を担うべき大学病院の外科医が、給料面で不利なままでは、良い人材が民間に流出する」との危機感から、待遇改善を進めてきた。

 国立大学法人は法人化後、財務上の自由度は高まったものの、法律で06年以降の5年間で5%以上の人件費削減が求められており、医師の給料を単純に引き上げるのは難しかった。そこで考えたのが、業務に応じた手当を付けることだった。

 手当の財源は、病院の収益から捻出することにした。総人件費の削減目標は、手当の総額を、法人全体の人件費予算と実績額との差の範囲内に収めることによってクリアした。こうした手当の方針については、法人の理事会の了承も得た。

 こうして練り上げた「インセンティブ手当」が表1だ。特徴的なのが、主として外科系医師が対象となる「リスクを伴う手技」に対する手当。術者のうち主な1人に対して、診療報酬点数の5%を支払う。「若手医師に、手術ができることを目標と思ってもらえるよう、個々の術者に支払うことにした」(宮崎氏)。

 例えば胃単純切除術(2万1700点)の場合、術者には約1万円が支払われる計算になる。外科医に限らず、早期胃癌の内視鏡治療(EMR)を行った消化器内科医、経皮的冠動脈形成術(PTCA)を行った循環器内科医、麻酔をかけた麻酔科医も対象となる。この手当だけで、年間予算は1億円を超える

 なお、時間外の緊急診療やドクターカーへの搭乗など、診療科を限定しない手当も充実させた。災害派遣手当は、昨年の東日本大震災の発生後に自発的に救援に赴いた場合が対象。医療人教育支援手当は、亡くなった患者の剖検をすることについて遺族の承諾を得て、剖検に立ち会い、CPCで総括するという一連の業務を行った場合に、主治医に対して2万円が支払われる。

内科系医師も異議なし

 「リスクを伴う手技」手当を支払うようにした結果、「外科医、特に医員クラス以上のモチベーションが上がり、手術件数も増えた。病院経営上もプラスだ。該当しない内科系医師にも、おおむね受け入れられている」と宮崎氏は話す。

 その背景には、診療科によって、医師の兼業の度合いが異なることがあるようだ。外科医は時間的制約から兼業ができないケースが多いが、相対的に余裕のある内科系医師の中には、大学病院からの給料以外に兼業先から収入を得ているケースもあり、手当にこだわりがないという。

 医療従事者の人事評価に詳しい立命館大客員教授の齋藤清一氏は「手術の実施などの定量的な指標に加えて、研修医教育を担当したり、病院全体のプロジェクトリーダーとして経営に協力した場合にも、その貢献度や成果を評価すべきだろう」と話している。

こういう話を聞くと思い出すのが、旧ソ連での医療がいかにひどいものであったか、医療スタッフのモチベーションがどれほど地を這っていたかという話を飲んだロシア人からこんこんと聞かされたことがありますが、結局医療とは何によって維持されているかということでしょうね。
余談はともかく、注目したいのは一見すると医者個人を優遇しているように見えるこのやり方が、現場スタッフのモチベーションを引き上げることによって手術件数を増やすなど支出の増加以上に病院経営上も利益をもたらすのみならず、当然ながら気持ちよく診療を受けられ手術待ち時間も短縮される患者にとっても大きなメリットがあるということですよね。
もちろん主な術者一人に支払うのでは下手すれば上司ばかりが報酬を得て実働部隊である中堅以下にとっては実入りにつながらないとかえって不満になるかも知れませんし、地味な診療をこなしている内科系医師なども労多くして報われないと感じるかも知れませんが、今のところはおおむね上手い具合に回っているようです。
これは一つのモデルケースですが、医師不足対策ということでドクターフィー導入論は以前からあり、これに対しても例によって日医は反対だと主張していますけれども、一見すると利益追求に見える行為が結果としてよりよい医療を実現するのであれば方法論として利用しない手はないし、個人レベルでこうした現象が見られる以上組織レベルにおいても同様の現象がないと主張する根拠はないだろうということです。

個人的にゲイツ氏は好きではありませんが(苦笑)、もの凄く志の高い個人なり企業なりであってもお金や人手がなければ満足に善行をなし得ない一方で、大儲けしている大企業がその利益のわずかな一部でも活用すれば社会に大きく還元出来るのも事実であって、金儲け=ケシカランという段階で留まっている日本に対してアメリカなどでは儲けた者は社会に還元して当然という空気を作り出して社会利益を得ているわけです。
皆保険制度を維持したところで悪徳診療を行っている施設はあるし、株式会社化したところで患者の為になる医療が出来ないわけでもないだろうと考える根拠として、結局のところ医療とは医師個人のオーダーによって発生する医療行為の積み重ねに他ならず、他の産業と比べると医師個々の裁量権が非常に大きいという特殊事情がありますが、そうだからこそ制度にばかりこだわっても仕方がないでしょう。
そもそも日医説に従えば幾ら働いても給料が変わらない公立病院医師よりも、悪どい手段を使ってでも稼いだ分だけ自分の儲けになる開業医の方が質も低く国民の不利益になる医療を行っているということにもなりかねませんが、日医はその辺りをきちんと検証する意志はあるのでしょうか?

冒頭の話にもどると、日医の主張する皆保険制度絶対正義というのは例えば現場の勝手な裁量が大きく医療給付に反映されるような「赤ひげ」的医療などケシカラン、とにかく決められたルール通りにやる以外は一切マカリナランし、そのために制度を改めるなどトンデモナイという風に聞こえますが、果たしてそれが日医の表看板である国民のための医療ということへの最善解なのかということです。
医療が極度にマンパワー集約型の産業である以上、スタッフのより高いモチベーションを維持出来た施設ほどより良い医療を提供出来るのは当たり前の理屈であり、日医も本気で医療の質が最優先だと言うのであれば何でも反対とにかく反対と繰り返すよりも、病院経営解禁だろうが混合診療だろうがそれをどう医療の質改善のために活用するかを考えた方が日医にとってはいざ知らず、社会にとっては有益でしょう。

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コメント

市の医師会で長年真面目にやっていて人望のある先生ですが、日医執行部への批判はすさまじいものがありましたね。
日本はいつの間にかトップに立つ人間は役立たずばかりな国になってしまったみたいです。

投稿: 痴呆人 | 2012年2月15日 (水) 09時57分

連続レスですけど、うちのような内科系中心の施設だと処置に対してお金が出るってのはちょっとやりにくい気がします。
一日100人の患者を相手にするより処置一つこなした方が上だと言われると、それもやっぱり少しすっきりしないですし。
ただちょっと余計に頑張った分は正当に評価されるようになれば、モチベーションにはつながると思いますね。

投稿: ぽん太 | 2012年2月15日 (水) 11時05分

経済なき道徳は寝言である:二宮尊徳。

私が最後に奉職した某株式会社民間病院は給料が安い事で有名でしたが、十数年前の時点で既にきちんと残業手当を出していました。九州随一の心の僻地に立地しているにも係わらず現在でも研修医が殺到しているそうです。

>金儲け=ケシカランという段階で留まっている日本に対してアメリカなどでは儲けた者は社会に還元して当然という空気を作り出して社会利益を得ているわけです。

寄付控除が大きい、ってのもあるみたいですね。私これでも高額納税者の端くれ&寄付の類は一切しない主義なんですが(東日本大震災関係にすら一切寄付してません)、糞政府にくれなくていいなら信条曲げて倍額相応の団体に寄付してもよいぞw
*収めた税金の使い道を指定出来れば一番いいんですがねえよーしパパ全額自衛隊に注ぎ込んじゃうぞwww

>日本はいつの間にかトップに立つ人間は役立たずばかりな国になってしまったみたいです。

そんなもん大東亜戦争どころかノモンハンの時点でジューコフに、「日本軍の下士官兵は頑強で勇敢であり、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが、高級将校は無能である。」って言われちゃってますがなw
…いやまてよ、勝海舟も「米国では、政府でも民間でも、人の上に立つ者は、みなその地位相応に利口。全く我が国と反対のように思いまする」 って言ってるなあ…。

つーこって我が国は昔っからそーゆー国なんですよ明治の一時期だけが例外w
*つか明治のオエライさんはほぼ全員、修羅場くぐりぬけた元下っ端な叩き上げだしなあ…

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年2月15日 (水) 11時14分

アメリカの場合いろいろ言われますが、能力のある人間をどんどん上にいかせるシステムが社会的に出来上がっているのは率直に偉いと思いますね。
日本も上が無能と言いつつ、昔は人は石垣の精神で将に将たる器というタイプも結構いたように思うんですが、今は本当に減点の少なさだけで競っているような気配があって…
先日なぜ日本ではルンバが作れないのかという記事が出ていましたけど、まさにこれが現代日本の病理だと思いますね。

日本の家電各社が「ルンバ」を作れない理由 国内製造業の弱点はそこだ!!
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/120211/wec12021118000001-n1.htm

投稿: 管理人nobu | 2012年2月15日 (水) 11時37分

>アメリカの場合いろいろ言われますが、能力のある人間をどんどん上にいかせるシステムが社会的に出来上がっているのは率直に偉いと思いますね。

アメリカのそういうところは素直に称賛に値するとは思いますが、殆どの場面で1人の天才は10人の凡才に敵わないわけで個人的には99パーセントの凡人が安心して暮らせたちょっと前までの日本のが好きですし、少なくとも日本人には合っていたと思います。年功序列終身雇用廃止、能力給云々とか言い出した頃から日本はおかしくなっていったんじゃないかなあ…。
*まあせっかくそこそこ上手く行ってるシステムにアメリカの悪いところだけ中途半端に取り入れてドツボるのはもはや日本のお家芸ですがw
*他方アメリカでは、終身雇用な会社が増えているそうで、そーゆー、日本の良いとこだけフレキシブルに取り入れるところはさすがというかなんというか…。

>日本の家電各社が「ルンバ」を作れない理由 国内製造業の弱点はそこだ!!

…つくづくゼロリスク症候群は諸悪の根源ですなあ…。
ところでアメリカでは行き過ぎたPL法の煽りでセスナ機が作れなくなって本当に必要としているアラスカとかの人達がスクラップ寸前のを騙し騙し使わざるを得なくなってて困ってるって話を聞いた事があるんですが最近は解消されたんでしょうか?
*ちなみに安いのは50万円くらいで買えるそうです。怖すぎる…。


投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年2月15日 (水) 14時51分

豊かで安全で環境もいいのに国民が不満だらけなのが減点主義でしか自己評価できない現代日本を象徴してる気がする
世界一の医療なのに医療崩壊したイギリスより国民満足度が低いのも減点主義が行き過ぎた結果なんだろね

かつてはがんばったら報われるという期待感が日本の高度成長をおしすすめて昨日よりいい明日をもたらす原動力となったけど
減点主義に支配された世の中じゃがんばっても評価されなかったという失望感をみなが共有した時が本当の日本の終焉かもね

投稿: 三毛猫 | 2012年2月15日 (水) 16時35分

確か皆保険制度はTPPの要求項目には入っていませんでしたが、薬価の「適正化」については入っていた(確かオーストラリアが要求されていた)と記憶しておりますので、TPPによって患者負担が増える可能性は高いかと。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 18時39分

>ところでアメリカでは行き過ぎたPL法の煽りでセスナ機が作れなくなって

自分も詳しくは知りませんが、社会的要請もあって一時中断していた生産も再開はしているようですね。
http://www.d1.dion.ne.jp/~huruhiro/Tukadon/Tsukadon0620.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%83%8A#.E7.94.9F.E7.94.A3.E3.83.A2.E3.83.87.E3.83.AB
ちなみに星新一氏も言っているようにアメリカンジョークの中で法廷や弁護士ネタというのは非常に大きな部分を占めていますが、ジョークのようなやり方を可能にする制度が成立するからこそという背景にも目を向けなければならないでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月16日 (木) 09時54分

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