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2011年11月15日 (火)

なんだか医療政策がまた迷走している…?

そういえばそんな話もあったなと思い出さされるのが先日出ていたこちらの記事ですが、今もまだそんなことを言っているというのがむしろ驚きでしょうか。

震災と原発騒動で下火となった医療ツーリズム 経産省の秘策、“医師の輸出”で復活なるか(2011年10月27日週刊ダイヤモンド)

東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故で、メディカルツーリズムはすっかりトーンダウンしてしまったが、海外進出による方法ならば、まだまだ可能性はある」――。
 こう語るのは、ある有名大学病院の院長だ。

 メディカルツーリズムとは、健康診断や手術など良い医療を求めて患者が国境を越えて移動する“医療のための旅行”だ。
 近年、日本でも「自由診療のために、病院の収入増に結びつく」(首都圏の民間病院院長)として、中国やロシアなどの外国から富裕層の患者を受け入れようとする動きが活発化していた。経済産業省も、産業振興の観点から外国人患者の受け入れのための調査事業などを実施し、音頭取りをしてきた経緯がある。
 しかし、3月11日の震災以降、来日する外国人患者は激減し、一気に下火になってしまった

 ところが、冒頭のコメントにあるような日本の医療機関や医師の海外進出という方法の転換で、復活の芽が出てきている
 つまり、組織的に日本の医師を海外に派遣して最先端の診断や治療を行って、外貨を稼ぐ──という“医師の輸出”であり、現在、経済産業省を中心に事業が進められているのだ。
 具体的には、同省の「医療サービス国際化推進事業」の一環。
 主に中国やロシアなどの高度医療を受けられない外国人患者への医療サービス提供によって、日本の医療産業の発展を図るのを狙いとしたものだ。従来の産業政策のような単なる医療機器や医薬品の輸出にとどまらず、実際に診療拠点を開設して日本の医師による治療や診断などの医療サービスを行うのが特徴だ。

 現在、野村総合研究所が事務局となって、今夏から中国やロシア、カンボジアなどで内視鏡を用いた診断や手術のほか、IT技術を駆使した遠隔画像診断などの6つプロジェクトの実証実験に入っている。各地の有名病院の医師や院長らにも協力要請やヒアリングが行われており、計画では、来年2月末までに報告書がまとめられる予定だ。
 これら報告書を基に、経産省では、より踏み込んだ医療の国際化政策を策定する計画だ。

 もっとも、難民などを相手にした人道的な医師の派遣ならいざ知らず、外国の富裕層を相手に、日本のベテラン医師を派遣することについて、医療界では賛否両論があるのが実情だ。
 賛成論としては「日本の高度医療に光が当たり、日本の医療産業と医師の海外経験が増して技術力向上にもつながる」という意見がある。
 その一方で、日本医師会をはじめ「医師不足や医療崩壊が問題視されるなか、外国の富裕層相手に貴重な医師を派遣することは(おカネを積めば、高度な医療を受けられるという)医療格差に拍車をかける」との批判も根強い

医師は日本国民にとっても、貴重な“資産”であり、“インフラ”でもある。それだけに“医師の輸出”となれば、議論は簡単には収束に向かいそうにない。

しかし医師が国民の資産でありインフラであるというのであれば、そもそもその採算性がどうこうと言われること自体がおかしいという考え方もあって、例えば警察や消防がどこでも大赤字だ、これは大問題だなんて声は全く上がらないことに比べてどうなのよ?ということですよね。
まあそういったそもそも論や、医師輸出計画の成功確率はどの程度かと言った話は置くとしても、他の話が全部潰れた後で唯一残ったのが医師輸出計画では、いったい国は何を考えているのか、もう少し国民の足下を見た政策を考えろと言った声も大いに出てきそうですよね。
実際に今も各地から国が主導しての医療政策を求める声が幾らでも上がっていますが、少なくともその中心に医師輸出計画を据えるべきだなどという賛同の意見は全くないようです。

医療政策国が枠組みを 病院や行政意見交換会 /島根(2011年11月13日読売新聞)

病院や行政意見交換会

 県内の医療の実情を国政に反映させるための意見交換会が12日、出雲市のビッグハート出雲で開かれた。民主党県連の主催で、医療従事者や自治体の担当者らが出席。出席者からは中山間地域や離島を中心にした医師不足などが指摘され、医療政策の明確な枠組みを作るよう国に求める意見が相次いだ。(矢沢慎一)

 県の中川正久参与(病院事業管理者)は、医師・看護師の確保への支援のほか、電子カルテ整備、高度ながん診療機器の活用への助成など、2009~13年度に県が行う計約88億円の地域医療再生計画を説明。「医療について国が基本的な枠組みを整備しないと、市場原理主義に流されてしまう」と危機感を示し、国に明確な医療政策を求めた

 隠岐病院(隠岐の島町)の小出博己院長は、夜勤ができる看護師の不足や、常勤薬剤師が1人のみの現状のほか、島根大からの産婦人科医派遣が04年に中止されて以降、助産師による外来設置や県立中央病院からの医師派遣などでしのいでいる実情を報告。「地元での治療や出産を望む島民は多く、医師確保などで国レベルの支援を」と述べた。

 医師不足に悩む公立邑智病院(邑南町)の石原晋院長も「救急車は断らず、地域の医療施設との連携を深め、ドクターヘリを活用するなど工夫しているが、地域全体で医療従事者の不足が深刻」と指摘。国が医師の配置を強制的に行える法制度の整備を要望した。

 意見を聞いた民主党厚生労働部門会議副座長の梅村聡参院議員は「適切な医師配置ができる判断基準や労働条件、地域に根ざした総合医の育成などを早く検討したい」と語った。

民主党主催でこういう会を開くというのも結局は「現場はここまで医師強制配置を望んでいる!」という言質を取るのに使われているということなんでしょうが…ま、同じ日本国の医師免許を持っていても立場は人それぞれ、考え方も人それぞれですからね。
しかし地域医療の現場にとっては「我々の土地ではこんなに医者がいないんだ!外国に医者を送り出すなんてとんでもない!」というのも率直な意見でもあるでしょうし、地方で医師不足に喘ぐ公立病院などは国が主導して医師を地方に強制配置する仕組みを作れ!なんて物騒な意見も昨日今日出てきた話ではありません。
しかし考えて見るとこの医師の地方強制配置論というもの、配置される側の医師にとっては見ず知らずの土地に送り出されるということでは海外輸出と何ら変わりのない話で、それならば海外富裕層を相手にお金の心配もなく好きな医療を追求出来る方が良いのか、それとも失礼ながら下手すれば心の僻地などと言われる地域に強制配置されてやりたくもない仕事を押しつけられるのが良いのか、案外考えどころですよね。
そう考えると医師輸出計画などというのも働く立場にしてみればそう悪い話でもなく、むしろ僻地強制配置などということが実現すれば合法的かつ国のバックアップを受けて国外脱出を図るには良いシステムではないか…なんてことを考え出す先生方が出てきても不思議ではないようにも思います。

他の様々な政策と同様に医療政策というものもこのように、誰がどんな立場で考えるかによってその評価が全く変わるということは今更言うまでもない話で、例えば研修医集めに四苦八苦している基幹病院管理職を務めるような先生にとっては安く幾らでも医者が買い叩けるような医者余りの未来図というのは極めてウェルカムであるわけですよね。
民主党は長年冷遇されてきた医療業界を立て直すということを選挙の中心命題に据えて大きな支持を集めたという背景もあるのですから、当然ながら彼らの主張していた医療政策がどうなったかということには多くの関心が寄せられるわけですが、今のところさほどに劇的な変化があるわけでもないと感じている人間が多いのではないでしょうか?
もちろんこうした政策の成果が実感出来るのは一年、二年と言った話では全く駄目で、ある程度長期的に見ていかないと判断出来ないということも確かなんですが、先のTPP交渉参加に関する議論に見られる日医の慌てぶりなどを見る限りでも実はそろそろ「あれ?こんなはずじゃなかったのに…?」と失望感が広がりつつあるのも確かなようなのですね。
そんな中でまたぞろ火に油を注ぐようなことを…と思わずにはいられないのが、先日前原氏の口から唐突に飛び出したこんな意見です。

医療・介護制度見直しを…前原氏、歳出削減強調(2011年11月13日読売新聞)

 民主党の前原政調会長は13日、兵庫県西脇市内で講演し、社会保障・税の一体改革に関連して、「医療や介護制度を見直さないと、社会保障の財源となる消費税の税率に上乗せされる。税率がいくらあっても足りないので、問題点を精査しながら、持続可能な制度設計をしっかりと進める」と述べ、社会保障の歳出削減を進める必要があるとの認識を示した。

あれれ?医療・介護主導で成長戦略を描くなんて言っていたのは当の民主党だったはずなんですが、これはいったいどうしたことなのかと思うような発言で、政府としても前原氏個人の見解と言う事で黙殺するのか、それともかねてささやかれているように再び医療冷遇の時代に戻らざるを得ないという認識が政府与党内でも台頭しつつあるのか、もう少し続報を待ちたいところですよね。
ただ一般論としてもちろん歳出削減をより一層進めていく必要があるのは言うまでもないことですが、国際的に比較してもことコストパフォーマンスという点では非常に高い評価を受けている日本の医療から更に多くの金が絞り出せるかと言えば、乾いた雑巾をさらに絞り上げるようなものであまり効率の良い話とも思えません。
もちろん介護領域にしてもあまりの低賃金にこれだけ需要も大きく必要性も叫ばれているにも関わらず超絶的な人材不足が続いているくらいですから、これまた現状以上に絞り上げれば地域の介護システムそのものが崩壊しかねず、結果として在宅介護などで家族は外で働くどころではないという状況が加速してしまいますよね。

そんなこんなで医療業界の一般的反応としては「は?何言ってるのこの人は?」とずいぶんと否定的な声が圧倒的なようなんですが、個人的意見としてはいきなりまた削減というのはさすがに空気読めだとしても、中・長期的に医療費に抑制をかけてある程度上限を設定していくという考え方は必ずしも反対というわけではありません。
ご存知のように日本の医療は何かと夢見がちな日医などを筆頭に「命は地球よりも重い」を馬鹿正直に固守して、お金のことで医療格差が生じるなど以ての外、どんな貧乏人でもお金持ちと同じ医療をというタテマエが徹底されていて、日本では生活保護受給者が最も良い医療を受けられる…なんて陰口まで叩かれているくらいです。
もちろん理想主義的考え方としてはそれは立派なことだったと思いますが、現実問題として右肩上がりの経済成長が終わった後の時代になっても顧客側の要求に無制限に応じる形で医療の質的、量的拡大を続け、アクセスも改善していくということでは、医療リソースをどこまで巨大化させていっても需要に追いつかないということになってしまいますよね。
海外では例えば保険による人工透析に年齢制限を設けているところは少なくありませんし、「寝たきり老人など一人もいない」と絶讚される北欧諸国のように「自分で食事が取れなくなれば一切何もしない」という割り切りが徹底されている国々もあり、誰にでも安価に提供される医療はここまで、これから先は希望があれば自費でやってくださいというスタイルがむしろ一般的であるわけです。

要するに日本ではどんな人間にも医療に格差をつけてはならないというタテマエが滲透してしまった結果、24時間365日どんな僻地であろうとも直ちに専門医による高度な医療を受けられるべきだと考える国民が続出し、マスコミなどでは全国民にその機会が均等に保証されるのが当然であるという妙な考えまでが「常識」のように語られてしまっているわけですよね。
あるいは何年も寝たきりで拘縮しきっているような老人にも「出来ることはなんでもしてあげてください」の家族の一言で超絶濃厚医療が施されたりする、やはりそこは社会資本の適正な配分として見ても本人のためになる医療という考えからしてもおかしいし、格差がないことがその異常性を増強してしまっていると言えるでしょう。
お金で医療を制限すると言えば何やら一方的に悪いことのように日医などは主張しますが、「あそこの家族はろくに病院にも掛からせないで死なせた」などと陰口を気にするあまりに寝たきり老人が急性期基幹病院のベッドを占有しているなどというおかしな現実を思えば、むしろある線から先はあくまで任意でという形で金銭的に線引きをしていった方が社会正義にかなうように思いますけどね。
このあたりは同様に人の命が関わる領域でもある自動車保険における強制と任意の使い分けなどが参考になるところかも知れませんが、最低限これは必要という部分はもちろん全国民に義務的に担保されていなければならない、しかしそこから先は各人の考え方や利用の仕方などによって様々なスタイルを選択可能なシステムというのは、そんなに受け入れ難いものだとも思えません。

医療費削減論者としては財政状況などに基づいて医療費削減の必要性を示しつつ、いずれ医療業界の側からこのままでは経営が立ちゆかない、混合診療させてくれと泣きついてくるのを待っているという形なのでしょうが、単に絶対反対!断固反対!と何とかの一つ覚えのように叫ぶばかりでなく、その過程をしっかりコントロールしていくことこそ正しい医療の実現に結びつくんじゃないかという気がします。
もちろんその課程において例えば皆保険システムだけでは経営が立ちゆかないような状況に追い込まれた医療機関が、応召義務をなお強いられ続けるのはおかしいのではないか?といった付随的なテーマも幾らでも出てくることだと思いますが、最初からそれはあってはならないことで思考停止していたのでは何の知恵も打開策も出てこないことだけは確実ですよね(苦笑)。

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コメント

医師は社会インフラだから聖域というのも難しいのでしょうか。警察はわかりませんが消防は知り合いが多いです。少なくとも北海道では消防は自治体のお荷物になってきており統廃合などで削減されてきているようです。

投稿: 優駿 | 2011年11月15日 (火) 08時48分

>少なくとも北海道では消防は自治体のお荷物になってきており統廃合などで削減されてきているようです。

「不適切な消火のせいで焼け死んだ、と、消防を訴えるようなもの、はとうに実現してますがw、「警察や消防や自衛隊が赤字だ!って文句言われるようなもの」まで実現っすかww胸熱www

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2011年11月15日 (火) 09時46分

ただ消防を訴えた事件なども世間の論調は圧倒的に「なにこのDQN」というものでしたから、そのあたりがやはり世の中の認識の差なんだと思いますね。
日本の医療は皆保険制度プラス応召義務によって社会インフラと主張しやすい背景はあったわけですが、逆にこのあたりが崩壊してくるとインフラではなくサービスであるという理屈が出てくるのでしょうね。
少なくとも聖域なき構造改革が長年叫ばれ続ける中で、医療だけは別枠だと言うのは厳しいでしょうが、日医にしても多くの医療団体にしてもただ総額だけの議論に終始しているのは無意味だと思います。
現場で実際に汗水垂らして働いているスタッフ達が少しでも働きやすくなるためにどうしたらいいかを考えれば、「診療報酬○%アップ!」なんて話よりよほど重要なことは幾らでもあるはずですが。

投稿: 管理人nobu | 2011年11月15日 (火) 10時41分

>国が医師の配置を強制的に行える法制度の整備を要望

あいかわらずですね、そういう法律そのものが憲法違反になります。

教育条件と労働条件の悪い病院に医師を配置することは、卒後医学教育上、誤りです。

投稿: 内科医 | 2011年11月15日 (火) 17時30分

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