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2011年10月27日 (木)

医療に関わる最近見た判決から

一体これは何なのだろうなあ…と思ってしまうのが、先日出たこちらの判決です。

医師の「頑張れ」は違法=症状悪化と賠償命令-大阪地裁(2011年10月25日時事ドットコム)

自律神経失調症だった男性が、不用意な発言で症状が悪化し復職が遅れたとして、大阪府内の内科医に530万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁の寺元義人裁判官は25日、「『頑張れ』などの発言は違法」として、60万円の支払いを命じた。
 寺元裁判官は、内科医が「病気やない、甘えなんや」「薬を飲まずに頑張れ」などと力を込めて言ったことについて、「安易な激励や、自助努力を促すような言動で病状が悪化する危険性を避ける注意義務に違反した」と述べ、発言と病状悪化との因果関係を認めた

休職職員に「甘えだ」産業医に賠償命令 大阪地裁(2011年10月26日読売新聞)

 自律神経失調症で休職中、産業医に「病気でなく甘えだ」などと言われ病状が悪化したとして、奈良県に住む40歳代の団体職員の男性が、当時の産業医に530万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、大阪地裁であった。寺元義人裁判官は「安易な激励や、圧迫的、突き放すような言動は病状を悪化させる危険性が高く避けるべきで、産業医としての注意義務に違反した」と述べ、元産業医に慰謝料など60万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2008年6月から同失調症で休職。治療で復職のめどが立った後の同年11月、産業医との面談で、「病気やない、甘えなんや」「生きてても面白くないやろ」「薬を飲まずに頑張れ」などと言われ、病状が悪化。復職の予定が約3か月遅れた

 この産業医は内科が専門で、裁判で「励ましの言葉をかけることはあったが、詰問や人格を否定するような発言はしていない」と主張。判決で寺元裁判官は「産業医は心の健康への目配りを通じて労働者の健康管理を行うことも職務だ」と指摘。同失調症を「うつ病などとの関連性が考えられる」とし、慎重な言動の必要性に言及した。

 この産業医は昨年3月、団体での勤務を辞めたという。

よく「鬱病患者を安易に励ましてはならない」なんてことは半ば常識的に言われるところですが、ここで問題になるのがこの原告側の病名が「自律神経失調症」なる疾患概念もはっきり定まっていないものであることで、はっきり言って印象がよろしくないと言うのでしょうか、不定愁訴ばかり多い方に無理矢理つける診断名というイメージが強いですよね。
報道から見る範囲では産業医の対応が安易であったと言われればその通りなんですが、そもそも産業医がこんなところに深入りしているというのが話がこじれた原因であったことを考えれば、余計な助言などをせずにさっさと心療内科なりに紹介状でも書いておけば済んだ話ではなかったかなと言う気もします。
裁判所にしても60万円という支払額からすると「まあこのあたりで手を打っておきなさいよ」という気持ちが込められているのかとも思えるところで、とあるサイトの弁護士費用計算機で計算してみるとせいぜいトントンかおそらく赤字になるあたりの金額ですから、あまり判決の意味を深刻に考えすぎない方がよいのかも知れません。
一方でこちらは以前から久しく係争中という話ですが、このたびはじめて最高裁判決が出たということで少しばかり深刻に考えておくべきなんでしょうかね。

混合診療禁止は「適法」 最高裁が初判断(2011年10月25日朝日新聞)

 健康保険が使える保険診療と適用外の自由診療を併用する「混合診療」を原則として禁じている国の政策が適法かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は25日、「適法」との判断を示した。そのうえで、保険診療分については保険が使える権利の確認を求めた患者の上告を棄却。患者の敗訴が確定した。

最高裁が混合診療の適法性について判断を示したのは初めて。結論は裁判官5人全員一致の意見だった。ただ、大谷裁判長ら3人が「補足意見」を、寺田逸郎裁判官が異なる理由を示す「意見」を述べ、それぞれ制度や運用のあり方に問題提起をした。

 訴えていたのは、神奈川県藤沢市に住む腎臓がん患者の清郷(きよさと)伸人さん(64)。保険適用の「インターフェロン療法」と併せて適用外の「活性化自己リンパ球移入療法」を受けたところ、すべての治療について自己負担を求められたため、「混合診療を禁じる法律的な根拠はないから、インターフェロン分は保険が使える」として提訴した。

 健康保険法に混合診療を禁じる規定はないが、国は法解釈で禁止してきた。その一方で、1984年の同法改正以降、特定の高度先進医療に限って例外的に混合診療を認めている

 第三小法廷は、禁止が「法律から直ちに導かれるとは言えない」と指摘しつつ、法改正の経緯などを踏まえて「医療の安全性・有効性の確保や、財源面での制約から、保険が給付される範囲を合理的に制限するのはやむを得ない」と述べ、国の解釈は妥当と結論づけた。

 個別意見のうち、弁護士出身の田原睦夫裁判官は「現行法は文言上、他の解釈の余地がある。対象者が広範囲に及ぶ場合、明快な規定が一層求められる」と注文を付けた。裁判官出身の寺田裁判官は「給付を認める基準や運用の合理性に疑問がある」との意見を述べた。

混合診療訴訟、がん患者男性が敗訴-最高裁(2011年10月25日CBニュース)

 保険診療と保険外の自由診療を併用する混合診療の原則禁止の是非をめぐり、がん患者の男性が保険給付の確認を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は10月25日、原告の上告を棄却した。現行の「保険外併用療養費制度」が例外的に混合診療を許容するものだとする国側の主張を容認し、2つの診療を併用した場合、保険診療に関しても保険給付が行えないことを妥当とする二審の判決が確定した。

 訴えていたのは神奈川県藤沢市在住の団体職員・清郷伸人さん。
 判決などによると、清郷さんは神奈川県立がんセンターで腎臓がんと診断され、保険診療の「インターフェロン療法」と自由診療の「活性化自己リンパ球移入療法」(LAK療法)の併用を2001年9月から開始した。LAK療法は当初、旧特定療養費制度で「高度先進医療」の承認を受け、保険診療との併用が認められていたが、その後「有効性が認められない」として承認が取り消され、06年4月から保険診療との併用ができなくなった

 このため清郷さんは、保険外診療を併用しても保険診療部分については受給できることの確認を求めて国を相手に提訴。一審の東京地裁は07年11月、清郷さんの訴えを認める判決を下した。これに対し、09年9月の二審の東京高裁判決では逆転敗訴となり、原告側が上告していた。

■「国のこれまでの主張が認められた」―小宮山厚労相が談話

 上告審の判決を受け、小宮山洋子厚生労働相は、「現時点で、判決の具体的な内容を十分に把握していないが、国のこれまでの主張が認められたと考えている」との談話を発表した。

ご存知のように現在の制度では先進医療のような例外に限って混合診療が行えることになっていますが、この先進医療にしても厚労省の認可によって大学など特定の施設で行われる場合に限って認められるものですから、実際的には保険扱いが関わる全ての診療を国が管理しているということですよね。
基本的に混合診療を認めてほしいといった場合の多くは国内ではまだ認められていないような海外の最先端の治療を行いたいという場合が多く、いわゆるドラッグラグ問題などを解消していくことで自然とその範囲も減らせるのではないかとも思いますが、そうした医療を行っている大病院の現場医師などは「混合診療?何が悪いの?」と考えている人も結構いるものです。
一方で長年厚労省の背後から「混合診療断固阻止!」と叫び続けているのがこの種の医療とはかなり遠いところにいるだろう日本医師会(日医)であるというのは興味深い現象で、日医などはかねて一般向けのパンフレットも用意して「混合診療はこんなに危険!」とアピールを繰り返すと同時に、この裁判に関しても地裁レベルから一貫して反対の論陣を張ってきているわけですよね。

いわゆる混合診療に係わる東京地裁判決への日本医師会の見解(2007年11月9日日本医師会)より抜粋

3.混合診療解禁についての日本医師会の見解

 混合診療解禁そのものについては、医療給付上の格差を拡大するものであることから、日本医師会は一貫して反対している。

(1)保険外診療は、事前に有効性、安全性が認められていないために保険外となっているものである。これを保険と併用した結果、なんらかの問題が発生した場合、患者にとって不利益となるばかりか、公的保険の信頼性が損なわれる

(2)「混合診療」が解禁され、新しい医療技術等は自己負担という流れができると、新たな医療技術等を保険下に組み入れようとするインセンティブが働きにくくなり、その結果、公的保険給付範囲が縮小する恐れがある。

(3)混合診療が解禁された場合、「全額自己負担」は、「保険診療の一部負担+保険外診療の自己負担」になる。しかし、すべての国民に、保険外診療の自己負担が可能なわけではない。逆に保険給付範囲が狭まった場合、保険外となるものが出ることも予想され、所得の少ない国民にとっては負担増となる。

 なお、本件、活性化自己リンパ球移入療法は、現在、臨床現場では積極的に採用されているとはいえない。

 仮に、有効性・安全性が確認されていない医療に門戸が開かれた場合、かえって、国民・患者の健康が阻害されるおそれがある。この面からも、日本医師会は、混合診療解禁に反対する。

ま、理由の(3)などはかなり無理矢理なこじつけかなとも見えるのですが、日医が気になっているのは混合診療導入の先がどうなるのかということなんでしょうね。
要するに日医の反対の論拠としては表向きはどうあれ、最終的に混合診療が認められることによって保険診療の範囲が限定されていく、あるいは保険からの支払いがさらに切り下げられるということを危惧しているものと思われますが、混合診療の対象となるような先端的な医療には手を出しにくいだろう日医会員の開業医の先生方にとってはもっともな話ではあるでしょう。
歯科などはご存知のように混合診療が非常に盛んで、昨今の歯科医激増によるワープア化もあって日頃から診療のさじ加減に苦労していると言う話も聞くところですが、実際に新しく良い治療法がどんどん開発されているにも関わらず一向に保険扱いにならない、高い自費でやるのでなければ相変わらず古くさい治療しか行えないという不満の声はかなり根強いようです。
逆に考えると混合診療導入によって国は保険診療に関わる公的費用を節約することも出来るようになりそうだと思えるのですが、興味深いのは医療費削減で吝い診療報酬改定を続けてきている厚労省が自らの利益に結びつきそうな混合診療を認めるつもりがないらしいということですよね。
すでに小泉内閣時代から規制改革の流れの中で混合診療解禁を求める声に対して、厚労省がしぶとく抵抗してきているという経緯がありますけれども、厚労省の役人が国民に安くて良い医療を提供しようと真摯に願っているなどということはまずないだろうとすれば、その理由としては皆保険制度という枠組みが外れることで厚労省の目の行き届かない領域が増えることに対する危惧があるのでは?という意見もあるようです。

もちろん世の中にはひと頃大騒ぎになったホメオパシー問題のように、黙っているととんでもないことを平気でやらかす人々も大勢いますから、好意的に考えれば厚労省は保険診療による縛りというものによってそうした好き放題をある程度掣肘していくというイギリス式のコントロールを図っているのだとも受け取れます。
しかし何を是とし何を非とするかの判断を行うのが、過去の数多の事例から医療関係者からも国民からもすっかり信頼を失っている厚労省ということであれば「おいおい、本当に大丈夫かよ…」と考えてしまうのが人情ですし、ドラッグラグなどの問題を見ても判断が正しい正しくない以前に行動がとにかく遅いということがとりわけ患者側からすれば不満を募らせる最大要因となっているのでしょう。
そこで混合診療に限らず医療全般にも関わってくる話ですが、厚労省にしろ日医にしろ混合診療導入で患者様に思いがけない不利益が及ぶことがあるかも知れないということを反対論の錦の御旗に掲げているのですから、今まではJBM的に曖昧なままにされてきた患者の自己選択権と自己責任ということをもっと制度的に確固としたものとして確立し、医療に一定の免責ということを導入してはどうでしょうか。

説明と同意といった部分をどのようなフォーマットで行うかは相当煮詰めが必要でしょうが、何かあっても一切自分の責任でやっていただくということを公式の制度として認める、同時に何かあったときには保険なりなんなりできちんと相応の金銭的補償も行うという制度を用意しておけば、混合診療ならずとも色々と便利に応用は利きそうですよね。
医療と言うものは一人一人が違っている人間が対象であるだけに、たとえ確立された治療法であったとしても何か起こらないという保証など何もないわけですから、曖昧かつ恣意的な区分で診療を制限するくらいなら最初からリスクはあるものとして対応策を用意しておくのが筋と言うものでしょう。

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コメント

奈良の団体職員か…
仕事しなくても首になるような心配なんてない人なのかな…
奈良だけに童話の世界みたいな話かもね…

投稿: tetsu | 2011年10月27日 (木) 08時34分

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