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2011年12月 7日 (水)

「無能者は不要だ」で済む話でもないので困るのですが

以前から言われながらずっと検討中という課題はいくらでもありますが、その一つが日本版ナースプラクティショナー(NP)制度とも言われる特定看護師制度でしょう。
基本的に国はこれを推進していくというのが既定の路線なのですが、その実現までには賛成派、反対派双方からまだまだ注文が多そうな気配です。

依然混迷の特定看護師制度 骨子案まとまるも厚労省の拙速姿勢に批判相次ぐ(2011年12月6日日経メディカル)

 全国紙が今年10月、特定看護師が創設されると報じ、11月には厚生労働省がその制度の骨子案を示した。しかし、法制化を急ぐ同省の姿勢に医療界からは「拙速すぎる」との批判も出ている。

 厚労省が11月7日に公表したのは、「看護師特定能力認証制度骨子(案)」。特定看護師(仮称)の創設について議論する「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ(WG)」で示された。一定の要件を満たして認証を受けた看護師が、医師から包括的指示を受け、特定の医行為をできるようにする制度だ。

 現在の保健師助産師看護師法では、看護師は医師の指示を受け、診療補助として医行為ができる。しかし、どのような医行為が診療補助に当たるのかは特定されておらず、現場では比較的侵襲性の高い医行為も行われているのが実情だ。

 認証制度では医行為を「A 絶対的医行為(行為・判断の難易度が著しく高いもの)」「B1 特定の医行為(侵襲性が相対的に高く、難易度の高いもの)」「B2 特定の医行為(実施者の裁量性が相対的に高く、高度な判断能力を要するもの)」「C 一般の医行為(行為、判断ともに看護師一般が実施可能なもの)」に分類する予定。その上でB1、B2は、認証を受けた看護師であれば医師の包括的指示の下で行えるようにする考えだ。

 厚労省は認証の要件として、(1)看護師の免許を有する(2)看護師の実務経験が5年以上ある(3)厚労相が指定したカリキュラムを修了する(4)厚労相の実施する試験に合格する─の4点を示した。なお、特定の医行為であっても、医師の具体的指示があれば、認証を受けていない看護師でも行えるようにする方針だ。

 特定の医行為の内容はまだ決まっていないが、同省は「褥瘡の壊死組織のデブリドマン」や「脱水の判断と補正(点滴)」などを例として挙げる。

 WGの座長を務める昭和大病院長の有賀徹氏は「医療の高度化、専門化が進むにつれ、医師の業務が増えており、診療において判断を伴う業務を全て医師が担うことは難しくなっている。一部の業務は、コメディカルスタッフにシフトしていく必要があるだろう」と話す。

慎重な議論が水の泡に?

 厚労省は今回まとめた骨子案を12月の社会保障審議会医療部会に示し、社会保障と税の一体改革のスケジュールに合わせ、年明けの国会には関係法案を提出したい考えだ。ところが、同省の方針に日本医師会などが反発。日医常任理事の藤川謙二氏は「現在、特定看護師の試行事業が行われている最中であり、その検証を待たずに制度化するのは時期尚早だ」と訴える。

 特定看護師の創設には反対していない委員からも、拙速との声が上がっている。有賀氏も「WGには賛成派も反対派もいるが、これまで時間をかけて意見をすり合わせてきた。厚労省から10月にいきなり『来年、国会に提出する』と言われたが、まだ慎重に話し合って決めるべきこともたくさんある」と話す。

 そもそも特定看護師については、業務拡大により医療安全が損なわれると主張する日医など、創設自体に反対する医療団体がいまだに少なくない。そうした中で、慎重に議論を進めて今回の骨子案の提示までこぎつけた経緯がある。拙速に法制化を進めようとする厚労省の対応は、今までのWGの努力を水泡に帰しかねないわけだ。

 11月18日に行われた、WGの上位会議であるチーム医療推進会議(座長:東大循環器内科教授の永井良三氏)では、日医、日本歯科医師会、日本薬剤師会などの委員が「特定看護師制度について社会保障審議会医療部会に諮ることは時期尚早であり反対」とする意見書を連名で提出した。特定看護師の創設問題に決着がつくまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。

記事中にもありますように日医は以前から熱心な反対派、医療業界全体を見回しても印象として積極的導入論者はさほど多いものではないようで、少なくとも導入にあたっては慎重にという声が主導的であるように感じますが、管理人個人としては以前から何度か取り上げているように、導入に当たって予想される数多く問題点がクリアされるならという条件下で導入賛成派です。
その根本的な理由として医療における専門職が有限である以上、なるべく専門性の低い業務は非専門職へ下請けしていくべきだという前提に立っていることで、医師は医師にしかできないことを、看護師は看護師にしか出来ないことをやっていく、そして助手や事務などパラメディカルスタッフを積極的に活用していくことが最も健全な形での「医療主導の経済成長戦略」にもかなうものかなとも考えています。
ただしその大前提として特定看護師に要求される並みの看護師よりも少しばかり高度な能力などという曖昧な概念が、例えば大学病院勤務歴○年、看護研究発表○報などという実務と縁遠いものになってしまったのでは仕方がないのですから、どのように能力を評価するのか、そもそも求める能力とは手技なのか知識なのかといったあたりを慎重に煮詰めていかなければならないでしょう。
そうした点からまだまだまとまりそうにないこの議論より、実臨床に与える影響として一番注目されるべきなのはむしろ「特定の医行為であっても、医師の具体的指示があれば、認証を受けていない看護師でも行えるようにする方針」という部分で、これは有史以来連綿と続く「それは先生の仕事ですから」問題を公式にクリアーにしていくものだと理解していいのでしょうかね(苦笑)。

ただ最近立て続けにNP反対論を勢いづかせそうなニュースが出てきていることが少しばかり気になっているのですが、例えば九州がんセンターの看護師が「注射をわざと失敗した」だの「薬を盗んだ」だのとブログに書いて炎上した事件などは、表向き「全てはストレス解消目的で書いた嘘だった」という結論になっているようですが、「またいつもの犯罪自慢か…」とため息をつかせるような話題ですよね。
少し前にも製薬会社のMRが上司の酒にハルシオンを入れたなんて犯罪行為をわざわざつぶやいて炎上していましたが、本当にこういうのを見ると「バカ発見器の最高傑作」というのも嘘じゃないという気がしてきますし、嘘だという証明もないのに本人の言う通りに嘘だとして扱うことが長い目で見て本人や社会のためになるのかどうかも考えていかなければならない時期でしょう。
この種の犯罪的行為は職業的適性がなかったと言ってしまえばそれまでなのですが、果たして適性がないのか単なる未熟なのか判断が難しいケースというのもままあるもので、先日報道されていたこちらの記事など素人目には「空気の通り道をテープで塞ぐ?それってどうなのよ?」と思えてしまうらしく、ネット上でも看護師としての基本的資質を疑う声が続出しています。

呼吸穴ふさがれ70代男性患者死亡 愛媛県立中央病院(2011年12月4日朝日新聞)

 愛媛県立中央病院(松山市)は4日、70代の男性入院患者ののどにある呼吸用のあなを看護師が過って塞ぎ患者が窒息死した、と発表した。愛媛県警は業務上過失致死の疑いで調べている。

 病院によると、死亡したのは、約10年前に喉頭(こうとう)を摘出し、のどに開けた永久気管孔(直径約2センチ)からしか呼吸できない患者で、先月中旬、脳内出血で入院し、手術を受けた。

 3日午後3時ごろ、担当の20代の女性看護師が、孔から異物が混入するのを防ぐためのガーゼの代わりに、過って粘着性のフィルムシートで孔を塞いだという。約1時間半後に看護師が男性の呼吸が止まっていることに気づき、心肺蘇生を試みたが、同日午後5時5分に死亡が確認された。

 看護師は口から呼吸できる患者と思い込んでいたため、患者がガーゼを外しているのを見て、フィルムシートを用いたという。

 河崎秀樹副院長は会見で「情報共有が徹底できていなかったことも原因と考えられる。心からおわびしたい」と話した。

県立中央病院で医療事故、70代男性死亡(2011年12月4日愛媛新聞)

 松山市春日町の県立中央病院(梶原真人院長)は4日未明、首前部に開けた穴でしか呼吸できない70代の男性入院患者に対し、看護師が3日に誤ってこの穴をシートでふさぎ、男性が窒息のため死亡したと発表した。松山東署は業務上過失致死の疑いで調べている。
 河崎秀樹副院長らは会見を開き「病院を信頼して入院されたにもかかわらず、それを裏切り、心からおわびする」と陳謝した。

 中央病院などの会見によると、男性患者は同病院で約10年前にがんで喉頭を摘出。鼻や口から呼吸ができなくなったため、肺に直結する「永久気管孔」を首前部に開けていた
 3日午後3時ごろ、脳神経外科の20代女性看護師が永久気管孔を、鼻や口からも呼吸できる気管切開による穴と思い込み、穴からの異物混入を防ごうと通気性のないフィルムシートを貼付。午後4時半ごろ、病室を巡回したこの看護師が異変に気付いた。午後3時ごろの処置後まもなく呼吸が止まっていたとみられるという。

 男性は11月15日に脳内出血を起こして松山市内の福祉施設から入院し、同17日に血腫を除去する手術を受けた。男性は左半身まひで声も出せない状態だった。

不幸にしてお亡くなりになった患者さんにはご冥福をお祈りするしかありませんが、医療関係者にしろ素人にしろ永久気管孔にフィルムシートを貼って窒息死させたなんて話を聞くと「はあ?!」なんでしょうけれども、微妙にそのニュアンスは異なりそうですよね。
ちなみに一応参考までにですが、喉に穴を開けて呼吸用のチューブを入れる「気管切開」という手技では状態が改善しチューブを抜いた後、喉に開いた穴は自然に塞がるのでそのまま放置している場合も多く、人によっては喉元に穴が開きっぱなしということがまま見られるのですが、この場合には喉元の穴からも口や鼻からも呼吸は可能ということですよね。
ところがこれと似て異なるものに手術によって空気の通り道と食物の通り道を完全に分けてしまう場合もあって、この場合の気管は喉元の穴にしかつながっていない状態(永久気管孔)ですから当然塞いでしまうと窒息するしかないのですが、一見するとどちらも喉元に穴が開いている状態には違いありませんから見た目に紛らわしいのは事実でしょう。
もちろん河崎副院長の言うように「情報共有が徹底できていなかった」ということも確かなのでしょうが、ただ思うに気管切開であれガーゼで覆うというまでならともかく、フィルムシートで孔を塞いでしまうということはあまり医療現場で見られることではなく、想像するに端を固定するだけではガーゼがよくはがされることから一面にべったりと大きくテープを貼ってみようといった感覚だったのでしょうか。

看護師に限らず研修医、あるいはある程度中堅やベテランに至っても専門外の領域などでは思いがけずとんでもないことを平気でやっているという例はまま見られるもので、例えば日常診療でもしばしば問題になるケースとして消化管閉塞症状が疑われる患者に大腸内視鏡を依頼するに当たって何も考えず通常の前処置をさせてしまい、消化管破裂で患者が死亡するといった事例が時折散見されます。
大腸内視鏡を経験された方ならおわかりでしょうが、口から肛門までつながっている一本の細い消化管で、下が詰まっているのに上からジャバジャバと多量の下剤を流し込めばどうなるか素人目にも想像すれば分かりそうなものですけれども、それではルーチンの内視鏡検査まで全例を消化器科の医者にチェックさせてから検査に回しましょうでは、ただでさえ回らない検査業務が完全停止してしまいかねませんよね。
今回の例もそもそも担当医が「孔から埃が入らないようにガーゼで覆っておけ」といった指示を出すとは考え難いところですから、これは日常臨床における看護サイドの裁量として行われていた業務の中での事故なのでしょうが、「それじゃこれから瘻孔部のケアは全部先生お願いしますね」になってしまう方がよほど困るというもので、真剣に対策を考えるほどこれは単なる一看護師の未熟では済まない話だと思えてきませんでしょうか。

十人が十人異なる人間相手の商売でイレギュラーは常に発生するものですから、もちろん関係するスタッフ全員が全ての場合に適切な対応が出来る知識や能力があればこしたことはないですが、それが実際には不可能であるからこそどうやってスタッフの教育を行っていくべきなのか、長年「仕事は見て覚えろ」で体系的な教育システムを構築しないまま個人の資質頼りで済ませてきた日本の医療業界のツケが今になって噴出しているとも言えそうです。
何しろTPPであちら式の医療が導入されようかという時代ですから、「これだから看護師に権限など与えるべきではないのだ!」などとNP反対論に結びつける以前にここら辺りもそろそろ真面目に考えていかないと「世界一だと思っていたら単なるガラパゴスだった!」と言う話で、医療もまた日本の誇っていた高機能携帯電話と同じ末路をたどりかねませんよね。

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コメント

愛媛新聞の「左半身まひで声も出せない状態」という表現が勘違いの深さと広さを語っていますよね。
まるで脳内出血のせいで声を出せないかのような書き方ですが、声が出ないのは喉頭摘出したからですよ。
記者が勝手に解釈したのなら まぁよいですが、記者に説明した「医療関係者」もそのへんのことが分かってなかったんじゃないかと、危惧します。

私も10年ちょっと前、とある病院で一人医長をしていた時に 初めて胃瘻患者を担当して、ボタン交換後に胃内に入っていることを確認せずに栄養を注入するという 冷や汗もんのことをやったことがあるので、卒後教育というのは重要だと思います。

投稿: JSJ | 2011年12月 7日 (水) 08時51分

>管理人個人としては以前から何度か取り上げているように、導入に当たって予想される数多く問題点がクリアされるならという条件下で導入賛成派です。

つまり全面的に反対なんですねわかりますw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2011年12月 7日 (水) 09時32分

>>TPPであちら式の医療が導入されようかという時代

本当に導入しようと思ったら、看護師もクラークも全然足りないし、医療費も倍はかかると思うのですが・・・

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年12月 7日 (水) 09時52分

>つまり全面的に反対なんですねわかりますw

それを言っちゃあw

投稿: kan | 2011年12月 7日 (水) 10時10分

まだ詳細は明らかでないですが、本気で暇な役立たず茄子しか取得出来ないような要件になった場合、それはそれで別な楽しみがありそうですけどね(苦笑)。
「ええっ??この程度の仕事も出来ないんですか??だってあなた認定看護師なんでしょ?」

投稿: 管理人nobu | 2011年12月 7日 (水) 10時36分

手技の能力をどう評価するかは専門医試験でも永遠の課題ですからね。
認定看護師制度からは少し外れますが、看護師においても専門医に相当する専門看護師といった制度を考えてもいいかも知れません。
受験資格に採血何例以上、点滴何例以上といった条件をつければ、「先生それ私が刺しますから!」と大学病院看護師も先を争って針を奪い合うようになったり…

投稿: ぽん太 | 2011年12月 7日 (水) 13時17分

医師国試には実技試験を導入すべきと言われているそうですが、専門医試験には実技の審査を取り入れようという声はないのですか?
自分たちがやっていないことを学生にだけ要求するのもおかしな話に思えるのですが。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月 7日 (水) 15時54分

>専門医試験には実技の審査を取り入れようという声はないのですか

専門医試験にも、診療科目によっては実技を取り入れることもあります。
麻酔科とか。

米国内科専門医試験の場合、実技なしと実技ありの比較で、結果に差が出なかったという研究を受けて、筆記試験(CBT)のみとしています。

欧米の医師資格試験や専門医試験では、実技試験といっても、スペシャリスト的なことを求める場合と、ジェネラルな実技をも求める場合とで、内容が異なります。

投稿: とある内科医 | 2011年12月 7日 (水) 18時09分

医師国家試験に実技試験を導入するって、現実的には難しいと思いますよ。
受験者全員に試験するのに、何日かかることやらw

専門医試験では、経験した症例のリストや抄録を提出することが多いと思います。
外科だと、手術記録のコピーも提出したりします。
内視鏡外科の専門医試験なんか、無編集の手術ビデオで審査してますよ。

投稿: 通りすがり | 2011年12月 7日 (水) 20時42分

コメントありがとうございます。
多人数が相手ですと手間もさることながら、統一した基準で合否を決めるのも難しそうですね。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年12月 7日 (水) 22時45分

>脱水の判断と補正(点滴)
ナトリウムをじゃかすか加えて橋を壊しまくるのですね、わかります。

投稿: kawashima | 2011年12月 9日 (金) 13時22分

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