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2012年1月24日 (火)

TPP交渉で新情報 これで日医も一安心?

かねて話題になっているTPPの医療への影響ということに関連して、アメリカ側からこうした伝達があったというニュースがありました。

混合診療はTPPで対象外 米政府、日本に非公式伝達(2012年1月23日47ニュース)

 米通商代表部(USTR)が環太平洋連携協定(TPP)への参加交渉や事前協議で、保険適用の診療と適用外の自由診療を併用する「混合診療」の全面解禁を対象外とする方針を日本政府に非公式に伝えていたことが22日、分かった。全面解禁が国民皆保険制度の崩壊につながるとの日本国内の懸念に配慮して譲歩した格好。日米関係筋が明らかにした。

 政府は月内にも米国との事前協議を開始するが、米側から明確な言質を取ったことで交渉入りに弾みをつけたい考えだ。

 ただ、米側は医薬品規制の見直し、自動車の対日輸出拡大や日本郵政グループが手掛ける保険事業の優遇措置撤廃などは譲歩しない構え。

米、TPPで「皆保険不介入」の意向 事前協議前に駆け引き 焦点は自動車(2012年1月20日産経Biz)

 日本の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加をめぐり、米通商代表部(USTR)が、国民皆保険など日本の公的保険制度の変更を求めない意向を示していることが19日、明らかになった。一方、自動車や民間保険分野をめぐっては、米側の業界団体などが日本に市場開放を強く求めている。TPP交渉参加に向け、政府は月内にも米政府との事前協議に入る考えだが、協議を前に個別分野の駆け引きが活発化してきた。

 訪米中の西村康稔衆院議員(自民党)によると、USTR日本担当のカトラー代表補が現地時間18日、西村氏に対し「日本の皆保険制度について米国が何かを言うことはない」と明言。公的保険に“介入”しない意向を示したという。
(略)

ご存知のようにTPP反対派の急先鋒として今や共闘関係を組むのが農業と医療の二業界ですが、日本の政府筋にもこの辺りに関連して懸念が多いということに対して米国側から一定のメッセージを発信したという形でしょうか。
もっとも大統領選挙も近づくこの時期の非公式な通達に将来的なことを含めてどの程度の意味があるのかははっきりしませんし、アメリカとしてもここでは譲っても他方では農業分野などではこちらの譲歩を引き出すための交渉材料という意図かも知れず、現時点では何とも言いがたいところではないでしょうか。
一方では公的医療制度などは内外投資家に対して不公平な待遇をもたらすようなものではなく、これを是正することを目的とした投資家対国家の紛争解決 (Investor State Dispute Settlement、ISDS) 条項の対象にはならないという声もあって、事実混合診療が解禁されていない現状であっても外資系保険会社がシェアを伸ばすなど必ずしも公正な競争が阻害されている状況とは言えないようです。
いずれにしてもアメリカとしては当面この領域は主要なターゲットではないというくらいの意味には受け取れるのですが、このTPPや混合診療に関連してTPP反対派の急先鋒である日本医師会(日医)の会長が年頭挨拶で言及している部分も引用してみましょう。

原中会長 地域医療の原点に立つ会員一人一人の力が重要(2012年1月20日日医ニュース)より抜粋

 更に,TPPに関連する問題についてですが,国民皆保険制度を堅持するためにも,医療への市場原理の導入と混合診療の全面解禁への動きを注視していかなければなりません
 アメリカは,小泉政権時代の二〇〇一年十月の「年次改革要望書」で,市場競争原理の導入と,民間の役割の拡大等を含む構造改革の推進を求めて以降,アメリカ型の医療システムとして,混合診療の全面解禁や医療への株式会社の参入,薬価の自由化などを要求してきているわけです.これをはねのけるには大変な努力が必要となります.
 昨年十二月九日には,日本の医療を守るための総決起大会(主催:国民医療推進協議会,協力:東京都医師会)を日医会館で開催しましたが,医師会と国民が一つになって日本の医療を守るための体制をつくり,国民運動として展開していきたいと考えています.

TPPに対する警戒感の根拠として混合診療反対を必ず未来永劫固守すべき金科玉条として据えることの妥当性は置くとして、元々アメリカ側の動きとしては医療に民間参入ということを絡めての規制緩和を求めてきた、あるいは別な言い方をすれば医療に関わる諸分野で営利的活動をもっと自由に行えるよう動いてきたと言えそうですよね。
となると今後この方面で予想されることとして、例えば公的保険による安くて給付の良い国民皆保険制度の強要が民間保険の参入を阻害しているといった訴えもあり得るかも知れませんが、当のアメリカの保険業界の方がまさしくこの国民皆保険制度絡みで大騒ぎになっている真っ最中なのですから、現状でただちに日本にまで喧嘩を吹っかけてくるというのも考えがたいように思います。
ただ現場での運用上の観点から考えた場合、TPP問題は抜きにしても混合診療導入となれば必ず応召義務の廃止ないしは緩和とセットでなければ現場が立ちゆかなくなる可能性が高いにも関わらず、こちらの方は全く議論にも登っていないということには違和感と危機感を感じますね。

人間誰しも食べなければ生きていけない、すなわち食事とは生存に不可欠の要素であるということは事実ですが、先進国での社会保障の最低線として誰に対してもパンと水とは安価で保障するにしても、超豪華なディナーを食わせろだとか味や好みまでうるさいことを言うならお上にも金は無尽蔵にあるわけでもなし、各自の支払い能力の範囲内で勝手にやってくれよと言いたくなるのは当然だと思います。
逆に言えば日本では誰にでも超豪華なフルコースを安価に保障してしまっていることが過剰医療などとも言われる一因だとも言え、それならば必要なカロリーや栄養素は入っているランチセットまでは公的保険で認めるが好みで追加オーダーをしたいなら自費でやってくれ、ただしその場合でもランチセット分の料金まではこちらで負担しましょうというのも混合診療導入の一つの論拠ですよね。
しかしその場合豪華料理を頼んでおいて金がないから支払い不能というケースが増えるのは当然なのですが、現状では金がないからとお客を断ることは認めないというルールになっているのですから、もし混合診療解禁となれば患者側の支払い能力をどう担保するか、支払えない場合にどう対応すべきかという問題も同時に顕在化してくるはずなのです。
そうしたリスク分散の意味では例えば医療機関側もカード支払い化などの対策が求められるところでしょうが、そもそも大きな検査や入院ともなれば少なくない金額の支払いとなるのに、未だに現金での支払いしか認めない施設も少なからずあるというのもおかしな話で、TPPとはまた別問題としても医療側にも早急に改善すべき後進性は多々あるんじゃないかとも思いますね。

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コメント

具体的にどうなるか、思いつかないのですが、
日医が要求して実現した、医療の消費税非課税の顛末を思うと、
TPPの混合診療対象外というのもウラがあるんじゃないかと、勘ぐりたくなります。

投稿: JSJ | 2012年1月24日 (火) 09時00分

実際にやってみると幾らでも問題は出てくるんでしょうけど、やらなくても確実に困ることになると言いますからねえ…
ただ医療に外圧がかかって他国並みになっていくことは、過酷な日本の現場で働く医師にとっては悪いことばかりでもないと思うのですが。
ところで外資系の営利追求型病院?が実現したとして、支払い不能患者も必ず診療にあたらなければならないというローカルルールは非関税障壁扱いされないのでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2012年1月24日 (火) 09時13分

一応は国内外問わず同一条件ということで訴えても取り上げられないんじゃないかと思いますが、訴えていただけるなら応援するという人間も結構いるのでは?
そうした話はともかく、国民全てがおおむね均等なレベルであることを前提とした皆保険制度を社会の実情変化に合わせて変えていくには今回よい機会だと思うのですが、日医などはハナから議論すら拒否という思考硬直ぶりですからねえ…
あの人達は医療にあたってもさぞや何十年も前の旧説固守でやっているんじゃなかろうかと思ってしまいます(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2012年1月24日 (火) 10時51分

医師会こそ既得権益に執着する一番の非関税障壁だろw

投稿: aaa | 2012年1月24日 (火) 15時01分

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