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2012年1月17日 (火)

弱者とプロ弱者の境界線

先日はローカル紙でこういう報道があったようです。

島根県内の医師274人不足/島根(2012年1月14日中国新聞)

 島根県内の病院と公立診療所の2011年10月1日時点の医師充足率が76・9%となり、必要数1186人に対し、274人不足しているとの調査結果を県と島根大医学部がまとめた。前年から1・8ポイント悪化。勤務医師不足の実態をあらためて浮き彫りにした。

 県内の全54病院と公立の39診療所が回答した。勤務実態を踏まえて医療機関が必要とする医師数は、計1186人と前年比20人増。一方、実際に勤務している医師は5人減の912人で、必要数との差(274人)は26人広がった

 地域別の充足率は、大田地区が62・8%(3・9ポイント増)で最低。雲南地区66・2%(2・0ポイント増)浜田地区67・8%(4・7ポイント減)も低い。松江地区は81・1%(1・1ポイント減)。出雲地区は82・9%(5・3ポイント減)だった。中山間地域や県西部で医師不足が際立つ

 診療科別では、救急が54・7%(15・3ポイント減)と最低。リハビリテーション科61・9%(5・8ポイント減)放射線科66・1%(9・4ポイント減)泌尿器科67・4%(9・6ポイント減)も7割に届かない。県内医師数の合計が30人未満の小規模な診療科で、充足率が低い傾向がある。

島根県内の医師不足の現状について県独自の調査ということで、当然ながら当県では医師は十分に足りていますという話であればこんな調査に予算もつかないわけですから、まずは県内の医師不足が深刻であるという結論ありきの調査とも言えるかも知れません。
とは言え島根で医師余りという話も聞かないのは確かで、当「ぐり研」でも県西部の石見地方中部の大田市で公立病院が崩壊の危機にさらされている!これは医師強制配置を推進しなければ!という声を取り上げてきましたが、問題はこうした地域にいったいどれだけの人口がいるのかということです。
島根県と言えば全国でももっとも人口の少ない県ですけれども、その割に広大な田舎地域が広がっていることからも判る通り、県全体の医師不足のみならず県内の地域格差ということもかねて問題になっていていますが、医療圏人口四万人足らずの田舎町にまで高度医療まで対応可能な立派な病院をそろえるべきなのかと言えば、さすがに今の時代の空気を読んでもらいたいという気はしますね。
そんな島根から翌日にもう一つ関連するニュースが出ているのですが、まずは記事から紹介してみましょう。

人口比で産科医最多…に異論/島根(2012年1月15日中国新聞)

 島根県内の女性10万人当たりの産婦人科の医師数を54・8人と全国1位とした厚生労働省の調査に対し、県内の医師が「診療現場を退いた医師をカウントしており、医師不足が深刻な実情を反映してない」と反論している。

 厚労省が2年に1度実施している医師調査で、昨年12月に結果を公表した。県の15~49歳の女性10万人当たりの産婦人科医師数は、鳥取県と徳島県の54・2人、長崎県の50・5人などを抑え、全国最多となった。

 厚労省は、県内の医師数を69人、女性人口は12万5956人で算出。これに対し、県が診療現場を対象に集計したところ、県内の産婦人科で実働する医師は55人で、厚労省の調査とは14人の差が出た。

 県は「分娩(ぶんべん)など施術に当たっている医師をきちんとカウントした」とし、厚労省の「医師法に基づいて医師に提出してもらう調査票に基づいた人数」との食い違いが出た形だ。

 県が集計した医師数55人で算定すれば、10万人当たりの医師数は43・7人と、厚労省の調査結果から約10人減る

 県産婦人科医会の小村明弘会長は「県内の産科医不足は切実。支援策を検討するべき立場の国には、もっと踏み込んだ調査をして現場の実態と向き合ってほしい」と訴えている。

この厚労省の言うところの医師数なるものがどれだけいい加減なものであるかは、死にかけた老人医師どころか下手すると死んだ医師までカウントされる(医師の死亡時には医籍末梢届けというものが必要ですが、当然ながらほとんどの遺族はそんな届け出が必要であると知らないため)などと悪評高いもので、あまり資料的価値もないんじゃないかと言われています。
アメリカなどでは実際に現場で働いている常勤医だけを集計しているそうですが、日本の厚労省の場合は基本的に医師免許を持っている人間をカウントするだけ、せいぜいが病院に登録されている医師数を数えるだけですから、例えば大学の研究者や厚労省医系技官などが集まる東京などでは臨床医の実数をはるかに超える「医師」が集まっていることになってしまいます。
冒頭の記事にあるように島根県が独自の医師数調査を行ったのも、厚労省の統計では到底医師数の実態を把握することは出来ないという当たり前の判断からであったと思われるのですが、ただ相対比較ということで考えると全国の都道府県も同じ方法で統計を取っているわけですから、やはり島根県が相対的に産科医が多いことになるのではないかという考え方もありますよね。

おそらく鳥取や徳島など他県も島根方式でカウントすれば同様に数字が多少動いてくるはずですから、結局のところ島根県でどの程度の産科医が存在すべきなのか、その県内分布はどうあるべきなのかというビジョンがまずあるべきですし、同時に公平の観点から見れば島根に限らず我々独自の集計によれば医師不足だからと各都道府県が分不相応な医師の囲い込みをすることもご遠慮いただかなければならないでしょう。
島根と言えばかねて隠岐で産科医がいなくなったのとたびたび産科不足問題が新聞ネタになっていますが、以前にも紹介しましたように島根では市中病院の産科医が県立中央病院で応援診療の傍ら再教育を受けるといったことも行われていて、小所帯の県ならではの連携も試みられているように見えます。
病院なども規模や受診者数といったデータと仕事のしやすさ、診療の善し悪しは全く別であるのはよくあることですが、全県で55人と言えばお互い顔見知りといっていいはずですし、単純に統計に表れる数字の大小で語るのではなく現場の生の声をきちんと取り上げて小回りのきいた対策を工夫していくことが出来れば、医療の提供側も利用する側も数字以上の満足度を得られるかも知れませんね。

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コメント

ここは笑うところなのでしょうかね?
>医療機関が必要とする医師数は、計1186人と前年比20人増

投稿: JSJ | 2012年1月17日 (火) 09時02分

なお一層の医療の充実を図っているんだろうなw
クレクレ土民はこれだからw

投稿: aaa | 2012年1月17日 (火) 12時27分

JSJ様へ
医療機関が必要とする医師数=各医療機関の医師の定員(予算上)です。
公立病院で「定員<医師数」となることはありませんので、何らかの事情で通常の定員より多くの医師が在籍している場合、その分だけ一時的に(場合によっては永続的に)定員が増えます。
いっそうの医療の充実を図って定員だけ増やしたというケースもありますが・・・

もちろん「実際に必要な医師数>>医療機関が必要とする医師数=医師の定員」です。お役所が考える必要な医師数と現場が考えるそれは相当に乖離しています。

投稿: クマ | 2012年1月17日 (火) 15時03分

実質常勤の名ばかり非常勤を全て常勤化して待遇改善を行うということなら悪い話ではない、が…

投稿: kan | 2012年1月17日 (火) 16時35分

もはやこうした田舎の小自治体ごとに立派な病院を用意するというのは無理があります。
施設としての充実を望むのであれば、その代わりに別のどこかを統廃合することもすすめなければならないでしょうね。
どこの地域に統合するかでまた大もめしそうではあるのですが…

投稿: 管理人nobu | 2012年1月18日 (水) 10時52分

kan様へ
この手の調査の数字は、常勤と非常勤を足した数字だと思います。ですので、非常勤医師をすべて常勤医師にかえても、結果は変わりません。

管理人様へ
いくら病院を統合しても、医師が足りなくなる原因を放置すれば、統合した病院が医師不足になりそうな気がしますが・・・そういう事例はないでしょうか?

投稿: クマ | 2012年1月18日 (水) 13時34分

必ず当直医を置かなければならないという病院のルールからすると、一定レベル以下のスタッフしかいない施設は過度の当直回数から疲弊を招くことは明らかだと思います。
一方で例えば全国どこも1000床クラスの大病院にまとめろというのも非効率ですから、運営上は最も効率のいい(すなわち、仕事が楽な)適正規模がその中間にあるはずなんですけどね。
ただ実際に統合によって医師不足を来すという場合、例えば派遣している大学間の人事争いなどで引き上げが行われるような場合も多いんじゃないかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年1月18日 (水) 14時39分

外科医ばかりの病院と内科医ばかりの病院で協力すればいいのに
人材を相互派遣する仲介業があればお互い助かりそう

投稿: 田舎者 | 2012年1月18日 (水) 19時19分

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