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2011年9月28日 (水)

支払い不能は患者のみならず医療機関にとっても大問題です

ひと頃からマスコミなどでも話題になっている件ですが、確かに今の時代それくらいにはなるだろうなと思わされるのがこちらのニュースです。

高額薬:患者3割、貯金崩す 受診中断経験も 民医連調査(2011年9月1日毎日新聞)

 抗がん剤など高額な薬を使う患者のうち、医療機関への支払いのため貯金を取り崩している患者が約3割に上ることが、全日本民主医療機関連合会(民医連)の調査で分かった。借金して支払っている患者も約3%いた。日本は欧州などに比べて医療機関での窓口負担が高い。長引く不況の中、治療に欠かせない高額薬が患者の負担となっている実態が浮かんだ。

 民医連は、病院や診療所、薬局など医療・福祉にかかわる1700以上の団体からなる。今年3~6月、抗がん剤やリウマチ治療薬、インスリン製剤といった高額薬を使う患者を対象に、加盟する327薬局を通してアンケートを実施した。137カ所(41.8%)から978人分の回答があった。

 その結果、58.9%の患者が「医療機関での窓口負担が高い」と回答。窓口での自己負担が3割の人たちでは73.5%が「高い」と感じていた

 支払いについては、60.3%が「生活費を切りつめている」、29.2%が「貯金を取り崩している」、2.7%が「借金をしている」と答えた。リウマチ治療薬の使用者では、貯金を取り崩している人が56.2%と過半数に上り、抗がん剤も使用者の43.7%が貯金に手をつけていた。

 また、全体の13.7%が「医療機関の受診を中断した経験がある」と答え、中断経験者の50.7%が経済的理由を挙げた

 自己負担3割の場合、1回当たりの窓口負担額は、平均でリウマチ治療薬3万1629円、抗がん剤2万5505円、インスリン製剤6358円だった。

 回答者からは薬価の値下げのほか、高額負担を解消する医療制度の改善などを求める意見が多かった。民医連は「金の切れ目が命の切れ目になっている。等しく医療を受ける権利を保障するため、自己負担の割合を大幅に減らし、高額薬価を是正すべきだ」と訴えている。【河内敏康】

こういう話を聞くと日本では皆保険制度導入によって医療が誰にでも手軽に得られるものになった結果、「人の命がお金の有無で左右されるのはおかしい」という論調が絶対普遍の真理であるかのように語られるようになって久しいですけれども、世界的に見ればむしろ「金の切れ目が命の切れ目」という方が圧倒的多数派であるという事実も知っておかなければ「日本人にとって水と安全と医療は…」なんて言われてしまいかねませんよね。
そうした話はともかくとして、高額薬というと一本数万円といった文字通りの高額薬ばかりが注目されますが、昨今ワープア化が進んでいる人々の間では糖尿病やぜんそくなどの慢性疾患に対する毎月数千円の固定費が払えないからと自己休薬してしまい、後日大変なことになって入院騒ぎになるといった方々も少なからず見られるようです。
その一方で相変わらずお年寄りが薬を気楽に捨てているとか、余計にもらった湿布を町内会で配っているなんて話を聞くとなんだかなあ…と思わざるを得ませんが、いずれにしても医療の高度化に伴う高額医療の普及が今や患者に取って現実的な脅威ともなってきているのだと言うことを、ここではご理解いただければと思います。

その高額医療費問題ですが、先日はとりわけ低所得者における高額医療費の負担を軽減するべく月々の自己負担の上限額を引き下げようという議論の中で、その財源として診察毎に100円程度の受診時定額負担を導入しようという話が出ていることを少しばかり取り上げたところです。
この件に関しては当然ながら賛否両論あるわけですが、とりあえず前述のように患者側からは少なからず悲鳴が上がっているという現実があり、また全国の医療機関で医療費未払いが問題となり「国は低所得者対策をしてくれ!」と悲鳴も上がっている状況にもある中で、予想通りの方々が強硬な反対論を展開しているらしいというのがこちらの記事です。

“受診時定額負担”に反対決議(2011年9月23日NHK)

日本医師会など医療や介護に関わる団体が会合を開き、高額の医療費がかかる患者の負担軽減策として、厚生労働省が、医療機関を受診する際に患者に定額の負担を求め、財源とする制度を検討していることについて、医療機関にかかる機会が多い高齢者などの負担がより重くなるとして、反対する決議を採択しました。

厚生労働省は、高額の医療費がかかっている患者の負担軽減策として、新たに年間の自己負担額に上限を設ける一方、医療機関を受診する際、患者に診療費とは別に100円程度の定額の負担を求め、財源に充てる制度を検討しています。これについて、日本医師会や日本歯科医師会など、医療や介護に関わる団体が23日、会合を開き、出席者から「病院に行く回数が多いお年寄りなどは負担がより重くなって、必要な治療を受けられなくなってしまう」という意見や、「財源は保険料の引き上げや税金で賄うべきだ」といった意見が相次ぎました。そして、制度の導入に反対する決議を採択し、今後、各団体が患者などに反対を呼びかけていくことを確認しました。日本医師会の原中勝征会長は、記者会見で「豊かでない人にも負担を求める制度は、医療保険の本来の趣旨とは違う。国民を守る視点で専門家集団として政府に提言していきたい」と述べました。

いや、月せいぜい数百円の負担で医療にかかれなくなるリスクよりも、あまりに安易すぎるコンビニ受診によって医療そのものが崩壊したり低所得者が高額医療費を支払えないで受診を中断してしまうリスクの方がはるかに深刻ではないかと思うのですが、日医の言うこともよく見ればかなり得手勝手なものですよね。
そもそも日医はずっと診療報酬を増やせと言っているわけですが、診療報酬を増やすと言うことは直接間接はどうあれ国民負担をも増やすということに他ならないわけですから、国民のためになどという美辞麗句を金科玉条のように振りかざして反対反対と叫んだところで説得力がないどころか、本当の反対の意味は別なところにあるんじゃないの?と勘ぐられるのがオチというものです。
今や多忙を極める全国の基幹病院の勤務医は少しでも患者を減らそうと開業医に逆紹介するとか、加算金を取ったり可能な限りの長期処方をして少しでも受診者抑制をしようと努力していますが、逆に日医がその利益を代弁する開業医などでは処方日数を短くしてたびたび来院するように誘導しているというのは大いに患者負担を招いているのではないでしょうか?
もともと大病院は入院主体、開業医は外来主体でやっていくようにとそれぞれの診療報酬に格差をつけた結果、患者は安く診てもらえる(入院はいずれにしても開業医では扱えませんからね)大病院の外来に集中するというおかしなねじれ現象が発生しているわけで、本当に国民のためにと言うのであればそうしたねじれ現象をまず解消するよう働きかけるのが筋でしょう。

日医がこういうことを主張する背景には近年診療報酬の締め付けから開業医の経営はますます厳しくなっていて、新規開業など親からの引き継ぎか借金無しの軽装開業でなければ到底黒字化はおぼつかないとも言われる現実があるのでしょうが、国全体に対する医療の位置づけというものから見てその主張がどうなのかです。
すでに医療全体で見れば明らかに需給バランスが供給過少、需要過多の方向で破綻していて、多忙な勤務医は何とか不要不急の受診を抑制できないかと頭を悩ませている、国にしても財政状況からこれ以上の医療費負担には耐えられそうにないと、近年では病気になる前の段階で予防して医療費を安く上げようと職場健診などもやたらとうるさく言うようになっているのは周知の通りですよね。
そんな中で開業医とその代弁者である医師会だけが「いやいや、なるべくお安くして顧客を大勢呼び込まなければならないですから」なんて時代錯誤な拡大路線を突っ走っているというのはどう見ても浮いていますし、民主党政権が進めている医療主導による経済成長論なるものが言うところの医療というものはそういうレベルの医療ではないはずです。
この件について先日日医の出した「「受診時定額負担」に反対します」という声明文には、例えばこんな文言が書いてあります。

そもそも、日本の患者負担はこれ以上引き上げてはなりません。日本の患者一部負担割合は、公的医療保険がある先進諸国と比べてかなり高くなってい ます。これ以上患者負担が増加すれば、受診を控え重篤化するケースが生じ かねません。

ところがその比較対象となる各先進国の患者負担なるものが、あくまで「一般開業医を受診した場合」のものであるのが何とも日医らしい詭弁ですが、日医の主張するような諸外国との比較で日本の医療を語るのであれば、日本の患者の年間受診回数は圧倒的に多く、また日本の医師の年間診察回数もまた圧倒的に多いということにも言及しなければフェアではありません。
要するに日本の医療は国際的に見てあまりに気安くたびたび受診できる状況が続いてきたし、その背景に日医の早期受診は疾患の重症化を防止するという主張があったわけですが、諸外国並みにしろと主張するのであれば他国で行われている患者受診抑制策というものも同時に日本に導入すべきだと主張しなければアンフェアであるのに、そちらには断固反対だというのですから全く筋が通りませんね。
そして日医の言うことは一見して自分達の目先の利益だけを真っ正直に追求しているようにも見えて、医療全体の将来像を考えていくと決して持続的な利益につながらないどころか、かえって大きな問題を呼び起こしかねないというのが、日医が当然の前提として永続するものと考えている国民皆保険制度なるものの前提事態が今や怪しくなっているという現実にあります。
皆保険と言うと医療現場では悪く言う人もいますけれども、医者にとっての利益のみならず医療が持続的に存続することによる国民の利益を考えても、かれこれ半世紀も皆保険制度にどっぷり浸かりながら進化(あるいは、適応)してきた日本の医療現場にとっては、この皆保険制度を維持するということの経営上のメリットは現状では非常に大きいことも認めないではいられません。

もちろん一部の医療機関のように「いや、うちは保険外診療も積極的にやりますよ」というやる気のある施設もあるでしょうが、応召義務が撤廃されない以上はお金が払えないことが受診拒否の理由にはならないわけですから、とりあえず保険証さえ持っていれば最低限のコストは回収出来るというのは国民所得が低落してきた時代であるからこそ経営リスクを軽減する上で大いに意味を持ってくるということです。
いくら近頃は医療に有り難みを感じない人間が増えて客層が悪くなった、皆保険なんて潰れたって構わないと言ったところで、同時に応召義務も撤廃しないことには支払い能力のない患者が大勢押し掛けてくるリスクが増大するばかりで、そうした状況に対応出来るだけの対策が用意出来ないことには無保険重症患者を一人受けた瞬間に経営破綻するリスクを背負うということにもなりかねませんし、病院が潰れれば患者は行く先を失うことになってしまいます。
そう考えると一番避けるべきなのは窓口負担が増したからと少々受診を控える事態よりも、「どうせ病院いかないのに保険料払うなんて馬鹿馬鹿しい」と保険証を捨ててしまう人が増えてくることであって、それを抑制するために何が有効かということを考えた場合、受診料百円引きよりは大病になっても支払いはお安くて済みますの方が万一の場合の(文字通り)保険として保持するモチベーションにつながる気がしますけれどもね。
どうも日医と言えば近頃まるで目先の利益だけにしか目が行かないまま何でも反対反対でやっているようにしか見えませんが、本気で国民の利益を考えてものを喋る意志があるのであればまずは医療現場の現実や財政の現状をもしっかり見据えた上で一時しのぎの話に走らず、医療の供給側と需給側とが永続的なwin-win関係を保っていける道を探らなければならないんじゃないかと思います。

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コメント

3、4年前に厚労省が検討会を立ち上げて何か新たな方策でも打ち出すのかなと思ったら、現状分析したらカオス過ぎて病院が何とかがんばってねで終わっちゃいましたからね~。

まぁ、無いものは無いを貫いて未収を気にせず受診する患者が最強なわけで・・・

投稿: とおりすがり | 2011年9月28日 (水) 13時20分

寝たきり高齢者に湯水の如き医療費が注ぎ込まれた結果金とマンパワー双方で医療が破綻すると言えば、保険対象外にとは言わないまでも高齢者一割負担のバーゲンプライスはどうなのかなと思ってしまうな。

投稿: kan | 2011年9月28日 (水) 20時03分

一応現状では入院すれば生活保護も優先的に取れる印象ですが、昨今世間では生保認定もどんどん厳しくなっているだけに、中途半端な収入の無保険者が支払い不能に陥る可能性はどんどん高くなっていると思います。
低所得者と生保との逆転現象を何とかするには健康保険における高所得者の負担を増やすというのが現実的かなと思うのですが、そうなると日本の皆保険制度の前提である誰でも同じ給付というのが高負担者の不満の元になるでしょう。
そう考えると実は健康保険で一番危険なシナリオというのは高額所得者が「こんなに高い負担を強いられているのに給付は生保と同じか!」と自費診療+民間保険に移行してしまうことなんじゃないかとも思います。
ゴールドとかブラックとか負担に相応した特典付きの区分け導入が無理なのだとしたら、例えばオプションという形で二階建て保険を用意するとかでしょうか…

投稿: 管理人nobu | 2011年9月30日 (金) 10時54分

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