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2011年8月30日 (火)

社会保障の問題は相互に密接に絡み合っているものですが

この不景気の言われる時代にあって、考えようによってはひどく景気のいい話が先日出てきたところですが、おりからの政治の騒ぎに紛れて案外注目度は低かったようですね。

2010年度医療費、過去最高の36兆6千億円(2011年8月26日読売新聞)

 厚生労働省は26日、2010年度の医療費(概算)を発表した。

 総額は前年度比約1兆3700億円増の約36兆6000億円と8年連続で過去最高を更新し、伸び率(3・9%)も過去と比較できる01年度以降で最高となった。75歳以上の人にかかる医療費が約6600億円増え、全体の増加額の半分近くを占めた。

 医療費の増加は、高齢者が増えたほか、医療技術や機器が高度化したことが大きい。民主党政権が10年度予算で、医療機関に支払われる診療報酬を10年ぶりに引き上げたことも一因だ。

 国民1人当たりの医療費は前年度より約1万円多い約28万7000円だった。年代別で見ると、70歳未満は約17万4000円だったが、70歳以上では約79万3000円に上昇した。75歳以上は約90万1000円にはね上がっている。

2010年度の医療費概算3.9%増、伸び率最大に 厚労省 (2011年8月26日日本経済新聞)

 厚生労働省は26日、2010年度の概算の医療費が前年度比3.9%増の36兆6000億円になったと発表した。比較できる01年度以降で金額、伸び率ともに最高となった。10年度に医療機関に払う診療報酬を0.19%増やす改定をしたことに加え、高齢者の増加や医療技術の高度化で、医療費の増加が続いている

 概算医療費は、国民医療費から全額自己負担の医療費などを除いた金額で、国民医療費の98%程度とされる。国民医療費より1年程度早く発表され、速報値の役割がある。

 概算医療費の増加は8年連続。中でも、75歳以上は12兆7000億円と前年度比5.5%増えた。高齢化が進むと医療費は増える傾向にあり、全体の44.3%を70歳以上の医療費が占めた。

 患者1人の1日当たり医療費は、1万3900円と09年度より3.8%増えた。医療機関などに支払う医療費の単価を決める診療報酬の見直しで、救急医療への報酬を10年度に引き上げた影響や医療技術の進歩が主な要因という。

 同日発表の調剤医療費の動向によると、10年度の処方箋1枚当たりの調剤医療費は前年度比0.6%減の7984円。10年度に薬価を減額改定した影響などで、4年ぶりに減少した。

厚労省は医療費抑制に向け、機能別に病床を再編して効率化するなどの入院日数の短縮策のほか、新薬より安い後発薬の使用促進策などを打ち出している。ただ費用対効果や目標の実現可能性には不透明な面もあり、今後一段の対策が必要となりそうだ。

これだけの話でもなかなか示唆的な内容が豊富で、特に年代別の医療費などは大いに議論の余地あるところで、人間亡くなるときに一番お金がかかるのは当然ですから単に年代別医療費だけでなく終末期医療の年代別平均額なども出してみると面白いと思いますが、本日は細かい内容にまでは踏み込みません。
しかしながら思うに民主党政権としては医療には経済成長の牽引役として頑張ってもらうと言ってきたわけですから、本来であれば医療費が景気よく延びているというのは喜ぶべきことなんじゃないかという気がするのですけれども、マスコミ諸社の論調を見ていますと「また医療費が増えてしまった!早く何とかして削減の策を講じなければ!」といったものか、せいぜいが「まあ許してやるか…」といった程度なのは面白いですよね。
お年寄りなど身辺不自由な方が多いわけですから当然医療以外に介護などにも多大なマンパワーを要するわけで、それだけ需要が増えているのなら雇用も大いに伸びているはずだと考えれば悪い話ではないように思いますが、長年に渡って培われた医療費抑制政策の影響はものの考え方にまで根深く及んでいるということなのか、それとも政府が掲げた政策目標を誰も本気で受け止めてはいなかったのでしょうか(苦笑)。
何にしてもそれだけお金はかかっているわけですから当然ながら元手も必要であるわけですが、昨今のご時世にあって問題になっているのが無保険者の増加という話であって、とりわけ以前から財政状況が悪化している国保などにおいては金を集める自治体側の財政も待ったなしというだけに、現場ではずいぶんと生々しいことになっているようです。

国保滞納者の差し押さえ急増、4年で5倍 朝日新聞調査(2011年8月29日朝日新聞)

国民健康保険(国保)の保険料を滞納し、財産を差し押さえられる世帯が増えている。朝日新聞社が19の政令指定市と東京23区に聞いたところ、回答があった37市区の差し押さえ件数の合計が、2010年度までの4年間で5倍に増えたことがわかった。差し押さえた財産を換金するケースも急増。雇用悪化を背景に国保料収納率の低下に歯止めがかからず、強制徴収が加速している実態が浮き彫りになった。

 調査は7月、計42市区を対象に06~10年度の差し押さえ状況を聞いた。仙台、京都両市と東京都渋谷区は10年度分について「未集計」「非公表の段階」と回答。大田、板橋両区は「古いデータが残っていない」と答えた。残る37市区の差し押さえ件数は06年度、計3429件だったが、10年度は4.96倍の計1万7020件に増加。特に指定市の伸びが大きく、増加率は6.6倍に上った

 10年度でみると、指定市では横浜(2913件)、福岡(1745件)、名古屋(1254件)の順に多く、北九州は99件だった。23区は杉並区の943件が最多。差し押さえた財産の内訳は預貯金が50%で最も多く、保険(22%)、不動産(15%)と続いた。36市区が回答を寄せた差し押さえ金額(滞納額)は総額91億3千万円。4年前に比べて4.6倍となった。

一応自治体側の言うことによれば、差し押さえなどはあくまでも払える資産を持っているにも関わらず払わない人に対して行っていることであって、「これを持っていかれたら首をくくるしかない」といった状況ではないと言うのですが、いわゆるモンスター問題の一環と捉えるべきなのかどうかなど今回詳細には踏み込みません。
ただ、ご存知のように国保と言えば自営業者の他に無職や非正規雇用など多数の低所得層が加入しているもので、しかも雇用主が半額負担してくれるなんてことはありませんから保険料負担がかなり厳しいという人は多いのは当然ですけれども、以前であればそこまで厳しい取り立てを行っていなかったものが方針が変わってきたのが平成17年頃からと言います。
国から各自治体に国保収納率確保緊急プランの策定がすすめられ、強面の滞納対策が進められた結果として納付率もいくらか向上するといった一時的効果はあったわけですけれども、同時に各地で保険証の停止や資産差し押さえと言った話が出てくるようになってきたこともたびたびニュースで取り上げられるようになりました。
国としては財政の厳しい国保は市町村単位ではなく都道府県単位に統合して運用母体を大きくした方がいいと言っていますが、結局のところシステム上は稼ぎの無くなった人が次々と入ってくることになっている以上、多かれ少なかれ保険料負担に耐えられないという人が含まれていて当然ではあるわけですね。
自治体としては当然企業が応分の負担をしてくれ財政上もまだ恵まれている組合健保など被用者保険の方に大勢の人が行ってくれた方が助かるはずですが、そうした観点からするとこれは良いことなのか悪いことなのか微妙という話がこのたび出てきました。

年金「3号」で年収基準見直し  「130万円」下げ検討(2011年8月29日47ニュース)

 厚生労働省は28日、国民年金の保険料を納付しないでも給付が受けられる専業主婦ら「第3号被保険者」について、年収基準を現行の「130万円未満」から引き下げる方向で検討に入った。数十万円の大幅な引き下げも視野に入れる。

 パートなどで収入を得る主婦は、この130万円基準のほか、税制面で配偶者控除を受けられる「年収103万円以下」を意識して就業調整しているケースが多い。基準見直しが実現すれば、女性の働き方が大きく変わる可能性がある。

 9月1日に新設する社会保障審議会の特別部会で、非正規労働者の厚生年金や健康保険への加入拡大に関する論議に合わせ検討する。

サラリーマン家庭の専業主婦などに適合されるこの第3号被保険者問題というのも以前から言われていたところで、とりわけ言われてきた点としては保険料が免除されても年金を受け取れる人がいるなら誰がその分を負担するのかということですが、本来であれば稼ぎがある夫とその雇用主が二人分を払うというなら判りやすいところ、文字通りの免除ですから誰も払っていないというところにただ乗りという問題があったわけですね。
制度が創設された当時は夫の離職や離婚によって妻が無年金になることへの救済策として、当時はまだ財政的にも余裕があった厚生年金や共済年金の懐に頼る形で主婦は保険料を納めなくてもいいよと「政治的配慮」をしてしまった、その結果今や1000万人にも登る主婦達が既得権を持っているわけですから、それは保険財政も圧迫されようと言うものです。
またこうした時代における素朴な庶民感情として、年収基準上限を気にしながら形ばかりのパート仕事をしているような相対的に余裕ある家庭の専業主婦が免除されるのに、夫婦で必死に汗水垂らして働きながら生きている低所得者層からは容赦なく取り立てるというのは、やはり社会正義の観点からもどうなのかという見方もあるでしょう。
そうした事情からさっさとこんな既得権益は廃止しなければと鼻息が荒い人々も多いのはやむなきところとしても、現実問題としていきなり完全廃止も無理でしょうから段階的に制度を変更していくしかないでしょうし、その方向をどうするべきかというところでまた異論が数多なのですから話がややこしいですよね。

もともとあるべきではない制度という観点からすると、現行の年収基準を最終的にはゼロを目指してさっさと引き下げていくべきという理屈になりますが、そうなると自分はもう働くの辞めるわという人が増えるのか、それとも生活がやっていけないからお金を払うことになってももっと稼ごうと言う方向になるのかはっきり読み切れない部分があり、1000万人の動向は世の中にとっても大問題です。
無論、主婦からいきなりフルタイムの正規職員にというのも社会情勢上難しい話で、実際にはパートなどの労働時間を増やすということになるのでしょうが、新 たに保険料を支払うとなれば多少労働時間を増やしてもかえって手取りは減るということになりかねず、今までと同等の実収入を得るためにどれほど労働を増や さなければならないのかですよね。
当然ながら世界的に見ても(税金か掛け金かは別として)自分の年金は自分で働いて納付するという姿勢が基本なのは言うまでもありませんが、日本の産業構造として年収基準を意識して安いパート仕事をむしろ喜んで受け入れてきた主婦層の存在に支えられていた領域も多かったことを考えると、社会全般に相当な激震を及ぼしかねないわけです。

一方で雇用者側の立場からすると、むしろ基準を引き下げるよりは適当なところまで引き上げてもらった方が低賃金パートタイム労働者の雇用が確保しやすいし、パートにしてもある程度まとまった時間働くということになれば生産性も向上してコスト削減につながるという声が少なからずあるようです。
また社会的に見ると多くの主婦が上限を気にせず積極的に外で働くようになれば、家庭内の家事分担や子供の養育など今までになかった問題が顕在化してくるだろうし、託児所、保育所といったものの数一つとっても到底足りない中で、国だけが一方的に突っ走って貰っても困るという意見にも相応の説得力がありそうですね。
要するに、本当に主婦の労働の仕方が変わるほどの影響力があるとなれば思いがけないところにまでその余波が及びそうだし、他の社会保障制度改革と並行して議論するのは当然ということなのですが、個別の問題点もさることながら単に既得権益排除といった話以前に、今後の日本がどういう労働のあり方を目指すのかということも考えていくべきでしょう。

先進国の中でも日本は専業主婦率が非常に高く、見かけ上の失業率は低いようでも国民の約半数が失業者同然だなんてことが言われてきたわけですが、元々は夫は外、妻は内といった歴史的文化的な役割分担であったとしても、今回のようにわざわざ働かない方が得をするような制度を国が用意してしまったことは勤労意識の面からも問題ですよね。
年金財政も逼迫している以上は年収基準を引き下げる方向で改めていく以外に道はないとしても、大前提として自分の食い扶持は自分で働いて稼ぎ、その稼ぎで社会的義務を果たしていくという当たり前の価値観を肯定する方向で落としどころを探していく必要があるでしょうし、国にしても単に基準を引き下げるだけで終わらず社会全般のシステム変更や支援体制構築への対応、配慮も必要になるでしょう。
その結果国保保険料も滞納せざるを得ないような人々にとっては強力な雇用市場のライバルが出現するという考え方もあるかも知れませんが、考えて見ると正規の雇用市場では敬遠されがちな領域を長年パートの主婦達が支えてきたという部分もあるわけですから棲み分けは出来ない話でもないとも思えますし、未だに過労死が問題になる日本でワークシェアリングの考えが根付く好機にもなり得るかも知れません。
あちらもこちらも現代の日本は八方ふさがりのようにも見えますが、考えようによっては今までにない思い切った改革をするには良いチャンスでもあるわけで、単に盲目的な前例踏襲に終わらず劇的な社会の改革というものを目指して活発な議論を期待したいですし、それくらいのことはやってもらわないと日本の再浮上は果てしなく遠い道になってしまいそうです。

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コメント

新総理は増税論者ともっぱらの評判ですが、増税した分はきちんと社会保障として還元してくれないことには国民も収まりがつかないんじゃないでしょうか。
これで各省庁が内部でよく判らないことに浪費して増税分が全部消えたなんてことになったら、本当にどうしようもないほど国が腐敗しているということですよね。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年8月30日 (火) 16時04分

金が足りないならまず役立たずな癖に高給ばかり取ってる役人を減らせ
国民にばかり一方的な痛みを押しつけるんじゃない
年金なんて役人が無茶苦茶にしたことなのになぜ尻ぬぐいをこっちにさせる

投稿: | 2011年8月30日 (火) 17時06分

官僚は実際に会ったことのある人達からはそう評判が悪いわけでもないですし、実際に中央官庁の人達は仕事は一生懸命やっているんだと思います。
ただ上層部にしろ閣僚にしろ方針を決めていく側の問題が多すぎて、努力が空回りしているんじゃないかという気がしますね。
天下り禁止問題などもデメリットも多々指摘されているように、やる気もあって優秀な人間が仕事をやりやすくなるような方向での改革が必要なはずですが、そのあたりを気にしている人はあまりいなさそうなのが…

投稿: 管理人nobu | 2011年8月31日 (水) 11時28分

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