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2011年7月15日 (金)

両輪である無過失補償制度と医療事故調 実現にむけて難題山積

先日こういう記事が出ていましたのを御覧になりましたでしょうか。

「無過失補償」本格検討へ 医療事故の救済目指し(2011年7月8日US.Frontline)

 政府は8日、医療事故で患者が死亡したり、重い障害が残ったりした場合に、医師の過失の有無にかかわらず補償金を支払う「無過失補償制度」の創設に向け、本格的な検討に入る方針を決めた。複雑な立証を求められ、解決まで時間もかかる訴訟に代わって被害者を早く救済し、責任を追及される医師の負担も軽くするのが狙い。

 今夏にも医師や弁護士らによる検討会をつくり、法案化を目指した議論を始める。ただ、患者や遺族は早期救済を求める一方で「責任を問わないことで、ずさんな医療行為を助長する恐れもある」と懸念している。このため原因究明の方法や再発防止策、医療界の反対が根強い警察の捜査との関係について、慎重に話し合う

最大の課題は財源で、医療機関の拠出や医療保険料アップ、公費投入が考えられている。運用は、民間の保険加入や基金創設などの案が浮上している。(共同)

昨今の政府はどうにも空転の度が過ぎるという気配がしていたのですけれども、一見すると不要不急のようにも見えるこうした話を地道に進めていくことは、今後に向けて非常に重要なことなのではないかと思います(もっとも、いつから待たせているのだという叱責の声も大きそうですが)。
当ぐり研でも以前から無過失補償制度導入論を繰り返していますし、法曹などの立場からも(商売としては好ましくないとしても)その必要性が言われている制度ですが、その導入にあたっての最大の動機となるのは医療訴訟というものは他の民事訴訟と同様に真実を明らかにする場でもなんでもなく、「謝罪をする場所ではない、こころのケアをする場でもない、金額を決める場所」であるという現実ではないかと思います。
遺族が決まって言うように「真実を明らかにしたい」と法廷闘争に持ち込んだところで、訴訟の勝ち負けに関わらずしょせん法廷で真実など明らかになることはない、そして法廷という対決の場であるが故に医療側は例え真実から遠いと(内心)感じていたとしても勝つための証言をせざるを得ないとなれば、むしろ真実性の追求という観点からは退歩と言ってもいいくらいの行為とも言えますよね。
ところが北欧などですでに先例があるように、広範な無過失補償導入によって医療従事者と患者側とが同じ補償金獲得という目標に向けて協力し合うということであれば、何も両者が争うことには意味がないということになりますし、実際にスウェーデンでは補償金申請のための傷害報告の40‐80%は医師や看護師、民生委員が患者の報告を手助けしていると言うことです。

ただ実際問題として広範な無過失補償導入ということになりますと記事にもありますように財源問題がついて回るもので、恐らくどのような財源を用いたとしても北欧などと同様、得られる補償金額は現行の民事訴訟で勝った場合よりも相当低い(せいぜい数百万程度?)ものにならざるを得ないだろうと思います。
もちろん民事訴訟で争うだけでも弁護士費用などを始め諸費用は少なからずかかる上に、実際の勝訴率というものを掛け合わせた場合に平均賠償額はもっと低くなるかも知れませんし、何より医療側との共同作業を通じて患者や遺族の被害者感情がなだめられる効果が期待出来るとすれば、総合的に考えれば決して割の合わない話ではないとも言えますよね。
実際の導入にあたっては財源以外にも様々な問題点はあって、例えば先行する産科の無過失補償制度では条件がそれなりに厳しいこともあって認定審査が相応に手間暇かかっているようですが、現行の非常に限定的な制度においてもこれだけ苦労しているとすると、全医療分野に広範に広げていった場合には審査が大いに混乱してしまいそうですよね。
そしてこういうものは患者や遺族感情からすれば単にお金だけではなく、きちんとした報告書なり再発防止策なりが出て初めて満足出来るものなのではないかと思いますけれども、これまた事故調議論というものは以前から責任追及などを巡って錯綜するばかりで全く先に進む気配がないというのは周知のところです。
そんな中で医師会が以前から出す出すと言っていた独自案をようやく出してきたということなんですけれども、こちら記事から引用してみましょう。

医療事故:「刑事罰対象外」、第三者機関が調査--医師会が提言(211年7月14日毎日新聞)

 日本医師会は13日、診療行為に関連した事故は原則として刑事司法の対象とせず、各病院の院内事故調査委員会や医療関係者で作る「第三者的機関」が原因究明と再発防止に向けた調査をするとした提言を発表した。

 一方、厚生労働省は今夏にも、医療事故の患者らを救済するため医師の過失の有無に関わらず補償金を支払う「無過失補償制度」の創設に向けた検討会を設置する方針で、09年の政権交代後、停滞していた医療事故への対応を巡る議論が約3年ぶりに動き出しそうだ。

 提言では、全ての医療機関に院内の委員と外部有識者らで構成する院内事故調の設置を求めた。小規模病院や診療所は医師会や大学が協力。死亡事故で院内事故調の能力を超える事例は医師会や学会のメンバーで構成する第三者的機関が調査。遺族が直接、同機関に調査請求することも可能とした。【佐々木洋】

「全医療機関に事故調設置を」 日本医師会が提言(2011年7月14日日本経済新聞)

 日本医師会は13日、全ての医療機関が法律家など外部委員を加えた「院内事故調査委員会」を設置することを求める提言を発表した。院内事故調で原因が判明しない場合は学会などが全国に置く第三者機関に調査を依頼する。調査結果は迅速に真実を隠さず患者・家族に報告する。警察への通知は「故意か故意と同等の犯罪がある場合」とした。

 医療事故調のあり方を巡っては2008年に厚生労働省が第三者機関の創設を内容とする法案を作成したが、当時野党だった民主党が院内事故調を基本とする対案を提示。その後、政権交代もあり宙に浮く形になっていたが、日医が当時の厚労省案と民主党案を踏まえた提言をまとめたことで議論が再開しそうだ。

 提言では、医療事故調査の目的を「原因究明」と「再発防止」と明記。「すべての医療機関において、迅速に調査し、真実を隠すことなく報告するための委員会を立ち上げる」とした。

 厚労省案では医療事故が起きた場合、第三者機関に届け出ることを想定していたが、まず院内事故調を立ち上げて検討する。公平性を確保するため、事故があった医療分野の専門家や法律家、有識者の外部委員を加えるなど、一定の基準を設ける。

 院内事故調の調査で故意または故意と同一視すべき犯罪が判明した場合は警察に届け出る。日医は「殺人罪や傷害罪を想定しており、医療事故など過失だった場合は通知しない」と説明。現在は医療事故で患者が死亡した場合は「異状死」として警察へ24時間以内に届け出る義務が課されているが日医は「将来的に法改正を目指す」とした

 死亡事故で原因分析できなかった場合、学会などが参加する第三者機関に依頼する。第三者機関は現在、日本内科学会などがつくる既存の「日本医療安全調査機構」(東京・港)を基本として、各都道府県に1カ所以上の地方事務局を設置する。

 民主党案では各都道府県にある医療安全支援センターに依頼するとしていたが、「同一水準で事故調査が困難」として、厚労省案で想定していた医療安全調査機構を活用する。患者や家族からの調査請求も受け付け、調査結果は医療機関や患者・家族に通知する。

 小規模病院や診療所などが自ら院内事故調をつくれない場合、地元の医師会や大学などが支援できる体制を構築する。遺族の拒否で解剖できない場合を含めてコンピューター断層撮影装置(CT)などを使った死亡時画像診断を活用する。

 日医は「医療事故調は患者や医療者、法律家が議論したが、最終的な合意ができなかった。議論を終わらせるのは社会にとって不幸であり、再び議論を再開して発展させたい」と期待している。

医療事故調査は「自浄」が柱、医師法改正も- 日医が制度創設へ提言(2011年7月14日CBニュース)

 日本医師会は7月13日の定例記者会見で、医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言を公表した。すべての医療機関に設置する「院内の調査委員会」と、医療・医学界で組織する「第三者的機関」による自浄機能を制度の基本とし、「異状死」について警察への届け出を義務付けている医師法21条の改正を提言している。

 提言は、原中勝征会長の諮問を受けて設置された「医療事故調査に関する検討委員会」による答申。
 それによると、院内の調査委は、全医療機関がそれぞれの責任で設置する。1次段階として、患者満足度を含む医療の質の向上などを目的とした平時の「医療安全委員会」を常設。2次段階の「医療事故調査委員会」は、医療事故が起こった場合に設置し、法律家や有識者など院内外のメンバーで構成する。院内事故調の質を担保できる一定の基準を設けることとし、調査結果は、再発防止策を含め、患者・家族に報告する。小規模病院や診療所での体制については、医師会や大学などが支援する。

 「第三者的機関」による調査は、医療行為に関連した死亡事例で、院内事故調だけでは調査・分析し切れないケースを対象に想定。患者の家族が調査を請求することもできる。地方事務局を各都道府県に設置し、調査結果については、プライバシーに配慮した上で公表するが、警察・司法への通知は行わない。
 「医学的知見に裏付けられた公正中立な判断が可能な組織」として、日本医療安全調査機構を基本に、日医、日本医学会などの医療・医学団体で構成する考えで、「医療事故調査第三者機関設置検討委員会」(仮称)を早急に立ち上げるよう提言している。

 こうした仕組みにより、「医療事故は、医療者の責任において原因究明と再発防止を図る」ことを基本とした調査制度を構築。同時に、医師法21条に関しては、医療行為に関連した死亡を異状死に含めず、「故意または故意と同視すべき犯罪がある場合」を除き、届け出義務を課さないなどの改正を求めている
 また、医療ADR(裁判外紛争解決機関)の活用の推進や、過失・無過失を問わない患者救済制度の創設なども提言している。

 高杉敬久常任理事は会見で、「医療関連死は警察に届けても解決できない。われわれ(医療者)が、きちんと答えを出していこうというのが基本姿勢にある」と述べた。

実際問題としてすべての医療機関に院内調査委員会を設置するというのは日医の支持母体である開業医などにとっては相当な負担なのではないかと思われますし、全体的にとりあえず総花的にまとめてみましたという感がぬぐえない印象もある提言ですが、すっかり政権からハブられている日医としても一応議論の叩き台を出してみましたという程度のつもりなんでしょうか(苦笑)。
医療事故というものの定義も非常に難しいところで、例えば病室に行ってみたら患者が亡くなっていたという場合など限りなく病死あるいは自然死であると考えられても、厳密に言えば調べて見ないことには事故であるかないかは何とも言えないわけですから、解釈の仕方によっては下手をするともの凄い業務量の増加を招くんじゃないかという気もします。
また日常的に死亡者が出てくる末期患者を扱う施設などでは、医者と患者(家族)との間の阿吽の呼吸で敢えて積極的な(助けるための)医療を行わないという場合も往々にしてあるわけですが、院内事故調が少しでも事件性の否定出来ないものは全数調査ということになってしまうと、下手をするとこうした症例は片っ端から射水事件のような騒ぎにもなりかねませんよね。
そういう意味では今回とりあえず医師法21条の改正問題に突っ込んでいることは一定の評価が出来るんじゃないかと思いますが、明らかな故意や犯罪性がない場合を除くという作業も実のところ受け取りようによっては何とでも解釈出来るもので、実際に病院内に侵入した第三者によって毒物が混入されていたなんて事件も起こっているわけですから、実際に真面目にやるとなるとこれは大変な作業なんだろうなと思います。

しかしどのようなものが出来るとしても実際に運用を開始するにあたっては、いきなり全数を詳細になどと気張ってしまうととんでもないことになるのは当たり前ですから、とりあえず真っ先に最低限やらなければならないケースというのはやはり患者や家族とトラブったようなケースですよね。
その場合普通は患者や家族の側としては病院自体に不信感を抱いているでしょうから、まず第一段階として院内調査から入るというのは納得されるのかどうか微妙なところで、まして前述のような施設側にとっての日常的な負担ということを考えて見ると、各施設毎よりは地域の医療機関をいくつかまとめての調査委員会のようなものを作ってみた方が良いんじゃないかという意見もありそうです。
ただその場合は各施設独自の事情、あるいは院内の空気のようなものは反映されにくくなりますから、例えば老人病院での事件で基幹病院と同様の基準で判断されるのではかなわないだとか、今度は施設側からの不平不満が出ることになりそうですかね。
こうして見ると医療の側はとにかく司法が医療現場に介入するのは困ると主張してきたわけですが、そうした事態を避けるように自前でチェックするということになれば医療の側にも相当の手間暇がかかるということで、今度は「これでは困る。仕事にならない。何とかしてくれ」と反対意見が出かねないような気もしてきて、自浄などと口で言うのは簡単ですが実際やるとなると大変だなとつくづく思います。
ただ医療側であれ司法であれ第三者機関であれ、どんな主体が調査を行うにしても医療の専門家がそこに加わらないということはあり得ないわけですから、いわゆるトンデモ判決の原因ともなっているトンデモ鑑定医の問題などを見ても判る通り、今後は学生教育レベルから始まって業界全体で「鑑定医として求められるスキル」の教育とその資格の検証も必要になるんじゃないでしょうか。

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コメント

政権が風前の灯火なんだから議論したって無駄無駄

投稿: aaa | 2011年7月15日 (金) 13時37分

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