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2011年8月 2日 (火)

結婚適齢期はないかも知れませんが、出産適齢期は確実にあります

最近では婚活というものがちょっとした流行り言葉のようになっていますが、もはや婚活では遅すぎるとばかりに「妊活」なるものまで登場したそうです。

妊娠学ぶ“妊活”のイベント(2011年7月31日NHK)

結婚や出産する年齢が高齢化する中で妊娠についての正しい知識を身につけてもらおうと、“婚活”ならぬ“妊活”と銘打ったイベントが東京で開かれました。

このイベントは出版社などが開いたもので、東京・港区の会場には20代から40代の男女300人が参加しました。はじめに国立成育医療研究センターの齊藤英和医師が、30代後半になると流産する割合が高くなることなどを説明し、「若いうちから妊娠・出産を含めた人生設計を考えてほしい」と呼びかけました。イギリスの大学が世界18か国で行った調査では「女性の妊娠能力は40代では30代より低下する」ことを知っている人が、日本は46%にとどまるなど、正しい妊娠の知識を持つ人が欧米に比べて少なくなっています。

イベントでは妊娠について正しい知識を身につけることを“妊活”と銘打って、妊娠の基本的な知識をクイズ形式で学んでもらったり、専門の医師が質問に答えたりしました。4か月前に結婚したという37歳の女性は「妊娠に適齢期があるなど知らないことだらけでした。仕事をバリバリやりたいが、今は家族を作りたい気持ちが強いので、“妊活”に本気で取り組みたい」と話していました。主催した講談社の川良咲子副編集長は「“妊活”という言葉を通じて後悔しない知識を身につけてもらうとともに、社会や企業にも出産と仕事が両立ができる仕組みを考えてほしい」と話していました。

さすがに妊娠能力が加齢によって低下することを半数が知らないなんてネタだろう?と思いたくなるような話ですが、先日高齢出産を果たしたことで話題になった野田聖子氏なども30代後半以降妊娠が難しくなることを「そんなこと、学校でも教えないから、私は気がつかなかった。」と言い、出産適齢期を仕事に明け暮れていたことを後になって後悔したということですから、案外世間の認識はこんなものなのかも知れません。
女性の社会進出が年々進んできていることに加えて、近年は不況による収入源の影響もあってか晩婚化に加えて晩出産化も進む一方だということですが、一方で近年ではお一人様だの自分磨きだのと晩婚化は決して悪いことではない、独身でいることも有りなのだということを世に広めてきたマスコミという存在もまた無視するわけにはいきませんよね。
このあたりは鶏が先か卵が先かの議論にもなりかねない話ですが、現実問題として例えば東京都などでは女性の平均初婚年齢が30歳近くになり、すでに20代後半よりも30代後半の方がより多く出産するようになっているわけで、今や妊娠出産年齢の高齢化は平均値レベルで生物学的な警戒領域に突入しつつあるのかなという印象を受けます。
もちろん結婚という行為は単に社会的な行事ですから何歳で行ってもらっても構わないわけですが、生物学的な縛りから逃れられない出産という行為には厳然たる適切な時期というものがあるということを考えると、そちらが遅れることによるデメリットを今まで伝えずにきたマスコミもまた片手落ちであったと言わざるを得ないでしょうね。

高齢出産によるデメリットは数々あって、よく不妊治療などで問題になるように妊娠自体が成立しにくい(若年者と比べて流産率が倍増)、妊娠中毒症のリスクが2~3倍も高くなることなどに加えて、非常に有名なのが胎児異常を来す確率が激増することで、有名なダウン症などは30歳未満に比べて40歳以上の出産ではリスクが15倍!(50~100人に一人)にもなるとされています。
前述の野田聖子氏などもお子さんが非常に多種多様な障害を抱え集中治療室に入っていらっしゃることを公表され話題になりましたが、この場合も肝臓と心臓の障害については妊娠中にすでに発覚していたということですから、産む立場としても母親となる立場としても実際の出産にいたるまでにも様々な葛藤があったのではないかと推察されますよね。
高齢出産がこうまで増えてくれば当然ながら胎児異常の発生率も高くなる、そして胎児に対する出生前診断のレベルも年々向上していくわけで、とりわけ藁をもすがる思いで不妊治療にかけてきたような方々にとっては非常に悩ましい事態が、以前よりもはるかに容易に発生し得る状況であることはデータからも明らかになってきています。

出生前診断で異常発見し中絶、10年間に倍増(2011年7月23日読売新聞)

 胎児の染色体異常などを調べる「出生前診断」で、2009年までの10年間、胎児の異常を診断された後、人工妊娠中絶したと推定されるケースが前の10年間に比べ倍増していることが、日本産婦人科医会の調査でわかった。

 妊婦健診の際に行われるエコー(超音波)検査で近年、中絶が可能な妊娠初期でも異常がわかるためとみられる。技術の進歩で妊婦が重大な選択を迫られている実態が浮き彫りになった。

 調査によると、染色体異常の一つであるダウン症や、胎児のおなかや胸に水がたまる胎児水腫などを理由に中絶したと推定されるのは、2000~09年に1万1706件。1990~99年(5381件)と比べると2・2倍に増えた。

 調査は横浜市大国際先天異常モニタリングセンター(センター長=平原史樹・同大教授)がまとめた。

 全国約330の分娩(ぶんべん)施設が対象で、毎年100万件を超える全出産数の1割をカバーする。回答率は年によって25~40%程度だが、調査では回答率が100%だったとして「中絶数」を補正した。

 人工妊娠中絶について定めた母体保護法は、中絶が可能な条件に「胎児の異常」は認めていない。だが「母体の健康を害する恐れがある」との中絶を認める条件に当たると拡大解釈されているのが実情だ。平原教授は「ダウン症など染色体異常の増加は妊婦の高年齢化も一因だ」と話す。

 調査結果は22日から都内で開かれる日本先天異常学会学術集会で発表される。

 玉井邦夫・日本ダウン症協会理事長の話「個々の選択がどうだったかわからないが、エコー検査が、ダウン症児は生まれてこない方が良いという判断を助長していると考えられる」

 ◆出生前診断

 胎児の染色体や遺伝子の異常を調べる検査。エコー検査の他、ダウン症など染色体異常を調べる羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査、妊婦への血液検査で胎児に異常のある確率を割り出す母体血清マーカーなどがある。

余談ながら記事にもあるように、胎児異常を理由にする人口妊娠中絶は現在のところ法的には認められてはいないことから、このあたりの領域はもともとグレーな部分が非常に大きいわけですが、とりわけ昨今の診断技術の進歩から妊婦に対して半ばルーチン的に行われている胎児エコーすら「出生前診断」であると産科学会が見解を出してきたことは先日もお伝えした通りです。
要するに胎児に異常があるかないかを聞く心構えが出来ていない妊婦にたいして、ルーチン検査として行われるエコーによって「あ、異常がありますね。どうしますか中絶しますか?」なんて話になるようではショックが大きすぎるのは当然ですから、あらかじめ告知を希望するかどうかなど十分なインフォームドコンセントを取っておきなさいよということです。
さらにややこしいのは確かにエコー上は異常が疑われ、親としては苦渋の末にそのまま産むという決断をしたところ、生まれてきた子供には特に何の異常もなかったというケースがしばしば認められることで、このあたりは診断能力の限界と言ってしまえばそれまでですが、逆に何の異常もなかったにも関わらず生まれ出ることもなく葬り去られていった胎児も少なからずいただろうと考えるとやりきれませんよね。
妊婦検診を担当する医師は一度の検査で安易に障害と決めつけず、セカンドオピニオンの紹介なども含めて慎重な検討を行うべきことはもちろんでしょうが、妊婦やご家族にしても安易な結論に飛びつくことなく、しっかりした説明を受けた上で決断を下すということが必要であることは言うまでもないことです。

子供なんて欲しくないだとか、そもそも結婚する気もなかったなんて方でもその後気が変わって思わぬ高齢出産になってしまうケースも当然にあるでしょうが、そうした決断にいたる前段階としてきちんとした妊娠と出産に関わる情報を知っているのと知らないのとでは、出てくる結論もまた変わってくる可能性があるはずですよね。
もちろん早く出産すればこうしたリスクが全くなくなるというわけではありませんが、少なくともダウン症などに見られるように顕著なリスクが明らかに軽減される可能性があることを考えると、少なくとも生涯に子供を産む気があるのであればいつでもいいやではなく、メリットとデメリットをきちんと計算をした上で産むべきタイミングを決めていった方がいいでしょうということです。
こういうご時世ですから今を生きるに必死で結婚や出産なんて考えていられないとか、子供は産みたいけど相手がいないとか色々な事情はあるのでしょうが、結婚にあたって相手の学歴だとか年齢だとかばかりを気にするくらいなら、ついでですからもう一つ生物学的な条件も同じくらいには考慮していただきたいわけです。

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コメント

今後は被爆問題と絡めてさらに面倒な話になりそうな悪寒が…

投稿: aaa | 2011年8月 2日 (火) 11時34分

私は感覚的に気付いていましたよ。
本能的とでも言えばいいんでしょうか。
また、男性が高齢でも、障害や病気のリスクを持った子供が生まれやすいそうです。
孫の障害のリスクが上がったりもするようで、自分の子供は大丈夫でも孫にまで影響が出てしまうということもありそうです。

投稿: 通りすがり | 2013年4月13日 (土) 15時30分

>男性が高齢でも、障害や病気のリスクを持った子供が生まれやすいそうです。

これ、ネットでいろんなところに貼り付けてるおばさんがいますね

男性の年齢による影響は少ないですよ

0.01%が0.06%になる

とかそんなものです。

これを「6倍もリスクが上がる!」とわめいてる女性が一部いますので
ご注意を


倍率だけ挙げて、割合を書かないのは卑怯ですね

そんな女性はそもそも結婚相手として選ばれないでしょう

投稿: | 2013年6月15日 (土) 08時55分

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