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2011年11月 9日 (水)

ついに保険会社まで… 日本もアメリカ型の訴訟社会に?

ここまでコテコテですと思わず「大阪か!」と突っ込んでしまいたくなるようなニュースが、東京から出ていました。

「妻の手術ミス認めろ」「街宣活動もできるんだぞ」 医師に脅迫容疑で暴力団関係者逮捕/東京(2011年11月2日産経ニュース)

妻(51)が受けた手術に絡んで医療ミスを認めるよう迫ったとして、警視庁城東署は、脅迫の疑いで、東京都江東区北砂、指定暴力団山口組系組関係者、礒辺末記容疑者(70)を逮捕した。同署によると、「言っていない」と容疑を否認している。

 逮捕容疑は7月中旬と8月上旬、江東区内の病院で股(こ)関節の手術を受けた妻の経過が良くないことから、執刀した男性医師(67)と助手の男性医師(64)に対し、それぞれ電話で「医療ミスを認めろ。若い衆が黙っていないぞ」「必要もない手術をしただろう。病院に街宣活動もできるんだぞ」などと脅迫したとしている。

 同署によると、礒辺容疑者は5月から8月にかけて、2人の勤務先の病院や自宅に電話したり、自宅に出向いたりして20回以上クレームをつけていた

この場合容疑者がなぜ担当医の自宅を知っているのかが気になるところで、まさか病院側が教えたということであれば大問題となるところですが、しかし執刀医が67で助手が64ですか…日本一医者が集まると言われる東京でも実際にはこんな感じなんでしょうね。
ただこの種のモンスターなどとも呼ばれる社会的にも問題あると認識され得るような個人への対処に関しては、医療現場においてもようやくきちんとした対策が講じられつつあるところで、組織としての対応策が確定してしまえばそれほど大事にはならなくはなってきているようです(今回の場合はそのあたりがまだまだだったのでしょうけれどもね…)。
しかし一方で以前からそうしたことが行われれば困ったことになるだろうなと言われていた問題が現実に発生してみると、やはり困ったことになったなと感じさせられるのがこちらの訴訟です。

保険会社 後遺症で病院を提訴/香川(2011年11月7日NHK)

8年前に、香川県で起きた交通事故で大けがをした女性に、病院が適切な治療をしなかったため後遺症が残り、多額の保険金を払うことになったとして、損害保険会社が、病院を相手取って、1億7000万円余りの支払いを求める訴えを起こしました。

訴えを起こしたのは、外資系の損害保険会社で、東京に日本支社がある「AIU保険」です。訴状などによりますと、平成15年9月、香川県坂出市の高松自動車道で起きた乗用車の自損事故で、けがをして香川大学医学部附属病院で手当てを受けた当時20歳の女性に重度の手足のまひが残ったということです。この事故を巡って、AIU保険は「病院がすぐに女性の首を固定せず、適切な治療をしなかったため、後遺症が残った」として、病院を相手取ってAIU保険が払ったおよそ3億5000万円の保険金の半分に当たる1億7000万円余りを支払うよう、ことし4月、高松地方裁判所に訴えを起こしました。訴えについて、香川大学医学部は「係争中なのでお答えできない」と話しています。医療過誤の問題などに取り組む「医療事故情報センター」の柴田義朗理事長は「治療を巡り、保険会社が病院側を訴えるのは、あまり例がない」と話しています。

AIU保険、香川大を提訴/香川(2011年11月7日読売新聞)

 香川大病院(香川県三木町)が適切な措置を怠ったため、交通事故の被害者に重い後遺障害が残ったとして、損害保険大手のAIU保険が同大学を相手取り、被害者らに支払った自動車保険金の半額約1億7500万円の損害賠償を求める訴えを高松地裁に起こしたことがわかった。

 訴状などによると、香川大病院は2003年9月、知人運転の車で事故に遭った20歳代女性の救急搬送を受け入れた。女性は入院後、首の脱臼が原因の手足のまひを発症。女性は知人に対して損害賠償訴訟を起こし、高松高裁で約2億2600万円の支払いを命じる判決が確定した。AIU保険は判決確定までの医療費などを含め3億4876万円を被害者らに支払った

 AIU保険は「搬送時にまひはなかった。香川大病院が速やかに首を固定しなかったため、脊髄損傷が広がった」と主張、2分の1の負担を求めて提訴した。

 AIU保険の広報担当者は「個別の訴訟案件については答えられない」とし、香川大の担当者は「係争中で、具体的なことはコメントできない」と話した。

 医療事故情報センター(名古屋市)理事長の柴田義朗弁護士は「保険会社が医療過誤を問う訴訟は珍しい。同様の訴訟が増える可能性がある」と話している。

AIU保険:女性患者巡り、香川大を提訴/香川(2011年11月7日毎日新聞)

 香川大医学部付属病院(香川県三木町)に救急搬送された女性患者を巡り、損害保険大手のAIU保険日本支社(東京都)が「適切な措置を取らなかったため重い後遺症が残った」などとして同大を相手取り1億7438万円の支払いを求める訴訟を高松地裁に起こした。

 訴状によると、同病院には03年9月、知人の運転する車に乗っていて事故に遭い、負傷した女性が運ばれた。女性は入院した日の夜、手足などに搬送時にはなかった重いまひが見られるようになり、知人を相手に提訴。2億2575万円の賠償を認める高松高裁判決が確定した。知人の車に保険が掛けられていたAIU保険は、賠償金や治療費など3億4876万円を払った。同保険はこのうち半分について、「付属病院が速やかに首を固定しなかったため、脊髄(せきずい)損傷が広がった」として過失を指摘し、負担を求めている

 香川大医学部総務課は「係争中のことで具体的なことは答えられない」と話している。

 AIU保険日本支社は「法廷のみで事実を明らかにしたいのでコメントできない」と話している。【広沢まゆみ、鈴木理之】

これは全くの個人的偏見というものですけれども、かねて癌保険などでもトラブルになるのは何故か決まって外資系保険会社であるという印象を持っていましたが、今回の件も最初に来たのが外資系ということを聞いて正直「やはりそうなったか…」という気がしています。
そうした偏見はともかくとしても、以前にも精神科を退院した患者が殺人事件を起こし、病院側が事件の被害者から訴えられるという「いわき病院事件」なども取り上げましたが、あの事件にしてもかなり特殊な状況とは言え精神医療に大きな影響を与えずにはいられないだろうと騒ぎになったものでした。
今回は保険会社の側が治療ミスで大きな障害が残り多額の保険金支払いという損害を被ったから病院も半分負担しろということなんですが、以前から言われているようにこの交通事故絡みのトラブルというのは非常に危惧されていたところで、例えば人を轢いて死なせてしまった運転手が「過失致傷ではなく過失致死になってしまったのは病院の医療ミスで被害者が死んでしまったせいだ」なんて訴えるパターンも考えられるわけですよね。
保険会社と言えば当然に医療上の問題点に関して様々な助言を行う医師を抱えているでしょうから、今回の訴訟にしても十分に勝算があると踏んで訴訟にしているのでしょうが、ここでも有名な加古川心筋梗塞事件のような「完璧な対応が出来ないのなら決して患者を受けてはならない」というJBMが新たに確立してしまうのかと危惧されるところです。
判決の行方がどうなるにせよ、昨今ただでさえこうした重大外傷患者は搬送の引受先を探すのにも四苦八苦しているというのに、寝る間も惜しんで必死に治療しても今度は世界を股にかける巨大資本と争わなければならないリスクも出てくるということであれば、わずかでも完璧な対応に不安を感じる施設や先生方が無用なリスクを冒してまで引き受けるつもりになるかと言うことですよね。

何でもとりあえず訴訟という流れが医療をどれほど歪めてきたかは今更言うまでもありませんが、実のところ社会全体で見てもそうした傾向は近年顕著になってきているようで、例えば先日は京都のシステム開発会社で社員が辞めたいと申し出たところ「辞めるなら損害賠償請求するぞ」と脅され、実際に退職後に2000万円の賠償請求訴訟を起こされたというびっくりするような事件がありました。
この事件に関しては元社員の側が「残業代を支払っていない」と会社を逆提訴した結果、会社側の請求は全て棄却され残業代その他として1100万円の賠償を命じる判決が出たことで一応一件落着した形ですが、そもそも辞めるなと脅迫めいたことを言うまでならまだしも、実際に巨額の賠償金を求めて辞めた社員を訴えるなんてことはちょっと考えられない話ではないかという気がします。
ただご存知のように例の新司法試験導入以後世間ではすっかり弁護士余りのワープア化などと話題になっている有様で、当然ながら彼らも食べていくためにはあちらこちらへ営業活動を仕掛けていくしかないでしょうから、今後この種の訴訟は増えることはあっても減ることはちょっと考えがたいですよね。
医療訴訟などにおいてもかつてはとりあえず弱者救済的判断が多かったものが、JBMなどと言う言葉が生まれ医療崩壊の主原因の一つとしてトンデモ判決が大きく取り上げられるようになってから司法判断もずいぶんと変わってきたという声がありますが、社会が崩壊してしまってから対応を考え直すよりは崩壊する前に考え直して欲しいというのが国民の偽らざる心境ではないでしょうか。

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コメント

AIUの国元 アメリカのドラマを観てると、救急車に乗せる時点でネックカラーを嵌めるのがデフォですもんねェ。
その感覚で言うと、日本の現状は「非関税障壁」なのかもしれません。

ところで、保険会社から訴えられた場合、病院なり医師個人なりの賠償責任保険は対応してくれるのでしょうかね?

投稿: JSJ | 2011年11月 9日 (水) 08時59分

この訴訟の救急の現場に与える影響が心配ですね。加古川病院心筋梗塞訴訟並のインパクトがあると思います。
また「たらい回し」の報道が増えないか心配ですね。命は助かったけど不幸にも障害が残ったケースなわけですが、
もし仮に救命出来なかったら、これほど多額の保険金も発生しなかったので訴えられなかったのではないかと
思われるのですが いかがでしょうね。がんばって救命したのに障害が残ったからと訴えられていたら馬鹿らしくて
救急医療に手を出す病院がますます減ると思います。

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月 9日 (水) 09時24分

今回はAIUという外資系の医賠責をあつかっていない保険会社ですが、今後国内の損保会社が同様の訴えをした場合、訴訟をして勝ったとしても、その分の支払いは医賠責保険から、ということであれば、結局お手盛りで、損保会社はプラスマイナスゼロってことにならないんですかねぇ。

その辺、アメリカさんはどうなってるんでしょう。

投稿: | 2011年11月 9日 (水) 10時31分

>>その分の支払いは医賠責保険から、ということであれば、結局お手盛りで、損保会社はプラスマイナスゼロってことにならないんですかねぇ。

今まで個人で医賠責に加入していなかった医師、多くは病院勤務医が医賠責に加入するようになれば需要の掘り起こしが出来るので
オイシイのでは? 私も今までは個人では医賠責に加入してなかったのですが、これからの時代 病院が必ずしも勤務医を守って
くれるとは限らないので個人で加入しています。

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月 9日 (水) 10時39分

老婆心ながら医賠責を病院任せと言うのは危険ですよ。
東京女子医大事件でも医師と病院の立場の対立が問題になっています。

投稿: ぽん太 | 2011年11月 9日 (水) 12時48分

医師賠償責任保険って団体加入が基本だったと認識しているのですが、個人加入できるのでしょうか?
私はそういう団体に所属していないので、どうしようかと思っているところなのですが。

投稿: クマ | 2011年11月 9日 (水) 14時09分

クマ様、医師賠償責任保険は日本医師会のもの、各学会のもの、民間医局のものが有名ですね。
私の場合、病院の勤務医なので日本医師会には入会していません。で、民間医局の医師賠償責任保険に
加入しました。http://www.doctor-agent.com/da/member/service/insurance
ちなみに入ったのは、タイプD 46,710円/年 1事故2億、保険期間中6億までのコースにしました。

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月 9日 (水) 14時25分

今回の請求金額を見ても、上限1億じゃもう気休めにもならないな

投稿: aaa | 2011年11月 9日 (水) 15時27分

保険会社も医者を敵に回して長期的にはいいことはないと思うのですが…
まあ裁判の行方とともに世間の反応も注目していくしかないのでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2011年11月 9日 (水) 20時49分

ひところ毎日新聞不買運動が盛んでしたが、こういうことを言う保険会社からの依頼はやはり断りたくなるものなんでしょうか?
患者の側にとっても選ぶべき保険会社があるということなんですかね…

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年11月10日 (木) 11時08分

保険会社に意趣返しするとしたら、診断書をできるだけ審査に通るように書く、ということになるから、患者にとっては望ましいことかも。
でも、それでAIUの保険金支払いが実際に(以下ry

あとは、裁判の時にAIU側証人にはならない、とか かしらん。

投稿: JSJ | 2011年11月10日 (木) 12時17分

浪速の勤務医様、情報ありがとうございます。とはいえ、民間医局に個人情報を提供するのは何となく抵抗が(汗)

通りすがりのただの人様へ
直接断るのは難しいでしょう。
あとは、保険会社によって診断書の作成料金に差を付けるとか、保険会社から主治医面談を希望されたときの料金を高めにするということは考えられます。

投稿: クマ | 2011年11月10日 (木) 13時26分

とある地域で似たような支払い拒否が重なった事があって、その時はさすがに以後そこの診断書には良い事しか書かないようにしたな…

投稿: aaa | 2011年11月10日 (木) 14時30分

クマさんへ
医師賠償責任保険は個人でも加入できますよ。ただし、団体割引ではないぶん、保険料が割高です。たしか対人1件1億で5万円余。

私は今は、所属学会の団体保険で加入していますが、その前は個人で加入していました。

投稿: JSJ | 2011年11月10日 (木) 15時41分

JSJ様、情報ありがとうございます。
実は以前、自動車保険をお願いしている代理店の店長さんに医師賠償責任保険について相談したことがあります。
その時の返事が「当社では団体加入しか受け付けていないようです。そもそもこの保険は割に合わなくてボランティアみたいなものらしいので……」でした。ですので、あきらめていたのです。
ちょっといろいろ調べて見ます。

話は変わりますが、保険会社の診断書って共通の書式にしてくれないものなのでしょうかね?
書式を統一すれば保険会社にとってもメリットがあると思うのですが。

投稿: クマ | 2011年11月10日 (木) 16時14分

書式統一して一枚で済めば医師にも保険会社にも患者にも良いのでしょうが、文書料が減ると病院は嫌がるのでしょうね。
その辺りの感覚は多分、勤務医と開業医で違うという部分なのでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2011年11月10日 (木) 21時30分

書式が統一されても保険会社ひとつに対して一枚証明書が必要なので文書料は減らないのでは?
しかし、外資系の保険会社の入院証明書はやたらと記載項目が細かくて書くのが面倒ですね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月11日 (金) 07時41分

保険会社の内規がどうなっているのか知りませんが、昨今では医師の証明書、診断書を求めず、病名や入院期間、術式を教えてくれという患者も増えているというのですね。
つまり保険会社としてはモノとしての診断書が必要なのではなく、情報があればよいだけなのだとすれば、一枚の診断書を使い回して確認すればいい、せいぜいがコピーを保管する程度で済むのでは、ということです。

投稿: 管理人nobu | 2011年11月11日 (金) 08時45分

入院期間と病名なら退院時に退院証明書を渡していますし、手術については必ず同意書をいただいているので
同意書のコピーをみていただければいいだけです。それで保険会社が納得していただけるなら書類仕事が減ってうれしいのですが
最近は 昔と比べて面談での説明を求める保険会社が増えているような気がします。いろいろと誘導尋問みたいな質問をしてきて
病気を隠して契約したことにしたいようです。昔と比べて保険に加入するときの審査は甘くなっているのに、支払いの時は
厳しいというのはなんとも・・・

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年11月11日 (金) 10時50分

>昔と比べて保険に加入するときの審査は甘くなっているのに、支払いの時は厳しいというのはなんとも・・・

残念ながら保険屋の基本でしょう。
支払いの渋さなども情報開示していただかないと、国民も加入時の選択に困ると思うのですが…

投稿: ぽん太 | 2011年11月11日 (金) 18時35分

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