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2012年2月29日 (水)

不毛極まるレセプト査定、さらに一層不毛に?

先日は日経メディカルの連載「レセプトを読み解く」で「長期投薬が解禁されて10年…処方日数は本当に長くなった?」という記事があり興味深く拝見しましたが、病院でのスタチンなど安定期向けの薬剤の平均処方日数が実に1.5ヶ月にまで延長してきているというのは、なるべく外来患者に来てもらいたくない勤務医心理を反映しているようでおもしろいですよね。
この「レセプトを読み解く」シリーズはレセプトデータの解析を通じて医療の現状を考えるという連載ですけれども、データの解釈一つでこれだけ色々と話のネタになるくらいですから国や保険者側からすればレセプトオンライン化でさぞや楽しみも増えただろうと思っておりましたら、案の定予想された通りの展開になってきたというのがこちらの記事です。

医療費 明細書の審査厳格化へ(2012年2月27日NHK)

増え続ける医療費を抑制するため、医療費を審査している「社会保険診療報酬支払基金」は、来月から「レセプト」という明細書の照合作業を電子化し、過剰な診療や投薬が行われていないか審査を厳格化することになりました。

日本の医療費は年々増え続け、平成23年度は39兆円余りに上る見通しで、医療費を抑制するため、過剰な診療や投薬の削減が課題になっています。
こうしたなか、会社員や公務員などの医療費を審査している「社会保険診療報酬支払基金」は、医療費の請求手続きの電子化が進んだことから、「レセプト」という明細書の照合作業を電子化し、審査を厳格化することになりました。
具体的には医療機関と調剤薬局の「レセプト」を照合し、投薬について患者の症状にあっているかどうかや、量が適当かどうかなどについて詳しく調べることにしています。
また、同じ医療機関の「レセプト」を患者ごとに半年間継続して調べ、特定の診療行為が過剰に行われていないかなどについても点検することにしています。
電子化による医療費の審査の厳格化は、自営業者などの医療費を審査している各都道府県の「国民健康保険団体連合会」でも検討が進められています。

何しろ電子化していれば幾らでも一律にチェックが掛けられるのですからやりたい放題ですが、こうなると医療費削減が国是となっているご時世だけにさぞや全国各地で診療の実態と乖離したチェックが入るようになるんじゃないかと危惧している先生方も多いことでしょう。
このレセプト審査というものに関しては当「ぐり研」でもたびたび取り上げてきたところですが、査定という行為のシステム上とんでもない言いがかりじみたことを言ってくるというのはよく知られていますし、過去にも何度か訴訟沙汰になってきた経緯があることも周知の通りです。
一方で民主党政権下での仕分けでは大手企業関連の審査を行っている社会保険診療報酬支払基金も仕分け対象になり、「コストが上がるから(保険者からの)手数料も上げるとなると、コストの削減努力をしなければ、お金が入ってくるということにもなりかねない(長妻厚労相)」と経営改善を求められてきた経緯がありますが、そうした流れで先日は支払い基金への手数料自体が引き下げられたというニュースがありました。

レセ審査の平均手数料83.5円に引き下げ-来年度に支払基金(2012年1月4日CBニュース)

 社会保険診療報酬支払基金は2012年度、診療報酬明細書(レセプト)を審査する際に保険者が支払う手数料を1件当たり83.5円に引き下げる。人件費や物件費などのコストを削減したり、積立預金を計画的に取り崩したりすることで、今年度から2円(2.3%)の引き下げを実現するという。

【「区分ごとのレセプト1件当たりの手数料」詳細】

 電子レセプトについて、保険者がオンラインで受け取る場合は、医科・歯科が99.4円、調剤が49.6円。フロッピーディスクなどの電子媒体で受け取る場合は、医科・歯科が100.7円、調剤が50.9円。印刷した紙媒体で受け取る場合は、医科・歯科が111.4円、調剤が61.6円になる。一方、手書きの紙レセプトで受け取る場合は、医科・歯科が99.4円、調剤が49.6円=表=。

子供のように純真な心で素直に読めば手数料が減れば医療費も安くなっていいじゃないかという話なんですが、そもそも支払基金に対してはかねて高い手数料を取っているわりに査定率が低い(要するに、余計な金を払わせている)という保険者(支払う側)の不満があり、実際査定額の4倍ほども事務経費がかかっていたというのですからいっそ無い方がマシか?という状況ですよね(逆に言えば、基本的に診療にそうそう無駄はないとも言えそうですが)。
査定のシステムとしてはまず支払基金が一次審査を行い、これを金を出す保険者側がさらに二次審査にかけて不満があれば支払基金に再審査を求めるという形ですが、現状では国と保険者が一体になってもっと査定額を増やして無駄な診療を削れと圧力をかけていて、この方法論の一つとして査定がより簡単にできるようになるのがDPC導入やレセプトオンライン化といった近来の医療政策だったとも言えます。
それだけ圧力がかかっている中でどんどんコストを削れ(つまり、審査の手を抜け)と言われているわけですから、どのように手を抜くかと言えば間違っても診療現場の実態に即したきめ細かにレセプトを読み解き…なんてことになるはずもなく、ざっくり国と保険者側の意向に沿った形でのカイゼンが図られることになるだろうし、その現れが冒頭の記事につながってくるということですよね。
診療現場においては当然ながら今まで以上に不毛な査定回避の作業に振り回されることになりますから、利用者である国民としても医療費が減ったと喜ぶ以上に診療の質はどうなるのかと心配しなければならないでしょう。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

こちらとしては良かれと思って出している適応外の薬をやめちゃえばいいだけですね。患者さんの不利益があっても仕方が無いですよね。
一部の先進的な病院で治験などをやってもらって適応が取れるまでは使わない、手術もあとこれを使えばもっと良くなるのにというものでも査定されそうなものは使わない。一部の倫理感がしっかりしている医師は事務部に文句を言われいっぱい返戻を書いて大変ですが。
とはいっても最近は明らかな適応ない使用であっても事務が弁のため説明文書を書けって行ってきてこの時期になると何枚も使用した説明文書を書かされています。
これ以上増えるのいやだから僕はできるだけ査定されそうな治療から遠ざかる努力をします。

投稿: 優駿 | 2012年2月29日 (水) 08時10分

めんどうくさい患者を追っ払うのにも使えるからいちがいに悪いとも>厳格化
たとえばうちには「風邪」に保険適用のある注射はないw

投稿: 場末でお勤め中 | 2012年2月29日 (水) 08時37分

医学上は使って問題ないはずなのに保険適用上使えないといった場合には国あるいは保険者側から患者に説明するのが筋ではないかとはい以前から一部で言われていますね。
例えば肝硬変患者などでももう一、二本アルブミンを入れられれば家に帰れそうなのに…と悔しい思いをした先生方も多いのではないでしょうか。
現実問題として医療はお金で制約されているのにそうではないし、そうあるべきでもないと主張するのは欺瞞だと思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月29日 (水) 11時12分


運営者様へ
はじめまして、医療+医薬品の業界まとめニュースを運営しています。
このたび突然ご連絡をさせていただいたのは
当サイトと相互リンク、相互RSSの登録をして頂きたくご連絡をさせていただました。
まだまだ未熟ブログではありますが、ぜひ宜しくお願いいたします。

私も医療のまとめサイトを運営しているためレセプト査定、医療費の問題について非常に関心があり、またこちらのブログを見て大変勉強になりました。
ありがとうございました。

もし不適切ならばコメント削除して頂いて結構です。
こちらでは貴サイトのリンクは登録済みです。
今後ともよろしくお願いいたします。
医療+医薬品の業界まとめニュース
ブログ:http://mednews.blog.fc2.com/
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投稿: 医療+医薬品の業界まとめニュース | 2012年2月29日 (水) 18時18分

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