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2011年8月16日 (火)

国それぞれの医療事情がニュースにも反映されています

先日アメリカで注目すべき司法判断が下されたニュースは、すでに多くの方々もご存知だと思います。

米国:医療保険改革法は違憲 アトランタ連邦高裁(2011年8月13日毎日新聞)

 【ワシントン古本陽荘】米南部ジョージア州のアトランタ連邦高等裁判所は12日、オバマ政権下で昨年成立した医療保険改革法が、国民に保険加入を義務付けているのは憲法違反との判断を下した。医療保険改革を1期目の最大の成果と位置づける大統領には大きな痛手となった。

 3人の裁判官のうち2人が、14年から保険加入を義務付け、違反者に罰金を科すとした医療保険改革法の枠組みを違憲と判断した。原告は14州の共和党の知事や州司法長官。

 この法律をめぐっては、オハイオ州のシンシナティ連邦高裁が合憲との判断を出しており、最終的な判断は最高裁に委ねられる

 来年11月の大統領選でも、医療保険改革は争点となるのは必至で、最高裁の判断は大統領選前の来夏にも下される可能性がある。

健康で長生きしたいと言うのは誰しも持っているだろう基本的な欲望の一つであって、だからこそ昔から富や権力を手に入れた人間は少しでも不老長寿に近づきたいと様々な努力をしてきたものですが、今や世界に冠たる富と権力を持つ国家であってもそうした基本的な欲望の充足が思うに任せないというのは、考えて見ると少なからず不思議な気もする話ですよね。
とは言えオバマ大統領の理念は理念として、個人決定権の侵害となれば国民性の上からも大変な反発があるということは今さら言うまでもなく判っていた話である上に、実際の制度運用を考えてもアメリカの医療は現に世界一の高コストでやるようになっているのに、いきなりそこに皆保険を導入しようとすればそれは遠からず財政的に破綻するしかないでしょう。
マスコミも大好きな「世界一の医療大国」の実態と言えば踏み倒しや支払い不能を想定してERの料金は非常に高額となっている、医賠責の保険料高騰でリスクの高い産科医などはとても支払えないと逃げ出す羽目になっている、そして何より高額な医療費の支払いを支える保険会社が医療の全てを左右するという非常におかしな話になっていると、およそ医療大国というのも憚られるような現実があるわけですよね。
時期的に考えてもこの件は大統領選にも大きな影響を与えずにはいられないと思いますけれども、こういう話を聞くと未だ医療に対する要求水準も高くなく、いわばおおらかな仕事をしていられたあの時期に皆保険制度を導入し強制的に安い医療体制を構築させてしまったことが、日本の医療における本当の奇跡だったんだなと言う気がします。

アメリカでの医療と言えばこうした状況ですけれども、中国などでもまた別な意味で医療とお金は切っても切れない状況にあるということは、以前にも何度かお伝えしてきたところですよね。
とにかく何をするにもまず前金で費用を支払ってくれなければ救急車も動かないし薬の一つも出してくれない、その原因として医療費が払えなくて踏み倒す人が多すぎるという事情があり、前金制以外にもリスクを考慮して高めの値付けにせざるを得ないと言いますから、根本的にはアメリカなどとも共通する負の連鎖の構図であるとは言えそうです。
もっとも中国の場合先日も火災に見舞われたレストランで「避難する前に会計を済ませていってくれ」などと言われたなんて話もありますから、これまた国民性に根強く根ざした問題であるとも言えそうですけれども、その国民性のせいか今度はこんな事件までも起こってしまったと言うのですね。

治療費めぐって患者と口論、縫合した傷口を開いた医師、職業資格停止処分に―湖北省武漢市(2011年8月8日レコードチャイナ)

2011年8月8日、治療費が払えない患者と言い争いになったあげく、売り言葉に買い言葉で縫合したばかりの患者の傷口を故意に開いた医師に対し、病院側は職業資格停止処分を下した。楚天都市報が伝えた。

事件が発生したのは湖北省武漢市の武漢第3医院。誤って手の指を切った曹さんを同医院の賀医師(42歳)が診察、傷口縫合の処置を行った。だが、その治療費として1830元(約2万2000円)を請求されると、曹さんと付き添いの友人たちは高すぎるとして賀医師と助手の看護師と激しい口論になった。興奮した曹さんと友人は縫合した傷口を元に戻すよう要求。賀医師はこれに応じて抜糸した。

同医院の陳副医院長は7日、「このような事件は医院設立136年来で初めて。患者が興奮するのは理解できるが、医師はあくまでも冷静に対応すべきだ」とコメント。「縫合した傷口を開くのは、医師として間違った行為」と非難した上で、賀医師の職業資格停止と臨床現場からの異動を発表した。さらに詳しく調査した結果、同医師には厳しい行政処分も下される見込み。同医院は同日、患者の曹さんに正式謝罪。曹さんは謝罪には応じたが、同医院における治療の無料提供は拒絶している。武漢市衛生局医政処も事件に注目。同医院に対し、徹底した調査と関係者の処分を命じたという。(翻訳・編集/本郷)

こういうことになるから前金制は合理的なのだと言ってしまえばそれまでとしても、昨日の話からしても賀医師の気持ちもよく判ると言いたくなるのはやまやまなんですが、わざわざ抜糸するなどとこうした顧客により深く関わろうと自ら望むかのような行為をしてしまったことが彼の誤判断だったとは言えそうですね。
ただ医療保険のない場合の医療がどのようなものになるかと言うことを考えた場合に、そもそもそうした人達は多くは経済的にも恵まれてはいないでしょうから日本でもこうしたケースが発生することは想像出来ますし、現に今現在も一部地域の公立病院を中心に無保険者による未払い問題というのは無視出来ない規模に及んでいるわけですよね。
昨今では保険料が支払えないことから日本でも無保険者の増加がようやく問題視されるようになってきていますが、日常的に高額の費用が動く割には未だカード払いや分割払いといった制度も十分に整えられているとは言えない今の日本の医療機関において、今後こうしたリスクへの対策は欠かせないものになってくるはずだと思います。
こうした諸外国の生々しい事情に比べると、日本の場合先日は介護絡みでこんなニュースが話題になっていましたけれども、むしろ世界の多くの国からは「は?なんで文句まで言われるのにそんな熱心に面倒なんてみてるの?」と言われそうですかね。

部屋から扉開かないマンション…高齢者虐待疑い(2011年8月13日読売新聞)

認知症などの高齢者11人が住む堺市堺区の賃貸マンション(5階建て)で、全ての居室ドアに内側からは開けられない鍵が設置されていることがわかり、市は12日、虐待にあたる疑いがあるとして高齢者虐待防止法に基づき立ち入り調査をした。

 市の調査では、鍵は家主が管理。非常階段には入居者が出入りできないようにロープが張られ集合ポストは粘着テープで目張りされて郵便物が入れられないようにされていた。

 認知症などで寝たきり状態の人もおり、全員が1階にある訪問介護事業所から介護サービスの提供を受けている。市の聞き取りに対し、生活保護受給者を含む4人が「通帳を事業所に預けていた」と証言。市は「生活保護受給者の自立を妨げる恐れがある」として受給者らに転居を指導した。訪問介護事業所側は市に対し、「ロープは徘徊(はいかい)で外に出たら危険なため張った。目張りは盗難防止が目的」と説明したという。

 事業所は大阪市天王寺区の業者が運営しており、堺市内の複数の病院を通じて入院患者にマンションへの入居を勧誘。家賃は月額3万8000円程度という。

堺のマンション:高齢者ら閉じ込め 市が立ち入り調査(2011年8月12日毎日新聞)

 堺市は12日、訪問介護業者が堺市堺区のマンション(5階建て、14室)に利用者を集中的に住まわせ、外出などを制限していたとして、高齢者虐待防止法などに基づき立ち入り調査をした。同市は生活保護を受けて入居している70~80代の男女計4人について、最低限の生活が保障されていないとして、転居させることを決めた。部屋の内側から鍵を開けられないようにされていた入居者もおり、今後詳しい実態を調査する。

 市によると、この介護業者はマンションの1階に入居。マンション全体には65歳以上の高齢者11人が入居。家賃は月3万8000円で、入居者全員がこの業者から介護サービスや食事の提供などを受けていた。業者は07年に高齢者を訪問する訪問介護事業者の指定を大阪府から受けているが、有料老人ホームの指定は受けていない

 マンションを巡っては、昨年9月、市に入居関係者から「老人が監禁されている」という通報があり、市と市消防局が調査したところ、非常階段の踊り場にごみ箱が置かれたり、非常階段にロープが張られており、消防局が避難の妨げになると撤去を指導したという。

高齢者外出制限マンション、病院から入居者紹介受ける(2011年8月14日朝日新聞)

 堺市堺区の賃貸マンションに寝たきりや認知症の住人11人がまとまって住み、1階に入る訪問介護業者(大阪市天王寺区)から外出制限を受けていた問題で、この業者が病院などから紹介を受け、介護の必要な高齢者らに入居を働きかけていたことがわかった。

 13日、業者が大阪市内での記者会見で明らかにした。説明によると、業者は大阪府内の病院やケアマネジャーがいる居宅介護支援事業所から、介護の必要な独り暮らしや低収入の高齢者らの紹介を受け、「行き先のない人がいれば相談に応じます」などと働きかけていた。「このマンションなら24時間365日サポートを受けられる」と説明。パンフレットで「私たちと家族として共に暮らしませんか」と紹介していた。

 このマンションの仲介をしていた不動産業者(大阪市西区)によると、マンションは学生や社会人が入居していたが、4年ほど前に業者が住人への介護サービスを始めた後は、高齢者ばかりになったという。

 堺市の調査で、業者は住人に対し、午後6時以降の外出を制限し、非常階段1階の出入り口をロープで張ったり、集合ポストをテープで目張りしたりしていたことなどが分かっている。

 業者は会見で、外出制限について「住人が外に出て帰ってこないことがあったので実施した」と説明。集合ポストは「不要なチラシ類が入れられるので、住人の同意を得て目張りをした」と話した。「外出や通信の制限と受け取られる可能性があり、反省している」とし、今後は市の指導に従い、是正するという。

 一方、住人7人の部屋の鍵を管理していたことを業者は明らかにした。「本人や家族の要望で、同意書も作成している。問題はない」「市の担当者に相談していた」と話した。

 市も13日に記者会見。住人は身近に親類がいなかったり、認知症の人もいたりすることから、鍵や通帳管理の経緯を詳しく調べるという。さらに「市の福祉事務所として鍵や通帳の管理を認めていないが、担当者に確認する」とした。(野中一郎、白木琢歩、室矢英樹)

鍵預かりなど「全て堺市と相談」介護事業者反論((2011年8月13日読売新聞)

 堺市堺区の賃貸マンション(5階建て)で、訪問介護事業者(大阪市)が、認知症などの高齢者を入居させて鍵を預かるなど行動を制限していた疑いがあるとして堺市の立ち入り調査を受けた問題で、この業者の社長らが13日、大阪市内で記者会見し、「鍵を預かっていることなどは全て堺市に相談していた」などと反論した。

 社長らは、入居者11人中7人から部屋の鍵を預かり、複数の入居者の通帳を管理していたことを認め、「本人や家族からの要望で同意書も取っていた」と説明。さらに、「堺市のケースワーカーに説明して了承を得ており、(立ち入り調査は)はしごを外された気分だ」と話した。

 全ての部屋のドアに外側からしか開けられない錠が付いていたことについては、「家主がつけたもので、一度も使ったことはない」とした。

 業者は大阪市内でも3か所の賃貸マンションで、病院を退院する高齢者約30人を入居させ、介護サービスを提供しており、やはり一部の入居者から鍵や通帳を預かっているという。

 社長らの説明に対し、堺市は「ケースワーカーに確認中だが、鍵や通帳を預かることを市として認めたことはない」としている。

今回の場合は形の上では痴呆老人相手の無許可グループホームということになるのでしょうが、高齢者の生保というくらいで恐らくどこにも面倒を見る人がいないような方々でしょうから、今後の落ち着き先があるだろうかと考えると「かわいそうな御老人達が開放されました。めでたしめでたし」と素直に喜ぶことは難しそうな話ですよね。
風の噂によれば現場は市役所の目と鼻の先で、無論役人が言質を与えるとも思えませんが堺市内には他にも同種の施設が多数あるということですから、昨今話題になった貧困ビジネスなどの側面もないとは言わないにしても、これもある程度黙認された形の必要悪と言える類の施設なのかなという気がします。
そしてこれが仮に正規の施設であったとしても、この種の徘徊認知症老人が外に出て事故でも起こそうものなら責任問題で下手すると一発で施設丸ごと飛んでしまいますから、形はどうあれ扉ロックなどに相当する人権抑制的措置が普通に行われているのが現状で、とかく身体能力よりも先に精神能力が衰えた人々の介護問題は一筋縄ではいかないところがあるのは事実ですよね。
堺市と言えば数年前にも入院費も払わないまま病院に居座っていた患者を公園に捨てたという事件があったところで、あの事件も家族がいない高齢者で実質的な身内とされた人からも引き取りを拒否された結果思い余っての行動だったと言いますから、恐らく一歩間違えばこういうことになりかねない御老人は数限りなくいらっしゃるのでしょう。

国は医療・介護のコスト削減の見地から何とか在宅介護に誘導しようと一生懸命アナウンスを続けていますが、久しく以前から核家族化の問題が叫ばれていたことからも判る通り自宅で見るにも介護する人間がいないというのが現実であり、また仮にその気があっても今の時代ですから介護をしようとすればまともな仕事も断念せざるを得ず、下手をすると一家揃って一気に貧困化しかねないというリスクがあります。
そんな中で正しいけれども老人の行く先がないという結果になるのが良いのか、それとも正しくはないけれども少なくとも落ち着き先はある方がまだしもマシだと考えるのかは人それぞれの考え方はあると思いますけれども、少なくとも行き場を失って怪しい業者だろうが頼らざるを得ない人間が大勢いるという現実だけは確実に存在するわけですよね。
国の政策上の問題は今ここで事細かにあげつらっても仕方がないものですが、医療関係者にしろ国民にしろ、そろそろ一日でも長く命長らえさせることが絶対の正義であり善であるという価値観から脱却していかないことには、今後ますます名目上の平均寿命ばかりが世界新記録を更新していく陰で実質的な高齢者の幸福度は下がる一方ということになりかねません。
それでも諸外国の状況を見ればまだ日本の現状はマシだとも言えるわけで、アメリカの医療は世界一だ、日本も追いつかなければと絶讚してやまないマスコミの皆さんも、こうした暗部が当たり前に見られるアメリカの現状というものに対しては全く耳を塞ぎ目を閉ざしているという事実こそが、日本の医療や介護の現場が限られた条件の中でどれだけ努力しているのかを如実に示していると思います。

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コメント

 金儲けだけを考えるから医療制度がおかしくなるんです。そもそも医療は物売りなどとと違って、市場原理の金儲けとはマッチしません。安くなったら医療受けようとか今は高いから安くなるまで待とうなんていうことが出来ませんから。
 とはいえ、すべて国営にすればいいかというとそうでないことは証明済み。各国とも医療の質と国家の負担するコストに悩んでいます。日本だってどうなることやら。

投稿: 元外科医 | 2011年8月16日 (火) 09時57分

過剰な利益第一主義も問題ですが、むしろ医学的に妥当なことをやっていたのでは儲けが出ないことの方が問題でしょう。
近年全国各地の病院で、どれほどの医師達が事務にせっつかれ不本意な診療を強いられていることか。
儲けが出て経営的に十分ペイするということが医療の永続性を担保するための一番の基本であるはずなのに、それが怪しくなってきた頃から医療崩壊が言われてきているのは偶然じゃないと思います。

投稿: ぽん太 | 2011年8月16日 (火) 10時44分

儲けるというと何か悪いことに聞こえますが、医者も最低限の金勘定は必要だと実感します
そもそもトータルのコストが強く規制されるわけですから、不要な部分を可能な限り削って必要なところに回すしかありません
DPCや慢性期の丸めなどは本来そういう部分を鍛えるにはいい部分もあると思いますが、全くコスト意識のない医者の場合「必要だからやった」の一点張りで無自覚なんですよね…

投稿: 管理人nobu | 2011年8月16日 (火) 13時10分

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