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2011年12月13日 (火)

需給バランス崩壊は供給不足のみの問題なのか

実態を知る人間ほど「半数程度で済むか?」と思ってしまいそうなのがこちらのニュースです。

基幹の自治体病院、過半数が労基違反( 2011年12月08日キャリアブレイン )

都道府県や市町村が運営する基幹病院(200床以上)の過半数が、過去9年の間に何らかの形で労働基準法に違反し、労働基準監督署から是正勧告を受けていた―。そんな結果が、広島国際大の江原朗教授の調査で明らかになった。中には、8回にわたって勧告を受けた病院もあった。違反の理由では、時間外や休日における勤務に関する協定の未締結や、深夜や休日の勤務に対する割増賃金の未払いが多かった。

 江原教授は、都道府県や政令指定都市、市町村が運営する自治体病院のうち、地域の基幹病院としての役割を担う200床以上の施設を対象に、情報公開制度を用いて調査を実施。2002年3月19日から11年3月18日にかけて、労働基準監督署から各病院に交付された是正勧告書の数や、その内容について分析した。
 その結果、都道府県や政令指定都市が運営する病院(144施設)の55.6%に相当する80施設が、9年間で延べ130回の是正勧告を受けていた。また、市町村が運営する病院では、情報公開制度により是正勧告の有無が明らかとなった施設(224施設)のうち、57.1%に相当する128施設が延べ189回の勧告を受けていた。市町村の病院の中には、1施設で8回の是正勧告を受けていた例もあったという。

 労基法違反の内訳では、都道府県や政令指定都市が運営する病院では、時間外・休日の労使協定を締結せずに、法定労働時間を超えた時間外勤務や休日出勤をさせていた「労働時間」に関する違反が67.7%と最も多かった。また、時間外や休日、深夜労働への割増賃金を支払っていなかった違反(40.0%)、就業規則の作成や届け出の義務に対する違反(16.2%)、賃金台帳に関する違反(12.3%)などの違反も多かった(※1)。市町村が運営する病院でも、ほぼ同様の傾向が確認された。

■大規模病院であるほど、労基法に抵触しやすい傾向も
 さらに江原教授は、市町村が運営する病院について、規模別に是正勧告を受けた比率を分析。その結果、200-299床の病院では46.8%、300-399床では46.7%と、全体の平均(57.1%)を下回ったが、400-499床では65.2%と、勧告を受ける病院の割合が急増。さらに500-599床では76.9%、600床以上では86.7%と、病院の規模が大きくなるにつれて、労働基準法に抵触する割合が高まることも明らかとなった。

 江原教授は「労働基準監督署の是正勧告書は、保管が義務付けられる3年を過ぎれば廃棄しても問題はないとされている。そして廃棄されれば、たとえ情報の開示請求をしても『是正勧告書は不在』ということになる」と指摘。実際の勧告回数は、今回、明らかになった数を上回る可能性もあるとしている。

※1 一施設で複数の指摘を受けた例も含む

以前であれば「労基署に相談してもこちらが医者だと判った途端に電話を切られる」なんて話もあったほど放置されてきたこの医師の労基法違反の問題ですが、2001年に厚生省と労働省が合併して厚労省になったあたりから内部でのどういう力関係の変化があったのでしょうか、ようやく仕事らしい仕事をするようになってきている印象があります。
これと前後して相次ぐ医療訴訟と医療不信ということがマスコミなどで大きく騒がれるようになる一方で、2004年には小松秀樹先生が「医療の不確実性を等閑視したメディア、警察、検察の一方的な姿勢が、患者と医師の対立を増幅させ、やがては日本の医療を崩壊させることになる」と警鐘を鳴らし「立ち去り型サポタージュ」の危険性を訴えるなど、医療崩壊という現象に次第に注目が集まるようになったわけですよね。
天井知らずに高まる訴訟リスクの高さがとりあえずの一次診療を担ってきた地域の医療機関に救急からの手を引かせ、その結果ただでさえ多忙極まる基幹病院により以上の患者が集中することになった結果激務に耐えかねた医師達が逃散、そして地域の医療システム全体が崩壊していったという分析がありますが、これに対しては二つの解決策が考えられるでしょう。

一つは地域センターには直接患者をかからせず、地域の一次医療機関がまず初診を担当する「鹿屋方式」スタイルですが、残念ながら当の鹿屋地区でこのシステムが患者増に対応しきれず崩壊したことからも判るように不要不急の新たな医療需要を喚起し、周辺市町村からも患者が急増し担当医が悲鳴を上げて参加を辞退するということになりがちです。
これに対してもう一つの手法はERや基幹病院等の地域センターが一つ、あるいは複数施設の輪番でまず救急患者を引き受けるというやり方で、医師やスタッフも多いこれら施設であれば多少の患者増にも耐えられるだろうという考えはいいとして、大病院志向で入院期間も長い日本の施設ではセンター自体が患者を受け入れる空きベッドがないという事態に見舞われることもしばしばでした。
「ここの病院でお世話になったのだから、治るまでここの病院で」という患者の意志や「病院の強引な患者追い出し」を非難するマスコミ、そして急性期患者を日替わりで受け入れるよりは安定期患者でベッドを埋めていた方が楽であるという医療従事者双方の思惑がある意味一致した結果とも言えると思いますが、これに対して神奈川ではこんなシステムを行おうとしているということです。

急患「たらい回し」に防止策 相模原市が今月から県内初実施(2011年12月8日タウンニュース)

 重度救急患者の搬送先となる病院を速やかに確保するため、相模原市は12月1日、新ルール(通称:相模原ルール)を県内ではじめてスタートさせた。これは急患の受け入れを照会しても、満床や医師の不足などを理由に医療機関が受け入れを拒む「たらい回し」を防ぐことが狙い。新ルールでは、北里大学病院救命救急センター(南区北里)が一時的な受け入れ先となる。

 相模原ルールは緊急性に基づき、重度救急患者の受け入れを医療機関へ4回以上照会しても決まらない場合か、救急隊員が現場に到着してから30分以上収容先が見つからない時に適用される。この場合、同センターが一時的に受け入れ、必要な処置を行い、その後、当番で決められた救急病院へ搬送する。相模原市では、県が3月に「急患搬送と受け入れの実施基準」を策定した後、県内の自治体でいち早く基準を定めた。

 相模原市消防局では、「たらい回し」防止策として、同ルールに期待を寄せる一方、「あくまでひとつの決まりであり、実際の現場では救急隊員の臨機応変な対応が必要になる」と話す。昨年、市内で救急搬送されたのは2万8180人。今回のルールの対象となる重度の救急患者は526人だった。そのうち、同ルールが適用されていれば、推計で80人ほどの患者の「たらい回し」を防げたことになるという。

 「たらい回し」を防ぐには市民の意識改革も重要になる。救急車を適正利用しない人が多いことがこうした事態を招いているからだ。昨年の救急車の出動件数は3万630件。実にその半数以上は緊急性に乏しい軽症患者だったことが明らかになっている。

 同消防局では「こうした軽症患者が救急車を安易に呼ぶことが、重度救急患者の命を脅かすことにも繋がる」と指摘しており、現在、ポスターや横断幕の設置などで、適正な利用を呼びかけている。

実際にうまく行くかどうかはともかくとして、リスクマネージメントの上で町の中小医療機関が救急に手を出しにくくなっている時代にまずは高次医療機関が診断をつけ、状態のレベルに応じた医療施設に下請けに出すというのは理屈の上では合理的であると言え、搬入と搬出がうまく行くかといった様々な技術的問題がクリア出来るのであればうまいやり方ではないかと思います。
実際に地方都市などでもまずはあらゆる救急患者を引き受け、初診を行った上で他施設に引き継ぐ「ER」の整備が行われつつあると言いますから、スタッフ等の都合がつくのであればある程度の規模の医療圏においては今後このやり方が徐々に広まっていくようになるのかも知れませんね。
しかし前述の鹿野方式に限らず、全国どこでも立派な病院が整備され「これで救急も万全だ」と思っていたら、近隣からも予想を大幅に上回る患者が流入し以前よりかえってひどいことになった、しかもそれら「急患」の大半が実は軽傷者だという事例が後を絶たないのは、マスコミなどが言う「いざというときの安心への備え」が実は単に「医療が便利になった」という安易な潜在需要を掘り起こしているだけなのかも知れません。
そうした観点から冒頭の記事のような現実を改めて見直してみると、果たして患者が増えたから医療が激務を強いられているのか、それとも医療の側が必要以上に患者の利便性に配慮しすぎた結果過剰な需要まで引き出してしまったのか、なかなかに微妙な気がしてきますよね。

診療制限の病院、最多22% 医師不足深刻  /愛知(2011年12月10日中日新聞)

 県内で医師不足のため診療制限をしている病院が6月末時点で、昨年より1病院多い過去最多の72病院(22%)に上ったことが、県の調査で分かった。増加は調査開始以来4年連続で、医師不足による影響がより深刻化してきた。

 2007年から毎年調査しており、県内の全328病院から回答を得た。

 診療制限の内容は、診療科の全面休止や入院休止、分娩(ぶんべん)対応休止、分娩数の制限、時間外救急患者の受け入れ制限など。07年は診療制限をしている病院が全338病院のうち62病院(18・3%)だったが、病院数減少の影響を除いても診療制限している割合が3・7ポイント増えた。

 診療科別では産婦人科が26・9%の18病院、小児科が13・9%の17病院で何らかの診療制限をしており、医師不足の影響が目立った。診療制限をしているのは公的病院が多く、300~399床の中規模病院では診療制限の比率が65・2%と最も高かった

 県は09年度に地域医療再生計画を立て、名古屋市立大に小児科医師らを養成するシミュレーションセンターを設けたり、女性医師が働きやすい環境整備をしたりしてきた。名古屋大と名市大の医学部には、県内の病院に勤めることを前提に学費を支援する「地域枠」を設けて医師を養成しているが、卒業は最短で4年後、臨床研修を終えて現場に配置されるのは6年後まで待たなければならない。

 県医務国保課の担当者は「訴訟リスクがある産婦人科や、診療科ごとの医師数が少ない中規模病院で診療制限が目立つ。病院勤務医の増加や勤務環境の改善が不可欠で、医学部の地域枠拡大を国などに要望していきたい」と話している。 (島崎諭生)

記事をそのまま読めば医者が足りないのだな、もっと医者を増やさなければならないのだなと思えてくるものなんですが、それでは医者を集めて立派な病院を用意し、その結果さらに新たな医療需要を喚起してしまうのだとすれば、一体どこまでこの無限拡大路線を続けていくということになるのでしょうね。
現実的な問題を考えても医者を増やせばそれに見合った収入を確保しなければならない、各施設とも昨今では事務長辺りから「先生、売り上げが落ちてますからもっと頑張ってくださいよ」なんて尻を叩かれる機会が増えるでしょうが、増やしてしまった医者はそれ自体が今度はさらなる医療需要を喚起する存在になるということです。
日医など特に経営側の医療団体は何かあれば人手が足りない、お金がないと主張しますが、こうしてみると診療制限と言えば聞こえは悪いですが、むしろ今まで右肩上がりの拡大路線に走ってきた各施設が身の丈にあった適正規模の診療へと回帰しつつあると考えると、経営的にという以前に社会的に適正な規模の医療提供体制とはどのようなものなのかという検証も必要になっているのではないでしょうか。

日本の医療機関のCT、MRI普及率の異常な高さはよく知られているところですが、何かというと「日本の医者はOECD平均に比べて圧倒的に少ないからどんどん増やせ」と主張してきた某基幹病院の副院長先生あたりが、「日本の患者はOECD平均の二倍半も病院に受診している。圧倒的に多いから少しは自重しろ」と主張しているところを見ないのは何とも示唆的ですよね。
全国津々浦々まで高度の設備と多数の専門医を備えた立派な総合病院を用意し、ハコモノはこれだけ取りそろえたのだから24時間365日いつでもご利用をお待ちしていますという姿を目指すのが本当に正しい意味での医療主導による経済成長戦略のあり方なのか、医療の社会資本的性質が注目されるようになった今の時代だからこそ問い直されるべきなのかなと言う気がします。

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コメント

同じ病院でも先生によって多忙さが全く違うことがあるようですね。
失礼ながら外来に出ていてもほとんど患者さんを診察している気配もない先生もいらっしゃるようです。
給料が同じであれば仕事をしない方が楽と言えばそれまでなんですが、病院内で仕事の割り振りなどはきちんとされていないのでしょうか。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月13日 (火) 11時17分

スタッフが集まる魅力がある施設なら、使えない者は一定の年齢で肩たたきということはあるが
とくに田舎の公立病院は終身雇用に甘えた不良債権のたまり場になっているところも多いからなあ
その結果能力がありやる気もある者ほど嫌気がさして逃散していくと

投稿: kan | 2011年12月14日 (水) 09時38分

> 病院内で仕事の割り振りなどはきちんとされていないのでしょうか。

それではあなたは担当の先生ではなく、今後は「暇な医師」の外来に回ってくださいと言われたらどうしますか?

投稿: 通りすがりの医師 | 2011年12月14日 (水) 10時18分

わざわざコメントどうもです。
持病があって長年かかりつけの先生にかかっているのであれば、判っている先生に引き続き診てもらいたいと思うでしょう。
風邪など一時的な病気でかかっているだけであれば混んでいる先生より空いている先生の方がいいかなと思いますが。

同じ病院内で仕事量に明らかな差があるということが常態化しているのであれば、待遇などできちんと報いないと働くほど損をするという気持ちになってくるのでは?
一般企業であれば考課表による査定などがありますが、医師の勤務評価や給与体系には普段の仕事ぶりは反映されていないのでしょうか。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月14日 (水) 11時14分

通りすがりのただの人様へ
医師に限らずだとは思いますが、職員の勤務評価は大変難しいです。
たとえば、総合病院の外来で患者が多い医師と患者が少ない医師はどちらが優秀かということも、単純には言えません。なぜかというと、診療報酬上、外来患者を一定数以下に保つことを要求されることがあるからです。そういう観点では、外来患者をたくさん抱える医師は病院にとってマイナスとなります。
あと、一般企業でもそうですが、医師が遅くまで残業すれば手当が発生するので、経営者としては定時で帰ってもらった方が助かるわけです。

私の私見ですが、仕事量が少なく見える医師は、仕事量が少なくなるような努力をされています。仕事量が多すぎて倒れてしまえば多大な迷惑を周囲にかけてしまうわけですから、当然と言えば当然なのですが・・・

投稿: クマ | 2011年12月14日 (水) 18時00分

通りすがりのただの人様へ

仕事の合間を縫って書いたのでひどくぶっきらぼうな(けんかを売っているような)文章での返信となっていて申し訳ありません。

風邪でも心配だからとかかりつけのドクターにかかることを希望する場合が多いのも現実です。私個人は粋に感じて頑張ってしまうタイプなので、他のドクターが余裕を持って仕事をしているかどうか気にしたことはないのですが、中には不満を感じているドクターが居るのも否定しません。
病院にとっての有益な忙しさであればそれなりに評価していけるのであればいいのですが、現実的には赤字の病院も多く、また医師以外の病院関係者の「食い扶持」を確保することを考えたりすることも考えると難しいのが現状です。
おおざっぱに言って病院には入院患者と外来患者の総数および病床数で規定される医師数を確保しておかなければ診療報酬では減額となってしまいます、すなわち忙しかろうと暇であろうと、仕事が早かろうと遅かろうと、どんな状況でも特に問題を起こさないような医師であれば居てもらわなければならないたことからも、医師同士の待遇にあまり差はつけにくいという面もあります。

推敲していない文章なのでとりとめもなくすいません。

投稿: 通りすがりの医師 | 2011年12月14日 (水) 19時53分

コメントどうもです。
なんとなく状況はわかりました。
それで皆さんが満足できているのであれば何も問題ないのですが…

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月15日 (木) 09時37分

ドクターフィーを自由設定させて実質的な指名料にしようという話は以前からありますけどね。
ただ日医らの根強い反対で未だに実現する気配はありませんが。
あまりに不公平感が強く、かつ是正できない病院はスタッフも逃げ出すと思いますが、昨今では予約を絞るなどある程度本人が自主的に調節している場合もあります。

投稿: 管理人nobu | 2011年12月16日 (金) 07時26分

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