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2011年12月23日 (金)

診療報酬は予定通りの横ばい改定でした

来年度の診療報酬改定がようやく決着したようなのですが、まずは報道から引用してみましょう。

診療報酬改定:0.004%増 実質据え置き、介護報酬は1.2%(2011年12月22日毎日新聞)

 藤村修官房長官、安住淳財務相、小宮山洋子厚生労働相は21日夜、首相官邸で来年度の診療報酬改定について協議し、手術料などの「本体」はプラス1・379%、「薬価」はマイナス1・375%とし、全体では小数点以下3ケタの部分で0・004%増というギリギリのプラス改定とすることで合意した。介護報酬は、介護職員の待遇改善費を見込んで1・2%アップ。前回(09年度)の3・0%増に続き2回連続のプラスとなった。

 診療報酬は1点10円で、医師らの収入となる。10年ぶりに全体で増額改定となった前回10年度(全体0・19%増、本体1・55%増、薬価1・36%減)に続くプラスとはいえ、小数点以下3ケタでの調整は極めて異例。約40兆円の12年度見込み医療費を約16億円伸ばすだけで、事実上の据え置きと言える。プラス改定を求めた厚労省、民主党の顔を立てつつ、増額を嫌う財務省側にも配慮した政治決着となった。

 一方、介護報酬を1・2%増としたのは、介護職員の賃金を月額1万5000円上積みしている交付金を今年度末で廃止するためだ。

 12年度以降、代わりの財源(国費ベースで約500億円)は介護保険財政で賄う。【鈴木直、山田夢留】

診療報酬 0.004%引き上げへ(2011年12月21日NHK)

医療機関に支払われる診療報酬について、政府は、産科や小児科などの処遇改善に引き続き取り組む必要があるとして、来年度、診療報酬全体で0.004%引き上げることを決めました。

2年ごとに見直される診療報酬は、来年度改定されますが、厚生労働省が、医師の人件費など診療報酬の本体部分とともに、薬価・薬の価格も合わせた全体での引き上げを求めているのに対し、財務省は「物価や賃金が下がっているなかで、診療報酬を引き上げるのは、国民の理解が得られない」として引き下げるよう主張し、調整が続いていました。そして、21日夜、安住財務大臣と小宮山厚生労働大臣が、総理大臣官邸で藤村官房長官を交えて協議した結果、「民主党がマニフェストで約束したとおり、診療報酬を引き上げて、産科や小児科など過重な負担がかかっている診療科の処遇を改善することが必要だ」として、診療報酬全体で0.004%引き上げることを決めました。診療報酬全体が引き上げられるのは、前回・平成22年度の改定に続いて、2回連続となります。具体的には、医師の人件費などの本体部分は1.379%引き上げますが、薬価は1.375%引き下げられることになります。一方、3年に1度改定される介護サービスを提供した事業者に支払われる介護報酬は、人手不足が深刻な介護職員の処遇改善を、現在実施されている交付金制度ではなく、介護報酬で対応することになったことなどから、1.2%引き上げられることになりました。介護報酬が引き上げられるのは、前回・平成21年度の改定に続き、2回連続となります。

小宮山厚生労働大臣は、記者団に対し「できることなら、もう少し引き上げられればよかったという希望はある。ただ、財務省が、医師の人件費などに当たる診療報酬の本体を引き下げるよう求めていたことを考えると、民主党の意向も踏まえて、こういう形で決着したことはよかったと思う」と述べました。

安住財務大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し、診療報酬本体を引き上げることで小宮山厚生労働大臣と合意したことを明らかにしたうえで、「できれば引き下げようと思っていたが、小児科や産科などの医療の現状について厚生労働省と話をする中で、薬価が下がった分の財源の手当で充実させたほうが良いのではないかという議論になったので、私としてはそれで了解したということだ」と述べました。

診療報酬プラス改定 党主導で引き上げ 医師会圧力に押され(2011年12月22日産経ニュース)

 政府は、日本医師会などの圧力に押される形で、来年度診療報酬のプラス改定に踏み切った。民主党が「医療サービスの対価引き上げ」を先の衆院選マニフェストで唱えたとはいえ、デフレで国民の財布が冷え切る中、個人や企業に保険料や患者の窓口負担の増加を強いれば、国民に見放されるに決まっている。

 しかも、政府の行政刷新会議は「政策仕分け」で報酬全体での引き下げを提言。財務省も保険料を負担する企業や市町村の財政を懸念し、2・3%超の大幅引き下げを求めていた

 小宮山洋子厚生労働相も「(仕分け結果と)違うことを言い続けるのはしんどい」と語り、政府内の調整は「引き下げ不可避」で進んでいた

 これを押し返したのは民主党だった。医師会などが選挙支援などをちらつかせて個別議員への圧力を強化すると、前原誠司政調会長は20日、安住淳財務相に「引き上げは党として鉄板の意思だ」と迫った

 前原氏は21日も藤村修官房長官と直談判した。藤村氏は「まず政府でやらせてほしい」とその後の3閣僚会合でプラス改定を決めたが、後味の悪い結末となった。(赤地真志帆)

しかし診療報酬と言えば医師らスタッフ個人ではなく医療機関に支払われるもので、そもそもそのうちで医師の取り分はせいぜいが一割そこそこですけれども、それでも相変わらず報道では「医師らの収入」なんですね(苦笑)。
ま、結果としては総額で限りなく横ばいという大方の予想通りという形なのですが、毎日あたりにまで「小数点以下3ケタでの調整は極めて異例」と書かれてしまう事実上の据え置き(恐らく実際の報酬の内容では限りなくマイナスに近いものとなるのでしょう)というのは何とも政治的な決着だったかなという気がします。
政治的ということから非常に興味深いと思うのは、小宮山大臣が「財務省は引き下げを主張したが民主党の意向でこうなった」と党の努力を強調し、安住大臣もそれを納得して了承したというように、各報道において民主党側の意向が強く働いたということが強調されていることですよね。
産経の記事ではこの背景として「医師会などが選挙支援などをちらつかせて個別議員への圧力を強化」したことが党の強い姿勢に結びついたことを主張していますけれども、日医などという今やすっかり政治的影響力を失って久しい組織がこういう時にだけ名前が使われるというのも積悪の報いということなんでしょうか(苦笑)。

薬価が下がる一方で本体部分は多少なりとも値上げという形ですが、実際にこの改訂が医療機関にどれほどの影響を与えるかと言えば、2009年に史上最高を記録した医療機関の倒産がその後診療報酬改定の結果もあってかほぼ平年並みに落ち着いたと言いますから、マクロな経営的視点で見ればそれなりに意味があるのではないかと思います。
ただし実際には診療科の撤退や経営規模の縮小、救急受け入れ停止などは相変わらず続いていて、むしろ逃散だ、医療崩壊だと世間的にも大騒ぎになり実際に倒産件数も激増したという現実を見て、各医療機関がようやく施設や地域の実情に合った身の丈相応の経営にシフトしつつある結果のようにも思えますね。
要するに経営が安定したのは巨視的に見ればコンマ数パーセントという診療報酬増の結果もさることながら、微視的に見れば個々の施設で今まで赤字でも無理をしていた部分を切り捨てていったことも大きいとなれば、報酬が増えた、病院倒産も減った、ならば医療は今までよりも充実したとは必ずしも言えないだろうと言うことです。

分不相応な拡張路線をとった放漫経営が現場スタッフにどれだけの無理を強いてきたかを踏まえ、医療崩壊時代に至ってようやく経営側も現場の空気を読み始めたと考えれば診療報酬抑制も必ずしも現場にとっては悪いことばかりではなかったという考え方も出来るかも知れませんが、一方で国民にとっては「不景気でデフレなのに診療報酬は増えた」という記号的メッセージだけが意味を持つことは言うまでもありません。
となると、民主党が努力して診療報酬は何とか増やしましたという主張は政権側から医療の側へと責任のボールを放り出して見せたという意味だと捉えるべきであって、我々はこれだけ頑張ってきちんと公約通りにやったんですよというアリバイ作りの気持ちが0.004%という「極めて異例」の数字に現れているとも言えるでしょう。
となると、ボールを勝手に放り投げられた日医の側も我々の活動が実を結んでプラス改訂を勝ち取った!などと無邪気に喜んでばかりいられないというもので、知らない間に「報酬は上げたのになぜ医療はますます悪くなっていくんだ!」と言う国民のバッシングを一手に引き受ける立場へと追いやられてしまった我が身の不幸を十分に自覚しなければなりませんよね(苦笑)。

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コメント

薬価以外の本体部分は引き上げと言うことは、病院にとってはそれだけ収入増ということでいいんでしょうか?
さすがに今は増やすにはタイミングは悪すぎますし、減っていないというのは評価できると思うのですが。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月23日 (金) 19時14分

経営環境に関しては前年よりも悪い条件にはならないと思いますよ。
ただし現場が問題にしているのは病院の経営環境ではなく汗水垂らして働いているスタッフの労働環境ですから、これが改善するかどうかは全く別問題でしょう。

投稿: 管理人nobu | 2011年12月24日 (土) 08時33分

>日本医師会などの圧力に押される形で

さすがに産経だなあと思う記事ですね。
ちなみに以前話題になった内視鏡絡みの訴訟ですが、サンスポさんは損害賠償を命じられたそうです。

サンスポに賠償命令…医師逮捕報じた記事
http://www.sanspo.com/shakai/news/111222/sha1112220501005-n1.htm
 逮捕を報じたサンケイスポーツの記事で名誉を傷つけられたとして、男性医師が発行元の産経新聞社に
1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。畠山稔裁判長は「記事は名誉棄損にあたる」として
同社に110万円の支払いを命じた。医師は平成16年、勤務先で内視鏡検査を受けた女性にわいせつな行為をしたとして、
警視庁に強制わいせつ容疑で逮捕された。その後、女性と示談が成立。医師は起訴されなかった。畠山裁判長は
「Hドクター『手元狂った』」などの見出しで逮捕を報じた21年5月8日付の記事を「故意にわいせつ行為をした医師であるかのような
印象を与える」と指摘。「本件行為が故意によるものと認めるに足る証拠はない」として名誉棄損を認定した。
 産経新聞社広報部は「当社の主張が認められなかったことは遺憾。判決内容を詳しく検討し、今後の対応を判断する」としている。

投稿: ぽん太 | 2011年12月25日 (日) 16時32分

マスコミ報道だけ見ていると医師会ってどんなスーパーな権力を持っている団体なのかと錯覚しそうになるな

社説:診療報酬改定 配分こそが重要だ
http://megalodon.jp/2011-1226-0937-34/mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20111226k0000m070112000c.html

投稿: kan | 2011年12月26日 (月) 12時25分

とりあえず可視化しといた方が叩くには都合がいいという大人の事情があるのでしょう。
しかし今どきウハウハな開業医ってそんなにいますかねえ…

投稿: 管理人nobu | 2011年12月27日 (火) 12時36分

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