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2011年8月 5日 (金)

上見て暮らすな下見て暮らせでいいのでしょうか

先日こういう記事が出ていまして、御覧になった方も多いんじゃないかと思います。

病院から看護師が消えていく・・・崩壊寸前の医療現場(2011年7月30日ガジェット通信)

 今、全国の病院で看護師不足が深刻化している。厚生労働省によると、全国で約5万6000人の看護師が不足しているという。看護師不足は彼女・彼らの過重労働につながり、医療ミスや医療過誤を誘発、結果的に国民の健康を脅かすことになりかねない。2011年7月25日に放送されたニコ生トークセッション「看護崩壊~病院から看護師が消えていく~」では、ゲストに日本医労連副委員長の山田真巳子さんと、現役看護師を招き、看護師が医療現場から消えていく原因を検証。崩壊寸前の医療現場での過酷な労働環境の実態が浮き彫りとなった。

■看護師の23人に1人は過労死危険レベル

 日本の医療水準は長年世界1位の座を維持してきた。しかしそのポジションは、看護師をはじめ医師など現場で働く者たちの犠牲によって、何とか維持されてきたという現実がある。日本看護協会の推計によると、全国で約2万人の看護師が過労死危険レベルとされる月60時間以上の時間外勤務をしており、看護師の23人に1人はこうした勤務状態に。その結果、全業種の平均勤続年数は約9年にも関わらず、看護師は約7年と短く、毎年およそ10万人もの看護師が過酷な労働環境を理由に離職しているという。

 匿名で出演した現役看護師によると、看護師が離職する主な理由は、

    「アンケート結果によると、仕事の(肉体的・精神的な負担が重い)わりに給料が低い。人員が少ないのでなかなか休みが取れない。勤務者が少ないので、受け持ち患者数が夜勤で十数名、日勤だと6~7名になり、責任ある仕事なので(医療)事故を起こすことがあるのではないかと不安を抱いている(ことなどが理由)」

 人員が少ないため、「8-16時」「16-24時」「0-8時」の3交代制と言いつつも、16時から0時過ぎまで働いてから引継ぎし、帰ったその日の朝8時から勤務するという「準夜日勤」と呼ばれるものもある。生理休暇はほとんど取れず、丸1日休めることは少ないという。

 そもそも看護師不足の背景には、「増大する医療費が国を滅ぼす」と、1980年代から政府が推し進めてきた「医療費抑制政策」が発端にある。医療費が抑制されたことによって病院は不採算経営に陥ってしまい、必要とするだけの看護師を雇えなくなった。その結果、少人数で患者に対応しなくてはならなくなり、一人当たりの負担が増大、厳しい労働環境が離職を促進、さらに労働環境が悪化と、悪循環に陥ってしまっているのだ。

■看護師の数は80年代から2倍近くに。なぜ不足?

 しかし山田さんによると、1980年代と比べて看護師数は2倍近くも増加しているという。では、なぜ看護師はいまだに不足しているのだろうか。山田さんは看護師が不足している要因をこう分析する。

    「医療が高度化し、入院日数が本当に短くなり、年齢の高い方が入院されるようになった。それから事務的な書類の手続きがすごい増え、業務が増えたので、(結果的に)看護師の労働状況は改善されていないのが実態」

 仕事が増加・複雑化・高度化したので、他の職種との業務分担を積極的に行っていくべきだとした。また、全国で60万人いる看護師免許を持っていながら従事していない看護師(=潜在看護師)の存在も、看護師不足の一因だと指摘。

    「60万人いる潜在看護師が働けば、働き続けていれば、もっと(看護師の労働環境は)改善するのに、どんどん辞めていってしまうからなかなか改善しない」

 この潜在看護師を現場に呼び戻すためには働きやすい環境を作ることが必要で、そのためにはやはり看護師数を増やすことが必要だと、山田さんは話す。

    「働き続けるためには、最終的には人手(の充足)しかない。人手を確保するためには、病院は経営をしていかなければならないので(看護師を必要数雇えるだけの額に)診療報酬を見直していただかないと。そして8時間勤務が本当に8時間勤務で終わるように。それから、夜ちゃんと寝られるだけの時間間隔があるとか、そして例えば子供を持っても結婚しても、習い事に行きたくても研修に行きたくても、それが計画できるような勤務体制(を確立してほしい)」

 看護師の養成数は増やしているが、結局労働環境が厳しいため長く働くことが出来ず、大量採用・大量離職の悪循環に陥っている看護師不足問題。養成数を単純に増やすだけではなく、今看護師免許を持っている人たちの利用、つまり離職率をいかに減らし大量の潜在看護師を活用出来るかが、この悪循環を断ち切るための鍵となってくるだろう。看護師の労働環境を守ることは、質の高い医療・看護提供体制が整えられ、私たち患者の健康と安全を守ることにもつながる。

現場に看護師が足りないとか言う話題でありながら7:1看護の話題には一切触れていないあたりが非常に違和感を感じる記事なんですが、当然ながらこういう記事を書く以上は取材の上でも看護協会とは仲良くしなければならないでしょうから、あまり迂闊なことも口に出来なかったと言うことなんですかね?
なんでも看護協会ではさらに5:1看護を目指すなんてことも言っているそうで、それは国全体でこれだけ看護師が不足している中で大学病院あたりが高度な看護研究に勤しむ(笑)優秀な看護師を多数囲い込むようなことになればますます在野の医療機関は看護師不足に泣くことになるでしょうから、四病協や日医など経営サイドに近い筋では断固反対を主張しているようですね。
経験的に看護師の士気が高い職場というのは幾つか共通点があるのかなと思っているのですが、医師が少々多忙なのは耐えられても雑用仕事ばかり押しつけられれば「やってられない」となるのと同じで、看護師にしてもきちんと専門職としての業務に専念出来ている施設では忙しくても辛抱が効きやすい印象があって、経営者としてはそのあたりをまず改善していくことが喫緊の課題でしょう。
とりわけ記事中にもあるような高齢患者の増加と言えばcureよりもcareの方で非常に手がかかるだけに、非専門職スタッフをうまく使いこなすことが勝ち組病院となるチャンスに結びつくことは医師の逃散問題などとも共通する施設側のポイントと言えそうです。

まあしかし、一昔前であれば「8時間勤務が本当に8時間勤務で終わるように。それから、夜ちゃんと寝られるだけの時間間隔があるとか、そして例えば子供を持っても結婚しても、習い事に行きたくても研修に行きたくても、それが計画できるような勤務体制(を確立してほしい)」なんてことを言えば「さすが看護師様はQOLの目標が高くていらっしゃる」なんてやっかみ混じりの批判も出ていたところでしょうけれどね(苦笑)。
医師と看護師の専門性というのももちろん違いがあって、極論すれば医師はなるべく働かせないようにしていくのが医師の働きやすい職場環境構築のコツと言えますが、看護師の場合はどうしても体を動かしてナンボ、数がそろってナンボという部分は否定出来ず、両者の対策を全く同じように考えるわけにもいかない部分は確かにあります。
ただとりわけ民主党政権になって以来顕在化してきた日医と看護協会の政治的影響力の差に象徴されるように、実際に声を出し要求していかなければ何も変わらないということは実証されているわけですし(昔の日医はその意味でも強かったですよね)、そして現場の医者にしても行動すれば何かが変わるということを実感し始めているのが近年の流れではあるわけです。
看護師がまた楽をしているなんてやっかむよりは、共に立って非専門職スタッフをもっと入れろと共通項部分を病院に働きかけでもする方が実効性があるでしょうし、国が音頭を取って医療を経済成長の原動力にと言っている時代の流れにも沿った話だと思うのですが、そうした要求が成立する背景には医療が国家資格に裏打ちされた高度な専門職であるという「売り」があるのは言うまでもありませんよね。
その点で今の時代に専門性の低い業界ほど大変だろうなとは誰でも想像はつきますが、例えば以前から当ぐり研でも運送業界の問題は何度か取り上げていて、とりわけあまりに悲惨だとその労働環境が問題になり近年法的規制も次々と導入されていることは競争の過酷な業界であるだけに当然だと思いますけれども、立場の弱い身というものはこうまで虐げられなければならないのかと改めて感じさせられるのがこちらの記事です。

「臭いものにふた」の荷主の体質 労災申請に口挟まれ(2011年8月3日物流ウィークリー)

 仕事中にドライバーが怪我をすれば、事業者は労災保険を申請し、治療費などを労災保険で賄うのが通常だ。この際、申請は事業者が行うが、そこに荷主が口を挟んできたら──。労災保険の申請で事業者に代わって一切を取り仕切った上場企業の荷主から見えたものは、「臭いものにふたをする」という企業体質だった。

 千葉県の運送事業者は上場企業を荷主とし、その指示に従って業務を遂行している。事故は荷物を積み込む最中に起こった。

荷主の現場で同社のドライバーが操作を誤り、足を負傷したのだ。作業続行が不可能で、治療のためドライバーはすぐに病院に向かったという。何針も縫う怪我で、通院が必要と診断された。

 仕事中の怪我なので当然、同社は労災保険の申請を行おうとしたが、荷主から「待った」が掛かったという。最初は理解できなかった同社長だったが、その後のやり取りですべてを理解した。

荷主は同社に代わって、労災保険の申請書類をすべて準備し、同社長にその書類を提出するよう求めたのだ。書類を見た同社長は、書類の中に、荷主の名前が一切入っていないことを確認した。あくまで同社の作業でドライバーが負傷したもので、荷主には一切関係のないこととして処理されていたという。

 同社長によると、ドライバーは荷主の担当者らと作業を行っていたという。本来は当然、その事実を書いて申請する必要があるが、荷主に関する一切のことが省かれていた。

 「労基署や会社のイメージ悪化を恐れているのだろうが、そこまで隠さなければならないのかと、あっけに取られた」という同社長だったが、「荷主に迷惑はかけられない」と、結局、その指示に従ったという。

 「怪我は確かにドライバーの不注意もあるが、現場の担当者にも責任の一端はある」と指摘する同社長は、「原因をすべてうちの非に置き換え、まったく関係ないという荷主の姿勢はショックだった」。「上場企業としてのイメージも大切なのは分かるし、うちが全責任を負うのもやぶさかではないが、臭いものにふたをするという企業体質が透けて見えてきて、何となく後味の悪い出来事だった」と話している。

責任問題ということで言えば契約が絡んで難しい部分があるのだそうで、聞くところでは運送業者が積み込みや荷下ろしまで一括して請け負うことで契約しているのであれば、一緒に作業をしていても荷主側に法的責任はないということになるとも言うのですが、もちろんこの場合批判されるべきはそういう話ではなくて、わざわざ事実関係を隠蔽するような書類まで作り上げてお上に提出しようというその姿勢であることは言うまでもありませんよね。
運送業界に限らず今年などは全国各地で熱中症患者が多発していると言いますが、大手企業などでは熱中症が出たなどと言えば労災管理の責任問題になるせいか、わざわざ病院に運び込んで治療を受けさせたくせに「熱中症なんですか?!本当に熱中症なんですか?!何の根拠でそう言うんですか?!」なんて担当医をしつこく問い詰めるような方々もいらっしゃいます(それなら最初から運んでくるなよ…という気もしますが)。
もちろん診療に関して嘘を強要するようなことがあればこれは犯罪ですから一昨日に再診くださいとお答えするしかないところですが、双方の力関係によってはこうした事態もあり得るということを考えるとやりきれないですし、今の時代ですから下手に情報が流出でもすれば労災発生どころではない企業イメージの悪化にも結びつきかねないはずなんですけどね。

運送業界の過酷な状況を招いている理由の一つに業界に長年横たわる過剰な下請け構造があると国政の場でもようやく取り上げられ始めましたが、「空荷よりは油代だけでも貰った方がマシ」といった考え方が結局自分自身の首を絞めることにつながってきたのだとすれば、そろそろ業界全体の問題として自ら声を出していかなければなりませんよね。
面倒なのはこうした下請け、孫請け構造の場合は孫請けにとっては下請けも雇い主であるという関係になりますから、業界が一致団結して荷主と条件交渉をなんて構図にはなりがたいことで、利用する側にとっては分断統治の成功例ということになるのではないかと思いますが、それだけに内部改革もおいそれと進みがたいのでしょうね。
実際にトラック事業者の2割が荷主から一方的に取引を断られ、過去半年で6割以上の事業者が荷主から一方的な運賃引き下げなど何らかの強要をされたとか、実に9割の事業者が希望する運賃を収受出来ていないという業界のアンケート結果があることを思えば、むしろ業界内部よりもそれを利用し一方的な不利益を強要している荷主の側にこそ早急な規制が必要なのではないかという気もします。

こういう時代ですから某大手企業のエリート社員が下請けにどういう態度で接しているかなんて話は風の噂に幾らでも聞こえてくるわけで、それがひいては企業イメージの悪化にもつながってくることを思えば、運送業界を利用する側も目先の運賃カットに血道を上げているばかりでは肝心なところで大きな不利益を被るなんてことになっているのかも知れませんよね。
もちろん実際に現場で仕事を請け負っているドライバー達があまりの劣悪な待遇に先を争って逃げ出し、後には荒廃し破綻した流通の抜け殻だけが残されたなんて話にでもなれば国民全体に関わる大問題ですから、真面目に仕事をしようとしている人々がきちんと報われるように環境を整えるべく国にも主導的な役割を期待したいところです、が…ねえ…

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コメント

東京電力福島第1原発などで働く作業員の労働条件などについて話し合う
日弁連のシンポジウムが4日、東京都内であり、
聞き取り調査をした弁護士が
「東電が作業員に払った日当約10万円が何層もの下請け会社の介在で手数料が引かれ、
作業員が受け取るときには8千円になった例があった」
と報告した。

作業員の相談に当たってきた同市の市議は
「多くの労働者が中間搾取されている」と話し、待遇改善を訴えた。
http://news.nifty.com/cs/headline/detail/kyodo-2011080401001079/1.htm

投稿: こういうのもある | 2011年8月 5日 (金) 09時16分

冒頭のキーワードで来たのですが、日本中のあらゆる場所に蔓延っている現象の様に思います。
どうせ、派遣看護婦みたいなのがいて、それを見下したり変な患者をひそひそ話して貶したりして「下を見て」いる事が想像できます。コンビニの店員に我儘言っているとか。
上に行く。具体的な権威者とか実力者では無くても、全体のシステムですね。全体のシステムに対してのアタックが普通の人間に欠けている。システムへの働きかけ、それは投票だけは限らない。これが「無力感」とやらの一つの理由になっています。だが、十分に言語化されていない。これは不幸である。

記事に関連して、線量系を外した福島の放射線作業員の話もありましたが、それぞれの職場での我の張り合い・ローカルルールを巡っての逸脱と適応(逸脱者をバカにする)、みたいなものも「下見て」の典型でしょうか。

何か、大型自動車を扱う職場の人間の書き込みでしたが、「3回で車庫入れ出来なければクソ」とか書いてありました。変なこだわり、と思うでしょうけど、仕事への誇りも含まれていますが・「下見て」の思想も含んでいると思うのです。
例えば、この会社の社長が対価(十分な給料)を払ってないのに、やれ車庫入れが下手だ・服のセンスがないだ・あいつは云々、と同級者どうしで喧々とやっていたらどうでしょうか。

丸山真男氏は下見て暮らせの思想の事を「抑圧の委譲」と呼んでいます。このストラクチャ自体に言及したネット記事が少ないように思います。(これも、あまりにも下見てが一般化して空気化している証左か)
本当に血肉化しているというか、言語化できないほどに、下見てがありふれ、下見て、という言葉ではない形で延々と語られているのです。上にアタックする事を前提としていない、元からその可能性を外した上(しかも、本人たちがそれに全く気が付いていない、血肉化している)での政治語り・社会語りですね。だから、核心に話が向かっていかないのは当たり前。
誘導されているのか、自分で好き好んで「奴隷」的立場に甘んじているのかはよくわかりません。

投稿: 通りすがり | 2012年2月20日 (月) 07時02分

長くなります。

抑圧の委譲では、別に罪もない人間を叩くのです。「立場が弱い」という理由でです。
それは、たたく人間の真に戦うべき相手とか構造ではなくって、無関係な人です。だから、それを自分が受けたり周囲に投影したりして、「犯罪不安」「社会が悪意に満ちている」感じを抱いている面もあるのでしょう。
例えば、社長から怒られた、という理由で、その夜に乱暴に扱われる妻にはなんの責もありません。理不尽以外の何物でもない。
しかし、この抑圧がリニアに上から下に流れていくのです。この妻は、別の浮いている主婦仲間に冷たい言葉を投げかけるかもしれない。

システムや環境に対して権限をある程度持っている人間、それは上司であったり商工会の権威者とかだったりしますが、に対する異議申し立てだとか・議論を外した状態で、 物事が良くなりますか? 私は疑問です。
場合によっては、悪いシステムや環境を、上位者が作り出しているのですから。

日本がアウトサイダーに厳しいのは下見てが理由でないかな、と思います。異質というだけで、「下」に出来るのですから、簡単だ。
日本が、他の先進国と比してこの傾向が強いのか弱いのかは特に知識がある訳ではありませんが。
ただ、違う所が挙げられるとすれば、「言葉」を尽くしてなにかを語る・明かす事を屁理屈だとは言わない傾向は強いと思います。

投稿: 通りすがり | 2012年2月20日 (月) 07時15分

いわゆるいじめ問題なども人間特有の醜い行動だなんてことを言う人もいますが、生物学的知見が広がるにつれてむしろある程度以上の社会性を持つ高等生物に普遍的に見られる行動だと判ってきました。
それだけに家庭内など密室での行為は完全な解消は難しいのでしょうが、少なくとも社会的には単にモラルに訴えるだけでなく、きっちりと制度的に対策をしておかなければならないと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年2月20日 (月) 12時10分

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