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2011年7月20日 (水)

進まぬ小児脳死移植 しかし移植を求める患者は待てる状況にもなく

臓器移植法改正によって先日初めて行われた小児からの脳死臓器移植から後、第二、第三の症例がどうなることかと興味深く見守っていましたが、一向に話を聞かないと思っておりましたらやはり一例きりしか行われていなかったようですね。

改正臓器移植法1年:小児の脳死状態14例 判定に至らず(2011年7月18日毎日新聞)

 改正臓器移植法の全面施行(10年7月17日)以降、15歳未満の小児からの脳死臓器提供が4月に1例実施されたが、このほかに小児患者が脳死とみられる状態になったケースが少なくとも11医療施設で14例あったことが、毎日新聞の調査で分かった。親が臓器提供に承諾しなかったり、医師が提供に関する説明を見送るケースが目立ち、いずれも提供には至らなかった。特に小児の場合、家族や医療現場で脳死が人の死として受け入れられない現状が浮き彫りになった。

 ◇本社56施設調査

 毎日新聞は7月1~15日、小児からの脳死臓器提供を実施すると表明している全国の56施設を対象に郵送によるアンケートを実施。46施設(回答率82%)から回答を得た。

 小児患者が脳死とみられる状態になった14例のうち、親が承諾しなかった(4例)▽主治医らが悲嘆にくれる家族の様子を見て、最初から説明を見送った(4例)▽虐待を受けた疑いを否定できなかった(2例)▽主治医が医学的理由で説明を見送った(1例)--などの理由で、いずれも脳死判定や提供に至らなかった

 小児の臓器提供がこれまで1例にとどまっていることについて、全体の半数に当たる28施設は「予想通り」と答えた。理由として「親が脳死を受け入れられない」「虐待の見極めが困難」などの意見が挙がった。

 18歳以上の脳死臓器提供実施施設として名前を公表しているのは2月1日現在、全国で303施設。これらの施設は制度上は小児の脳死臓器提供も可能だが、小児からの提供実施を表明しているのは56施設にとどまっている。【比嘉洋、久野華代、藤野基文】

脳死:「人の死」根付かぬ日本 小児臓器提供進まず(2011年7月18日毎日新聞)

 15歳未満の小児患者からの脳死臓器提供に道を開き、家族承諾での臓器提供を可能にした改正臓器移植法の全面施行から17日で丸1年を迎えた。施行後、全体の脳死臓器提供は急増したが、小児からの提供は1例だけ。提供が進まない背景には、脳死を受け入れがたい親の心情や医師の間でも見解がまとまらないことなど、提供を阻むさまざまな課題がある。【比嘉洋、藤野基文、久野華代】

 ◇実施施設「返上」の病院も

 小児の脳死臓器提供実施施設として毎日新聞のアンケートに答えた東海地方の病院で2月7日午前9時ごろ、入院中の男児(1歳5カ月)の自発呼吸が止まった。脳波も平たん。脳死とみられる状態だった。

 「脳の活動が非常に乏しいです」

 同日午後7時、男児のいる集中治療室の隣室に集められた両親とそれぞれの祖父母計6人に治療を担当する女性医師(27)が告げた。人工呼吸器をつけた男児は眠っているように見える。だが、意識が再び戻ることはない。説明を受けた20代の母親が涙をこぼした。

 男児は1月下旬に40度の高熱と激しいけいれんで救急搬送され、インフルエンザ脳症と診断された。投薬治療を続けていたが、意識が回復しないままこの日を迎えた。男児の祖母が詰め寄った。「孫は脳死なんですか」。医師は男児に臓器提供の機会があることを説明し、提供する場合にのみ脳死かどうかを判定するという現行の制度を説明した。家族はすぐに臓器提供を断った。脳死と認めなくてよいのなら、「うちに連れて帰りたい」

 女性医師とともに診療に当たった男性小児科医(43)は「家族が提供の意思を示したら、おそらく脳死と判定されるケースだった」と振り返る。

 病院は治療を継続し、母親は3歳になる姉を連れてほぼ毎日見舞いに訪れている。男児は脳死とみられる状態でも脊髄(せきずい)反射などにより手足が動き、排便もする。女性医師によると、母親はその度に喜び、動きが少ないと「きょうは機嫌が悪いみたい」と悲しむという。人工呼吸器などの生命維持装置の管理の方法を家族が習得すれば、男児は今月中にも帰宅できる

 成人は脳死から数日で心停止に至ることが多いが、小児は心停止まで長期間にわたる場合がある。小児科医は「(臓器移植が進む欧米各国のように)『脳死は人の死』とする死生観が日本に根付かない限り、特に小児の脳死臓器提供は増えないだろう」と指摘する。

小児脳死臓器提供から手を引く施設も出ている。ある病院は改正法施行後の昨年12月の時点では、小児臓器提供実施施設として表明していたが、数カ月後に取り下げた。県内の別の医療施設から「小児からの提供については独自で見解を出すべきでない。先に地域の医師の間で議論を深め、方針を統一すべきだ」との指摘を受けたためだ。取り下げた病院関係者によると、県内の小児救命救急に携わる医師の一部は、救命を願う親の気持ちを傷つけかねないなどの理由から、移植医療自体に抵抗感を持っている。一方で、臓器移植を望む子どもの希望に応えるべきだとする医師も多く、話し合いを続けているという。

 改正法に対応した臓器移植マニュアルをまとめた厚生労働省研究班のメンバー、岡田真人・聖隷三方原病院院長補佐は「脳死について議論を十分尽くさないで、臓器を提供する時に限って脳死を人の死とした。これは世界的にも特殊な状況で、問題を複雑にしている。臓器提供をする時だけ親に子どもの死の時期を判断させるというのは、社会に受け入れられないのではないか」と指摘する。

 ◇心停止後含め提供数伸びず 海外移植も困難に

 改正臓器移植法施行で家族承諾による脳死臓器提供が可能となり、最大でも年間13例だった提供数がこの1年間で55例と急増した。しかし、施行前から家族承諾で行うことができた心停止後の提供数は減り、脳死と心停止を合わせた年間臓器提供数は大きな伸びを示していない

 専門家の間では、脳死提供の手続きの緩和に伴い、従来は心停止後に提供を承諾するケースで脳死での提供を認めるようになったため、心停止後の提供が減ったと考えられている。移植ネットなどによると、この1年間の脳死提供55例のうち49例は家族が承諾したケース。移植を受けた患者は心臓が37人(過去最多は年11人)、肝臓51人(同13人)と大幅に増えた。一方、改正法全面施行後の臓器提供は心停止後の76例(6月末まで)を含め計131例。法施行直前の3年間は▽09年105例(脳死7例、心停止後98例)▽08年109例(脳死13例、心停止後96例)▽07年105例(脳死13例、心停止後92例)で、2割程度伸びた形だ。

 大阪大の福嶌教偉(のりひで)・移植医療部副部長は、施行後、医療施設側も臓器提供の機会があることを説明するようになってきたことや、患者の家族から主治医に臓器提供を申し出るケースが増えてきていることを挙げ、「移植医療は国民の中に徐々に浸透してきているのではないか」と話す。

 海外での移植などを支援しているNPO法人「日本移植支援協会」によると、これまで年間5~10人ほど渡航移植を支援してきたが、改正法施行後は国内での臓器提供が増えたため支援は1人のみに減った。協会の高橋和子理事長は「渡航移植の自粛を求めるイスタンブール宣言(08年5月)の採択の影響もあり、施行後も小児の臓器提供が1例しかない現状は、小児の移植希望者にとっては非常に苦しい」と語る。

 脳死は、心臓は動いているが、脳の全機能が失われた状態。呼吸などの調節を行う脳幹の機能が残り、自ら呼吸できる「植物状態」とは異なる。脳死状態でも人工呼吸器などを装着すれば、生命力の強い小児の場合、数年間心臓が動き続けることもある。脳死判定は移植に関わらない判定医が、脳波活動や自発呼吸の消失の確認など5項目について、6時間以上の間隔を空け2回行う。蘇生力の高い6歳未満は間隔を24時間以上空ける。昨年全面施行された改正臓器移植法で、本人が生前に拒否していない限り家族の承諾で脳死臓器提供ができるようになったほか、対象年齢も生後12週未満を除く全年齢で可能になった。一方、虐待を受けていた小児(18歳未満)からの臓器提供を禁じている。

家族の側が抵抗感があるのは当然のことで、今回の改正で移植を前提とした場合のみ脳死判定を行うというのは、今までであれば死と認定されなかった状況で臓器提供を希望すれば死と認定しましょうと言うことですから、いったい死とはそんなにも便宜的なものでよいのかと混乱があっても仕方のないところではあるでしょう。
何でも文化的背景に帰結させてしまうのもどうなのかと思うのですけれども、このあたりは同じ文化圏に属していても個々の家族の価値観に差はあるでしょうから、最初は移植に理解のある少数の方々を中心にしてでも徐々に症例数が増えてくればいずれ世間も慣れてくるだろうと思いますし、当面は慌てず急がず気長にやっていくしかないのでしょうね。
ありがたいことに日本の場合は脳死状態であっても経済的負担は一般人でも耐えられないというほどでもありませんから、ご家族は元より医療側にしてもただでさえ多忙な中で揉めることが必至の脳死判定を急ぎたくなる状況にはありませんし、記事にもあるようにご家族が納得いくまでご家庭で面倒を見て行くことも可能ではありますが、移植云々は抜きにしてもそれがいいのか悪いのかはまた別問題ですよね。
こうした症例の場合当初は身体的には一見健康そうに見えても、時間が経つ毎に悲惨な状況に陥っていきやすいものであることを考える時、案外脳死判定という区切りをつけることもまた一つの救済にはなり得るんじゃないかという気もしますから、今後死という概念が変化していくだろうことは必ずしも否定すべき点ばかりでもないように思います。

一方で記事を見ていて興味深いのが、世間的には移植と言うとともすれば医療の暴走のようにも言われ、とにかく多少怪しくてもどんどん脳死と判定して移植に回そうと陰で画策しているかのようにも言われがちな医療側からも、今回の改正を契機に小児移植から手を引くという施設も出てきているということですよね。
もちろんそうした世間の厳しい視線があるからこそという側面もあるのでしょうが、当然ながら医療従事者も人の子である以上は多様な価値観があって当たり前ですし、何よりやる側が「は~、僕も本当はこんなことやりたくないんですよね」なんて顔をしていたのでは患者側もたまったものではありませんから、内外で十二分に議論をした上で話を進めていくのが職業倫理というものだと思います。
同時に前述の通り、今まで日本では無理に急いで脳死判定しなければならないような状況にはなかったし、この方は脳死で実質すでに亡くなっている状態だけれども引き続き医療費は負担してくださいねという、考えて見れば病院が死体をダシにぼっているような事も違和感なく行えてきていたわけですが、場合によっては家族の方が脳死に理解がある状況ということも今後当然にあり得るわけですよね。
「先生、正直うちの子はもう脳死なんじゃないですか?」とご家族から言われた場合、本来であれば唯一人の死亡を確認する権限を持つはずの医者の側が「い、いや、そういう考えもありますけれども、僕的にはまだ生きていらっしゃると思うんですけどね…」なんてことになってはおかしな話ですから、一般の医療従事者の間でも今までさほど身近なものに感じてはいなかったかも知れない脳死と言うものへの理解を深める必要がありそうです。

さて、そもそもこうした法改正が行われるようになった背景として世界的な移植用の臓器不足と、それを受けて「自国民用の臓器は自国内で」という認識の広がりがあるということは何度もお伝えした通りですが、記事を見ますと法改正後の一過性の現象かも知れませんが「臓器の買い漁り」とも批判されかねない渡航移植は減少傾向にあるようです。
世界的にも渡航移植禁止や厳重な制限を打ち出す国も増え、とりわけ国内での需要が多い先進諸国ではその傾向が強いわけですが、現状のように国内からのドナー提供がおいそれと増加する気配にない中で渡航移植の出口ばかりが狭まっていくということになれば、犯罪組織なども絡んだ裏ルートでの移植がますます盛んになりかねません。
すでにインドなどは心臓移植大国として世界中から顧客を呼び込むメディカルツーリズムを展開していますけれども、当然ながらそれだけの移植を行うということはそれだけ多数の心臓を誰かから提供頂いているということで、日本に限らず世界の先進諸国もそろそろ背景の部分にも盲目では済まされないということにならざるを得ないでしょう。
貿易の世界ではすでにフェアトレードという考え方がありますけれども、臓器移植もドナー、レシピエント双方にとって直接命に関わる部分だけに何をやっても許されるという考え方は通用しないのは当然で、きちんとした国際的な基準策定と監視体制の構築も考えていかなければならない時期なのかも知れません。

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コメント

どうしてもドナー不足が続くなら、いずれ移植法再改正があるかも知れませんね。
家族に死亡の判断をさせるというのは酷かなと思います。

投稿: 通りすがりのただの人 | 2011年7月20日 (水) 20時53分

医療費負担を増やすことによってドナーを増やすことも、検討されうるかもしれません。表だってはしないでしょうけれども。

個人的には、臓器移植法改正後、移植が増えて移植担当医の負担がどれだけ増加しているのかが気になります。

投稿: クマ | 2011年7月21日 (木) 08時21分

知人で移植に関わっている人を何人か知っていますけれども、絶対的な件数がそれほどでもないせいか目に見えて負担が増えたという感じではないようです。
もっともご多分に漏れず結構マゾ体質の方々が多いですから(苦笑)客観的に見ると大変なのでしょうし、実際に見ている限りでもしばらく移植に関わったら外れるというパターンが多そうですが。
もう少し件数が増えれば専従チームでこなした方が良くなるんでしょうが、病院内では大赤字部門として批判されかねませんかね(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2011年7月21日 (木) 10時00分

私は、慮ってみるべきは、移植チームではなくて 脳死判定チームの負担だと思っています。
移植医にとっては移植を成功させること自体がご褒美ですが、脳死判定のほうは仕事が増えるだけで ご褒美はありませんから。

投稿: JSJ | 2011年7月21日 (木) 14時12分

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