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2012年1月25日 (水)

永続可能な地域医療とは

先日は夕張診療所で地域診療に当たる森田洋之先生がこんな記事を書いていましたが、ご覧になりましたでしょうか。

「脱赤ひげ」 へき地医療の新しい形(2012年1月22日日本経済新聞)

 先日とてもショッキングな報道がありました。北海道にある人口約380人の島でただ一人の医師ががんと診断され、治療のため島を離れるというのです。

 へき地医療を志し都会からやってきて約10年、地域からほとんど出ずに一人で住民の健康を守られた素晴らしい先生です。私も代診に赴いたことがありますが、患者の言葉の端々からその先生への絶大な信頼を感じました。24時間365日、常に自分たちの健康を守ってくれる医師が何十年と継続して近くにいてくれる、これは本当に素晴らしいことで、住民にとってこんなに心強いことはないのだと思います。

 しかし、その医師が去った後に新たな医師はやってくるでしょうか? 残念ながらへき地に医師を招くことは非常に困難なのが現実です。技術の習得や子供の教育を考えた時、どうしても赴任に二の足を踏んでしまい、医師だけでなく他職種でもへき地勤務は敬遠されがちです。では、どうしたらいいのでしょうか?

 私は九州の宮崎県から北海道の夕張へ赴任しました。夕張では今までの地域医療とは一味違う、新しい地域医療の形を実践していると聞いての志願でした。その一つが「脱赤ひげ」という大きな理念です。

 もちろん「赤ひげ先生」は依然として素晴らしい医師像ではありますが、みなさんが思い浮かべるような「地域に何十年も根を張って、24時間365日、住民の健康を守る」という赤ひげ像は、今の若い医師が理想とする医師像ともはや大きく乖離(かいり)してしまっているのが現実です。それであれば、地域ならではの「豊かな自然」や「柔軟な勤務体制」を売りにして医師に来てもらおうというのが「脱赤ひげ」の趣旨です。

 理念に賛同した若い医師たちが徐々に集まるようになり、現在、私を含め家族で夕張に定住し勤務している医師が2人。さらに2人の医師が近く夕張に引っ越して来る予定です。総合診療、在宅医療などの経験ができるという点も大きな理由ですが、1~数年の勤務、週1日からの勤務でも認めるという柔軟な勤務条件も若い医師から支持されています。

 北海道の豊かな自然の中では子供と一緒に釣りや畑作り、雪遊びもできますし、地域の人たちとも交流できます。都会ではできない様々な経験は子供たちの人生も豊かにしてくれるはずです。

 もちろん、フルタイム勤務に比べれば給与はその分下がります。勤務時間が少ないので当然です。これもワークシェアリングの一つの形でもあると考えています。子育てなどを理由に働きたいのに働けない誰かがいるのなら、夜中まで働いている誰かは、少し収入が減ったとしても職と経験と富を分かち合う。夕張市立診療所では医師だけでなく看護・介護職・事務など多職種でシェアリングが進んでいます。ワークシェアリングの一つのスタイルとしても「脱赤ひげ」は価値があるのかもしれません。

 全体のパイが大きくなりにくいこれからの時代、みんなが少し我慢して「分け合う」ことも必要なのではないでしょうか。特に医療・介護分野は、雇用が急増している数少ない分野です。この分野でワークシェアリングを考えることは、日本の将来につながる試みになるかもしれません。

 「モア」よりも「シェア」。医師は給与を少し我慢、職員も残業を少し我慢、住民は「医師が1~数年で変わる」という不満を少し我慢。みんなが少しずつ我慢することで医療がうまく回るのであれば、それはすてきなことかもしれません。

 森田洋之(もりた・ひろゆき)1971年生まれ。97年一橋大経済学部を卒業後、2003年宮崎医科大医学部を卒業。宮崎県内の総合病院で初期・後期研修を終え、09年4月から夕張希望の杜夕張市立診療所に医師として勤務。10年には宮崎県延岡市の健康長寿アドバイザーも務め、コンビニ受診に関する調査などを実施。夕張では在宅医療を中心とした地域包括ケアを実践。内科医。

マスコミなどは赤ひげなどという幻想を盛んに語りますが、赤ひげの都合の悪い部分は華麗にスルーして都合のいいところだけを絶讚しているのですから得手勝手というもので、おかげで妙な具合に洗脳された地域や自治体の無理解によって現場の医師達がいらぬ苦労をするだけならまだしも、結局は地域医療の破綻にまで結びついているのですから困ったものですよね。
経済学部のご出身だけに、医療の永続性についてこうした観点から注目することはよい指摘であったと思うのですが、北海道という地理的制約の厳しい土地でこうした勤務形態が成立するという立証がなされるのであれば全国各地におけるモデルケースにもなり得るんじゃないでしょうか。
地域にいかにして医師を根付かせるかということは各地で工夫がなされている真っ最中ですが、本当にそこに根付かせる必要があるのかどうかという根本的な部分からの再検証と同時に、医師側に対してどんなインセンティブを提供出来るかも考えておかなければ絵に描いた餅にしかなりませんよね。

地域の総合医「十分水まけば育つ」/島根(2012年01月21日朝日新聞)

◆米国での育成手法を紹介/大田で島根大シンポ◆

 日米地域医療教育シンポジウムが19日、大田市の県立男女共同参画センターあすてらすであった。アメリカの医療過疎州で地域医療に携わる総合医を育てる手法を米シアトルにあるワシントン大医学部のダグラス・パオ教授が紹介した。

 手法はWWAMIプログラムと呼ばれ、医学部を持たない近隣州から受け入れた学生をワシントン大が総合医に育てる。島根大は、県内の医師偏在を解消するのに役立てようと、プログラムに短期研修者を送っている。

 シンポジウムは、内科も外科も実習する学外キャンパス・大田総合医育成センターを大田市立病院に設けた記念に島根大が企画。約250人が参加した。

 小林祥泰・島根大付属病院長らは、プログラムを参考に総合医療学講座と育成センターを設けたいきさつを説明。パオ教授は、地域病院で長い研修を受けるこのプログラムで医療過疎州へ医師がUターンしていると報告し「水を十分にまくことで竹のように勢いよく総合医が育つ」とアドバイスした。

 地域枠推薦で島根大へ入学した医学生は「赴任希望の少ない地域では補助金を出してはどうか。地域医療実習を必修化すべきだ」などと提言した。(中村正夫)

しかし世の中を知らない学生というのは本当に扱いやすいというか…将来自分が何を言ったかを思い出してみる日も訪れるんでしょうけれどもねえ…
ま、この場合はサクラというよりも地域枠学生が死なば諸共の考えで出したコメントだったのかも知れませんが(苦笑)、本気で人材を求めるなら地域の医師として働くためのきちんとした研修制度を用意すること、そしてそれら地域の医師に対して終身教育システムも含めたきちんとしたキャリアパスを設定しておくことが最低限必要なんじゃないかと思います。
その上で求職のない地域に敢えて専門職を呼び込もうというのですから、それに見合った待遇を用意しておかなければならないのは社会常識でしょうけれども、それは冒頭の森田先生の記事などにも示されているように、単に僻地手当で給料に色をつけましたなどという話で終わってしまっては仕方がないはずですよね。
子供の教育環境なども含めて僻地勤務の問題点というのは様々なところで指摘されていますけれども、先日はこんなニュースまで出てきたことの意味を実際に僻地病院を運営する地方の自治体は噛みしめていただきたいものだと思います。

市町村病院、半数に労基勧告(2012年1月22日中国新聞)

 全国の200床以上の市町村立病院(政令指定都市を除く)255施設の少なくとも半数が、昨年3月末までの9年間に労働基準監督署から労働基準法違反の是正勧告を受けていたことが、広島国際大の江原朗教授(48)=医療政策=の調査で分かった。自治体による医師らの労務管理が十分に行き届いていない実態が浮かんだ。

 調査対象は、基幹的な市町村立病院で、事務組合立を含む。期間は、厚生労働省が医師の休日・夜間の救急外来を宿日直に当たらないと各自治体に通知した2002年3月から11年3月末まで。江原教授が各自治体に情報公開請求し、128施設(50%)の是正勧告書を入手した。勧告回数は延べ189回に上った

 勧告された違反の内訳は、最多が「労働時間の超過」150回、「時間外や深夜の割増賃金の未払い」74回と続いた。同時に二つ以上の違反もあった。

 江原教授によると、多くの市町村では病院の管理運営を担う職員が、専門外の他部局から異動してくる事例がある。このため、医療現場での適切な労務管理ができていない可能性があるという。

 例えば、医師の休日・夜間の救急外来を宿日直として慣例的に扱い、夜勤とするより人件費を抑えていたケースがあるという。

 現場の深刻な人手不足もある。県内のある公立病院長は「自治体の経営難などで、医師を増やせない。現場はぎりぎりの人数で、精いっぱいやっている」と窮状を訴える。

 江原教授は「医師の疲弊は医療ミスを誘発する恐れがある。患者の安全を確保するためにも、適切な労務管理が不可欠だ」としている。

しかし多くの医師達が「馬鹿公務員使えねえ…」と辟易とした経験があると思いますが、他業界の方などと話をしていると役人はやはり頭はいいなどと言う評価もあったりして、実際に人材格差が存在するのであればかねて漏れ聞こえる役所勤めこそ公務員のエリートコース、病院はしょせん使えない連中の掃きだめなんて噂も真実みを帯びそうですよね。
そうした話はともかくとして、かなり多くの病院がその設立母体によって特定患者層(例えば企業立病院ならそこの従業員)に対しては特別な対応を求められるという(明文化されてはいないにしても)ローカルルールを持っているんじゃないかと思いますが、公立病院の場合は言ってみれば地域住民全てが「スペ患」扱いであることも自治体病院勤務が嫌がられる理由の一つですよね。
自治体トップとすれば俺が医者を連れてきた、町立病院に24時間365日救急をやらせていると吹聴できれば次の選挙に向けた大きな得点にもなるのでしょうが、今どき「どうせ医者なんて黙っていても幾らでも送られてくるもの。とことん使い潰して当然」という認識の自治体病院からは医師の逃散が相次ぎ、後に残された病識のない連中が必死で「国は医師の強制配置を!」と叫び立てている状況でもあるわけです。
さて、素朴な疑問としてこの場合悪いのは逃げだした医者なのか、逃げ出さざるを得ないような状況を強いる連中なのかと思うのですが、供給側がこれ以上は無理だと言うのであれば需要の側をどうやって抑制するかを必死に考えていくのが当たり前のことではないかと思う一方、その当たり前の判断がつかないからこそ…なんでしょうねえ。

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コメント

同じ島根ではこういう記事もあるらしいんだが、医療崩壊に至った責任をはっきり明らかにしていいものなんだろうかw

フォーラム:どうする県西部の医療崩壊 益田でパネルディスカッション /島根
◇「医師養成の取り組み」「魅力ある街づくりを」…会場から厳しい声も
http://megalodon.jp/2012-0124-2027-44/mainichi.jp/area/shimane/news/20120123ddlk32040242000c.html
 会場からは「県や大学の広報、申し開きでしかない」「医療崩壊に至った責任が明らかになっていない」などの厳しい意見も出て、
医療問題への医療従事者や住民の危機意識の高さがにじんだ。【江田将宏】

投稿: kan | 2012年1月25日 (水) 09時07分

>「医療崩壊に至った責任が明らかになっていない」
会場の発言者が、医療に従事していない住民だとしたら(以下自主規制

投稿: JSJ | 2012年1月25日 (水) 09時31分

そのあたりの事情は明らかになってないようですけど、
>「県や大学の広報、申し開きでしかない」
こんな批判が出るくらいだから、会場は「どうしてくれるんだ!」「お前じゃ話にならん!責任者出せ!」状態だったということも十分考えられますかねえ…

投稿: 管理人nobu | 2012年1月25日 (水) 11時01分

こういう民度だから医療崩壊したんだろう

投稿: | 2012年1月25日 (水) 15時59分

>「医療崩壊に至った責任が明らかになっていない」
医療関係者が言っているのか、住人が言っているのかで全然意味合いが違ってくる言葉ですね。

投稿: クマ | 2012年1月25日 (水) 22時45分

>「医療崩壊に至った責任が明らかになっていない」
医療関係者が言っているのか、住人が言っているのかで全然意味合いが違ってくる言葉ですね。

投稿: クマ | 2012年1月25日 (水) 22時45分

この場合はどちらが言った言葉にしても地域住民に対する否定的な意味は含まれるんじゃないでしょうか?

投稿: 天 | 2012年1月26日 (木) 07時34分

医療関係者がいったのであればコンビニ受診やモンスターの存在に言及せざるを得ないし、住民が言ったのならもちろん…ということでしょうか。
島根という土地はある方面では結構濃いという噂は聞くのですが、医療に関する民度と言う点では果たしてどうなんでしょうねえ?

投稿: 管理人nobu | 2012年1月26日 (木) 10時36分

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