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2011年7月 6日 (水)

臨床研修制度、見直しと称して更なる改悪の予感

導入当初から(かなり控えめな表現をすれば)決して良い評判ばかりとも言えない現在の臨床研修制度ですが、いよいよその見直しが国の課題として取り上げられ始めているようです。
もちろん良い方向への見直しであればよいのですが、どうも研修医を体の良い人身御供に捧げかねない勢いだというのですから制度発足の趣旨に逆行しているというしかありませんよね。

臨床研修制度見直しへ初会合(2011年7月4日NHK)

医学部を卒業した医師に義務づけられている臨床研修制度について、見直しを検討する、厚生労働省のワーキンググループは、4日、初めての会合を開き、専門家からは、これまでの制度が地域医療に与えた影響などを検証すべきだという意見が相次ぎました

「臨床研修制度」は、医師免許を取ったばかりの医師に、診療経験を積ませるため、2年間の研修を義務づけたもので、7年前の平成16年から始まりました。厚生労働省は、5年ごとに制度を見直すため、専門家によるワーキンググループを設置しており、4日は、3年後に行う見直しに向けて初めての会合が開かれました。制度を巡っては、医師が研修先の病院を自分で選べるようになったため、研修を受ける医師が都市部の病院に集中する一方で、地方の病院は人手不足に陥るといった問題が深刻化しています。4日の会合では、委員から「見直しを検討するためには、これまでの制度が医師の育成や地域医療に与えた影響などを丁寧に検証すべきだ」という意見が相次ぎました。ワーキンググループは今後も議論を重ね、来年12月をめどに制度の見直しに向けた意見を取りまとめることにしています。

臨床研修見直しへ、現制度評価WGが初会合- 来年中に取りまとめ (2011年7月4日CBニュース)

 厚生労働省の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会の下に置かれた「臨床研修制度の評価に関するワーキンググループ(WG)」(座長=堀田知光・国立病院機構名古屋医療センター院長)は7月4日、初会合を開いた。2015年度の医師臨床研修制度の見直しに向け、現行の制度の実態把握や論点整理を行い、来年中に同部会に報告する。

 このWGでは、▽研修医の基本的な診療能力や受け入れ病院の指導・管理体制など制度の運用状況▽研修医のキャリア形成や地域医療への制度導入による影響▽臨床研修制度の全体的な評価―の3項目について、ヒアリングやアンケート調査、臨床研修病院への訪問調査などを行って実態を把握し、論点を整理する。今後、2か月に1回のペースで会合を開いて来年中に検討結果を取りまとめ、医師臨床研修部会に報告する。

 これを踏まえ、同部会では、13年中に制度全般の見直しを検討。15年度から始まる新制度の対象になる研修医の募集は、 14年4月以降に始まる。

 意見交換で岡留健一郎委員(済生会福岡総合病院長)は、優れた医師を育成するには、卒前研修、専門医制度と三位一体での検討が必要だと主張。堀田座長は、「国民の目線で、今の臨床研修制度がどう評価されるのかという視点を入れなければならないのではないか」との認識を示した。

もちろん研修を受ける当の若手医師達にとっても必ずしも最善のシステムであると定評を得ているわけではありませんから、よりよい研修のために制度を変えていくことは当然であるわけですが、問題はこの研修制度見直し議論そのものが「田舎に医者がいなくなった」だの「人手不足を何とかしろ」だのと、あくまでも使う側の論理によって進められている気配があるということです。
そもそもいわゆる新臨床研修制度なるものを導入する当初の考え方として、今まで研修医というものは安くてこき使える便利な労働力としてひどい環境に置かれてきた、それでは研修の実が上がらないから彼らには勉強に専念できるように国がルールを決めてきちんとした研修を受けさせようと言う話だったはずですよね。
そうであるからこそ薄給研修医が単なる生活費稼ぎのために当直バイトを強いられることがないようバイトは禁止しましょう、そしてバイトなしでも生活できるように最低限の給与水準は保証しましょうといったことが病院側に強いられる制度となり、おかげで「今や研修医よりもレジデントの生活の方がはるかに悲惨になった」なんてことも言われるような逆転現象すら発生したわけです。
極論すれば地域医療が崩壊しようが研修医にとっては関係ない話で、田舎に医者がいなくなった、それもこれも臨床研修制度のせいだ、だから俺たちの病院にももっと医者が来るように制度を変えろという考え方には、研修医にとって田舎病院での研修が良いのか悪いのかという視線が存在せず、単に黙っていても制度的に労働力を配分されることを期待するプロ弱者的発想があると思わずにはいられません。

そもそも臨床研修制度導入以降やたらと医師不足が騒がれるようになったことに関して、地方公立病院の関係者などが口を揃えて「研修医が都市部の病院に集中しているから」云々ということを言いますが、単にたまたま自分達の病院が田舎であったから研修医に人気がないと考えているのであれば、自分達の病院が明日から大都会のど真ん中に移転しても周囲の施設に遜色なく人が集まってくる自信があるということですよね。
今回のWGのテーマとも関連して、厚労省はこういう調査も出してきているのですけれども、田舎だから絶対嫌だというのはむしろ少数派で条件次第と考えている人間が多いにも関わらず実際には行く人間が少ないということであれば、普通に考えて田舎病院に人がいないのは人を迎える条件を整えている病院が少ないからだと考えるべきではないでしょうか。

臨床研修、25%が拒否 医師不足地域の勤務(2011年7月4日47ニュース)

 医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師の65・4%が、医師不足地域での勤務について「条件が合えば従事したい」と答えた一方、25・5%は「条件にかかわらず希望しない」と考えていることが4日、厚生労働省の初の調査で分かった。8・1%は「既に医師不足地域で働いている」と答えた

 調査は2008年4月~10年3月に臨床研修100+ 件をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した。

 医師不足の地域で働く条件(複数回答)は「自分と交代できる医師がいる」が最多で55・7%、次いで「一定の期間に限定されている」(53・8%)、「給与がよい」(47・0%)の順

日本全国どこへ行っても医師不足なんですから、国内で働く全ての医者が「すでに医師不足地域で働いている」と答えても間違いではない…という考え方も出来るかと思うのですが、ここでは研修終了直後の医師においては「考えても良い」が65.4%だったと言う数字をご記憶ください。
実は以前に医学部学生も含めて対象とした類似の調査があって、この時は「条件さえ合えば医師不足地域での勤務を考えても良い」という学生が7割ほどだったと言う一方で、卒後5年目までの若手医師は59-67%、指導医は42-48%と、臨床現場の(あるいは、医師不足地域での実際の診療の?)真実を知るほどに拒否感が強まるという傾向が見られたと言います。
そして学生の言う条件が給料や生活環境がよいといったものであったのに対して、実際に臨床現場に出た医師となると交代する医者がいるとか期間が限定されているといったものに変わっていく、すなわちこれは田舎病院内部の環境にこそ問題がありそうだと言うことを示唆しますし、実際に給与面などでは田舎病院ほど高くなるという相当な逆地域格差すら存在していることがすでに明らかになっているわけです。
医師不足地域、とりわけその中でも誰も行きたがらない地方の公立病院などはまずこうした現実をきちんと自覚した上で、自分達の考え方に改めるべき点がなかったのかということを真摯に反省し改善していく必要があるんじゃないかと思いますね。

先日は獨協医科大学神経内科の小鷹昌明先生がいわゆる医局人事の内情というものを書いておられ、これ自体なかなかおもしろい内容でご一読いただければと思うのですが、その中にこんな一節があります。

医局長なんか大切にしなくていいよ!(2011年4月11日医療ガバナンス学会)より抜粋

(略)
 適材適所でモチベーションを落とさないように配慮した人事とはどういうものなのか? また、どうすればそれを実行できるのか? 医局長にとって永遠に尽きることのない課題である。

医局員にとって働きたい病院の選択肢のひとつは、「少ない労働で高収入」の得られる病院であり、行きたくない病院は、「その逆」であるということは事実としてある。
 私だってその気持ちがないわけではないし、そう願うことは仕方がない。
 ただ、そういう選択肢が発生することの理由として、「忙しくても安い病院」と「暇だけど高い病院」とが存在するからである。労働の多寡と給与額とが相関していれば、「オレは厳しくても給料のいいところで働きたい」とか、「ワタシは稼ぎはどうでもいいからゆっくりしたい」ということで、人事は割とスムーズにいく。
 また、労働条件というものを度外視して、自分の働きたい病院を希望するものもいる。たとえば"がんセンター"や"ホスピス"、"石垣島の診療所"などの、ある特定の領域に特化した医療機関である。動機はさまざまであろう。特殊な医療技術の習得を目指したかったり、何かの転機により心情が変化したり、世を儚んだりなどの理由があったのかもしれない。
 私のように、「大学病院勤務に飽きた」という理由だけで英国留学を希望するような輩もいる。それはそれでいい。なるべく希望を叶えてあげたい。

 さらに、彼らのニーズはどういうところにあるかというと、「忙しくとも愉しく働ける病院」であり、「暇でも良い気分で働ける病院」である。言い換えるなら、働きやすい病院である。
 人間は機嫌良く仕事をしている人のそばにいると、自分も機嫌良く何かをしてあげたくなる。だから当たり前だが、愉しく働きやすい病院は医療者にとっても患者にとっても良い病院である。
(略)
 どんなにきれい事を並べようとも(この言葉、私の常套句になりつつあるが)、健康な医療者は、所詮患者の気持ちなど本当の意味では理解できない。「それで構わない」と言っているわけではない。「そういう根源的な部分に立ち返ってものを考えないと、結局は絵空事で終わってしまう」と言っているのである。
 私たちにできることは、患者に同情することでも立場に寄り添うことでもない。敢えて言うなら"質を上げる"ことである。そのためには、そこで働く医療職員の士気を上げることである。どうやったら人間は高いパフォーマンスを達成できるかを考えることである。

 答えは簡単なことで、皆が機嫌良く働けて、コミュニケーションが円滑で、潤沢な財源があることである。
 重篤な疾患であるからこそ、難病であるからこそ、医師にできることは、「医療者そのものの心身がアクティブな状態にあって気分が良い」という気持ちを伝搬させて、何かを感じ取ってもらうしかないのではないか。私はそう思っている。
(略)

医局人事にしろ臨床研修制度のマッチングにしろ、地方でも多忙な職場として知られているような地域の基幹病院などは案外そこまでは嫌われないもので、結局一番不人気なのは田舎にあって地元の御老人を相手にゆるい商売をしているような旧町立病院の類ですよね。
医療の世界が他の業界と少しばかり違う事情として、往々にして医師不足地域と呼ばれる地方の方が仕事は暇であるが給料は高いという傾向にあることで(こうした傾向は公共性の高い職場においてしばしば見られるようです)、その理由として最も手間暇がかかる高度な医療よりも(医師にとっては)さほど手のかからない日常的なcareが中心になるといった診療事情も存在しているように思います。
それは専門的な技量を身に付け、それを発揮するという局面が少ないということですし、ひいては「こんな決まり切った雑用ばかりの病院、俺じゃなくても全然構わないじゃないか」と思わせることにもつながっていく、すなわち働かずして高給を頂ける(ついでに言えば、使う場所もないのでお金も貯まる)という労働者にとって夢のような環境であるはずが、医師のモチベーション上は必ずしもよい環境ではないということですね。
自分達の施設が実際に働きやすい環境にあるかどうかを客観的に知るためにも、都市部と地方部とを問わず勤務医を対象に一度調査してみればいいと思いますし、医者が来ない施設ほど「うちはこんなに働きやすい病院なんです!」と競ってアピールすればいいように思いますけれども、今の研修制度見直しの流れでは悪貨が良貨を駆逐し、ますますモチベーションを低下させる方向に進みそうな気配が濃厚ですよね。

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コメント

研修医枠配分がものすごい利権になりそう

投稿: kan | 2011年7月 6日 (水) 18時59分

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