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2012年1月18日 (水)

意外なところにも存在する高齢者の看取り問題

本日の本題に入る前に、森鴎外の短編に「高瀬舟」という作品がありますけれども、何やらそうした肉親の葛藤を感じさせるような不幸な事件が起きてしまったというニュースがありました。

重度障害の62歳長女を絞殺容疑 85歳母「介護に疲れ…」/奈良(2012年1月11日産経ニュース)

重度の障害のためほぼ寝たきりの長女(62)の首を絞めて殺害したとして、奈良県警は11日、殺人容疑で同県生駒市鹿ノ台北の無職、西井とし子容疑者(85)を逮捕した。捜査1課によると、とし子容疑者は「娘の介護に疲れ首を絞めた」と容疑を認めているという。

 逮捕容疑は11日未明、自宅寝室で、長女の三恵さんの首を絞めて殺害したとしている。同課によると、三恵さんは幼いころから脳性まひとみられる重度の身体障害のためほぼ寝たきりの状態だった。とし子容疑者は長女と2人暮らしで介護を続けており、とし子容疑者も外出時には車いすを使用していたという。

 同日午前9時20分ごろにデイサービスの職員が自宅を訪問した際、ベッドの上で死亡している三恵さんを発見。そばにいたとし子容疑者が首を絞めたことを認めたという。

首を絞めた親にしろ亡くなった長女にしろ、62年間共に様々な苦労も乗り越え辛抱した果てにこんな結末を迎えることになろうとは思わなかったでしょうね。
重度身体障害者であったということですからその気になれば社会的にはそれなりの支援も得られたのだと思いますが、恐らくは親として以前から子供のことは自分で介護するということで行ってきていたのでしょう、自らも老いを自覚するようになってからの葛藤というものは想像に余るものがあります。
産科無過失補償制度が急ぎ整えられた一つの理由に脳性麻痺のこうした社会的予後の悲惨さもあるのでしょうが、コスト的な制約もあって要介護者はなるべく自宅でという国の方針もある中で、脳性麻痺に限らず老親が先立った場合の要介護者の行く末は今後ますます大きな社会的課題になってきそうですよね。
そんな中で、先日は法相交代に伴って久しく執行が止まっている死刑制度絡みの話題が取り上げられていましたが、新任の小川法相は死刑廃止論者とも言われながら法相の職務遂行は行うという姿勢であるようです。

「職責、つらくても果たす」 小川法相、死刑執行に前向き姿勢(2012年1月14日J-CASTニュース)

   野田改造内閣で初入閣を果たした小川敏夫法相は2012年1月13日夜の就任会見で、死刑執行について「その職責を果たしていくのが責任」と、異例の前向きな姿勢を示した。小川氏は死刑廃止論者とされているが、死刑執行はやむを得ないと判断しているともみられている。

 民主党への政権交代以降、死刑執行には慎重な法相が続いており、最後の執行されたのは千葉景子法相時代の10年7月。11年は、19年ぶりに1件も執行されておらず、未執行死刑囚は現時点で戦後最多の130人にのぼる。

オウムの死刑確定囚の執行は先送り?

   小川氏は質問に答える形で、

    「死刑という刑罰は、人の命を絶つという大変重い厳粛な刑罰。そのことについて慎重に考えないと行けないと思う。しかしその一方で、それは法律で定められた法務大臣の職責でもある。大変つらい職務ではあるが、私はその職責を果たしていくのが責任

と述べた。また、平岡秀夫前法相らが制度存廃について国民的議論を呼びかけたことについても、

    「死刑制度については、廃止という声も内外にはある。しかし、世論調査では、8割前後の人が死刑制度を支持しているという現実もある。そうした中で国民の間で議論していただくことは重要なことだし、期待している。だが、『議論が必要だから、あるいは議論しているから職責を果たさない』ということではなくて、やはり職責そのものは、つらいとは思うが、果たすと考えている

 と、死刑存廃についての議論が行われている中でも、死刑執行に踏み切る可能性を示唆した。
(略)

終身刑創設に慎重=小川法相(2012年1月15日朝日新聞)

 小川敏夫法相は15日午前のNHK番組で、死刑制度をめぐる議論の中で、死刑に代えて仮釈放のない終身刑の創設を求める意見があることについて、「何の目的もないまま、死ぬまで拘束するのは苦痛ではないかという見方もある」と述べ、創設に慎重な考えを示した。死刑執行については、「法相の裁量ではなく、責務であり義務だ。職責は果たす」との考えを改めて示した。 

前任者を始めとして近年法相としての職務を蔑ろにする方々も多いようで、今や未執行死刑囚は130人にも上るということですが、法相の思想信条と職務遂行義務との関係や死刑に代わる終身刑創設の是非はともかくとして、これら死刑囚も刑が執行されないままどんどん高齢化が進んできているという現実があります。
さらに昨今では全般的な厳罰化の影響もあってか有期刑の長期化(刑法改正により最長30年に変更)に加えて無期刑なども収容期間も延びてきているようで、かつては16年程度と言われていた無期懲役刑の仮釈放までの平均在所年数が1990年代末には20年を超え、2010年には何と35年にも達したと言いますから実質的には終身刑化してきているとも言えそうです。
この結果何が起こっているのかと言うと、各地の刑務所があふれ当然ながら維持管理のコストもかさむことに加えて、とりわけ長期収監者においては高齢化に伴い実質刑務所内で介護をしているだけということもままあるようで、しかも昨今の社会保障抑制政策に伴い将来の生活に不安を感じる高齢の常習的犯罪者が人生最後は慣れ親しんだ刑務所でとわざわざ犯罪を犯す、などという笑えない事態にもなっているようです。
生まれついての重い障害を抱えた我が子とであっても何十年にもわたる介護と言えば最後は不幸な結末をも招きかねないというのに、日々寝たきり高齢受刑者の介護に精出す羽目になった刑務官の方々にしてみれば「なんだかなあ…」と言いたくもなるような状況だと言えそうですよね。

こうして高齢の受刑者が増え続けている中で、特に刑務所がある土地などの公立病院ではこの種の受刑者が受診にやってくるということがままありますが、特にいよいよ末期状態ということになるとしばしば問題になるのがどこまでの医療を行うべきかということでしょう。
多くの高齢長期受刑者はすでに肉親もこの世にいない場合が多い、あるいは仮に遠い肉親があったとしてもほとんどは縁を切られ連絡もつかないという状況にあって、ただでさえ激務に追われ寝不足の先生方がふと「いったいこの患者を必死に治療することにどんな意味があるんだろう…」と感じてしまうのもやむを得ないところですよね。
日本では患者は等しく平等であって資産や社会的地位によってその扱いを変えてはならないというタテマエが長年言われていますが、実際には汗水垂らして日々の糧を稼いでいる人々がお金や時間の関係で治療を断念することはあっても、生保受給者や刑務所の収監者といった方々は常に最善最良の医療を受けられることが保障されています。
しかしそうした理不尽には目をつぶったとしても、国民感情を考えた上でも(おそらく当の本人も含めて)誰が喜ぶわけでもないだろうにこうした長期受刑者を可能な限り長生きさせるというのもどうなのかと、医療現場の当事者ならず素朴な疑問を覚えてしまうのではないでしょうか。

一般論としての末期医療のあり方ということからは一歩離れて刑務所というものの立ち位置ということから考えると興味深いことに、諸外国では刑務所と言えばあくまでも犯罪者に懲罰を与える場所と位置づけられているのに対して、日本の刑務所というのは法律の条文上はあくまでも受刑者の更正をうながし社会適応の訓練を行う場所であるということになっているようです。
その観点からすると受刑者に関しては普通以上に熱心に医療を行い、最後の最後まで更正と社会復帰の機会を与えなければならないということになってしまいそうですし、ましてや「どうせ実質終身刑なんだから、ほどほどにしたって同じことだろ…」などと意図的に手抜き診療を行うなどとんでもないということにもなりますよね。
先日もお伝えしたように今年はとりわけ高齢者の末期医療に関して治療の差し控えや中止も含めた新たなガイドラインが出てくる予定となっていますが、普段あまり目立たない場所にも同様の問題が存在していて抜き差しならぬ状況になってきているということも考慮に入れておかなければならないのでしょうね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

本題ではなく枕のほうに関連したことで、しかも とりとめのない昔語りなのですが、こんなこともあるという一例として。

数年前、当地でも高齢の母親が難病の子を殺した事件があり、小さな新聞記事になっていました。
動機は書いてありませんでしたが、近所の住人の「行政なりが介入していれば防げたのでは」というような意味のコメントを載せていました。
でも殺された方は、その翌日 私の勤める病院に入院し、私が担当する予定でした。
外来で診ていた方ではないので、一度もお会いしたことはないのですが、忘れられない患者の一人となっています。

投稿: JSJ | 2012年1月18日 (水) 08時45分

心理的に追い詰められるということは、客観的に見れば何故そんなことをと言う行動を思わず取ってしまうことにつながるわけですからね。
自ら手にかけるということは今の時代では確かにやってはならないことですが、近親者や周囲の人々がいわば社会への責任として振る舞うことがごく近代まで普通にあったのも事実です。
こういう話を聞くたびに例の産婆のコピペを思いだしてしまいますが、人生の始まりと同じく終わりにおいても何がベストかという判断は非常に難しいのだと思います。
http://copipe.cureblack.com/c/7767

投稿: 管理人nobu | 2012年1月18日 (水) 11時01分

法解釈上刑務所内の囚人にはどの程度の医療上の権利が認められているんでしょう?
受刑者が臓器移植を希望したら認められる?風邪気味だから点滴してくれと言うのはあり?
そもそも医療費の支払いはどういうことになっているのでしょうか?

投稿: 辰 | 2012年1月18日 (水) 11時51分

女性2遺体:姉死亡後、妹が衰弱死か 札幌のマンション

20日午後7時10分ごろ、札幌市白石区東札幌5の6のマンション3階一室で
女性2人が死んでいるのを、北海道警札幌白石署員が発見。部屋に住む40代の
姉妹とみて確認を急いでいる。2遺体に目立った外傷はなかったが、知的障害の
ある妹とみられる女性がやせ細っていた。同署は姉が死亡後、妹が衰弱死した
可能性があるとみている。
同署によると、2遺体はともに40歳前後で死後1カ月程度。別々の部屋で
見つかり、姉とみられる女性はベッドの脇で、妹とみられる女性はベッドの
上で死んでいた。部屋は施錠され、居間のテーブルの上には
現金約4万3000円が置かれていた。部屋のガスは
昨年11月末に止められ、電気も止まっていた。
姉妹は両親と死別し、2人暮らし。親戚とは5年近く連絡を取っていなかった
らしい。妹の障害者年金で生活していたとみられ、生活に困窮していた可能性が
ある。管理会社が12月中旬から連絡が取れなくなり、届け出を受けた同署員が
この日、マンションを訪ねた。
現場は市営地下鉄白石駅から北東約500メートルの4階建て賃貸マンション。
同じ棟の30代男性会社員は「12月初めにお姉さんと階段で会ったが、
変わった様子はなかった」。2年前に引っ越してきた女性(80)は「近所付き合いが
なく、姉妹が住んでいるのを知らなかったが、かわいそうに……」と声を落とした。
後略毎日新聞 2012年1月21日 20時50分(最終更新 1月21日 23時38分)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120122k0000m040066000c.html

札幌市白石区のマンションの居室で20日、遺体で見つかった40代の姉妹とみられる女性2人
の死因は22日、札幌白石署の司法解剖の結果、姉とみられる女性が脳内血腫による病死、
妹とみられる女性が凍死と分かった。
死亡時期は姉とみられる女性が昨年12月下旬~1月上旬、妹とみられる女性が1月上旬から
同中旬であることも判明した。

同署は姉の急死後、知的障害のある妹が1人残され、外部の人と連絡を取ることもできず死亡
したとみて、身元の確認を急いでいる。

<北海道新聞1月23日朝刊掲載>(01/23 10:05)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/345356.html

姉急死後、妹衰弱死か 札幌2遺体 1カ月前に携帯履歴(01/22 10:50)

札幌市白石区のマンションの居室で20日、遺体で見つかった40代の姉妹と
みられる女性2人は、姉とみられる女性が先に病気などで急死した可能性が
高いことが21日、札幌白石署への取材で分かった。同署は同居する
知的障害のある妹が1人残され、食事を取ることなどができず、その後、
衰弱死したとみて死因を調べている。姉の携帯電話には、外部に助けを
求めようとしたとみられる発信履歴が残っていた。

同署によると、この部屋に住んでいたのは、42歳と40歳の姉妹。
遺体はそれぞれの寝室でみつかり、姉とみられる女性は死後1カ月程度、
妹とみられる女性は死後1~2週間とみられる。妹とみられる遺体の方が
やせ細っていたという。<北海道新聞1月22日朝刊掲載>
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/345206.html


35 名前:名無しさん@12周年[sage] 投稿日:2012/01/23(月) 11:46:15.04 ID:qt5vMpVw0 [4/5]
新聞によると
妹は111とか112とかの番号を押してたらしい。
110や119が解からなかったらしい。

投稿: かなしいのはお年寄りだけじゃない | 2012年1月23日 (月) 15時25分

うわあ…
このお姉さんの人生って妹のことだけで終わってしまったんでしょうね〜
ご冥福をお祈りします

投稿: | 2012年1月23日 (月) 21時47分

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