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2011年9月16日 (金)

「べっ別に騙されて飛ばされたわけじゃないんだからっ!勘違いしないでよねっ!」

なんでもそこに飛ばされた者は思わずタイトルのような意味不明のことを口走ってしまいそうになるという恐ろしい場所が某所のダム板なんだそうですが、そう言いつつも時にダムというものにもなかなか興味深い話題があるようです。
先日の台風12号は日本各地に大きな被害をもたらしましたが、とりわけ大きな被害を受けたと話題になった紀伊半島ではこんな騒動が持ち上がっているようなんですね。

新宮市議会「人災だ」、Jパワー「規定どおり」 放流問題で平行線/和歌山(2011年9月14日産経ニュース)

 台風12号による紀伊半島豪雨で熊野川水系にあるダムを操作する電源開発(Jパワー)が雨が降り始めてから放流したことをめぐり、和歌山県新宮市議会がJパワーに説明を求めたことを受け、Jパワーは14日、新宮市庁舎を訪れ、市議会側に当時の対応を釈明した。放流は「人災」だったとする市議会と、運用規定どおり放流を行ったとするJパワーの主張は平行線をたどった

 Jパワーの橋本長幸西日本支店長は「法律で定められた運用規定どおり、できる範囲で精いっぱいやった」とした上で「自主的にゲートを閉めて放流しないということは(規定上)できない」と説明。

 市議らは「事前に放流して貯水をゼロの状態にしてくれていたら、こんな事態にならなかった。人命が失われた事実を受け止め、弾力的に運用できるよう考えるべきでは」と訴えた。

熊野川の発電ダム 「事前放流」怠り被害拡大か/和歌山(2011年9月15日MBS)

 台風によって川が氾濫したのは上流のダムが増水に備える事前放流をしていなかったためだとして、和歌山県新宮市議会がダムを管理する電源開発に説明を求めました。
 電源開発は「国の規定に基づいて対応した」と反論しています。

 台風12号では新宮市などを流れる熊野川が氾らんし、志古地区で3人が死亡するなど大きな被害が出ました。
 上流には二津野ダム(十津川村)など電源開発の発電用ダムが6つありますが、電源開発は台風上陸の前に事前放流をほとんどせず、大雨が降った4日未明になって大量に放水していました。
 このため新宮市議会は大雨のさなかに放流したのが氾らんの一因ではないかと説明を求めました。

 「熊野川の水位が低いうちに少しでも流しておけば防げたんじゃないのかというのが住民の素直な気持ち」(新宮市議会議員)
 「発電用ダムで事前放流を行うことはありえません」(電源開発側)

 発電用のダムには洪水対策のための運用規定はなく、両者の言い分は平行線を辿りました。
(略)

和歌山・新宮市議会、台風12号による豪雨の際のダム運用について管理会社に説明求める/和歌山(2011年9月15日FNN)

台風12号による豪雨への対応について、熊野川の下流にある自治体の市議会が、ダムの管理会社に対して説明を求めた。
和歌山・新宮市の市議会は14日、熊野川の上流に発電用ダムを持つ管理会社「電源開発」に、台風12号による豪雨の際のダムの運用について、説明を求めた。
市議たちは、洪水に備えてダムの空き容量を確保する事前放流を求めた。
和歌山・新宮市の市議会は、「人命よりも、利水のダムのことが大事なんですか、どっちですか!」と管理会社にただした。
また、「少しでも(事前放流で)流しておけば、(被害が)防げたのではないかというのが住民の気持ちなんですよ」、「ルールはルールとしてあるけれども、やっぱり状況を判断して弾力的な運用をしないと」といった声が上がった。

今回の台風では和歌山に限らず全国で非常に大きな被害が出て、しかも現在もその影響が継続中であるということには心を痛めているところですが、記事にもありますように新宮市でも複数の犠牲者が出たことは本当に残念な事で、市議会としても住民に対する顔向け上も何かしらの動きは示さずにはいられないところなのでしょう。
今どき天気予報を見ていれば台風が来ることなど何日も前から判っているのだから、それだったらあらかじめ放水して空にしとけやゴラ!と言われると素人目にはなるほどもっともだと思えるのですが、どうも会社側の答えとは微妙にすれ違っているような印象を受けますよね。
日本においてダムに関わる法律である河川法の定義では「河川の流水を貯留し、又は取水するため第26条1項の許可を受けて設置するダムで、基礎地盤から堤頂までの高さが15メートル以上のもの」となっているそうですが(ちなみに、15m未満の小さなものは「堰(せき)」と呼ばれます)、この河川法を受けて1976年に出されているダムに関わる政令が河川管理施設等構造令なるものです。
こちらで扱うのは15m未満のダムやいわゆる砂防ダムを除いた「河川管理施設又は河川法第26条第1項の許可を受けて設置される工作物のうち、ダム、堤防その他の主要なもの」となっていますが、この河川管理施設というのは河川管理者(国や自治体)自身が洪水調節などのために作る多目的ダム、治水ダムと言った類で、一方今回問題になっているような発電ダムは後者の河川法の許可を受けて設置するものになります。

何やらややこしい話ですが、つまり大雑把に分類するとダムには洪水調節を目的にする治水ダムと、発電や上水道・工業用水確保などを目的とする利水ダムとがある、そして複数の目的に使用される多目的ダムなどは別として、基本的に電力会社などがつくっている利水目的のダムというのは治水能力は持たないということのようです。
言われてみればこれは素人が考えても判ることで、治水専用のダムであれば普段は空にしておいて(最初から下部に穴が空いていて全く水を溜めないダムもあります)大雨の時にだけ水を溜め込めばよいわけですが、利水目的のダムというのはもともと水を溜めて何かに使うことを前提にしている以上、大雨が降ったからと言ってさらに余計に溜め込む余地が乏しいわけですよね(実際にはもう少し複雑な問題が絡まるらしいですが)。
そして熊野川水系というのはかなり沢山の利水ダムがあるのですが、驚くことに紀伊半島南部で元々多雨地域として知られているにも関わらず流域に一つとして治水ダムがないらしいというのは困ったものですし、その意味では起こるべくして起こった災害という考え方も出来るのではないでしょうか。
地域の治水システムの上でもともとそうした欠陥があったとするとまずそちらをどうにかするのが先決だと思いますが、ここで問題になっているのは(実際に洪水被害が抑えられたかどうかはともかく)現場に独自裁量の余地はあったのか、それとも会社側の言うようにそうした余地はなかったのかということですよね。

基本的に利水ダムでは洪水調節など行わずそのまま降った分を流すという形になっているようですが、少なくともダムを造ったことによって洪水がひどくなるといったことのないよう、河川法の規定に加えて1966年の建設省(現国交省)河川局から「建設省河川局長通達・建河発第一七八号」が出され、個別にダムの名を挙げてどんな洪水対策をしておくべきかが指示されています。
これがJ-POWER社の言う国の規定というものなのでしょうが、特に今回問題になった同社の発電用ダムである熊野川水系の二津野ダムや風屋ダムなどはこの通達で第一類に分類されていて、河川法に定める洪水調節のための指示についてこんな特別の規定が示されています。、

5 洪水調節のための指示(法第五二条)について

(1) 別添第二に掲げる第一類のダムその他令第二三条第一号又は第二号に該当するダムについては、その下流の地域に洪水による災害が発生し、又は発生するおそれが大きいと認められる場合において法第五二条の指示をすることが、必要かつ適切であるかどうかを検討すること。

(2) (1)の検討の結果に基づき、法第五二条の指示をすることが予想されるダムがあるときは、当該指示に基づく措置が円滑に行なわれるように、当該ダムの設置者との協議により、その措置の内容、当該指示の伝達の方法その他当該指示に関する事項をできるだけ予定しておくこと。

(3) (2)の協議が成立したとき、又は当該協議の成立が困難であることが明らかになつたときは、すみやかに、その成立した協議の内容又はその成立に至らない経過を本職に報告すること。

ちなみにここでいう河川法第五二条とは洪水調節のための指示と銘打たれた条文で、こんなことが示されているものです。

第五二条
河川管理者は、洪水による災害が発生し、又は発 生するおそれが大きいと認められる場合において、災害の発生を防止し、又は災害を軽減するため緊急の必要があると認められるときは、ダムを設置する者に対 し、当該ダムの操作について、その水系に係る河川の状況を総合的に考慮して、災害の発生を防止し、又は災害を軽減するために必要な措置をとるべきことを指 示することができる

非常時に河川管理者(今回のような場合は一級河川ですから国ですよね)がダム設置者に直接ダム操作を指示することについて、事前に指示内容や伝達方法なども決めて報告しなさい、決めない時はその事情も含めて報告しなさいという国からの通達ですから、任意のような書き方をしていても実際上は決めろと言う義務ですよね。
要するに洪水が起こりそうな場合のダムの運用というのは、例え電力会社が運用している利水目的のダムでもきっちり規定が決められていて現場の勝手には出来なず、何事もお上の了解を得た上で事前に決めた予定通りの対応をしなければならないようになっているということですが、当然ながらこんな臨機応変の対応も出来ないようなことになっているのでは困る場合も多々あるわけで、元々のルール設定に問題があったと言えそうです。
歴史を紐解けば1968年の飛騨川バス転落事故や1999年の玄倉川水難事故では規定にないダム操作が行われていますが、これらは人命に関わる緊急事態として警察など各方面関係者からの特別の要望も受けて行われたもので、起こるかどうか判らない洪水被害を予測して自主的にダム操作をしろというのでは、前記規定に照らせば後日確実に関係者が責任を問われるだろうことを考えると難しいだろうと推測できますね。

地域で治水のための物理的体制が出来上がっていなかったのがそもそもの問題なのですから、自治体が後になってクレームをつけるなら最初から自分達でお金を出して治水ダムでも作っておけやというのが筋論になるでしょうし、ルールは無視してでも状況を判断してやれというなら、市議会議員こそ市長に働きかけるなり独自に声をかけて回るなり住民の避難を率先してすすめていくべき責任があったのではないでしょうか。
実際に電力ダムを含めて地域の複数のダムを有機的に活用して洪水被害を防いだという例は過去にもあるようなんですが(わざわざレポートするくらいですからレアケースなんでしょうね)、何故そうしたことが常時出来ないのかと言えばダム一つ取っても関係省庁や団体が複数にまたがる、これが地域の複数のダムにまたがってとなれば関係者は数え切れないことになるわけで、それぞれの利害調整や連絡、そして後始末の費用は誰が負担するのかといった話がまとまらないからであるようです。
となれば、そうした体制整備の話は台風が来た後で騒ぐべき話ではなく、普段から地域や関係者の間できちんと話し合うなり国に働きかけるなりしてこれなら満足出来るという運用ルールをあらかじめ決めておくべきものであるし、法律や通達上の決まりは守らざるを得ないダム管理者側に喧嘩腰で食ってかかっても何ら建設的ではなさそうに思いますが、敢えて声を荒げて見せアピールしなければならない事情もあったということなのでしょうか。
今回の台風では和歌山県内でも治水目的のダムすらうまく対応出来なかったというくらいで、ましてや利水ダムが多少あがいてみたところでどうにもならなかった可能性が高いと思いますが、万一にもそうした不満足な体制で良しとしてきた行政側の人々が自分達への批判をそらす目的で誰かを犠牲の子羊に祭り上げて責めたてるというのであれば、さすがにそれは筋が違うだろうと思わざるを得ません。

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コメント

新宮の市議って世界遺産の森を無断伐採させた奴がいたよね
そういう土地柄なんだろうね
世界遺産の無許可伐採、新宮市議が指示
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110618/crm11061810530004-n1.htm
世界遺産伐採の指示疑惑が出ている市議とは
http://blogs.yahoo.co.jp/t_mit21/4294138.html

投稿: | 2011年9月16日 (金) 08時49分

>>熊野川の水位が低熊野川の水位が低いうちに少しでも流しておけば防げたんじゃないのか

完全な「後出しじゃんけん」の意見ですね。行政も住民への避難勧告が遅れたり、避難勧告すら出していなかったりしているので
「お前がそれをいうか」って思います。
もし仮に事前放流して、事前放流の情報が伝わってなくて放流による急な増水で住民に被害が出たら責任は誰が取るんだろう?

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年9月16日 (金) 09時27分

日本代表のトルシエ元監督が車も来ないのに赤信号でじっと待っている選手達に「車が来ないんだったら渡っていいんだ」と言った話は有名ですが、従来こういう行動は規律を重視する日本人の性癖によるものだとされていました。
しかし昨今の「何かあったら叩かれる」風潮を見ていると、後天的にもそうした考え方が強化されますます日本全体が硬直化しお役所化してしまいそうな気がします。
臨機応変な判断で動けと言うのであれば、その臨機応変な判断をするための材料を得られるような環境にあったのかどうか、そしてそうした行動が好ましくない結果を生んだとしても判断を尊重し守るような体制になっているのかといった辺りも検証してもらいたいですね。

投稿: 管理人nobu | 2011年9月18日 (日) 22時28分

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