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2011年11月30日 (水)

大先生、ついにブログ閉鎖へ

実に5年間、182回にも及んだという本田宏大先生のブログがこのたびめでたく終了を迎えられたということで、来る新年にとっておきたいような今年一番の吉報かも知れませんね。

【参考】5年間お世話になりました。「勤務医よ、闘え!」最終回です。/本田宏(2011年11月28日日経メディカル)

今やどんな理不尽な医局命令にも唯々諾々と従っていた時代ははるか遠くに消え去り、多くの勤務医がそれぞれの立場から戦うようになってきたことは改めて言うまでもありませんが、本田大先生の長年主張するところである「とにかくOECD平均まで医者を増やせ」論に関してはこれで一段落した形で、多くの医師達にとっての福音となったのではないかと思いますね。
大先生の場合はある意味極めて古典的な医者らしいキャラと言うのでしょうか(苦笑)、ああいう人物であるだけにテレビなどでもひと頃ひっぱりだこでしたからその主張も思いの外広範囲に滲透してしまっているようで、世の中には「医者の皆さんはもっともっと医者を増やすことを望んでいる」と思っていらっしゃる方々も多いのかも知れませんが、少なくとも医学部をどんどん新設して大増員をなんて考えている医者は多くありません。
ところが先日も産経新聞にこんな記事が掲載されていましたが、読んで見ますとただでさえアレだった大先生の見解がさらに斜め上方向に拡大解釈されているかのような、何とも微妙な空気が漂ってきていますよね。

【主張】医学部の新設 門戸広げ活性化に繋げよ(2011年11月27日産経ニュース)

 大学医学部の新設問題を検討する文部科学省の有識者会議の議論が、年内にも報告書をまとめようとしている。

 深刻な医師不足を解消し広く人材を求めるため、医学教育を見直すことは喫緊の課題である。しかし医学部は昭和54年、琉球大学に設けられたのが最後だ。30年間も新規参入がないのは、閉鎖的と批判されて仕方あるまい

 現行制度では、新設を希望する大学があっても文科省の告示で申請すらできない。学部を増やすと、中長期的な医師過剰につながるという理由だった。

 文科省は医師不足の解消策として、平成20年度から既存医学部の入学定員の臨時増を認めてきた。これまで1300人近く増員しており、「新設よりも定員増で対応しては」という意見もある。医学部を増やすと、将来医師過剰になったとき、定員を削減しづらいとの配慮からだ。

 だが、医学部は地理的に西日本に偏っており、医師不足の地域間格差を招く一因にもなっている。東京周辺の県には極端に少ない。定員増だけでは、こうした問題は解決しないのではないか。

 そもそも、競争原理の働かないところに進歩はない。新規参入により既存医学部との役割分担が進んだり、地域ニーズに応えた医師育成が実現したりすれば、医療教育全体の活性化に繋(つな)がる

 私大医学部の学費が高額なため、医師の道を断念する受験生もいる。経営の安定した大学が参入すれば学費水準が低く抑えられ、受験のチャンスが広がる。門戸開放を進めるべきである。

 高齢化で、今後は75歳以上人口が激増する。医療が多様化し、複数の医師が連携して治療を行う場面も増えてきている。医学部生がどの程度増えると医師過剰に転じるのか、新設の是非の判断には客観的なデータが必要だ。

 具体的な教育そのものを見直す視点も忘れてはならない。臨床医育成は急務だが、先端医療や基礎医学といった分野を担う大学も整備しなければ、国際競争に太刀打ちできなくなる。東日本大震災で苦しむ東北地方などで辺地の医療を志す医師も育てたい

 高度化、多様化する医療に対応するためには、医学教育もたゆまぬ改革が求められる。意欲のある大学の参入を門前払いするようなことがあってはならない

「30年間も新規参入がないのは、閉鎖的と批判されて仕方あるまい」とは他ならぬお前らマスコミが言うなと言うべきでしょうか(苦笑)、「競争原理の働かないところに進歩はない」とはいかにも医療に関して高い見識(笑)を持つとかねて定評のある産経新聞らしいなという記事なのですが、基本的にこうした意見にも部分部分で見れば一理あるとは思います。
ただこの産経の論の問題点は、彼らの主張するような競争原理が働くためには単に「意欲ある大学の参入」を認めるばかりでは駄目であって、やる気のない大学をどう淘汰するかということが極めて重要であるわけですが、彼らの言う通りただ大学を増やすばかりでは学生救済とは全く結びつかないどころか、悲惨な結果になるということがすでに先行する法科大学院の例によって証明されているということです。
誰も司法試験に合格できず学費詐欺などと言われる低レベルロースクールが社会問題化している中で、敢えてその後追いをしたいという人々が未だにいるというのがどうにも理解できないのですが、産経はぽんぽんと大学は作るだけ作らせておいて、毎年国試合格率最低の大学を一つ一つ潰していけばよいなどとお気楽なことを考えているのでしょうか?
本田氏の主張するようなOECD平均を目指して急増員を続けてきた歯学部では今や定員確保もままならないという状況で、当然ながら選択も働かないものですから入学学生の質も急降下していると言いますが、それこそ産経の言うところの「競争原理の働かないところに進歩はない」ことを実証しかねない現状を知った上でこんなことを言うのは、やはり医療業界に対して含むところがあると判断すべきなのでしょう。

産経を始めとして世の中に妙な考えを広めてしまった本田氏の罪のうちでも最大のものとは、結局医療現場の過酷さが医師を始めとする人材不足にあり、その解消法は医師増員であるという誤解を与えてしまったことで、医師の勤務状況改善を目指すはずがいつの間にか医師不足解消に話がすり替えられてしまったという現実に対する責任は問われなければなりませんよね。
例えば医師数百人を擁し研修医も幾らでも希望者があるという巨大有名病院がありますが、そうした施設のほとんどが伝統的とも言っていい勤務の過酷さ、待遇の低さでも知られてきたというのは、世の中何事も需要と供給のバランスで相場が決定されるという当たり前の経済原則一つを知っているだけでも簡単に理解出来ることです。
無論のこと、若いうちからトレーニングとして、あるいは中堅実力派がさらなる高い境地を目指すために敢えて待遇は悪くとも修行できる場を選ぶということはあっていいことですが、仮に本田氏の主張するように全国各地の場末の病院にまで医師が余るほどに供給されるようになったとして、黙っていても医師など幾らでも使い潰せる病院当局が一体どういう理由で医師の待遇改善に乗り出さなければならないというのでしょうか?
本田氏のような病院の管理者側に立つ人間にとっては幾らでも安く医者を買いたたける状況はまさしくウェルカムなのでしょうが、そうなってしまえばもはや医師側には労働環境改善を主張するだけの交渉材料もなく、「先生方、10年前は一人あたり一億以上の売り上げがあったのに、今年は8000万とは努力が足りませんな」などと医局会のたびに事務方に嫌みを言われながら安月給で酷使される未来絵図しか浮かんで来ません。

医療費抑制政策が続けられた中で病院経営が極めて厳しいものとなったのは一面の事実ですが、同時に医療崩壊とまで言われたからこそここ数年で勤務医の待遇改善を行っていかなければという機運がかつてないほど盛り上がっていることも事実であって、例えばバブルなども余所目に過去三十年にわたって横ばいだった勤務医給与がこのところ病院の経営が厳しい中でも上昇に転じたなどと言われています。
もちろん金銭的評価だけが待遇改善を意味するものではありませんが、給料が高い人間を雑用に働かせるよりも給料が安い人間を働かせた方が経営上メリットがあるのは当然のことであって、職員が伝票を張ってくれるようになったなどと言ったいじましい報告の背後に、ようやく「高度専門職には専門職にしか出来ない業務に専念してもらった方が周囲にとっても得である」という当たり前の常識が広まりつつあることが見てとれますよね。
実際にこのご時世に勝ち組病院となっているのは医師らスタッフの待遇をきっちりと守り、優秀な人材を数多く抱え込んだ施設であるという傾向がはっきりしてきたわけですから、医師の過酷な労働環境を改善するために最も必要なのはOECD、OECDと何とかの一つ覚えで連呼することではなく、スタッフを守ることも出来ない病院に患者を守ることなど出来ないという当たり前のことを実例をもって示し続けることではないかと思います。

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コメント

とっくに賞味期限切れだよこの老害は

投稿: | 2011年11月30日 (水) 22時19分

 埼玉県久喜市で119番通報した高齢男性(75)が1月、県内外の25病院から計36回の救急搬送を断られ、約3時間後に到着した県外の病院で死亡したことが分かった。久喜地区消防組合消防本部は「休日の病院との連携不足が問題だった」と話している。

 同消防本部によると、男性は1人暮らしで、同月6日午後11時25分、「胸が苦しい」と呼吸困難を訴えて119番通報。自宅に到着した救急隊員が近隣の各病院に受け入れが可能か照会したところ「医師不足のため処置が困難」「ベッドが満床」などの理由で断られ続けたという。

http://mainichi.jp/select/news/20130305k0000e040186000c.html

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 

男性の受け入れを断った病院の1つで埼玉県久喜市にある埼玉県済生会栗橋病院によりますと、男性の受け入れ要請があったとき、救急用のベッドが空いていなかったことに加え、当直の医師がほかの入院患者の治療などに当たっていたため、受け入れることができなかったということです。

遠藤康弘院長は「死亡した男性は私たちの病院に通院していた患者で、こうした事態が起きたことを重く受け止めています。

救急患者の受け入れが難しいという状況は日本全国にあり、地域の病院どうしのネットワークを強化するなどして再発防止に努めたい」と話しています。

http://megalodon.jp/2013-0306-1621-19/www3.nhk.or.jp/news/html/20130305/k10015961051000.html

講演に飛び回る暇はあってもかかりつけの患者を引き取ることも出来ないらしい

投稿: たらいまわし事件の真相 | 2013年3月 6日 (水) 16時25分

なんだ本田センセのとこがかかりつけだったんですか
センセが医師不足を主張する根拠がまたひとつ増えたわけだ

投稿: amazingpig | 2013年3月 6日 (水) 21時16分

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