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2011年7月18日 (月)

モンスター対策 Gフォースがなくとも出来ることはまだあります

モンスター顧客と言えば今や医療業界においても決して小さな問題とは言えなくなっていますが、先日は日本病院学会のワークショップで、医学博士号持ちの弁護士としても、また医療紛争などでの病院側弁護担当としても知られている桑原博道氏がこんなことを言っていたということです。

迷惑患者への最終手段、「接触断絶」も- 弁護士は「管理権」に注目(2011年7月15日CBニュース)

 弁護士の桑原博道氏は7月15日、日本病院学会のワークショップで講演し、「モンスターペイシェント」と称されるような迷惑患者に対しては、コミュニケーションを断つことも必要との考えを示した。そのためには、原則は医師法違反の診療拒否よりも、敷地や建物の「管理権」を行使する方が違法性は少ないと説明した。

 桑原氏によると、管理権の行使は、迷惑行為の内容や患者の病態により例外的に違法になるケースもあるが、原則は合法行為。一方、診療拒否は「正当な事由」がない限りは原則、医師法違反で、「管理権の行使の方が、法的な問題は少ない」という。

 一方で桑原氏は、コミュニケーションを断つことは「あくまでも例外」とも述べ、迷惑患者を8類型に分け、それぞれに合わせた対応を取るべきだと指摘した。
 8類型は、(1)刑事犯型(2)粗暴型(3)反社会的勢力援助型(4)ストーカー型(5)居座り型(6)診療報酬不払い型(7)粘着型(8)精神疾患型―で、(1)から(4)には警察OBによる対応も有効だと説明。(3)については、代理人として弁護士を立てることも必要だとした。文書での回答を何度も求めるような(7)に対しては、早い段階でやりとりを打ち切る文書を送付すべきだと述べた。

 また、(5)の実例として、特別療養環境室からの退院を拒み、娘と共に暮らし始めた患者を紹介。娘が病室のシャワーを使用していることを突き止め、水を止めることで解決したという。

ここで出てくる管理権とは施設管理権のことだと思うのですが、これは所有者など施設の管理者が施設を管理する権利権限の事…と言ってしまうとよく判らなくなってしまいますけれども、要するに施設の利用者に対して所有者はあれこれと言う権限があるという話であって、例えば労働争議などで経営陣が組合活動を制約するような場合にも用いられるようですね。
もちろん施設の管理や維持にまつわる諸権限もあるのですが、これに加えて施設の治安を保持する為の諸権限が含まれているというのがこの場合のポイントであるようで、wikipediaから実際にどういう場合に用いられるのかという例を引用させて頂きましょう。

施設管理権に於ける治安を保持する為諸権限について (wikipedia)

当該施設の治安を保持する為に社会一般的に認められる権利は、憲法に規定される基本的人権に抵触しない程度で、刑法等の現行法に抵触しない範囲での人や物の行為・言動を制限するものである。
又これらを制限する場合対象とする者がいる場合にあっては具体的にその制限する内容を勧告する、不特定多数に制限する場合はその内容を文書等の方法で広報掲出する事により権限を行使できるものである。
具体的に言うと、

    施設管理権原者が入場立ち入りを拒否した者に対して施設外へ退去を命じること

例:過去に施設内で違法行為をした者の出入り制限

    施設管理権原者が施設管理上著しい危険と認めた行為を制限すること

例:公園等での球技の禁止

    施設管理権原者が施設の治安維持上必要と認めた範囲での物品の持ち込み制限

例:引火性危険物を集積貯蔵する施設への火気物品の持ち込み制限

    施設の円滑な運営の妨げとなる諸行為の制限

例:示威行進等の制限

例えば昨今では病院にモンスター対応の警備員を入れるといったことが広まってきていますが、ああいうものは管理者に委託されたスタッフがこの施設管理権に基づいて強制力を発揮しているものですし、上記の例にあるように施設自体への立ち入りも制限し、退去を命じることも出来るというわけですから、そもそも診療契約を締結する事自体が不可能で応召義務問題も発生しないと思われます。
こうしてみると病院においてはなかなかに使い勝手の良さそうな権限ではないかと思えるのですが、もちろん管理者であれば無制限に何をやっても許されるということではなくて、実際の運用にあたってはそれが必要であったと認められるに足りるだけの合理的な根拠というものが必要であるということなのでしょうね。
当「ぐり研」においても登場して頂いたことのある弁護士の井上清成氏が、そのものずばりな著作である「よくわかる病院のトラブル 法的対応のコツ」においてこのあたりの具体的な運用のポイントを解説していらっしゃいますけれども、少しばかり引用させていただきましょう。

暴力・暴言への具体的な予防策
(略)
2 施設管理規定の改正

 医療機関は、医師・看護師・患者さんだけでなく、多くの関係者が利用し、出入りする施設であるため、それらすべての人々の利害を調整する必要があります。それこそが、医療機関が有する「施設管理権」の重要な根拠です。
 施設管理権の基本は院内規則です。さらに特別な必要性に基づいて、特別の規定が制定されるのは当然でしょう。例えば「病院内での暴力・暴言に関する施設管理規則」といった特別規則を作るのも合理的です。
 特別規則においては、具体的な暴力・暴言の例を明示し、さらに包括的、一般的な条項で抑えるのが要領です。顧問弁護士と相談しつつ、実情に合った規則を作ります。「施設管理権」を明示したもの以外に「病院内での暴力・暴言に関する施設管理規則」のような、特別の院内規則も作っておきましょう。
 そして、院内規則、ないし特則は、院内の掲示板に貼り出す、冊子にしてロビーに置くなど、何らかの形で来院者が閲覧できるようにしておきます
 そうすることで、その規則に基づく合理的な対処措置を大胆にとることが法的に可能となります。

要するに患者の態度が気に入らないからとその場その場の基準で「ざけんねぃっ!おととい来やがれってんだ!」で塩を撒いて追い払うというのでは駄目で、あらかじめ院内ルールを整備し患者にも告示した上で「当院ではこのような決まりになっておりますが何か?」とやらなければならないということですね。
同氏の著作はその他にも直接的な実臨床の場に役立つ知識が満載で、まさしく法的対応のコツを網羅したと言うものですから是非一読をお勧めしますが、こうしてみますと医療の現場に限らず教育現場なども含めて、いわゆるモンスターだのクレーマーだのに悩まされている他業界にも応用が利きそうな話も多いですよね。
医療現場においては従来応召義務などという妙なローカルルールの存在から、業界内部においても「医療は特別」と悪い意味で開き直ってしまっているようなところがありましたが、実際のところは社会において当たり前に運用されているルールの範囲で十分に対応出来ると言うことであれば、結局一番のネックになっているのは医療従事者自身にも診療は契約に基づく行為であるという認識が乏しいことでしょうか。
大ベテランの先生方の中には未だに「余計なことを考えないで、医者は最善の治療をすることだけを考えていればいいんだ」なんておっしゃる方もおられますが、往々にして心がけてもままならぬところがあるのが人の世の常である以上、限られた人間の能力の範疇で様々なリスクを最小化出来るよう学生教育のカリキュラムから組み替えていかなければならない時期なんでしょうね。

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コメント

不退去罪ですね
うちの顧問もこれの方が優位と言ってました

投稿: なぞびと | 2011年7月21日 (木) 00時13分

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