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2011年8月31日 (水)

正しくリスクに備えることは決して無駄金ではないはずです

新総理誕生が大きな話題になっている裏で、本来であれば結構大きな扱いをされていそうなニュースがひっそりと出ていました。

作業員が急性白血病で死亡=収束工事「因果関係なし」-東電・福島原発(2011年8月30日時事ドットコム)

 東京電力は30日、福島第1原発事故の収束作業に従事した40代の男性が、急性白血病で死亡したと発表した。同原発での被ばく放射線量は累計で0.5ミリシーベルトで、東電は「収束作業との因果関係はない」としている。
 東電によると、男性は8月上旬から7日間、同原発で休憩所の出入りや放射線量を管理する業務に従事。勤務を終えた後に体調を崩して入院し、東電は16日に死亡の報告を受けた。
 勤務前の健康診断で異常はなかったという。被ばく量のうち、内部被ばくはゼロだった。

さすがに発症のタイミングを考えても原発作業による影響とは考えがたい症例で、おそらく少し前から発症し進行してきていた疾患がちょうど微妙なタイミングで(恐らく現地では健康管理は神経質になっていたでしょうし)発見されたものと思われますが、作業員の被爆量を記録しないなどずさんな管理の目立っていた東電だけに、管理責任は問われそうですよね。
ひと頃は原発作業に赴く作業員に対して何故幹細胞採取をあらかじめ行っておかないのかという非難もあり、コストや手間を考えるとさすがに全作業員にそこまでのことを行うのは現実問題として難しかったのかも知れませんが、被爆の影響を検証する上でも形ばかりの就業時健診ではなくしっかりとしたチェックをしていれば、あるいは事前に拾い上げが出来ていたのかも知れないと残念に思えます。
多数の作業員が過酷な環境の中で心身のストレスがかかる作業に従事している、しかも年配の方々が多いだけにもともと様々な基礎疾患があってもおかしくないわけですから、事前に基礎データの収集もしておかないことには何か具合が悪くなっても被爆の影響なのかどうなのかもはっきりしないということになりかねませんし、将来同様の事故が世界のどこかで起こった場合にまた一から手探りでやらなければならないわけですよね。
作業員の方々を実験動物のように扱うのは反対だという気持ちにも理解は出来ますが、起きてしまった重大事故に対して徹底的な教訓を拾い上げて今後に生かしていくことだけは欠かさないようにしなければ、せっかく被爆のリスクを負ってまで作業に従事していただいた方々の志も報われないということになりかねません。
原発絡みの発癌リスク問題と言うことでは先日思いがけないところから別な騒ぎも持ち上がっていますが、その発端が一芸人の何気ないつぶやきであったというところが今の時代らしい話ですよね。

ガン保険のCMがなくなった理由!?  ほっしゃん。のTwitter発言が話題(2011年8月26日RBB TODAY)

 お笑い芸人のほっしゃん。が、「原発事故後のガン発症率が上がったので(ガン保険の)売り止めがかかっている」などとTwitterで発言し、話題となっている。

 ほっしゃん。は25日、「生命保険会社に勤める知人が、『最近、ガン保険のCMがなくなったと思わへん?』と。理由を訊いたら、外資系には共通の資料が回って来て、原発事故後のガンの発症率が上がったので売り止めがかかってると」とツイート。さらに「特に0~6歳の子供達の被爆が指摘されてて、北海道~関西圏が汚染地域として指定されてると」と続けた。

 このツイートにはフォロワーたちから「本当ですか?」などのコメントが寄せられ、ほっしゃん。はそれに対し「先ほどの呟きやけど、その外資系保険会社の知人に確認とったら、間違いなく確かやと」と返した。ほっしゃん。によると「もちろん誰でも見れる資料やなく、この会社では営業部長職以上の会議で示されたもんで、会社によって知り得るクラスが違うだろうと」とのこと。これらの発言に対しては、ネット上でさまざまな意見が飛び交っている。

この件について当事者である保険会社の方では別に売り止めもしていないし、保険料も契約件数も変わらないかむしろ震災後に伸びてきていると答えているそうですし、少なくとも事故後まだ間もない現段階で癌の発症率が目に見えるほど「上がった」というのは医学的にもあり得ない話ですから、ほっしゃん氏が何かしら誤解したか元ソースが間違っているかのいずれかである可能性の方が高そうに思います。
実際に「NATROMの日記」さんがこの件に関して保険料が変化していないことを実証していて、そもそも件の社員は実在しないか、あるいは実在したとしても「癌に対する危機感を煽り、がん保険の売り上げ増を謀った」のではないかと推測していますけれども、実際に売り上げが伸びていることなども併せて考えれば少なくとも売り止め云々は眉唾物という気がしますね。
チェルノブイリの事故後の経過を見ると癌罹患率の上昇は最も汚染の激しかった地域で50%くらいと言いますが、当時の人海戦術による被爆者数の多さや事故後は普通よりも厳重に健診等を行っていただろう背景、そして有名な小児の甲状腺癌のリスクに関してはもともと海産物からのヨード摂取の多い日本ではそれほどの脅威ではないという予測もあわせると、日本ではそこまでの患者増加はないのではないかなという印象を受けています。
今後は保険会社の方でも詳細なリスク評価を行った上で必要であれば保険料の変更などを行っていくこともあるでしょうが、発癌が増加するにしても数十年に渡って分散して発症するだろうということも考えると、現段階で大慌てで売り止めをかけなければならないほどのリスク上昇があるとも思えませんし、個人的な外資系保険屋(笑)のつてからも今のところそうした話は聞いたことがありません。

いずれにしても保険などもリスク分散のために上手に使っていくべき手段の一つであるわけですが、日本の場合こうしたことに敏感であるべき企業にしろどうもこの辺りのリスクマネージメントがあまりうまくないようで、例えばアメリカで商売をしている日系製薬会社の損害賠償のための保険の額があり得ないほど低額過ぎるなんて話も漏れ聞こえてくるところです。
これは世の中で何かしらの活動をするにあたってどこにどれだけコストをかけるべきかが理解できていないからとも言え、特に日本人の場合なまじいざその時になれば現場の個人が頑張って何とかしてしまうものだから組織として一定のリスクとそれに対する対策が必要であるという考えが根付かず、「事故を起こさないように頑張ろう!」と意味もないかけ声をかけて終わりにしてしまうという悪癖が身についてしまっているとも言えそうです。
有名な話で戦前の日本軍では小銃一つもお上からお預かりした大切なものだから一切勝手に手を加えることなどまかりならなかった、その結果装備にどんな不具合があっても猛訓練によって体の方を合わせるのが当たり前だったと言いますが、一方で米軍では装備の扱いをとにかく簡単にするとともに、文字が読めないずぶの素人でも短時間で操作を習得できるようにと絵だけで理解出来るマニュアルを徹底的に整備したと言います。
どんな無茶にも対応出来る神業的技量を持つ日本の軍人達は緒戦でこそ米軍を圧倒しましたが、消耗の激しいパイロットに代表されるように初期メンバーが消えてしまった後は交代要員の養成速度に圧倒的な差がついてしまうのは当然で、国力や技術力の差以前にかけるべきところに一見無駄なコストをかける判断が出来るかという、頭の使い方の差によって負けたとも言えそうですよね。
ところが実際には戦後何十年経とうがまるで反省も改善も出来ていない、同じような頭の使い方のまずさによって同じように失敗を繰り返しているというのはさすがに猿でも反省するという時代に許されない話で、今回の震災に絡めて池上彰氏もコメントしているように無駄に思える「コスト」を有益な「資産」に変えるような賢いリスクマネジメントの考え方というものを、我々もそろそろ身に付けていかなければならないと言うことでしょう。

【参考】【池上彰の「学問のススメ」】なぜ日本人はリスクマネジメントができないのか?(2011年8月30日日経ビジネス)

そういう観点で見ると今回被災地で津波による物理的なカルテ流出などが大問題になる一方で、電子カルテが(うまく使っていれば、ですが)データの復旧も早く後始末も楽であると思いがけずに見直されてきていますけれども、導入初期コストも高い上にとにかく使い勝手もよろしくないなどと批判されてきた面が多々ある電カルもまた、うまく使えば「コスト」から「資産」になった一例と言えそうですよね。
せっかく道具や技術があるのだから使った方がよいのなら使ってみればいいということでしょうし、みんなで使いながら知恵を出し合って改良を続けていけばいずれもっと使いやすいものに育っていくと言うもので、日本人はそうしたことは元来得意にしていたはずなのですから、この機会に単に旧に復するのみならず以前よりもずっといいものに変えていくくらいのつもりでやってみるべきだと言うことでしょう。
さて、そうした長々とした前振りを経て(苦笑)いよいよ本日の本題に取りかかりたいと思うのですが、先の震災において医療リソースも甚大な被害を受けたことなども鑑みてと言うことなのでしょう、先日は少しばかり唐突にという感じでこんな話題が出てきたということをご存知でしょうか。

政府、病院船導入を検討 内閣府が3次補正に調査費要求へ 被災地医療支援、国際協力活動に活用(2011年8月20日産経ニュース)

 政府が医療施設を備えた移動可能な「病院船」の導入に向けて検討を進めていることが19日、分かった。内閣府が平成23年度第3次補正予算案に調査費を要求、具体的な構想づくりに着手する。東日本大震災で被災地の医療施設が被害を受け、地震発生直後の移動手段も限られていたことから、医師、医薬品、医療機器、通信手段などを一体的に提供できる病院船導入の必要性があると判断した。海外での大規模災害への派遣や、海賊・テロ対策に当たる艦船の支援に活用することも視野に入れている。

 病院船は米国、中国、ロシアなど各国海軍が保有しており、日本に導入する場合も海上自衛隊による配備・運用を念頭に置いている。ただ、「病院船建造は護衛艦並みの数百億円の費用が必要」(政府関係者)。防衛予算を圧迫する懸念もあるため、内閣府が調達した上で運用は防衛省に移管する案も検討している。平常時には国際協力活動や離島での医療活動にも使うことを想定している。

 今後は病院船の規模、母港、医薬品の備蓄拠点など多面的に調査を行うほか、病院船を運用する諸外国に専門家を派遣する方針だ。

 病院船は平成7年の阪神・淡路大震災の際も政府・与党が導入を検討したが、平常時の維持・管理費がネックとなって実現には至らなかった。東日本大震災を受け、4月に建造を推進する民主、自民、公明各党有志による超党派の議員連盟(会長・衛藤征士郎衆院副議長)が発足している。

今回の震災においてもヘリコプターからホバークラフトまで積み込んだ海自の「おおすみ」型輸送艦が活躍したことは記憶に新しいところですが、実は平時から戦時まで何にでも便利遣い出来るこの種の多目的艦艇の建造が近頃は世界中でブームになっていて、フランスイタリアなどを始め最初から災害派遣にも使いますという名目で大型のドック型揚陸艦を建造している国も多いのです。
日本でも近年「おおすみ」型輸送艦「ひゅうが」型護衛艦のように広い甲板を持つ大型艦艇が増えてきて何かと便利が良くなってきていますが、こと病院船と言うことになれば是非ともその活用を前向きに検討して頂きたいのが、かねて懸案となっているテクノスーパーライナー(TSL)の活用です。
1万4千総トンを超える大型船でありながら航海速力約40ノットというとんでもない高速を発揮し、現状で丸一日以上かかっている小笠原航路の大幅な時間短縮を狙って建造されたこの高速優秀船が、折からの燃料価格高騰にあって船会社から引き取りも拒否されたまま空しく係留されているというのはなんとももったいない話で、まさしく国家的損失というしかありませんよね。

基本的には側壁のあるホバークラフトのような構造で、荒れた海には弱いホバークラフトと違って波のある外洋でも高速航行が出来るというのがTSLの売りですが、この卓越した航海能力は国内のみならず海外における緊急事態への支援に出向く際にも必ずや役だってくれるに違いないものと(あくまで個人的に、ですが)確信しています。
基本的に人間の輸送専用で大きさの割には車両など大型、大重量の貨物を積めないのがTSLの欠点とされていますけれども、病院船として使う分には工夫次第で何とかなるでしょうし、行き場もなく扱いに困っているような船であるわけですから改装費込みでも割合に安価に購入できるでしょうし、何より日本のような海洋国がこの種の船を持っていないというのは国内のみならず世界に対して当然の責任を果たしていないとも言われかねません。
ちょうど今回の震災においても被災地派遣で久しぶりに稼働したわけですから実績はすでにあるとも言えるわけで、総理が変わった騒ぎの中で有耶無耶に今後の検討課題にしてしまうというのではなく、この際是非とも早急な実現に向けて前向きに検討していただきたいものだと希望しておきたいですね。
無論、その際には思いがけないケチがついてしまった小笠原TSL(SUPRTLINER OGASAWARA)なる旧船名はいったん白紙に戻していただいて、例えば「国際救助船らいちょう」なんて素晴らしく格好良い名前を用意して頂きたいものだと思うのですけどね(笑)。

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コメント

TSLほんとにもったいないですよね。
国が主導して活用してくれればいいんですが。

投稿: 地元民 | 2011年8月31日 (水) 19時27分

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