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2011年7月28日 (木)

診療のやり方は変わっても、人がやる仕事であることは同じですから

先日7月26日にNHKでこういう番組が放送されましたが、皆さん御覧になったでしょうか。

クローズアップ現代「変わるがん医療の現場」(2011年7月26日NHK)

日本のがん医療の抜本改革を目指した「がん対策基本法」制定から5年。その成果として、医療の現場に劇的な変化が起こっている。全国にがん医療の拠点病院の整備が進み、数年前まで、地方では圧倒的に立ち後れていた放射線治療が新たな治療の根幹に加わる一方、これまで終末期の患者にしか適用されなかった、痛みや精神面の苦痛をとる緩和ケアの導入も、一気に広がった。新たな取り組みは、併用する他の治療の効果も促進することが指摘され、延命効果を実証する海外の研究発表などと相まって、患者たちの期待を集めている。その反面、精神面のケアなどは医師の意識にもばらつきがあり、形だけの整備でその情報すら患者に伝えられないなど、現場によって格差が更に大きくなっている事実が明らかとなってきた。新たな課題に直面する、がん医療の現場を検証する。

日進月歩で進化しつつある癌診療も今や様々な側面があって、中でも患者側からすると遠くの病院まで出かけていかなければならないのはつらい、身近な病院で診て貰いたいという希望は以前から根強くあったわけですし、実際に小さな田舎病院でお爺ちゃんお婆ちゃん相手に抗癌剤治療を黙々と続けてきた先生方も大勢いらっしゃったわけです。
ところが癌も手術が出来れば治る、出来なければ終わりというシンプルな時代ではもはやなくなり、化学療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療によって年単位の余命が期待出来るようになった、そうなるときちんとした設備とちゃんとした知識、経験を持つ専門医が必要となってくるとなれば、どうしたって診療拠点にリソースを集約化した方が成績がよいということになってきます。

こうした話は別に癌診療に限らず「何かあったら叩かれる」お産などにおいても最近流行りの傾向ではあるのですが、もちろん総体としてのリソース不足が明らかである以上集約化し効率を上げれば当然ながら治療成績も上がり、スタッフにしてもその分余力も出てくる理屈なんですが、一方で患者の側からすると大きな病院の中で一人ぽつんと置かれて物扱いされているような気になるという声も多いですよね。
何を重視するかは患者により医師により異なってくるのは当然ですけれども、国にしろ学会にしろ癌診療というものはガイドラインに従ってきちんとやりましょうという流れになってきますと、地場の先生が個々の患者背景をにらみながらオレ流の癌診療をしていくというのも少しばかりやりにくくなってきたのかなという印象も受けています。
それはそれとして、以前から地域によって癌診療の中身に格差があるのは問題だと言われていて、そうなるとどうせ一生一度の治療なら少しでも成績の良い施設でと考えるのが人情と言うものですけれども、その判断基準の一つとなるようなデータがこのたび公の組織から出されたと言うことです。

360病院のがんデータ公表=部位・治療法に特性、比較容易に―国立センター(2011年7月26日時事通信)

 国立がん研究センターは、全国のがん診療連携拠点病院が登録した患者約43万人の発症部位や治療法などのデータを集計し、26日からホームページに公開した。個々の病院のデータが明らかになったのは初めて。同センターは「各施設の特性が明確になった。医療の質の向上につながれば」と期待している。
 公表されたのは、全国の約360病院で2008年にがんと診断された患者のうち6割のデータ。
 集計結果によると、年代別では60代後半~70代の患者が最も多かった。東京や愛知では40~65歳が半数以上を占める病院がある一方、秋田、群馬、新潟、富山、山口では75歳以上が半数を超える病院もあり、地域や施設で差がみられた。 

がんの施設別データを公開 患者数や治療法 国立がん研究センター(2011年7月26日産経ニュース)

 国立がん研究センター(東京都中央区)は25日、がん診療を中心的に行っている全国の医療機関が登録したがん患者数や治療法などの施設別データを発表した。26日から同センターのホームページで公開する。どの施設でどの部位のがんを多く診察しているかなど、施設名を含めたデータの公開は初めて。同センターは「診察数が多いことイコール診察レベルが高いとはいえないが、患者が病院を選ぶ判断材料のひとつになる」と話している。

 公表されたのは、全国359カ所の「がん診療連携拠点病院」で、平成20年にがんと診断された患者42万8196例のデータ。同年中にがんと診断された全患者の約6割にあたるとみられる。診療の質向上に役立てるため各医療機関が患者の治療データを蓄積する「院内がん登録」で集められた。

 集計によると、部位別では、大腸、胃、肺、乳房の順に多く、年代別では60代後半~70代の患者が最も多かった。ただ、65歳以上の患者が8割以上を占めた施設がある一方、約4割程度のところもあり、施設によって年齢層にばらつきがあった。

治療内容も施設や地域ごとの差が大きく、早期の胃がんでは、開腹手術に比べ患者の体への負担が少ないとされる内視鏡治療を行った施設が5割を超えた県がある一方、2~3割にとどまっている県もあった。

 同センターは「集計したデータを拠点病院の相談支援センターで活用し、患者に適切に還元する仕組みを作っていきたい」と話している。

がん研究センターでは実際にサイトで情報を公開していて、各施設で何をどれだけ診療しているかということが一目瞭然なんですが、さすがに実際の治療成績までは公表できなかったということなんでしょうね(苦笑)。
しかし逆に考えると、以前から施設毎の患者背景が全く異なるのに単純に成績を比較しても意味がないという意見は根強くありましたが、実際にこれだけ患者も治療法も大きく違うということになれば、将来的に成績を公表しましょうという話になった場合にもきちんと補正はしなければ比較は出来ない道理ですね。
患者の側からすれば「どうせなら治療成績まで公開してくれ」という話ですし、今の時代だとむしろ成績が悪い方が患者が減って楽でいいなんて考える先生もいるかも知れませんが、病院の経営側にはまた別の思惑もあるでしょうから、仮にそういう事態にでもなれば「先生達もっと頑張ってもらわなければ困りますよ」とさらに尻を叩くということになるのでしょうか(苦笑)。
しかし今回のように国の施設がこういうデータを公表する、そして「患者が病院を選ぶ判断材料」として使ってくれなどと言っているのは、それぞれの施設で違いがあるということをついに国が認めたかとも受け取れるわけですが、この流れが定着してくるということになりますと日医あたりから国民皆保険制度の根幹が揺るぎかねないなんてクレームも入るのかなと少しばかり気になってしまいますね。

余談ながら、ご存知のように日本の医療は全国どこでも同じ料金で同じ医療を受けられるという全国共通公定価格が大前提になっていますけれども、考えて見るとこれも妙な話で、例えば同じ病気をA先生は1000例診ている、一方B先生は10例しか診ていないとなれば、患者が選ぶ判断材料の一つなんて胡乱なことは言わずとも誰だってA先生の方が慣れていて治療の手際もよさそうだと思いますよね。
実際に大がかりな治療なんて話にならずとも検査一つ、処置一つでもやるべき人がやればこんなに違うのか!と驚くような成果が得られることはままあるもので、例えば院内の職員健診などでは「どうせ診て貰うならあの先生に」と口コミ人気が集中する先生がいたりするものですが、別に現状ではどの先生が何をやったところで料金は変わらず、頑張ってスキルを磨いた先生の給料が増えることもないわけです。
もちろん上手い下手を客観的に定量的に評価するのも確かに難しいところもあって、「俺はアイツよりも上手いんだから給料余分によこせ」とはなかなか言いにくいものですけれども、要領がよければ当然ながら回転も速くより多くの患者をさばくことになるわけですから、ドクターフィーなり何なりの名目ででも何かしら当事者に還元してもらってもバチは当たらないだろうと考える先生方は多いはずですよね。
ところが日本医師会というところはこのドクターフィーなる物は現場の協調を阻害する、それよりもホスピタルフィーを引き上げて各施設の裁量で支給できるようにすべきだなどと、いかにも勤務医切り捨て御免な経営者視点の団体らしいことをかねて言っているようですし、中医協などでも未だ導入議論は進んでいない状況のようです。

ま、そうした話はともかくとして、数年前に大病院の院長を対象とした全国調査では9割が治療成績公開に賛成していたというデータがありますが、治療成績アップを狙って条件のいい患者ばかり手がけるようになるなんて懸念はあるものの、どこの施設でも施設間競争になっても勝ち残れる自信があるとも受け取れるデータですよね。
ただその背景としていざ競争になれば現場の尻を叩き、もっと良い成績を出せとハッパをかければ良いという考えがあるのだとしたら、現状ですでに疲弊している現場スタッフは実入りが増えるわけでもないのに仕事ばかりが増える一方ですから、当然ながら今よりもさらに疲労困憊し士気は更に低下するということになるでしょう(俺達はこんな素晴らしい成績を上げたんだぜ!の誇りだけで頑張れる人は社会的には少数派ですから)。
もちろん多数の症例で比較してみれば○パーセントも成績が違うという比較は成り立ちますが、実際に診療を受ける患者にとってはわずかな数字の差よりも医者がどれだけ丁寧な診療をしてくれるかと言った方が顧客満足度を決めるより大きなファクターになるはずですから、目先の数字を競ってスタッフを疲労困憊に追い込み、肝心の診療が乱暴になるなんてことになれば本末転倒であるはずです。
治療成績公開にしろドクターフィー導入問題にしろ、最終的に顧客にとっての利益に結びつくかどうかということを可否判断の基準にするのであれば、その前段階としてどうしたって現場がその結果どうなるかにも目を向けなければならないはずですが、そうした視点から検証をすることなく話が進んでいるようにも見えることが心配ですね。

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