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2011年11月 8日 (火)

日医はTPP反対 その理由がまた胡散臭いんですが…

APECでの交渉参加表明の見通しでにわかに急展開すら見せそうなTPP議論ですが、日本医師会(日医)らが再び反対のコメントを出しているようです。

公的医療保険を対象外に 医師会など3団体が声明(2011年11月2日産経ニュース)

 日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3団体は2日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加について「国民皆保険が維持されないならば参加は認められない」として、公的医療保険にはTPPのルールを適用しないよう政府に求める共同声明を発表した。

 日医の原中勝征会長は記者会見で「(公定価格で)同じ内容の医療サービスを受けられる国民皆保険は、なくてはならないシステム。TPPで風穴をあけられ、将来崩壊してはまずい」と強調。「政府は『安心、安全な医療が損なわれないよう対応する』と言うが、抽象論にすぎない」と懸念を示した。

 保険適用の診療と適用外の自由診療を併用する「混合診療」の全面解禁や、株式会社の医療参入についても、認めないよう要望した。

国民に対しての文書での約束を国に求める 日医など3師会「皆保険堅持の確約なくばTPP参加には反対」(2011年11月3日日経メディカル)

 日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は、11月2日に合同記者会見を開き、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けて見解を発表。日本医師会会長の原中勝征氏は「国民皆保険を守ることを表明し、国民の医療の安全と安心を約束しない限り、TPP交渉への参加は認められない」と述べた。

 3師会は「TPPへの参加を否定する訳ではない」と前置きをした上で、日本の公的医療保険制度を交渉対象から除外する、混合診療の全面解禁を認めず医療に株式会社を参入させないといった、日本の医療保険制度を堅持する考えを文書をもって国民に約束することを政府に求めた。

 原中氏は、TPPの議論の対象に公的医療保険制度は含まれていないとの政府の推測に対して、「楽観的すぎる。私達はTPPに参加することで公的医療保険制度が崩壊することを危惧している」と訴えた。その理由として、混合診療の全面解禁や株式会社の参入などによる日本医療への市場原理の導入を米国が求めていることや、今年3月の外国貿易障壁報告書で日本に対し営利目的の病院の参入を要求していることなどを挙げた。

 その上で、TPPの交渉次第では混合診療が全面解禁され、公的医療保険制度が自由価格での医療市場の拡大を妨げていると提訴される恐れがあると指摘。具体例として、米韓での自由貿易協定(FTA)の内容が医薬品や医療機器の還元価格に踏み込んでおり、これにより韓国の公的健康保険の基本的な構図が崩れ始めていることを示した。

 日本歯科医師会会長の大久保満男氏は、「日本の公平な医療制度は苦しい状況でも守るべきだ。いかに日本が安い価格で制度を保ってきたかを一度評価する必要がある」とコメント。また、日本薬剤師会会長の児玉孝氏は「TPPの交渉内容について不明瞭な部分が多い。もっと明確な情報が欲しい」と話した。

ま、別に日医らが認めてくれようがくれまいがTPPの議論は粛々と進められていくだけだと思いますけれども(苦笑)、とってつけたように「TPPへの参加を否定する訳ではない」などと弁解してみせずとも、日医らの本音が反対にあるということは誰の目にも明かですよね。
ネットなどで見ていても日医の言うことは全く信用されていない気配が明らかなんですが、この団体がこうまで胡散臭く見えるのも長年開業医の利権を強力に代弁してきた業界利益団体であるにも関わらず、何を反対するのにもまるで自分たちは困らないけれどもあなた達国民が困るでしょ?といった上から目線を崩さないところにもありそうで、誰だってそんな綺麗事ばかり言われても信用できませんよね(笑)。
そもそも業界利益を代弁しない業界団体など存在価値がないことは明らかなのですから、彼らの主張の背後には必ず業界内(この場合は主に開業医)の損得勘定がある、それを隠したまま日医がいくら混合診療解禁や市場原理導入で国民が困ると宣伝したところで、それなら国民はそれを納得し受け入れるならあなた達は反対する理由はないよね?と言われるだけですよね。

どこの業界でも商品なりサービスなりに付加価値をつけて少しでも高く売れるようにしようと努力している中で、一人日医がもっと安く売るべきだと主張しているのが非常に奇異に見えますが、その一方で彼らが診療報酬引き上げを要求しているというのは結果として医療の定価を高くしろと言っているわけですから、自己矛盾と言うしかありませんよね。
このからくりは彼らが患者自己負担引き上げにとことん反対し、むしろ公費を投じて自己負担を引き下げろと主張しているあたりにあるわけですが、要するに見かけの支払い単価を引き下げて顧客をますます医療漬けにした上で、公費からがっぽり儲けだけは確保しようという算段に他ならず、このあたりが世間から「国民皆保険制度におんぶにだっこでぼろ儲け」と批判される所以でもあります。
業界団体としてその主張を真っ当なものにするためには、まずTPPによって当の業界がどんな利益なり不利益なりを被るかということを明確にした上で損得勘定を示さなければならないはずで、そうした基盤があってこそ国民からも「なるほど、彼らはそういう視点で見ているのか」と納得され判断材料になり得るはずなのに、日医は正確な情報を発信するつもりはまるでない(あるいは、出来ない?)のが問題です。
試みに一般人がTPP導入後の医療にどのような未来絵図を思い描いているのかを、週刊誌の記事から引用してみましょう。

TPP参加で「自由診療」普及 金持ち用病院登場する可能性も(2011年11月2日NEWSポストセブン)

 政治家だけでなく、経済学者の間でも意見がまっぷたつに分かれているTPP。関税廃止による農業への影響はよく語られるが、もうひとつ医療への影響も大きいとの予測がある。

 TPPはモノだけでなく、「ヒト、サービス」も自由に行き来できるように、各国で統一のルールを整える。なかでも医療が大きく変わりそうだ。

 日本の医療は皆保険制度。国民全員が保険料を国に納め、国が平等に医療を受けられるように保障する。このため、医師が自由に料金を設定できる「自由診療」は、先進医療や美容手術などの場合を除き、厳しく制限されている

 しかし、これは日本独自のシステム。アメリカなどではその「自由診療」が主流だ。TPPに参加すると、各国の診療体系が同一化されるため、日本もまた「自由診療」が普及する公算が大きい。

 現在の国民皆保険制度のもとでは、治療費は国が定める範囲でしか決められないので、腕のいい医師が治療しても、腕の悪い医師が治療しても、基本的には同じ料金しかかからない。いい換えれば、腕のいい医師はあまり儲けられないシステムになっている。そのため、スーパードクターといわれる医師が、海外に流出する弊害がある。ジャーナリストの山田厚史さんはこう予測する。

「TPPが導入されると、医療の自由競争が進み、営利のために病院を経営する株式会社の参入が拡大、医師はたくさん稼ごうと思えば稼げる環境になります。これまで国内で治療できなかった難病を治せる医師が登場するかもしれません」

 しかし、「自由診療」の普及は、医療格差を広げるという。

「自由診療ばかりを扱い、保険での診療を極力避ける病院が増える可能性があります」(山田さん)

 つまり、お金のある人は医療を受けられるけれど、お金のない人は医療を受けられない病院がでてくる可能性があるのだ。また、保険での診療を扱っている病院には患者が集中する。疲弊した医師たちが自由診療を希望するようになれば、医師不足にも拍車がかかることになってしまう。こうした点から、日本医師会はTPPに猛反対している。

国民にとってはどうかということは国民が判断することとして、医療の提供側にとって大きなポイントは営利的運営も含めた自由競争の激化と、皆保険制度の破綻がどのような影響を及ぼすのかということになりそうですが、前者の視点でしばしば取り上げられるのがアメリカ系資本による病院買収が進むだろうということです。
この結果医療の内容は今まで以上に営利追求になってくると予想されていますが、多くの方々が指摘しているように同様の経営を行っているアメリカの病院では日本よりはるかに医師の収入もよく待遇も恵まれているということを考えると、新たな環境に適合すべく努力する気のある医師にとっては今まで以上に働きやすく報われる職場の選択枝が増えそうだと言うことになります。
一方で今でさえ医師不足と経営難に喘いでいる地方の中小公立病院などは今まで以上のペースで廃業が進みそうですが、そもそもそうした施設はスタッフにとってろくな環境ではなかったからこそ人材が流出していったとも言えるわけですから、淘汰されるべくして淘汰されたと言うしかありませんよね。
一方で今までお金のことを気にせず半ば趣味の医療を続けてきた先生方にとってはやりにくい局面も増えるかも知れませんが、世界一保険屋の口出しが厳しいアメリカが世界一の医療技術開発大国でもあることを思うとき、本当に価値ある医療行為であれば自分でスポンサーを見つけるなり病院と契約を結ぶなりといった努力で継続可能になってくるんじゃないかとも思えます。

むしろより直接的かつ広範な影響を与えそうなのが皆保険制度の破綻という問題で、アメリカなどの例を見れば無保険者や支払い不能者が急増する恐れが大いにあり、この場合前述の病院の営利追求化と併せて現場スタッフはどのように対応していくべきか迷うところが多々ありそうですよね。
未払い保険なり未収コストの上乗せなり何らかの形で医療側も対応を迫られそうですが、こうした対策を講じる一方でやはり皆保険という一定額の支払い担保が無くなる以上、応召義務の撤廃ということもセットで求めていかなければならないだろうと思えます(そういえば、この応召義務も下手すると非関税障壁に取り上げられそうですが…)。
一方でアメリカなどでも行われているように支払い不能者を対象とした医療機関も必要とされるでしょうが、日本の現状では地域の公立病院がその役割を担うことになると予想され、こうした施設が地雷として今以上に忌避されることになるのか、それともコスト面を考えず自由な診療を行える施設としてカルトな人気を博するようになるのかは微妙なところでしょうか。
ちなみにコスト面もさることながら窓口での支払いを巡ってのトラブルが激増しそうですが、当然ながら大きな施設ではその種の問題への担当者が置かれることになるでしょうが、医師一人でやっている零細クリニックなどは経営面以外にも新たなストレスが増えそうに思えますね。

総じて医師にとっては今まで以上に稼ぐチャンスがある一方で、今までよりもコストやサービスなど経営的な側面にも配慮しながらの診療が求められそうだということになりますが、患者側も今まで以上に医療にコスト意識を要求してくるとなれば「高い金を払っているのにこんな診療か!」と不満もたまるのは当然ですから、やはりサービス業従事者的な考え方はずっとシビアに要求されてくるでしょうね。
この部分とも関連して今までの医師の報酬体系と言えば「卒後○年で幾ら」といった横並びの年功序列的スタイルが一般的でしたが、これでは努力して良い評判を得て多くの患者を集めるほど同じ給料なのに仕事だけが増えていくじゃないか!と不満が貯まる医師も出る一方、わざと手抜き診療をして患者から嫌われれば楽して儲かるじゃないかと考える医師も出てきそうですよね。
そうした不公平感を拭うためにも出来高払いとまでは言わないにしても、努力した分に応じて各人なりに報酬が得られるような体系の整備が必要ではないかと言う気がしますが、単に医師間、施設間の過当競争を煽ると否定的に捉えるだけではなく、収入はそこそこでいいから自分はのんびり診療をしたいという道もありなのだと肯定的に捉えることも大事でしょう。
そんな調子で医療の側から見たTPPの損得勘定は他にもいくらでも考えられるのでしょうが、そうした予想をとりあえず立てた上で国民の側でどう判断すべきかと言うことになると、結局医療側からの損得勘定と国民側からの損得勘定がどこが一致し、どこが対立しているのかを見極めるということが第一歩になってくるんだろうと思います。

もちろん実際の医療がどうなるか細かいことはその場になって見なければ判りませんが、医療提供側にとっての損得勘定と国民側の損得勘定が決して対立する概念ではなく、意外に多くの局面で重なり合っているのではないかと考える根拠として、医療が高度なマンパワー集約型産業である以上は、スタッフのモチベーションこそが顧客満足度に直結する最大の要素であると言うことがあります。
医師を始めスタッフ一同やる気のある施設と、お前らよくこんな糞病院に来るなという顔をしている施設でどちらがいい医療を受けられそうかと考えてみればよいかと思いますが、幸いにも?日本では医療スタッフは今非常に不足であると叫ばれている中で、当然ながら営利を追求しようとする施設ほどスタッフを厚遇し多くの人材を集めようとすると予想されますよね(すでに現状でもその傾向が出てきていますが)。
顧客満足度を向上させようと努力し多くの集客力を発揮出来る医師はより良い条件で招かれるようになる一方、仕事なんて最低限だけ適当にやっておけばよいというタイプは次第に居場所がなくなってくると考えれば、良い病院とは良いスタッフにとっても、そして良い顧客にとっても望ましいものであり、医療の自由化はそうした業界再編を一気に促進していく原動力ともなっていきそうです。
そう考えると何も考えず言われた施設で言われた通りの仕事をしてきた古い世代の先生方には面倒くさい、気の重い話だと感じられるかも知れませんが、就職先探しから待遇交渉まで自分でやるのが当たり前になってきた今の時代の若い医師達にすれば、むしろTPP導入後の医療の方がごく自然な感じで受け止められるのかも知れませんね。

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コメント

先日、こういうニュースがありました。TPP参加で保険会社が医療機関に訴訟する機会が増えて
アメリカのように加入しいている保険の違いによって出来る治療に差がでるような時代がくるのでしょうか。

http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20111107-OYO1T00848.htm?from=main4
AIU保険、香川大を提訴

 香川大病院(香川県三木町)が適切な措置を怠ったため、交通事故の被害者に重い後遺障害が残ったとして、損害保険大手のAIU保険が同大学を相手取り、被害者らに支払った自動車保険金の半額約1億7500万円の損害賠償を求める訴えを高松地裁に起こしたことがわかった。

 訴状などによると、香川大病院は2003年9月、知人運転の車で事故に遭った20歳代女性の救急搬送を受け入れた。女性は入院後、首の脱臼が原因の手足のまひを発症。女性は知人に対して損害賠償訴訟を起こし、高松高裁で約2億2600万円の支払いを命じる判決が確定した。AIU保険は判決確定までの医療費などを含め3億4876万円を被害者らに支払った。

 AIU保険は「搬送時にまひはなかった。香川大病院が速やかに首を固定しなかったため、脊髄損傷が広がった」と主張、2分の1の負担を求めて提訴した。

 AIU保険の広報担当者は「個別の訴訟案件については答えられない」とし、香川大の担当者は「係争中で、具体的なことはコメントできない」と話した。

 医療事故情報センター(名古屋市)理事長の柴田義朗弁護士は「保険会社が医療過誤を問う訴訟は珍しい。同様の訴訟が増える可能性がある」と話している。

(2011年11月7日 読売新聞)

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月 8日 (火) 10時56分

厚労省、「専門医」の認定改善へ

医師が、特定の診療科でより高度な知識や経験を持つ場合に名乗ることが認められる「専門医」制度を見直そうと、厚生労働省が検討を始めた。それぞれの学会が認定主体で、基準も診療科ごとにばらつきがある今の制度から、新たに統一基準をつくって第三者機関が認定する仕組みに改める方針。

研修期間や手術件数などの基準は各学会が独自に決めているため「診療科ごとで医師の質にも違いが生じていた。しっかりとした養成プログラムもなく、いつのまにか『専門医』になれるケースも多い」(厚労省幹部)という。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111108/bdy11110807470000-n1.htm

なんちゃって専門医 金で買えない 
学会の裏金が~

投稿: a | 2011年11月 8日 (火) 11時39分

また官僚が新たな天下り先を見つけてきたということでしょうか…

投稿: ぽん太 | 2011年11月 8日 (火) 11時59分

持っている保険によって出来る治療に差が出るとなると、確かに今までにないトラブルが頻発しそうですね。
応召義務というものがある以上支払い能力がなくても患者は引き受けなければならないそうですが、引き受けた患者に保険適応外の治療まで施す義務はあるのでしょうか?
もしあなたの保険ではこの治療はできませんと拒否した場合、後日訴えられたりする可能性もあると思うのですが、この場合悪いのは保険会社なのか病院なのかどちらなのでしょう?

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年11月 8日 (火) 12時20分

AIUの件はまた明日取り上げます。
今のところ皆保険破綻で面倒も増えますが、うまく立ち回れば現場には相応にメリットもまたあるかなと見ていますがどうでしょうね?
ただし応召義務をどこまで要求されるかということが非常に大きなポイントになるように思いますが、誰もそれを指摘しないままただ賛成、反対と言っているのは危ないことだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2011年11月 8日 (火) 16時19分

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