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2012年1月11日 (水)

被災地の医療再建に関わる、なんとも微妙な話題

まずは沢穂希選手のFIFA世界最優秀選手受賞という偉業達成、おめでとうございます。
今後日本人選手がおいそれと追いつけないような金字塔を打ち立ててしまったということですが、厳しい話題ばかりであった昨年一年にあって国民を鼓舞する喜ばしいニュースとなったのではないかと思いますね。
さて、その厳しい世情の中心ともなったのがご存知震災関連のニュースですけれども、現地医療機関にとってはいよいよもってこれは厳しいという話題がまた新たに出てきたようです。

民間医療復旧に支障 補助金が建物に限定、機器対象外/宮城(2012年1月8日河北新報)

 東日本大震災で被災した民間医療機関に対する国と宮城県の復旧支援をめぐり、「現場の実情に合っていない」との強い批判の声が上がっている。認定される被害額が大きく絞り込まれるケースが続出、休日当番医などを務めてきた診療所は医療機器が補助の対象外となるなど、適用制度の違いで支援に格差も生じている。被害の査定作業がほぼ終了する中、地域医療の復興が遅れかねない事態に医療関係者は不安を募らせている。(藤田和彦)

 大津波で1階が水没し、大規模半壊の被害を受けた宮城県気仙沼市の有床診療所、森田医院。12月に県庁で受けた国の査定は、森田潔院長(52)にとって失望の連続だった。

<憤り隠せず>
 森田院長によると、被害総額は約8000万円に上る。補助が見込める建物部分(約2000万円)を申請したが、火災報知機やナースコール設備などが次々と「不可」とされ、認定された被害額は約1200万円分だけだった。補助率は2分の1で、交付額は約600万円にとどまる見通しだ。
 電子内視鏡やエックス線装置など約6000万円に上る医療機器の被害は、国の基準でもともと対象外。森田院長は「津波被害の深刻さが全く考慮されていない。これでは地域医療はもたない」と憤りを隠さない。
 森田医院が申請したのは、公的医療機関と、休日当番医などの政策医療を担う民間医療機関を対象に、国が設ける「医療施設等災害復旧費補助金」。補助額に一律の上限はないが、支援対象が被災した建物だけに限定される制約がある。
 宮城県医師会の佐藤和宏常任理事は「医療機器は診療再開に不可欠である上、1台1000万円を超えるケースもある。被災した診療所には重荷だ」と指摘し、補助対象の拡大を訴える。

<逆転現象も>
 医療現場をさらに困惑させているのが、国の「地域医療再生基金」を原資とした別の補助制度とのバランスだ。
 再生基金の補助対象は、政策医療を行わず、復旧費補助金の枠外となった民間医療機関。制度を運用する宮城県は「全壊した医科診療所の補助上限額1000万円」などと決めた以外は使途に制約を加えず、医療機器への充当も可能となる。
 使い勝手はいいが予算枠に限りがある。森田医院のような政策医療を行う医療機関は原則対象外とされる見込みだ。
 宮城県沿岸部の医療機関関係者は「当番医を務める診療所は検査機器を多めに備えて協力してきた。そうした所が割を食う状況になりかねない」と憂慮する。
 宮城県医療整備課は「政策医療に協力しながら損をするという逆転現象が起きないように、きめ細かく調整していきたい」と話している。

国にしても宮城県にしても何かと物入りの時期で大盤振る舞いも出来ないという事情もあるのでしょうが、しかし東北地方の医療機関が大いに儲かっていたという噂も聞かないだけに、8000万の被害に対して出るお金が600万では同等規模の診療体制再建どころか、間違いなく大幅な縮小を強いられる施設が続出しそうですよね。
こうした現地医療機関は震災後も被災地の医療を地道に支えてきたいわば功労者揃いであるだけに、今になってこういう仕打ちをされたのでは裏切られたという感情的反発も強そうですが、「きめ細かく調整」などという微調整レベルで済む話でもなさそうな乖離があるだけに、ハードウェアの再建が難しいだけでなく下手をすると他地域から好条件でスタッフを引き抜かれる施設が続出するようになるかも知れません。
もともと医療過疎が言われてきた東北地方においては、例えば岩手県において久しく公立病院再編問題が紛糾していたように医療の再編の必要性がかねて認識されながら一向に進んでこなかった側面もあって、福島や沿岸部のみならず地域全体を巻き込んでの医療再編がこうした外圧によって強いられるということにもなるのでしょうか。
ただ見ていますとお金がないから使い道をよく考えなければならないのは当然ですが、どうも話の順序が違っているのではないかという気配もあって、例えば先日は唐突にトップダウンでこんな話が出てきたというのはどういうことなのかですよね。

福島の18歳以下医療費無料化、首相が検討の意向/福島(2012年1月8日朝日新聞)

 野田佳彦首相は8日、東京電力福島第一原発事故の「収束宣言」をしてから初めて福島県を訪れた。首相は、県内の18歳以下の医療費無料化について「大変重要な課題と受け止めさせていただいた」と、検討する考えを記者団に表明。政権内で調整していく方針だ。

 18歳以下の医療費無料化は、福島県が求めている。放射線被曝(ひばく)への懸念から子どもが県外に避難しているため、人口の流出を防ぐねらいがある。この日、野田首相と会談した佐藤雄平県知事が改めて要請した。

 経費は年間100億円弱と試算。だが、政府の復興対策本部は「線引きが難しく、風邪なども含めれば財政負担も多額になる」(幹部)と否定的だ。8日の福島復興再生協議会で、首相は「政府内にもいろいろな意見がある。難しい問題だ」とも述べたという。

もともとこの話、元をたどれば昨年11月に官邸を訪れた佐藤知事の側から提出された緊急要望書の中にあった主要課題の一つであったようなのですが、これに対して総理も二つ返事で検討を指示することにしたと言いますから、言ってみれば福島県に対する現政権の大きなお土産として浮上してきた話だとも言えそうです。
しかしながらかねて各地の自治体でも小児医療無料化をうたえば移住者が増える!などと人気取り政策としては非常に有効だとされていて、それに味を占めたか小児どころかさらに広範囲に対象を拡大する地域も増えてきているようですが、その結果全国各地の小児科ではコンビニ受診が激増して悲鳴が上がっているのも事実ですよね。
もともと小児科や産科といった領域は平時であっても常に人手不足で回らない職場として知られていて、特に震災以前から医師流出の著しい「聖地」福島あたりですと不足感も半端ないはずなんですが、前述の記事のような物理的な医療再建の阻害要因に加えて、医療供給体制も崩壊したままなのに需要だけをますます増やそうと言うのですから、現場がそれについていけるかどうかでしょう。

もちろんそれだけの予算をどこを削って引き出すのかということも実施に当たっての大きすぎる課題で、下手すると現地医療機関再建への補助金を減らして財源捻出しますなんてことにでもなればダブルパンチで被災地医療機関の負担だけが増していく天下の悪政ということにもなりかねませんよね。
政治主導で政策を考えるならば、使った予算額あたりで支持率向上への貢献度が高い政策ほど良い政策であるということになるのかも知れませんが、医療も含めて崩壊したインフラの再整備についてどこを優先して行っていくべきかという判断を、目先の歓心を買うというだけの観点から行っていっていいものなのか?という気はします。

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コメント

私は官僚はやはり優秀な人達なのだと思っているので、宮城の件は
僻地に重装診療所は不要、この機会に医療リソースを集約する。という意思の現れだと思っております。

陰謀論も好きなので、福島の方はフクシマ利権と見せかけた福島無人化計画の一環かと。
まあ「医者とウジは勝手に湧いてくる」と考えられているのかもしれないけれど。

投稿: JSJ | 2012年1月11日 (水) 10時05分

病院もさすがに保険には入っているのでしょうけど、やはり地震や津波の被害補償には特約をつけることが必要なんでしょうね?
お年寄りの先生が一人でやってきたような小さな診療所は、補助金が出たとしてもこのまま廃業してしまうかも知れないですね。
予算が限られている中で最大限の効果を得たいなら補助金も均等にばら撒くのではなくて、地域性や必要性、意欲などに基づいた医療機関の取捨選択も必要なのかな…とも思うのですが。

投稿: ぽん太 | 2012年1月11日 (水) 10時09分

どうせ全部ぶっ壊れてしまったわけですから、医療に限らず社会資本をローリスクで再編する好機ではあるのですよね。
ところが漏れ聞こえてくる話を聞いていると全部元通りにしろ!の再建要望だとか、せっかくだから新幹線も通せ!なんて夢想的な声ばかりできちんとした将来ビジョンに基づいた復興絵図を描いている人がいなさそうなのが気がかりです。
とりあえず利害調節も面倒くさいしお金は出すから後は勝手にやってでは一番非効率になってしまうんですけどねえ…

投稿: 管理人nobu | 2012年1月11日 (水) 10時55分

個人的に18歳以下全てを無料にするのは反対ですね。無料化は悪性新生物患者や難病患者などに限定すべきでしょう。
現場の苦労を全くわからない人の考えることです。タダほど高いものはなし。
仰るように時間外のコンビニ受診が激増してそれに比例してモンスター親も増加するでしょうからタダなのをいいことに「何かあったらどうしてくれるんだ!責任とるんだろうな!」と初診から医者を恫喝するような輩も必ず一定割合で出てくるはずです。
モラルハザードが大勢の現在と30~40年前の古き良き時代とは全く違うので現場医師の良心だけを頼りに負荷をかければいつかは過労死か逃散せざるをえないという結果を招きかねないでしょうね。その上医療現場に経済支援もないとなるといつまでもつのかという感じ。
たしかに医者がいなくなれば、自然と住む人もいなくなっていくのかもしれませんが。
ウクライナ(チェルノブイリ)基準で言えば、福島県のほとんどが本来は避難区域になってしまいますからね。
今の政府は都合の悪い事をいわずに隠してばかりですからね。

投稿: 元神経内科 | 2012年1月12日 (木) 10時52分

仮に僻地への医師強制配置などという愚策が現実化したとして、福島に強制配置された医師が「国のせいで危険地帯に送り込まれることになった」と訴訟でも起こせばおもしろいことになるかもね

投稿: kan | 2012年1月12日 (木) 11時52分

ちなみにこういう記事もありました。
全例対象ではなく困窮者への個別対応でいいと思います。

被災地の医療費全額免除、3月から縮小へ 厚労省
http://www.asahi.com/national/update/0112/TKY201201110759.html
 東日本大震災の被災者を対象に続けている医療費の自己負担分の全額免除について、厚生労働省は、対象範囲を
3月から縮小することを決めた。東京電力福島第一原発の事故による警戒区域などからの避難者を除き、
サラリーマンとその家族は3月から、原則3割の自己負担に戻る。
 現在、被災者のうち、住宅が全半壊したり家計を支えていた人が死亡・行方不明になったりした人や、
原発事故で避難させられた人が医療機関で診療を受けた場合、窓口で払う自己負担分は全額免除となっている。
ただ、2月末までの予定で、3月以降の対応が焦点となっていた。
 厚労省は、避難生活の負担の重さを考え、福島県の警戒区域や計画的避難区域、特定避難勧奨地点から避難している人については、
来年2月末まで全額免除を継続することにした。

投稿: ぽん太 | 2012年1月13日 (金) 08時52分

>ウクライナ(チェルノブイリ)基準で言えば、福島県のほとんどが本来は避難区域になってしまいますからね。

汚染地域に関して言うと、わざわざ人を呼び戻すためには何をどうこうする必要があるという発想は、リスク評価にはっきりしたエヴィデンスがない現状ではやはり時期尚早かなと思いますね。
インフラ整備のためには人手がかかり、その人手をバックアップするためにさらなる大きなインフラが必要となることを思うと、一定地域内では当面最小限度のインフラでしのいでもらうのは仕方ないと思います。
それ以上のインフラを要求するのであれば地域内への集積を求めるのではなく域外へどうぞというのはやむなき妥協ではないかなと。

投稿: 管理人nobu | 2012年1月13日 (金) 11時06分

>今の政府は都合の悪い事をいわずに隠してばかりですからね。

今の政府が現状を正確に把握してるとでもw?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年1月13日 (金) 12時10分

福島はやっぱり福島でした。
www.asahi.com/politics/update/0128/TKY201201280157.html
「福島県、独自に18歳以下の医療費無料化」
読売だと もう少し温度の低い記事だけど。

医者が全部逃げ出したら、支出ゼロで医者を非難していればいいんだから、おいしい政策だよね。
それとも戊辰戦争以来のうらみつらみを思いやるべきなのでしょうか。

投稿: JSJ | 2012年1月28日 (土) 13時37分

あらら、結局やっちゃいますか。
県独自と言ってもなんだかんだでお金は国から出させるんでしょうね。
それでも福島に残りたいという先生方がどれくらいいらっしゃるものか?

投稿: ぽん太 | 2012年1月28日 (土) 18時36分

福島の今後の税収面を考えれば、当然国からの援助は大前提でしょうねえ…

投稿: 管理人nobu | 2012年1月30日 (月) 11時38分

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