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2011年10月 3日 (月)

ミスはいずれ起こるもの、という前提に立っての事故対策

先日はこんな医療事故の報道がありましたが、御覧になりましたでしょうか。

「安全管理が不十分」 神戸・中央市民病院、誤吸入事故 /兵庫(2011年10月1日神戸新聞)

 神戸市立医療センター中央市民病院で7月、80歳代の男性患者に誤って二酸化炭素を吸入させ、男性が一時心肺停止になった問題で、外部委員らによる事故調査委員会は30日、新病院への移転に伴う運用ルール変更の周知徹底や二酸化炭素ボンベの安全管理態勢が不十分だったとする報告書を公表した。

 病院によると、男性は7月13日に緊急手術を受けたが、14日未明に集中治療室に移動させる際、酸素ではなく誤って二酸化炭素を吸入させられた。男性は一時心肺停止となった。

 病院は当初、会見で「移転による影響はない」としていたが、事故調は7月1日の新病院への移転により、「術後に患者を移動する際の酸素ボンベの準備で、一部ルールの変更があったが、看護師らに周知できていなかった」と指摘。二酸化炭素ボンベの保管場所も決まっておらず、手術室内に残されたままだったことなど安全管理が不十分だったとした。

 同病院は事故後、二酸化炭素ボンベを酸素ボンベより大型のボンベに変更し、保管場所を指定するなどした

 月江富男医療安全管理室長は「危機管理の認識が甘かった。深く反省している」と謝罪した。男性は意識が戻り、回復傾向にあるという。

事故そのものに関しては「東京日和@元勤務医の日々」さんが当時の報道を取り上げていらっしゃいますので参照いただければと思いますが、要するに窒息したのと同じ状態ですから一歩間違えればさらに大変な結果になっていたかも知れない事故で、幸いにも患者さんは回復傾向にあると言いますから最悪の事態だけは免れたというところでしょうか。
手術室での炭酸ガスと言えば、例えば腹腔鏡を行う際に腹部に炭酸ガスを送り込んで視野を確保するといった使い方をしますけれども、麻酔にも使う酸素や亜酸化窒素などは近頃の病院では中央配管で手術室の壁のコネクターから供給されるようになっており、この場合はガスの種類によってコネクターの色と形状が違い誤接続をしたくても出来ないようになっています。
ところが二酸化炭素のようにあちらこちらでときどき使うようなものですと配管ではなくボンベで対応するのですが、この場合はボンベの種類(工業用炭酸ガスボンベなど)によっては同じチューブで異なるガスボンベに接続できてしまうことから、誤接続を防ぐには当事者が注意するという以外にないという状況が続いているわけですね。

困ったことに以前からこうした事故はときどき起こっているのですから、今回のように単なる色違いでサイズも形も似通った容器にわざわざ取り違えると致命的になりかねないものを入れて同じような場所においておくというのは自殺行為ですし、実際にこうした取り違え事故への対策としてそれぞれのガスによって接続部の形を変えた医療用ガスボンベというものもちゃんと用意されています。
つまりはルール変更やボンベ置き場がどうこうという問題ではなく、わざわざ間違える可能性のある道具を使用した結果起こるべくして起こった事例であるとも言え、昨今のヒューマンエラーはいずれ必ず起こるものとして可能な限りエラーの発生が重大事故に結びつかないようシステムの方を整えていくという考え方からすると、せっかく新病院に移転したと言うのにずいぶんと旧態依然なことをやっているんだなと思わざるを得ません。
実は先日大きな話題になりました全日空機の「背面飛行」事件なども、よく状況を見ていくとシステム設計上それはおかしいだろうと思えるような話があるようなのですね。

全日空機急降下事故 事故の際、機体はほぼひっくり返った背面状態で急降下(2011年9月28日FNNニュース)

9月6日、乗客・乗員117人が乗った全日空機が飛行中に急降下し、客室乗務員がけがをした事故の際、機体が、ほぼひっくり返った背面状態で急降下していたことがわかった。
運輸安全委員会は「ほとんど背面飛行で、その間、1,900メートルくらい降下しております」と話した。
状況を描いたアニメーションは、国土交通省の運輸安全委員会が、急降下した全日空機のフライトレコーダーを解析し、機体の飛行姿勢を再現したもの。
この事故は9月6日、静岡・浜松市沖を飛行中の那覇発東京行きの全日空機で、副操縦士がトイレから戻った機長をコックピットに入れようとした際、ドアの開閉スイッチではなく、機体を制御するスイッチを誤って操作し、機体がおよそ30秒間で、1,900メートルほど急降下したもの。
元全日空機長の前根 明氏は「方向舵(だ)のトリムというスイッチに触ってしまったわけ。そうすると、飛行機の翼の左右に揚力の差ができると、瞬間的に飛行機の傾きが変わってしまう。背面までいってしまったと」と話した。
運輸安全委員会によると、急降下した際、機体は最大で、ほぼひっくり返った背面状態になる131.7度傾き、また、機首は地上方向に最大35度傾いていたという。
また乗客には、最大で地上のおよそ2.7倍の重力が加わったが、夜間でシートベルトをし、着席していたとみられることから、けが人はいなかった
乗客は、夜間で外が見えなかったため、機体が背面状態になっていることに気がつかなかった可能性が高いという。

「よく立て直せた」「不幸中の幸い」 全日空機トラブルは“間一髪” (2011年9月29日産経ニュース)

 航空ショーなどで見られるスリル満点の「背面飛行」が、旅客機で起きていた。28日、運輸安全委員会が明らかにした全日空機の急降下トラブル。専門家は「よく立て直せた」と間一髪の事態だったことを指摘した。

 運輸安全委が作成したコンピューターグラフィックス(CG)によると、機体はゆっくりと左に90度近く傾いた後、一度はわずかに右方向に回復したが、再度左に傾き始めた。最終的には最大131・7度と、ほとんど裏返しになって急降下した

 再び機体が90度前後に戻るまでに7秒ほどかかっているが、機体はこの間、大きく旋回するような軌道を描いており、乗客は遠心力で座席に押しつけられたとみられる。いわば、ジェットコースターに乗っているような状態だったのだ。元ジャンボ機機長で航空評論家の小林宏之さんは「乱気流などの場合だと急降下の際に上向きの重力がかかり、シートベルトをしていないと天井に頭を打つ乗客が出るが、今回の場合は大きく旋回しており、乗客は機内の変化に気づかなかった可能性もある」と指摘する。

 大手航空会社では、背面飛行からの回復をフライトシミュレーターを使って訓練することになっているといい、CG映像を見た小林さんは「実際に出くわすことはほとんどない事態だったと思うが、ゆっくりと機体の体勢が回復されており、冷静な対応だったともいえる」と話した。

 ただ、航空機の航路は約300メートルごとに設定されており、急降下の際に他の航空機とニアミスする恐れは十分あった。小林さんも「トラブル発生時の空域には夜間のため他の航空機が航行していなかったことが、不幸中の幸いだったかもしれない」と話した。

CG映像の様子はこちらのテレビ報道から御覧いただきたいと思いますが、大型旅客機が突然の背面飛行による急降下から無事立て直せたということも稀な幸運ですし、普通ならとんでもないことになっていただろう客席にも大きな被害がなかったことも不幸中の幸いですが、これら全てが奇跡的と言ってもいいほどの非常に危うい偶然の連続の上に成立していたということは大変な問題ですよね。
ただ事故の危険な経過はそれとして、ここで改めて記事を見て頂きたいのはそもそもの発端となった操作ミスの部分で、ドアの開閉スイッチと方向舵を動かすスイッチなどというおよそ間違えそうもないものを何故間違えるのか?と誰でも思いますよね。
これについてはすでに関係者の方々が各方面から証言をしてくれていて、何故こんな素人目には不思議と言うほかない取り違えが起きたのかということを解説してくれています。

    487 名前:飛行機の人 ◆hIkokIA2zs [sage] 投稿日:2011/09/08(木) 01:03:06.71 ID:OoXoddJx0

    >>483
    推測ですが、エルロントリムをいじってしまったんだと思います。

    512 名前:飛行機の人 ◆hIkokIA2zs [sage] 投稿日:2011/09/08(木) 01:05:16.37 ID:OoXoddJx0

    >>498
    両主翼の翼端についてるエルロンという小さい羽を微調節するものです。
    これを動かすと操縦桿を左右に動かしたのと同じ事が起きます

    584 名前:飛行機の人 ◆hIkokIA2zs [sage] 投稿日:2011/09/08(木) 01:14:05.20 ID:OoXoddJx0

    これがB737-700のコックピットですが、
    一番手前にある丸いつまみに「FLT DK DOOR」と書かれてるので
    これがドア開閉スイッチでしょうね。
    その前にちょっと大きめのつまみ
    これがエルロントリム。
    よく似ていてすぐ隣になるわけです。

【参考】コクピット内部

【参考】問題のスイッチ

写真を見て頂けるとお判りいただけるかと思いますが、こんな全く異なった機能のスイッチが同じような回転操作系の似たような形状で、しかも物理的にもすぐ隣と言っていい場所に配置されている、しかもうっかり取り違えると今回のような大事故につながりかねないスイッチなのだと言われれば、「えっ?!なんでそんな無茶な配置にしてんの?!まさか突っ込み期待してわざとボケてんの?!」と誰でも感じるでしょう。
皆さんお使いのPCのキーボード一つとっても何とも不思議に思える配置が長年の慣習として続いていることから想像すれば、こういう配置になっていることにもコクピット内配置の伝統なり歴史的経緯なりがあるということなのかも知れませんが、「いつか必ず起こるヒューマンエラーが事故に結びつかないようにシステムを設計する」という理念からはかなり遠いという気はしますよね。
厳密には報道だけでは実際にこうしたことが起こっていたかどうかまでは確認出来ませんけれども、仮に別な事情で今回の事故が起こっていたのだとしても「エルロントリムとドア開閉のスイッチが間違えやすい」という事実には変わりないとすれば、「うっかり間違えないようにしましょう」などと注意を喚起したりでお茶を濁さず、重大事故が起こってしまう前に何とか物理的な配置なりスイッチ形状なりを改めるべきでしょう。

そんなこんなでヒューマンエラーはいつか必ず起こる、その前提に立った対策が必要であるという理由はお判りいただけるかと思いますが、もちろん世の中にはいくら物理的な対策をしても結局最後には個々人の能力頼りという仕事も多いのですから、人間というファクターを無視して語ることは出来ません。
人間そのものをシステムの中の一要素として捉えるならば、そのエラーを減らすためには与える指示を誤解の余地なく明快かつシンプルなものにする、複数作業を同時並行させない、あるいはよくあるダブルチェック体制の確立といった様々な対策が浮かんで来ますが、例えばダブルチェックでも取り違えが起こった、ならばトリプルチェックにしようで現場の人手不足がさらに深刻化し、過労からミスが多発するようでは対策の意味がないわけです。
そう考えるととりわけ現在の医療現場のような慢性的に人的リソースが不足している上に、一つの間違いも許されないと緊張を強いられている現場で最も有効な事故対策の一つとしてスタッフの過労防止ということが当然に出てくるはずですし、これを見過ごすと言うことは明らかに事故を起こしやすい状況を放置しているということに他なりませんよね。

外科医の7割、当直明けに手術 うち8割「質が低下」(2011年9月29日朝日新聞)

 病院などで働く外科医の7割が当直明けに手術を経験し、うち8割が手術の質の低下を実感していることが29日、日本外科学会(会員約3万8千人)が公表した調査で明らかになった。

 調査は3月にメールで実施した。会員985人(平均年齢46.7歳)が回答。9割強が病院の勤務医だった。

 当直明けの手術は、「いつもある」が約31%、「しばしばある」が約26%などで、合わせて71%が当直明けに手術を経験していた。このうち「まれに手術の質が低下」「手術の質が低下することが多い」が計約83%。「医療事故やインシデント(事故につながる恐れのある出来事)経験がある」も約4%あった。

週の勤務時間(アルバイト、当直除く)は平均59.5時間で、「50~70時間未満」が約半分を占めた。若手やベッド数が多い病院の医師ほど勤務時間が長くなる傾向があり、20、30代は約67時間、500床以上の病院では約65時間だった。

今まで見てきた事例から考えると、この場合「今週の安全標語:疲れたときこそ確認の徹底!いつも以上に念入りなチェックを!」などと念仏を唱えていても仕方がないというもので、事故を少しでも減らすために何をどうすべきかは誰にでも判ることですし、何しろ顧客である患者自身が「そんなヨレヨレの先生に命を預けたくないよ!」と考えていることでしょう。
しかし世の中には業務安全改善委員会だのとやたらに会議が好きな方々もいらっしゃるようですが、単に意味のない会議で無駄に時間を潰すだけならまだしも、その結果ますます現場のリソース不足やスタッフの疲労が深刻化した結果新たな事故が起こっている、なんて馬鹿げたことにだけはならないようにしていただきたいものですね。

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コメント

>週の勤務時間(アルバイト、当直除く)は平均59.5時間で、(ry

「アルバイト、当直除く」....ふざけるな!!

他にも、上司の学会準備の手伝いとか、治験のデータ整理とか、自分の論文の勉強とか
仕事は山のようにありました(あの頃は若かったなぁ)
さらに、若いナースと飲みに行かなくてはならないのですよww
あの頃は元気だった.....遠い目

まぁ、外科や救急、小児科、産科が敬遠されるのは当然でしょうね。
休みなんてなかったもんね。

投稿: 通りすがり | 2011年10月 3日 (月) 23時33分

>「今週の安全標語:疲れたときこそ確認の徹底!いつも以上に念入りなチェックを!」

それに類似する標語がうちでも確かにありました…orz

投稿: ぽん太 | 2011年10月 4日 (火) 11時29分

ま、根性論で済ませるのが上司にとっては一番楽で金もかかりませんから…

投稿: 管理人nobu | 2011年10月 4日 (火) 16時02分

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