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2011年10月 6日 (木)

最近の流行りはモンスター、であるようです

マスコミの医療報道にもときどきの流行があって、例えば一昔前にマスコミに批判されて話題になった過剰医療だ、スパゲッティシンドロームだという話は今や全く聞かれなくなり、ひと頃はあれだけ喧伝された救急たらい回しと言っても「今どき何言ってるの」とニュース性がないせいか取り上げられる機会が激減しています。
では近頃では何が一番ニュース性があるかと言えば、どうも医療を利用する患者側のモラル低下問題であるようですね。

背中かゆい・便出ない…安易な救急車利用続々/神奈川(2011年9月27日読売新聞)

 「背中がかゆい」「病院に行くタクシーがつかまらない」――。

不適切な救急車利用とみられる119番通報に横浜市が頭を悩ませている。

 市内の救急車利用は8月末時点で約11万274件と、昨年同期比で5444件増え、過去最多を記録する勢い。市消防局は「適切な利用を」と呼びかけている。

 同局救急課が、救急車を呼ぶのにふさわしくなかったとみられる軽症事例を調べたところ、「背中がかゆいが自分で薬を塗れない」(70歳代男性)、「1週間、便が出ない」(50歳代男性)、「指のささくれをいじっていたら腫れた」(20歳代男性)などがあった。

 また、「診療所が混んでいて、待合室にいると病気がうつる」「今日入院予定だから」など、救急車をタクシー代わりに利用しようとする事例も報告されている。「けがをしている。とにかく早く来てくれ」などと状態を具体的に伝えずに、119番で救急出動を要請することも多く、「程度が分からないため、とりあえず出動してみる」(救急課)のが実情という。

 救急車をタクシー代わりに使うなどの不適切な利用は2004年頃から、社会問題化。全国各地の消防本部が広報で安易な利用を控えるよう呼びかけてきた。

 その効果もあり、横浜市でも16万2536件と最多を記録した05年以降、救急出動の件数は減少。08年には14万6145件と大幅に減った。ところが、09年には再度増加に転じ、その後も増え続けている。

 救急課によると、6月末までの搬送人員は7万286人。うち軽症は3万7845人と53・8%を占めた。担当者は「軽症でも深刻な事態の前兆ということはあるので、119番して悪いわけではない」とした上で、「本当に救急車を必要とする人のところへ救急車を向かわせるためにも、緊急性のない利用は控えてほしい」と訴える。

 横浜市救急医療情報センター(045・201・1199)では、夜間や休日に診療している病院を24時間紹介している。

救急車などは一刻を争うという緊急性のある場合に用いるべき社会資本であって、不要不急の人間がタクシー代わりに便利使いするなどもってのほかであることは言うまでもありませんが、そのもってのほかという行為を規制する何らかのルールなりシステムなりが存在しないということがこの種の不正利用による「使い得」を助長しているということでしょう。
そうなると結局一番不利益を被るのは本当に救急車が必要な重傷者という「弱者」なのですから、不要不急の救急車を防ぐためにも有料化するなり、時間外救急のように軽症者には何らかの加算料金なりをとるべきだという意見が出るのも当然ではあるのですが、今日の本題から外れるのでここでは深入りしません。
さて、最近だけでもあちらこちらからこの種の利用モラル低下を示すニュースが相次いでいるのですが、いわゆるコンビニ受診などと言われる安易な救急利用有り、果ては言語道断の暴力行為もありとバラエティに富んでいるなあと思う一方、現場の人間にすれば「こんな話は昔からの事なのに何故今さら取り上げる?」と思うところも多々あるのではないでしょうか?

モンスター患者「ゴルフに行くから朝7時から診療してくれ」(2011年9月13日NEWSポストセブン)

 京都の病院では看護助手が入院患者の爪をはがすというショッキングな事件が起きたが、一方で、昨今ではモンスター患者も“事件”の主役になっている

“ゴルフに行くから、朝7時から診療してくれ”という患者がいた」(東京都内の医師)

予約も取らずに診療に来て“院長か部長を出せ! 手を抜いているのか”と文句をいい続ける患者がいる」(埼玉県内の看護師)

 患者が看護師を家政婦のように扱ったり、医師に殴りかかったりするシーンは日常茶飯事となっているそうだ。

 東京都内の歯科病院に勤める歯科医・F男さん(45)が嘆く。

「50代の男性患者さんだったんですが、3回ほど通院された後、“まだ治らないのか! 金を返せ”と怒鳴り込んできた。二言目には“医療ミスで訴えるぞ!”“医師会に抗議するぞ!”と脅迫する。きっと病院からなら、お金がふんだくれると考えていたのでしょう。こちらも折れず、2時間ぐらい懇々と説明すると、“もうここには通わない! ○○病院に行くから紹介状を書け”といいはじめました。もう来てほしくなかったので喜んで書きましたが、その後のことは知りません…」

【富山】 「コンビニ受診」にあえぐ救急医療(2011年9月5日朝日新聞)

■ 軽症でも救急外来へ/県「安易な利用やめて」 ■

 コンビニエンスストアを利用するように、気軽に休日や夜間に救急医療機関にかかるケースが県内で目立っている。業界では「コンビニ受診」という。急患のはずが多くは入院を必要としない軽症患者で、救急医療現場の負担を増やす原因となっているという。

 「深爪をしてしまって血が出た」「とげが刺さって抜けない」……。

 夜間や休日に救急医療機関に駆け込む、身勝手な「急患」の症状はおおむねこの程度だという。さらに「平日の日中だと仕事で来られない」「夜間だと日中より待ち時間が短い」という理由で訪れる患者もいる。いずれも入院の必要がない軽症患者で、「何のための救急医療なのか」と医療関係者のため息は深い。

 「救命救急センター」は本来、急性心筋梗塞(こう・そく)や脳卒中など、生命に危険が及ぶような患者を受け入れる地域医療の「最後のとりで」と言われる。県内では県立中央病院と厚生連高岡病院の2病院だ。

■ 7割は入院不要 ■

 県医務課によると、昨年度に、この2病院を訪れた患者は2万1324人で、うち、約7割にあたる1万5023人は入院の必要はなかった。ここ数年、不要不急とみられる患者数は同程度に推移しているとされる。

 決して身勝手な理由ばかりではないが、このような状況が続けば、医師の負担は増えてしまい、心配されている「勤務医離れ」が加速しかねない。また、本当に救急医療が必要な重症患者が、適切な治療を受けられなくなる恐れもある。

 実態を重くみる県は、9月9日の「救急の日」に併せて実施される救急医療週間(4~10日)の間、人出の多いJRの富山、高岡両駅に広告を出し、安易な利用を戒める。なるべく通常診察時間内に受診する▽夜間・休日などは、「当番医」を利用する▽安易に救急車を呼ばない――などを呼びかけている。

■ 小児電話相談も ■

 また、子どもが急に熱を出したりケガをしたりした場合には、医療機関にかかる前に、看護師や小児科医に電話で相談できる「#8000」(県小児救急電話相談、午後7時から翌朝9時まで)もある。

 男性勤務医の一人は「大人の身勝手な救急の受診はもってのほか。現場が疲弊している」と嘆く。「子どもが急病になると、焦ってしまうのは親心。だけど、まず一呼吸おいて『本当に必要か』と考えてほしい」と訴えている。

<調査>看護学生の6割が、患者からの暴力を経験(2011年8月22日毎日新聞)

 看護学生が実習中に患者から受けた暴力の実態を、筑波大の江守陽子教授(看護科学)らの研究チームが調査した。学生の6割が暴力を受け、うち性的暴力が精神的暴力と並んで4割を超えていた。日本看護協会の調査では看護職員への暴力は約3割とされ、学生は2倍もあった。看護学生への暴力の実例に基づいた本格的な調査と分析は初めてという。

 関東地方の看護専門学校、短大、大学計15校の看護学生712人を対象に07年に調査した。593人(83.3%)が有効回答をした。

 暴力を受けたと答えた学生は352人(59.4%)で、総件数は1498件。種類別では▽精神的暴力44.7%▽性的暴力43.1%▽身体的暴力12.2%。性的暴力では「胸を触られた」「手を握られ、お尻を触らせてと言われた」「後ろから抱きつかれ、頬にキスをされた」「声をかけられ、ずっと追いかけられたり、わいせつな発言があった」などの被害があった。

 最も困った事例について具体的に記述した95人のうち20.0%は、暴力を受けた際、誰にも相談しなかった。「怒り」「嫌悪感」を覚え、「辱めを受けた」「人格を否定された」と感じたという。

 研究チームは、担当看護職員に向けられた不満やストレスのはけ口として経験が浅い学生が攻撃対象となったと分析。三木明子准教授は「暴力は弱い立場の者に向く。患者との距離感の取り方など暴力防止の実技講習を行い、まず予防が大切。防犯ブザーを持たせるなど暴力を受けない環境作りも必要だ」と話している。【安味伸一】

こういう話を聞くと戦後長年に渡ってマスコミや一部の方々が個人の権利意識というものを一生懸命拡大しようと努力していらっしゃった、その結果肥大した自我が医療に限らず社会のあらゆる領域でモンスターを生み出しているのだと言う声が根強くあって、確かにそうした側面も多々あるかとも思うのですが、一方でそれ以前の時期に自我を確立してしまっているはずの高齢者などでも同様の問題が見られるのも事実です。
もちろん例えば夜型生活者が増えたという時代背景が夜間救急における問題を顕在化させている側面は否定出来ないとは言え、この種の迷惑行為の数々も個別に見ていれば昔からどこにでもあったもので、むしろ昔は表立ってそういう患者を批判してはいけないという空気があった、ところが今はそうではなくなってきたということに注目すべきだと思いますね。
そもそも一昔前までは学部教育であれ現場教育であれ「患者様は病に苦しんでおられる。だから苦しさから暴力などを振るわれることがあっても仕方がない。黙って受け入れてあげなければならないのですよ」式だったものが、今では当たり前に院内に警察関係者などを呼んで「患者の不当な行為には毅然とした対応を」なんて講習をやるようになっているのだから時代は変わるものですよね。
つまりは今になってモンスターが劇的に急増したから問題になり始めたのではなく、元からそこにいた迷惑な何かをこれはモンスターなんだ、迷惑な存在なんだと捉えるようになった、そういう状況に対する認識の変化があったからこそモンスター問題が顕在化してきたのだと考えているのですが、その前提になっているのはマスコミなどを始めとする社会の論調の変化ではあるのでしょう。

かつて接遇教育なんてものがちょっとしたブームになって、「これからは患者様とお呼びしましょう」なんてことを大まじめで推進する医療機関が結構あったものですが、現場の認識としては単に業務命令でやる作業の一つという程度で意識改革になど全く結びついてはいませんでした。
ところがマスコミも大いにモンスターの話題を取り上げ社会的ブームのようになってくると「そう言えばオレも…」と身近な経験談を見聞する機会も増え、その結果石器時代のような水準でずっと留まっていた医療現場の顧客対応が近頃本質的な部分からもの凄い勢いで進化(あるいは環境に順応)しているように見えます。
医療バッシングが盛んな時代であれば何かトラブルがあっても「どうせ医者が無茶苦茶をやってたんだろう」で終わっていたところが、昨今では医療批判の急先鋒であったマスコミですら「お医者さんは絶滅しそうなかわいそうな生き物なんです。大事にしてあげましょうね」なんて気持ちの悪いことを言うようになった、そして今や手のひらを返して「お医者をいじめるな!」と患者批判に方針転換するまでになっているわけですよね。
こうした世間の認識の変化が先にあってこそ医療従事者側も「そうか、やっぱりこういう手合いにはそれなりの対応をしていいんだ」と受け取り始め、ようやく世間並みの対応を取ることに躊躇しなくなってきたのだとすれば、長年にわたって望まれてきた医療現場の意識改革というものが思わぬ形で実現してしまったとも言えそうです。

基本的には「不当な要求には毅然とした対応を」だとか「暴力にはすぐに警察を呼びましょう」などという話は世間で広く行われ、公に推奨もされている当たり前の対応ですから、この方面に関しては医療機関側は粛々と世間並みのことを進めていけば何ら問題はないと思いますが、モンスターにはモンスターとして対処するようになると困ったことになるという方々もいらっしゃるでしょう。
今まで脅迫やゴリ押しで不当な要求を押し通してきたような方々はともかくとして、一般人がそんなつもりもないのにモンスター扱いされてしまった結果不利益を被るというのでは困ったことになりますけれども、先日中国で出された衛生省のガイドラインなども世相を反映してか思わぬところで話題を呼んでいるようです。

上海余話 高齢者に気をつけろ!/中国(2011年10月4日産経ニュース)

 「高齢者の転倒を目撃しても、あわてて助け起こしてはならない」。中国衛生省が最近公表したガイドラインの一文だ。心臓や呼吸の状態などによっては、むやみに動かすとかえって事態を悪化させるとして、慎重な対応を求めている。ところが、広東省で起きたある“事件”で、このガイドラインがにわかに脚光を浴びることになった。

 報道によると、男性が自転車で通りかかった路地に高齢者(男女不明)が倒れ込んでいるのを見つけ、救急車を呼び病院まで付き添った。ところが駆けつけた家族が「おまえが自転車でぶつけて倒したんだろう」と逆に男性をなじり、治療費として3千元(約3万6千円)を払わせたという。

 事情を聴いた男性の同僚らが目撃者を捜して証言を得て、家族から3千元を取り返すことに成功したのだが、中国のインターネットでは、衛生省のくだんのガイドラインを取り上げ、「政府もたまには良いことを言う」とする妙な解釈も流布された

 聞けば、中国では突然倒れた高齢者自身が、助けてくれた若者に「おまえが私を突き飛ばした」などと大声でわめきちらし、被害者を装ってはカネをせびる問題が横行しているのだという。医学的見地から出されたガイドラインだが、その実、“本質”を突いていたのかも…。(河崎真澄)

記事にもあるように、すでに中国では「倒れた老人は助け起こすな」「善行をすれば裁判沙汰になる」なんてことが常識的に言われているとも言いますが、一部の人間が馬鹿げた振る舞いに及んで一時の不当な利益を得た結果、本当に病気なりで倒れた人が放置され死者まで出るという状況になっていると言います。
ここで考えて頂きたいのは誰かが倒れていたとして、それを放置して通り過ぎる人間にとっては倒れた人間が本当に病気だろうが偽装だろうが何も違いはないし、むしろ余計な手間暇をかけて仕事に遅れたり面倒な裁判沙汰に巻き込まれたりするといったデメリットは何もない、またプロの詐欺師にしても「また次を狙うか」で軽く済ませられる一方、本当に病気なり怪我なりで倒れてしまった人間にとっては放置されることは非常に困るということですね。
医療現場においても「本当はモンスター化するはずがなかった患者が、病院側の過剰な対応によってモンスター化に追い込まれているケースがある」と批判する人がいますが、病院や大多数の善良な患者からすれば暴れているのが真性のモンスターだろうが、状況によってやむなくモンスター化した患者であろうが迷惑の程度に本質的な差はないわけですから、手順通りモンスターとして対応することが最善解となります。
そして最初から不当な利益を求める真性モンスターならモンスター認定されて治療拒否されようが「今回はしくじったか」で終わる話ですが、仮に本当の患者が状況から思わずモンスター化してしまった結果正当な治療を受ける機会を失ったとしたら、本人にとっては大変に大きな不利益になってくるということですよね。

モンスター問題と言えばともすると真性モンスターと、それに対して否応なしに対応を迫られる側との問題としてのみ捉えられがちですが、ひとたびモンスター対策が整えられてしまうと実は本物のモンスターよりも、その他大勢の一般顧客にとってこそ最も大きな影響を与えるのだということがお判りいただけるかと思いますが、そうであるならモンスター扱いされたくない善良な顧客こそどうすべきかを考えなければならないでしょう。
ひと頃はマスコミなども医療と患者との対立関係を煽る流れで「病院側の対応で少しでもおかしいと思ったら断固とした対応をとりましょう。それが明日の医療をよくすることにつながるのです」なんてことを盛んに喧伝していましたけれども、そんな言葉に乗せられた結果本来得られたはずの利益を医療から受けられなくなった患者がどれくらいいるかと考えれば、馬鹿な煽動を繰り返した連中は責任をとってしかるべきではないでしょうか?
今の時代は医療に限らず良いサービスを受けようと思えば、まず顧客の側から自分はモンスターではないことを証明する努力をしなければならない…と言えば何やら難しいことのように聞こえますが、人間の当たり前の感情として尊大にふんぞり返っている相手より腰が低く丁寧な物腰の相手には好印象も抱くし、なるべく親切に対応したくもなるだろうという常識を働かせ実践していれば、そうそう悪い顧客にはならずに済むんだろうと思いますね。

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コメント

小沢尿管結石で一週間入院ってあり得んw

投稿: | 2011年10月 7日 (金) 19時33分

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