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2012年1月13日 (金)

医師は全てgeneralistたるべし!は確かに正論なのですが

最初に全くの余談なのですが、日経メディカルオンラインが昨年出した記事のアクセスランキングを出しているのですが、その中でもトップ10に入ったのはこちらの記事だったということです。

1位 2度の退局を経て、やっと理想の職場に(1/19)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_4

2位 「よくそれで医者になれましたね?」(8/10)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_5

3位 あなたの出身大学の国試合格率は?(3/23)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_6

4位 今年の私立医学部入試に二つの特徴(4/25)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_7

5位 一度は失敗するも、用心を重ねてベストな病院に転職(1/26)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_8

6位 医局を離れる不安を断ち切って得た充実の日々(1/4)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_9

7位 「助けるに値しない」病院含め、3病院で院長務める(8/15)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_10

8位 女医嫌いの女医(8/3)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_11

9位 米国の医学生として帰国し、母国の医療に驚き(4/21)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_12

10位 医者夫婦が離婚の危機を乗り越えるには(2/25)
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_138221_9985_13

年間何百かある記事の中でこういうのが上位に来るのかとなかなか興味深いですけれども、とりわけランキングを見ていただいても判る通り、医局人事から離れて(職場、あるいは職種をそのものを)転職するということに関わる記事が非常に大きな注目を集めていることが判りますよね。
ひと頃話題になった激務に疲れ果てての逃散であるとか古典的なドロップアウトばかりではなくて、自己実現の手段として医局人事などという他人任せのやり方では手ぬるいという前向きな考え方での転職も数多いようですが、いずれにしても共通するのは不満の多い医局人事に「我慢」を続けてもいいことはなかった、自分で自分の道を探して大満足という成功体験ばかりです。
もちろんこうした記事は取材を受けた結果記事になるわけですから、転職で失敗して人知れず消えていったという方々は表に出る機会が少ないというバイアスもあるのでしょうが、医師あるいは医療関係者が多く含まれる読者層にとってこうした記事が大きな関心を集めているというのも一つの現実だということでしょうか。

一昔前でも「黙って医局人事に従ってドサ回りを続けていれば、いずれどこかで輝く日もあるさ」的な純朴な方はさすがに少数派だったでしょうが、それでも我慢出来ないような不満でもなければまあこれも仕事だからと割り切って黙々と言われた職場で言われた仕事をこなすという先生方は相応にいたからこそ、僻地公立病院やらいわゆる地雷病院の数々も何とか生き残っていたわけですよね。
それが学生自体の進路として内科、外科といったメジャー系医局から眼科、皮膚科といったマイナー系へと主流が移っていったころからどこの医局も人事をやりくりするのに四苦八苦するようになってきた、売り手市場になったことに加えて医師自体の権利意識も高まり、医局人事で無理強いをしようものなら即医局辞めます!で組織自体が成立しないということになってしまうわけです。
とどめを刺したのが自分で各施設を比較検討し就職先を選ぶという新臨床研修制度の登場だったと思いますが、世の中のほとんどの職業で当たり前に行われてきた就職活動というものが医師の世界にも導入された影響は極めて大きく、一昔前のようにとりあえず医局に入っておけば職場探しで面倒がないからなどといったものぐさな人間は激減してしまいました。

現代の医局というところは特定の分野を極めたいだとか、大学で特別なことをやりたいといった目的意識が前提にあってはじめて積極的に選ばれるものになってきていて、そうでなければ生涯大学医局とは無縁に病院を渡り歩いて臨床に携わっていく人々が増えていくのだろうと思います。
それはそれでいいのですが、かつての大学病院に数年御礼奉公していれば黙っていても専門医受験資格が手に入る(大学病院はほとんどの領域で専門医の認定施設になっています)ということがなくなってくると、次第にあれやこれやと受験資格が面倒くさくなってきた専門医取得ということにも今まで以上に細々とした計算が必要になってくるのでしょうね。
以前から当「ぐり研」でも何度か取り上げてきた通り、認定のあり方や診療報酬における位置づけなども含めて専門医制度というものがそろそろ曲がり角を迎えているとはしばしば言われるところですが、そんな中でまた議論を呼びそうな話が出ていましたので紹介しておきましょう。

厚労省、「総合診療医」育成を検討 在宅医療の柱に(2012年1月10日日本経済新聞)

 厚生労働省は多様な病気に対応できる「総合診療医(仮称)」を育成する制度の検討に着手した。国家試験合格後、2年間の臨床研修を終えた医師を対象に、3年程度の特別な研修を課したうえで総合診療医と認める案が有力だ。
 2018年度をメドに現場に投入することを目指す。医師の専門志向が強まるなか、地域医療の現場で不足している幅広い診療能力を持つ医師の養成を進める。

専門医制度に「総合医」の位置付けを- 厚労省検討会(2012年1月11日CBニュース)

 専門医認定の見直しを検討する厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」(座長=高久史麿・自治医科大学長)は11日、臓器・疾患を問わず幅広く患者に対応できる「総合医」をめぐり関係団体などからヒアリングを行った。この中で福井次矢委員(聖路加国際病院長)は、新たな専門医制度に総合医を組み込み、普及を図るよう提言した。

 福井委員は、総合医のメリットとして、臓器・疾病ごとの専門医に比べ、複数の臓器に疾病がある患者を効率的に診療できると強調。患者に最初から専門医が対応するのではなく、まず総合医が患者を診療し、重症患者を適切なタイミングで専門医に紹介する医療体制が望ましいとの認識を示した。
 一方で、総合医をめぐる問題として、教育体制の不備や、総合医を低く評価する医療界・患者の価値観などを指摘。総合医を普及させるには、医療体制に関する国のビジョンの中で総合医を位置付けるなど、制度面での裏付けが必要だと訴えた。

 このほか、参考人として出席した日本プライマリ・ケア連合学会の前沢政次理事長も、総合医の必要性を訴えた。背景には、▽高齢者の心身を総合的に診る医師の不足▽単科では対応が難しい症例の増加―などがあるとした。

 その後の議論では、専門医制度に総合医を位置付けることに強い反対はなく、制度上で具体的にどう位置付けるかが論点になった。内科や外科など基本領域の専門医資格を取得した上で、神経内科や心臓血管外科などサブスペシャリティ領域の資格を取得する「二階建て制」の制度を提案している池田康夫委員(日本専門医制評価・認定機構理事長)が、「基本領域として位置付けるのがよいのではないか。総合医から、循環器(内科)や血液(内科)など自分が強いサブスペシャリティに進むことができる」と述べるなど、基本領域の一つにすべきだとの意見が多勢を占めた

この総合医というもの、以前からその必要性は誰しも認めるところながら実際になかなか定着してこないというのは、一つには偉い先生=何かの専門家として名の知れた人物という患者側の思い込みが「あの有名な先生に是非診てもらいたい」という専門医志向をもたらしているのだという指摘はしばしばされるところですが、基本的には医療受診に関する習慣の問題ではないかと思います。
イギリスなどを筆頭に諸外国でよく行われている制度として患者はまず家庭医としてかかりつけの総合医を受診する、その結果必要が認められた場合に限って専門医に紹介されるという二階建て構造がよく取り上げられますが、日本では医師会などの強い働きかけもあってのことでしょうか(苦笑)、いつでもどこでも患者は好きに受診していいという仕組みになっています。
逆に言えば数多の学会で指導的立場にある大先生だろうが、専門医受験資格もないぺーぺーだろうが保険診療上は同じ一人の医者として扱われるということで、一部の医師に患者が集中して疲弊する原因にもなっているとか専門医取得によって診療報酬上も差別化するべきだとか色々と言われていたものでした。
いずれにしても今中堅以上で働いている先生方のほとんどは旧来の専門分野を極め特化していくという形で育ってきた方々ですから、本来であれば何の病気か判らない初診などにかり出され不特定多数を相手に仕事をするには不適であるはずなんですが、患者からみればそういう適性を評価する物差しがなかったわけですから畑違いの専門医などの指標で代用するしかなかったということですよね。

専門医を始めspecialistとしての格付けに対するgeneralistとしての格付けに適当なものがないなら作ればいいじゃないかとは誰でも考えるところですが、今回の議論にもあるようにそれではそのキャリアをどのように形成していくべきかという段階ですでに話が割れているというのは、総合医とは専門医よりもはるかに広い領域を対象にすることになるという当たり前の大前提があります。
そもそもspecialistというのはどういうものかと言えば、例えば研究者という人間は基本的に今まで誰も知らなかった事実を明らかにするために仕事をしているということになっていますから、極端なことを言えばたかだかキャリア2~3年の大学院生であってもその領域に関しては世界最高の権威であるという言い方も出来るわけです(実際はもちろん、多くの研究は近接する関連領域にまたがって存在するものですが)。
一方でgeneralistと言うと全身あらゆる疾患を鑑別し、少なくとも一定レベルでの診療を行えなければならない理屈ですから、一つにはそうした能力は一定レベルであらゆる医師が所持しておくべきものであるという考え方があり、他方では一分野のみに特化した専門医よりも他分野に精通した総合医の方が上位概念であってしかるべきだという考え方があるということです。
もちろん概念上のかくあるべし論は十分議論すべきだとして、個人的に考えることは実際の臨床上にこの総合医という身分をどう有益に位置づけて活用していくべきかということを考えて見た場合に、今までのように総合医=何の専門性もないレベルの低い医者的なとらえ方をされてしまうのが一番よろしくないんじゃないかと思うのですよね。

今現在求められている総合医というのは単なる専門馬鹿ではない証明としての総合医という一資格に過ぎないのか、それとも旧来の専門医制度内の縦関係で成立してきた医療業界に専門医と総合医というもう一つ別な座標軸を形成するようなものであるのか、恐らく総合医を標榜してきた先生方や総合医賛成と言っている国民のイメージしているのは後者の方なのではないかという気がしますよね。
そうなるともちろん総合医的能力は全医師必須のものであり、理想的には研修医の段階である程度のレベルに達しているのが望ましいとは言え、それではまず総合医資格を基礎領域として取得させ、その上で各領域の専門医に進ませるというやり方にしてしまうと、なんだ結局総合医というのは専門医にもなれなかったダメ医者じゃないかという世間の誤解を制度的にも確定づけてしまうだけになってしまいそうです。
その点からまず最初に総合医をという意見が主導的であるというのですから少し困ったことになるんじゃないかなと危惧しているのですが、議論に加わっている人達は単なる専門医資格の一つとしてある程度generalに診られる人も資格認定しようと言うだけなのか、それとも現在の医療制度を再編していく上でも活用可能な新概念としての総合医制度創出までも視野に入れているのかですよね。
もの凄く深読みをして考えるのであれば、いつでもどこでも自由に受診できるという日本の制度は素晴らしいんだと絶讚してきた方々が、その制度を突き崩しかねない総合医という対立概念を敢えて有名無実化するために話を進めようとしている…なんてこともあり得るのでしょうか。

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コメント

池田康夫氏の「基本領域として位置付ける」という意味がよく解らなかったので、検索していたら、こんなのを見つけました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uhnk-att/2r9852000001uhp1.pdf
総合診療科(仮)を内科や眼科と並立させる、ということのようです。
となると、一体どんな医師像を考えればよいのか 現時点ではさっぱり解らない、と言わざるをえません。

投稿: JSJ | 2012年1月13日 (金) 12時33分

とりあえず存在意義不明なサブスペ系専門医のこれ以上の乱立は規制すべきと思われ

投稿: aaa | 2012年1月13日 (金) 15時36分

専門医の再編は避けられないと思いますが、誰がどんな権限で格付けをするのかが難しそうですね。
とりあえず各診療科に一つづつ+アルファくらいを中心にして基幹的なものを認定していくのでしょうか。
そもそも○○専門医だと普通の人はそれ専門にやっているんだと思ってしまいそうなので、幾らでも専門医が取れるというのもおかしなことでしょうけど。

投稿: 管理人nobu | 2012年1月14日 (土) 08時55分

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