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2011年10月18日 (火)

TPP 医療の世界も無関係とはいかない気配です

主に経済界や農業などの方面から様々な意見の噴出しているTPPネタですが、先日は珍しく医療畑からこんな記事が出ていました。

TPP参加 医療団体から懸念(2011年10月12日NHK)

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加に慎重な民主党などの国会議員が開いた勉強会で、日本医師会など医療関係の団体から、「TPPに参加すれば、所得によって受けられる医療に格差が生じる社会となる」などと懸念が示されました。

勉強会には、鳩山元総理大臣や国民新党の亀井代表のほか、TPPへの参加に慎重な民主党や自民党などのおよそ50人の国会議員が出席しました。この中で、会長を務める民主党の山田前農林水産大臣は「きのう党のプロジェクトチームの役員会もあり、いよいよ早期に結論を出すという形で動き始めた。しかし、慎重にやっていかないと大変なことになる。単なる農業の問題ではない」と述べました。

このあと、勉強会では、日本医師会や日本薬剤師会など、医療関係の4つの団体からTPPに参加した場合の影響などについて、意見を聞きました。この中では、「規制緩和や市場開放が進むと、所得によって受けられる医療に格差が生じる社会となる」などと懸念が示されたほか、「薬の自由化が進むと、安全性をどのように担保するのかが問題となる」といった指摘も出されました。

勉強会のあと、山田前農林水産大臣は、記者団に対し「政府からの情報提供が不十分ななかで、判断できるわけがない。交渉参加に慎重な対応を求める署名は、民主党だけでおよそ190人分集まっているので、そうした主張をしっかり政府に伝えていきたい」と述べました。

ま、この件に関しては山田前農水相の言う通りで、とりあえず賛成派、反対派双方ともあまりに情報発信が少なすぎてどうにも判断しようがないと考えている国民が多いのではないでしょうか?
例によって日医が医療関係者の代表のような顔をして出ているのもどうなのかですが、とりあえず日医の方からTPPに関するコメントが公式に出ているのでご参照いただければと思います。

医療における規制改革とTPPについての見解(2011年2月20日日本医師会)

 中川俊男副会長は,「このところの急速な,医療に関する市場原理主義の導入,医療の新自由主義的再編の波について,大変危惧している」と述べ,日医の見解を説明した.
 同副会長は,まず,日本の公的医療保険が,外国からの市場原理の導入,外国資本の参入を求められてきた歴史的な経緯を示し,さらに,二〇一〇年六月,政府が「新成長戦略」を閣議決定し,医療・介護・健康関連産業を日本の成長牽引産業として明確に位置付け,医療の国際化推進を決定したことにより,営利を追求する意見や動きが目立ってきたと指摘した.
 また,同副会長は,「現在,行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会や総合特区制度において,医療の市場開放に向けての議論が急展開しており,さらに,TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋連携協定)は,内閣官房が,“国を開き,日本を活性化するための起爆剤”と位置付けている」と述べ,二〇一〇年十一月に閣議決定された「包括的経済連携に関する基本方針」により,外国人医師の受け入れの拡大や病院が外資系になる可能性等を懸念するとした.
 そして,外国人医師の受け入れ拡大の問題点として,公的医療保険の診療報酬では高額な給与を支払えないため,病院は高額の自由診療を目指すことや,クロスライセンス(お互いの国の医師免許を認めること)により,教育水準の違いから,日本の医療水準が低下する危険もあると指摘.日本の医療は,高い医療水準が確保されている日本の医師免許のもとで行うべきであり,医師不足は,日本の医師数増加によってきちんと解決すべきであると主張した.
 また,外国資本を含む企業などが日本の医療に参入することの問題点については,「外資系を含む営利企業の病院などは,いずれ公的医療保険ではなく,高額の自由診療を行うようになる.高額の自由診療を行う病院が増え,病院は自由診療で良いということになると,国は公的医療保険の診療報酬を引き上げず,公的医療保険で診療していた地方の病院などが立ち行かなくなる」と述べ,国民皆保険制度の崩壊を危惧した.
 最後に,中川副会長は,「医療が自由価格で提供されるようになれば,本当にお金がなければ医療が受けられない時代が来てしまう.外国資本の営利企業は,日本に自由価格の医療市場を迫っており,『混合診療の全面解禁』『医療ツーリズム』『株式会社参入』『外国人医師』は,その象徴である.日医は全力を挙げて,国民皆保険制度を守る」と明言した.

ちなみにこの日医のTPPに対するスタンスとして、厚生連病院を運営する厚生連の武藤喜久雄氏が解説的な記事を載せているこちらも併せてご参照いただければと思います。

【参考】どうなるの? 私たちのくらし 【TPP―医療(1)】(2011年月7日農業協同組合新聞)

昨今何でも反対の日医がTPP賛成!なんて言い出す方がよほど気持ちが悪いというもので、こうして反対を表明してくること自体は何ら不思議でもないのですが、その理由というのが毎度おなじみの自由診療反対、皆保険制度固守はともかくとして、「教育水準の違いから,日本の医療水準が低下する危険もある」なんて公の場で口にしてしまっていいものかどうか疑問にも思われるような内容ではありますよね。
日医として教育水準を云々するのであれば、一例としていわゆる底辺私大の廃止運動なども積極的に展開していなければ単なる外国人差別と取られかねませんが、「いやそんなことはない、卒後教育で十分カバーできる」というのであれば国民水準から抜きん出たエリートであるだろう外国人医師の方がよほど高いレベルに到達する素養がある道理です。
どうも昨今の日医は口を開く前に自分たちが何を発言しようとしているかをもう一度添削し直した方がいいんじゃないかと思うのですが、こういう団体の偏った意見ばかりを採り上げて「医療業界ではこんなことを言っている」なんて言われるのもどうなのかなと思わざるを得ません。

ただ国にしても日医あたりの言う懸念は無視出来ないものを感じているのでしょう、このたび用意された想定問答集では「営利企業の医療参入は議論の対象外」だとか「どの資格を相互承認するかは日本が主体的に判断」などと反論をしていますが、問題は日本政府がそう主張したところで相手国がそれを受け入れるかどうかは全くの別問題だということです。
ちなみにTPP絡みでよく問題視されるのがISD(Investor –State Dispute=投資家対国家間の紛争)条項と呼ばれるものですが、これは「外資が公正な競争を阻害されたか否か」だけを判断基準にして企業が国を訴えることが出来、そして世界銀行傘下の委員会で判断が下れば一切文句もつけられず拒否も出来ないという興味深いものです。
少し考えて見てもこれは様々な独自慣行などでがんじがらめになった国内諸産業に大きな影響を与えそうだなとは理解できるものですが、特に医療と言うことになればまさしく日医が金科玉条のごとく掲げている「国際相場からして不当な廉売を強要し他からの参入を阻害している」日本の国民皆保険制度というものを直撃しないではいられませんよね。
公的な医療保険の強制が果たして最善解なのかどうかは多くの異論があると思いますが、少なくとも現状の日本における医療業界の対応としては皆保険を前提にしたシステムで成り立っているだけに、公的であれ民間であれ皆保険という前提自体が崩れてしまった場合、無保険者が一定数以上押し寄せ巨額の支払い不能事例などで潰れる医療機関が続出するリスクは相当にあるものと思います。

しかし考えて見ればどこの業界でもこの種のリスクはあるもので、未払い対策の保険なりが無理なら例えば無保険者はカード払い限定にするといった簡単な対策だけでもリスク分散になるわけですから、このあたりは業界内部での対応次第でなんとでもなりそうだとも言えるでしょう。
となると結局は金銭によって医療内容に差がつけられるということが一番の問題ということになるのでしょうが、考えて見ると世界中多くの国でお金を余分に出せばよりよい医療が受けられるなどというのはイギリスなど皆保険制度の国でも当たり前のことであって、まさにそれこそが日本の医療の閉鎖性を補償する最大の非関税障壁だとも言えるわけですよね。
「生活保護受給者が一番いい医療を受けられる」などと揶揄される日本の医療を多少なりとも世界標準に近づける好機、とまで言えば言い過ぎになるのでしょうが、どこかの日医のようにとにかく現状から少しでも変えるものは何でも反対という姿勢では問題だらけの日本の医療を改善することも出来ないとなりかねないだけに、自ら変わる契機の一つとしてTPP問題をとらえていくという考え方はありかも知れません。
何にしろ、この問題はもう少し関心を持たれてもいいように思います。

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コメント

患者の不払いについてですが、カード払いにしようと応召義務がありますがらね。厚生労働省のいうように「お金がないことを理由に診察を拒否してはいけない」んですから。外資が参入したら応召義務はなくなるんですかね。しかも、健康保険の診療規則を守って保険診療を行っていても、裁判で負けますから、その辺もどうにかして貰いたいですよね。

投稿: R・Y・U | 2011年10月18日 (火) 10時04分

ですからそのあたりの事も、実は不当な障壁としてやり玉に挙がってくる可能性があるわけですよ(苦笑)。
日医の思惑はいざ知らず、現場で働いている臨床医にとっては別に悪い話ばかりというわけでもないということです。
何しろ日本の医療現場はもともとスタッフに「聖職者さながらの自己犠牲」を強いてきたわけですからね。

投稿: 管理人nobu | 2011年10月18日 (火) 10時35分

全く畑違いの農協と手を組むって、これ内容を検討して議論するんじゃなく絶対反対ってお題目だけでやってるってことですよね。
まさか茨城の医師達は普段の診療からみんなこんな考え方でやってるものなんでしょうか?
これじゃ「陣痛促進剤使用は絶対反対!」の有名活動家氏のやってることと同じことじゃないんですか?

TPP参加反対で連携=JA茨城と県医師会、全国初
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201110170085.html
 農業協同組合茨城県中央会(JA茨城)と茨城県医師会は17日、水戸市で記者会見し、環太平洋連携協定(TPP)について、
今後は連携しながら日本の交渉参加に反対していくと発表した。県のJAと医師会がTPP参加反対で連携するのは全国で初めてという。
 具体的には緊急集会を合同で主催するほか、県選出の国会議員に日本が参加しないよう要望。また、他の団体にも連携を呼び掛ける。 


投稿: ぽん太 | 2011年10月18日 (火) 12時50分

医師会がそこまで思い詰めるというのもわからんなあ…
誰か後ろでささやいている人間がいるのか、単純に味方の多そうなところで存在感を発揮したいだけなのか。

投稿: aaa | 2011年10月18日 (火) 17時09分

>クロスライセンス(お互いの国の医師免許を認めること)により,教育水準の違いから,日本の医療水準が低下する危険もあると指摘

TPP/EPA/FTA締結の場合、医療技術の高い国、あるいは医師の労働条件の良い国に医師が流れますね。
厳格な試験があり、医師になるのが難しいドイツあたりは、EUのなかでドイツからの海外流出が最も多い国の一つ。

アジアでは、TPP/EPA/FTA締結以前から、米国、カナダ、オーストラリア、英国(英連邦加盟国やインド、パキスタン、アラブ諸国など英国風の医療システムの国から)への流出があり、仮にTPPになったとしてもアジアの医師が日本に外国人医師が来てくれるんですかね。
来ないほうに賭けます(笑)。

なんか、日本の医療を買いかぶりすぎてる気がします。

日本の医師の流出のほうが多いのでは?

投稿: 鶴亀松五郎 | 2011年10月18日 (火) 22時11分

たぶん現役医師の流出はそんなにない気がします。
ただこれから医師になっていく連中は結構出て行くことになるかも知れません。
国内で働かなければならないしがらみはないし、向こうの方が諸条件がよいとなれば。
外国人はどうでしょう、レベルの高い医師が流入してくるとはちょっと…(苦笑)

投稿: 管理人nobu | 2011年10月19日 (水) 18時11分

>国民水準から抜きん出たエリートであるだろう外国人医師の方がよほど高いレベルに到達する素養がある道理です。

フィリピンやタイは自国の医者の半数が出稼ぎの為に海外に流出する国なんですが、その人たちが「エリートであるだろう外国人医師」なんですかねぇ(失笑)。

一般的に 外国人医師=優秀 みたいな論理ですが、現実は自国よりも金が稼げる国に猫も杓子も海外へ行ってるだけで優秀である保証は何もありません。

ただし現在の外国人看護師が言語・文化的な問題での就労困難な現実を見る限り、鶴亀松五郎氏の言っているように日本への流入はあまりないでしょう。

流出に関しては留学や論文を書く研究者レベルならありえるかもしれませんが、一般臨床医レベルでは「まだ」少ないでしょう。
しかし20年以内に日本もアメリカと同様に「医師過剰」になるのは間違いないので、将来的には流出は増えると思いますよ。

投稿: 笑い男 | 2011年10月29日 (土) 12時31分

まあ日本で医師として優秀かどうかは来てみなければ判らないでしょうね。
ただ確実に言えることは日本では医療に回せる優秀な人材はすでに発掘が終わっていて、今後数を増やせば増やすほど供給される人材の質は下がっていくだろうということです。
無論いわゆる地頭がそれほどでなくても努力次第で優秀な医師となる人も多いでしょうが、例えば単純に自分が指導医として面倒見る場合にどっちの研修医を相手したいかですね。
国民の半数が大学レベルの高等教育を当たり前に受けている国で、親の跡継ぎとして高校時代から国試予備校的な生活を続けようやく国試に合格してきた研修医と、
国民の多くが読み書きも満足に出来ず自国語の医学書もない中で、苦労して一から学問を修めようやく医師の資格を手にした研修医と。
何となく偏差値が高いから、将来鞍底してそうだからという理由で医学部を選択する学生が増えている時代だからこそ、ハングリーさと言うのも大きな武器になるんじゃないかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2011年10月29日 (土) 22時44分

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