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2012年2月21日 (火)

救急医療関連のニュース二題と絡めて

本日の本題に入る前に、地域医療に関してこれはまた大丈夫なのか?と思ってしまうニュースが届いています。

救急告示病院再指定へ/島根(2012年2月18日読売新聞)

大田市立病院 研修医育成の場必要

 大田市は17日、市立病院の救急告示病院の再指定に向けて、県との協議に入ることを明らかにした。同病院では、医師不足を理由に2010年4月から指定を取り下げていたが、研修医の育成のためにも救急医療の場が必要と判断した。早ければ4月にも再取得し、県中部の救急医療を担うことになる。

 この日、竹腰創一市長と楫野恭久院長が記者会見。同病院は昨年10月、若い研修医らが臨床研修などを行う総合医育成センターを院内に設けており、救急医療を学べる病院としておくことが指導する教授や研修医の呼び込みにも必要であるとして、再取得の準備に踏み切ったという。

 救急告示病院の指定は病院側の申請に基づいて県が決定。指定されると、県の救急医療計画に組み込まれ、地域の救急医療を担う。国の交付金が得られるが、医師らの負担が増える

 竹腰市長は「救急告示病院の再開を多くの市民が待ち望んでいた」と歓迎。楫野院長も「我々の使命は市民の健康を守ること。再取得に理解を示してくれた病院スタッフに感謝したい」と述べた。

 ただ、再取得しても医療体制が整った訳ではない。4月から常勤の外科医は1人増えて2人体制となる予定だが、整形外科医の補充はめどが立っておらず、病院側は「今後も近隣の医療機関との協力が必要」としている。

この大田市立病院については過去にも何度か話題になってきたところで、元はと言えば2年ほど前に外科医が減員したまま補充されないという話からひとたびは外科医全員退職という騒ぎになり、結局のところ外科医ゼロこそ避けられたものの同年限りで救急告示を取り下げていたものです。
ちなみに住民アンケートによれば市立病院に求める医療として「救急医療の充実」を求める声が実に7割超だったということですが、島根医大が隣接する出雲市に存在する人口4万そこそこの小さな町の公立病院で無理をしてまで救急医療を行うべきなのかどうか、今日求められる水準の医療安全という点から見てもなかなか微妙なところだと思います。
特に今回の再開を受けての会見でも市長は「救急告示病院の再開を多くの市民が待ち望んでいた」とといい、院長も「我々の使命は市民の健康を守ること」と優等生的なコメントに終始していますが、結局のところ「医療体制が整った訳ではない」中でのトップダウンによる見切り発車という印象は拭えないところで、実際に医療を担当する当事者である現場スタッフの声がどうなのかと気になりますよね。

JBM的にも労基法解釈の上でも、こうした田舎の小さな公立病院で昔ながらのデパート的診療を続けていくのもそろそろ限界ではないかとも思うのですが、数年毎に派遣の医師も入れ替わるという典型的な医局人事の田舎病院であったらしいだけに、おそらく何をもって病院の売りとしていくかという長期的ビジョンを持っている人もいないのかも知れません。
このご時世に救急告示を復活すれば全国から医師が押し寄せウハウハになった、なんて展開はちょっと考えがたいですから、次に同病院の話題を取り上げるとすれば予想通りに医師逃散で病院崩壊に追い込まれた時かなという気もするのですが、いずれにせよ現場の先生方の御壮健なることを祈るのみでしょうか。
同病院の話題はそれとして本日の本題ですけれども、これまた救急医療関連ということで兵庫県は西宮からこんなニュースを紹介しておきましょう。

救急車のお礼に1億円寄付 西宮の男性、遺言で市に/兵庫(2012年2月17日朝日新聞)

 救急車で病院へ運んでくれたお礼にと、昨年2月に70代で亡くなった兵庫県西宮市の男性の遺言で市へ現金1億円の寄付があった。市は新年度予算案に寄付金を計上し、消防、救急車の買い替え費用に充てる予定だ。

 市によると、男性は亡くなる1年前、急性心筋梗塞(こうそく)になり市消防局の救急車で病院に搬送され、助かった。男性は「消防、救急車の整備のために1億円を市に寄付したい」と遺言を残しており、遺族が匿名での寄付を市に申し出た。男性の長男は「救急搬送でお世話になりました」と話していたという。

 市消防局の眞武(またけ)繁俊・企画課長は「救急搬送のお礼で数十万円の寄付を受けたことがあるが、これほどの額は初めて」と驚いている。

こういうお話が出るくらいですから故人としてもそれなりに充足した最後を迎えられたのでしょうし、もちろんお話としてはありがたいとしか言いようがないことで、どのように使われるにせよ故人の意志を汲んで有意義に活用していただきたいと思うのですが、しかし深読みするとこの診療に関連しての寄付という行為、考えよう(そして使いよう)によっては日医などが強固に反対する混合診療の抜け道になりますよね。
以前に紹介しましたように順天堂大学では会員制の健康増進クラブなる怪しげな(失礼)サービスを提供していて、表向きは年会費を払うとドックが無料で受けられたり専門家に健康相談が出来たりするということなのですが、いざ緊急時においては「予約診察室を用いて速やかに診察を行い、疾病内容により、適切な専門医を紹介して、診察を受けることができます」と、いわば会員への特別待遇を約束するものであるようです。
これなどは一般人はちょっと二の足を踏むような高額のものですけれども、例えば表向き別件における会費なり寄付金なりの納入によって臨床現場での待遇に格差がつけられるということであれば、人によっては「幾らの支払いでどの程度の優遇が?」と気になってくるかも知れません。

昔からマスコミなどに取り上げられる話題で医師個人に対するいわゆる袖の下の問題があって、これは今日多くの医師からその効能を否定されていますけれども、例えば有効であることが大いに期待されるのに保険診療上の制約で行えない治療があるといった場合に、今までですと保険診療の範囲内で済ませるか全額自費で受けるか、あるいはごく稀には病院側が損を承知で保険適応外の治療を行ってくれるかでした。
世間で議論されている混合診療解禁問題とは前の二つしか道がないのはおかしいという話ですが、表向きは病院が切られることを覚悟で保険外の治療を敢えて行った後で寄付なりの名目でその分を自己負担していただくとなれば制度の抜け道ですし、逆にそういう行為がありだとなれば最初から寄付名目での自己負担を約束した上で保険外の治療を実質混合診療で受けるということも可能になる理屈ですよね。
制度があれば抜け道があるのは世の習いですが、いずれどこかの先進的な?病院でそれに類する行為が始まったり、あるいは患者の側から「お金は払いますから○○の治療をしてください!」と迫られた時に、抜け道があると知れ渡ってくれば「いやそれは混合診療というルール違反で」と突っぱね続けることが難しくなってくるのかも知れませんね。

ところでまたまた話は変わってこちらは全くの蛇足ですけれども、日本では国民皆保険によってありがたいことに生活保護受給者でもお金持ちと同じ医療を受けられると言われていますが、実際にその通りなのかという検証はなかなか難しいところですよね。
そんな中で先頃心臓バイパス術を受けられた天皇陛下の場合は当然ながら全額自費診療扱いなのだと思うのですが、恐らく日本で最高と思われる今回の診療内容が純然たる保険診療に従った医療とどれくらいの違いがあるのか、比較検証出来ればこれ以上ない実証になるのかなという気がします(むろん、間違っても公表されることはないと思いますが)。

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コメント

陛下の手術を担当した先生が話題なんだそうですね。
ちょっとうがちすぎの意見もあるみたいですけど。

今月11日に狭心症と診断され、18日に心臓の冠動脈のバイパス手術を受けられた天皇陛下だが、
この手術を執刀した順天堂大学医学部の心臓血管外科教授・天野篤医師の経歴が「凄い」とネット掲示板などで話題となっている。

19日の産経新聞報道によると、天野医師は「各病院を渡り歩いて“武者修行”を重ね、
評価を得てきた異色の経歴の持ち主」であるという。

3年の浪人生活を経て、日本大学医学部卒業。関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)
亀田総合病院・新東京病院心臓血管外科部長・昭和大学横浜市北部病院循環器センター長兼教授を経て、
2002年順天堂大学医学部教授。 尚、新東京病院(千葉県松戸市)では、非常勤として現在も外来診察も行なっている(2012年現在)。

上記はWikipediaに書かれた天野医師の経歴についての記載であるが、この経歴がネット掲示板に紹介されると、
ネットユーザーからは「日大を3年も浪人するなんてお世辞にも高学歴とは言えないけど、やっぱり学歴じゃなくて
その後の努力なんだな」「3浪することで若いときに苦労したからこそ患者にも優しい対応ができたのかもしれん」
など、努力で医学会のトップへのし上がった天野医師に賞賛の声が相次いだ。

また、受験シーズン真っ只中であることから、受験生と思われるネットユーザーからは
「浪人生が勇気をもらえる話だな」「3浪しても何とかなるのかと思うと気が楽になる」といった意見も見られたが、
その一方で、「多数派である高学歴・優秀な人を無視して、少数であろう低学歴・優秀な人を過剰に持ち上げるのは
気持ち悪い」など、少数ながら天野医師への賞賛に違和感を感じたユーザーもいたようだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/6295320/

投稿: 通りすがりのただの人 | 2012年2月21日 (火) 09時47分

外科もいないのに救急救急と言われても内科も困るわな
そもそも本気で救急やりたい研修医がこんな田舎病院に行くか

投稿: aaa | 2012年2月21日 (火) 10時40分

HPを見ると大田市立病院の内科って消化器、循環器と神経内科だけなんですね。
http://www.ohda-hp.ohda.shimane.jp/news/image/513/20120201_tantoui.pdf
療養型ならともかくこれで300床以上の病院を開いた上に救急までやるのは大変だろうと思うんですけど、よほど救急に理解のある先生方ばかりなんでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2012年2月21日 (火) 11時08分

見たところ消化器と言っても肝臓屋さんだけで、消化管の方は外科が担当せざるを得ないんじゃないでしょうか(消化器内科医募集中だそうですが)。
呼吸器もいないようですから急患対応は苦労しそうです。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月21日 (火) 12時18分

大田市と出雲市は隣接しているものの、車のアクセスは国道9号線1本に依存しております。
また、大田市と出雲市の境目にある仙山峠付近の国道9号線は交通事故の多い難所であり、いったん事故が起こると迂回路に困ることが多々ある場所です。そうなると、救急搬送が非常に難しくなります。一応ドクターヘリもありますが・・・
高規格道路の建設も計画されていますが、それが完成するまでどうするかが問題です。

投稿: クマ | 2012年2月21日 (火) 13時23分

おっしゃるような状況もごもっともなのですが、そうしたレベルの地理的僻地?は全国に限りなくありますから特例視する理由には正直弱いかなとも思います。
現場の人間がこれでいいと納得して仕事をしているのであれば構わないのですが、話に聞く限りでは永年勤続で病院や地域に篤い忠誠心を発揮しているという状況でもないようですし。
ここでも例によって需給バランス崩壊をただ供給側の一方的努力によって再構築しようとしたところに問題があるように思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月22日 (水) 11時21分

管理人様へ
うっかり地理的なことばかり書き込んでしまいました。
肝心の病院の方は、ごく個人的な感想を述べさせていただけば、病院を管理運営する側の能力に問題があるのではないかと感じることがたびたびあり、正直なところ、救急を復活させるのは少々無謀ではないかと考えております。
ただ、ここの影響で出雲市の救急がパンクしかねない状況にありますので、この問題は島根県レベルの問題になってしまっています。県の中の人が相当口を出しているのかもしれません。

投稿: クマ | 2012年2月22日 (水) 17時57分

いやいや、まあ公立病院問題は概ね管理者側の問題に起因する場合が多くて、もはや半ばお約束といっていいですしね。
一昔前であれば出来る範囲でやるということでよかったのですが今はJBM的に慎重にならざるを得ませんし、公立の場合とりわけ外野からの声も大きいですから…

投稿: 管理人nobu | 2012年2月23日 (木) 07時56分

この市関係者ってのは医師?それとも役人?
いまどき救急やらないと医師が来ないってことがあるかな?逆じゃない?

閑想閑話:救急医療の正式な再開に向け… /島根
http://megalodon.jp/2012-0224-0013-23/mainichi.jp/area/shimane/news/20120223ddlk32070613000c.html

 救急医療の正式な再開に向け、大田市が市立病院の救急指定再取得手続きに入る。とはいえ懸案の整形外科医は未確保で、
受け入れ態勢は従来のまま。出雲市などへの転院搬送は相変わらず続く。市民にとって具体的な改善点は無く、医師やスタッフの負担だけが増える
▲そうまでして「再取得」にこだわる理由について市関係者は「救急指定病院という看板を掲げ続けなければ、外部からの医師派遣の流れが
ますます鈍る」と打ち明ける。救急医療をしない→重要病院とみなされず医師派遣が後回し→医療態勢がますます細る--の悪循環を恐れているのだ
▲島根大「総合医育成センター」誘致で教員を医師の戦力として加える同病院だが「地方からの医師離れ」はまだ解消されていない。
医師確保は市の責任としても、日本社会のこの“病理”はいつ誰が正せるのだろうか。【鈴木健太郎】

投稿: 大田市立病院の怪 | 2012年2月24日 (金) 09時51分

大学によっては関連病院と医師数との関係なりで、救急指定も取ってない三流病院なんかには送ってられないというところもあるのかも知れません。
ただ維持するか切るかについては結局当事者である医師達の間での評判が一番の要因なんじゃないかなと思いますけど。
少なくとももの凄く評判がよくて皆が残したがってる病院だと言う噂は聞いたことがないですが、ね…

投稿: 管理人nobu | 2012年2月24日 (金) 12時25分

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