« いつまでも「医療の常識は世間の非常識」は通用しません | トップページ | 親族間生体腎移植で不正行為?! »

2011年6月24日 (金)

司法の世界に広がりつつある歪み(一部変更)

最近司法関係の記事で幾つか目につくものがありましたので、本日はそれらをまとめて紹介してみたいと思いますが、結論から言いますと全くひとごとではないなあというところでしょうか。
さて、死刑を筆頭に量刑などを巡って何かと話題になることの多い裁判員制度ですが、先日はちょっと毛色の変わったこんな問題がニュースとして取り上げられていました。

裁判員裁判:男性裁判員を解任 居眠りが原因か 千葉地裁(2011年6月22日毎日新聞)

 千葉県松戸市の女子大生殺害事件の裁判員裁判で、千葉地裁は22日までに、初公判から審理に参加していた男性裁判員を解任した。地裁は理由を明らかにしていないが、公判を傍聴していたハワイ大のデービッド・ジョンソン教授(法社会学)は「毎回居眠りをしていた」と指摘している。

 ジョンソン教授によると、冒頭陳述で居眠りに気付き、その後も続いたため、数日後に見かねて書記官に相談。傍聴人の間でも話題になり、ツイッターに「居眠りしすぎ」などと投稿があった

 地裁によると、解任は21日付で、男性裁判員が自ら辞任を申し立てたとしている。

 ジョンソン教授は昨年7月に来日し、日本の刑事司法を研究するため、多くの裁判員裁判を傍聴した。「裁判官は裁判員を統制してはいけないが、居眠りについては正しく指導すべきだ」と話している。

確かに教授のお説ごもっともという話なんですが、少し調べて見るだけでも裁判員が自ら申し出て辞任するということは時折あることのようで、あまりそうした行為がたびたびとなるようですと「わしは死刑判決なんて出したくない!」などと拒否が続きかねず、裁判員制度の根幹にも関わってくることになりかねませんよね。
裁判員というものはその義務に反するなどして「引き続きその職務を行わせることが適当でないと認められるとき」には裁判官によって解任されるということですが、今回の場合は地裁によれば自ら望んでの辞任扱いであるということでも実際には限りなく解任に近いものだったのかも知れず、いずれにしても改善が見込めそうになかったが故ということだったのでしょう。
ただ裁判員が居眠りをするなどと言えばとんでもない!と思いがちですが、実際に傍聴した人によれば制度発足初期の頃からすでに居眠りが見られたと言いますし、(一部引用削除。詳細はコメント欄を参照ください)必ずしも珍しい出来事というわけでもないようです。
そういう話を聞きますと人間一人の人生を決めるような重大な場で居眠りしていたような裁判員に運命を左右されるのではやりきれない!と思う人がいて当然ですが、そもそも裁判員制度導入の当時から裁判そのものをいかに素人に判りやすく進めるかということは大きな課題になるはずだと言われていた、その一つの帰結としてこういうことは当然に予想されたことではあったわけですよね。

医療の世界においてもインフォームドコンセントなどというものが盛んに強調されるようになった結果、医者は黙って「うむ、任せなさい」では済まなくなったなどと言われていて、とかく口べたな医者は医療そのものの技術も低いのではないかと誤解?され余計なトラブルを招くケースが多いように思いますが、司法の世界においては未だこのあたりの対応は不十分なのかなと言えそうです。
ある面では医療以上に言葉の定義を気にせざるを得ない商売だけに仕方のない側面もありますが、素人相手の法律相談などでも専門用語を並べ立てて理解に困難を覚えるような回答をしている弁護士などが普通にいるという現状を見るにつけ、テレビなどで出てくるような弁護士らしからぬ?弁護士という存在も一概にテレビ芸人だと馬鹿にしたものでもないのかなという気もしてきます。
法廷における素人と専門家の意識の乖離ということに関しては、例えばトンデモ判決などと言われる医学的にはちょっとどうなのよと思われる判決がひと頃相次いだことでも注目されましたが、あれも結局は医療の素人である司法関係者に理解可能な説明が出来なかった鑑定医なり医療側証人なりの至らなさが根本原因であったと考えると、決して他人事ではない話ということになりますよね。

お次ははるかインドの方から、一見するとなにか笑い話のようにも見えるこちらの話題を紹介してみましょう。

看病が大変すぎて…108歳受刑者を釈放 インド(2011年6月19日AFP)

【6月19日 AFP】インドの司法当局は18日、インド最高齢の108歳の男性受刑者が、人道的な理由で17日に釈放されたと明らかにした。

 釈放されたのはヒンズー教聖職者のブリジ・ビハリ・パンディ(Brij Bihari Pandey)受刑者。インド北部ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州のゴラクプル(Gorakhpur)刑務所に収監されていた。

 刑務所関係者によると、「インド刑務所史上最高齢の受刑者」に医療を提供することが困難になったため、裁判所に釈放申請書を出したところ受理されたという。

 この受刑者は、ヒンズー教組織の継承問題がこじれて84歳の時に親族ら15人と共謀して4人を殺害した罪で、2009年に有罪判決を受けて刑務所に収監された。しかし同受刑者は体が弱かったため頻繁に病院に搬送され、ほとんど寝たきりの状態だった。

 釈放された17日、同受刑者は他の受刑者と抱擁を交わし、仲間の受刑者から花飾りを渡されると、笑顔で「神は偉大だ。ありがとう」と言って刑務所を後にしたという。

インドらしいおおらかな話と言った論調で取り上げている記事ということなのでしょうが、実のところインドのみならず日本においても非常に深刻な問題となってきているのがこの収監者の高齢化ということです。
日本の刑務所収監者における高齢者比率は全体としては1割強程度だと言いますけれども、近年ますます増えていることに加えて再犯の比率が非常に高いというのが特徴と言われ、その理由としてとりわけ高齢者においては出所しても働き口がない、そしてさらには年金など社会的サポートを受けられない、それなら刑務所の方がよほど暮らしよいと自ら進んで収監を望むかのように犯罪を繰り返す人も少なからずいるということです。
その結果刑務所の老人ホーム化が進んでいるなどという憂慮すべき声もあり、実際に各地で医療・介護を要するような高齢者向けバリアフリー型収容棟を作っているものの増え続ける高齢受刑者にいずれ追いつけなくなると言われ、そうでなくとも各地で分散収容されている高齢受刑者には普通以上に手間暇がかかるということは容易に判る話ですよね。
刑務官の方などに話を伺ってみますととかく日常的に手が足りないということですが、日本の刑務所はどこも定員オーバーの過剰収容状態が続いていて、しかも経費増につながるからと刑務官増員も進んでいないという中で、「高齢で病気のある受刑者をみる刑務官は五-十倍大変」と言われるほど手間暇かかる高齢受刑者が「他に行くところがないから」と出所次第舞い戻ってくるというのでは、これは大きな社会問題です。

すでに日本の高齢受刑者問題は海外でも取り上げられているというくらいにメジャーな問題となっていますが、例えばアメリカなどでは日本のせいぜい1/3ほどしか高齢受刑者がいないと言われるのは、単純に自分のことは自分の責任においてやるという文化的背景の差異に根ざした問題とだけ捉えておけばよいのかどうかです。
実のところ高齢者のみならず増えているのが障害者受刑者で、しかもこちらも「これまでの人生の中で、刑務所が一番暮らしやすかった」などと確信犯的に再入所を繰り返しているというのですから、結局のところは社会保障問題の延長でもあるのでしょうが、もう一つには世間の暮らし向きが悪くなったこともあって刑務所の暮らしが相対的に良いものに感じられているということも関係ありそうに思います。
これまた近年その増加が問題視されている中国を筆頭とする外国人収監者なども「日本の刑務所はきれい。テレビも見られ、中国での生活より楽」なんてことを言っているとひと頃話題になりましたが、刑罰に服する場所という刑務所本来の目的からするとあまりに快適すぎて受刑者から歓迎されてしまうというのも微妙なところですよね。
故・星新一の作品に刑務所所長と死刑囚とをテーマにした「やさしい人柄」という印象的な短編がありますが、昨今受刑者も人権が尊重されてしかるべきという声が高まる中での接遇改善が実は再犯を繰り返させることにもつながり、結局受刑者自身のためになっていないのだとすれば、何やら少しばかり哀しむべき逆説ということになるのかも知れません。

さて、弁護士が過剰だなどと言われる時代が到来してからかねてそういうことになるだろうとは言われていた話が、ついに現実のものになってきたかと思わされるのがこちらのニュースです。

過払い金返還請求弁護士らに特需来る「次は原発賠償訴訟だ」(2011年6月18日NEWSポストセブン)

 福島第一原発の事故処理は、それ自体が、“巨大ビジネス”になろうしている。ゼネコンや国際的原子力企業も以外にも特需が生まれつつあるとジャーナリストの伊藤博敏氏は指摘する。

 * * *
 原発事故をめぐっては、上限を定めない損害賠償で、東京電力の負担がいくらになるか見当もつかない

 ただ、約10万人の避難住民の生活費と損害賠償、風評被害も含めた農畜産業・水産業への賠償、休業補償や営業補償、それに避難費用や引っ越し費用など細々としたものまで含めると、10兆円に達すると目されている。

 損害賠償請求は原子力損害賠償法に基づいて認められており、その指針は「原子力損害賠償紛争審査会」で作成されているが、出荷制限を受けた農家の全農作物の風評被害を認めている

 賠償指針は7月中に決まり、それに従って被災者が東電に被害請求し、賠償交渉が行なわれる。合意に達すれば和解金が支払われ、合意不成立の場合は、民事調停や民事訴訟で決着をつけることになる。

弁護士の出番である。

仲間内では、『次は原発』というのが常識だ

 こう漏らすのは多重債務者の過払い金返還請求訴訟で名を売った弁護士。彼ら弁護士にとって「ポスト過払い金返還」が原発賠償訴訟であり、これが“特需”となるのは間違いない。

 なにしろ出荷制限を受けた農家だけで8万4000戸に達し、風評被害は東北から関東一円に及ぶ避難地区には約8000社の事業所があり約6万人が働く。20km圏内には3500頭の牛、3万頭の豚、68万羽の鶏が残された。家を奪われたのは10万人。そのすべてに損害賠償請求が発生するのだから気が遠くなる。

 ただ、今は恭順の意を表している東電も賠償交渉となると、顧問弁護士が居丈高に補償額を削ろうとするのは目に見えている。個人が対抗するのは無理だ。過払い金返還で「請求のマニュアル化」を覚えた弁護士に、“活躍の場”が与えられる。脱原発ビジネスの一つとしては見逃せない。

すでにこの過払い金返還請求そのものが「弁護士の取り分が幾らなのかも判らない」と顧客とのトラブルに発展していたり、「手数料が高額過ぎるのではないか」と国会でも取り上げられるような問題となっているところがあるのですが、その背景には弁護士が急増した結果仕事にあぶれる人間が出てきている、そして食うためには手段を選んでいられないという側面もあるやに聞いています。
もちろんあからさまに悪質な弁護士は社会的にも淘汰されていくべきなのは言うまでもありませんが、過払い金返還請求にしてもこうした損害賠償請求にしても一面では社会正義の実現に結びつくとも言えるだけに多少の強引な手段はあっていいという意見もあって、いったいどこまでが許されるべきなのかということは一概には言えないところですよね。
ご存知のように弁護士の報酬というものは成功、失敗を問わず受け取れる着手金に加えて成功報酬などは賠償などで得られた金額の何%と歩合で決まりますから、要するに勝とうが負けようが弁護士の方では決して損をすることはないわけで、かねて民事訴訟などでもダメモトで明らかにそれは高すぎだろうという高額賠償金を要求してくるなんて声もあったわけです。
最近の過払い金返還訴訟ではとにかく顧客を大勢集めて成功報酬の方で元を取るという方針なのか、着手金はいっさいいただきませんという弁護士も多いようですけれども、業者との交渉によって幾らの返還を受けました、そのうちの幾らを報酬として受け取りますといった明細を明らかにしないのであれば、極端な話では業者と弁護士との間で出来レースもあり得るということになりかねませんよね。

原発事故などではこれだけ世間の注目を集めているわけですし、集団への補償となればあまり補償額の差異はつけられないのかも知れませんが、そもそも被害を認定する、しないの部分で今後激しくトラブルになることは目に見えていますから、これは大変なビジネスチャンスであるということは誰の目にも明らかなことです。
問題は当面そうやって稼ぎ口を見出した弁護士達が、次は何によって収入を得ることを目指すのかということなんですが、当然ながら今までであれば裁判にもなっていなかったような事例であっても紛争化していこうという動きも出てくるでしょうし、そうやって裁判の件数が激増するともなれば弁護士大量養成の当初の目的であった裁判の迅速化に逆行することにもなりかねません。
特に医療業界などは久しく以前から「弁護士が増えすぎたら絶対に医療は狙われるぞ」と言われてきたところだけに、かの業界の過剰な商業主義化には大いに警戒せざるを得ませんけれども、考えてみれば食うに困って営利的運営に走るというのは医療費削減政策によって困窮著しい昨今の医療業界も全く同じことですよね。
医局会のたびに事務長あたりから「先生がた、先月も赤字だったんですからもっと頑張ってもらわなければ困りますよ」なんてことを言われ続けた医師達が、いつなんどき医療の経営的な側面に目覚めるかということを考えて見ると、医者や弁護士なんて商売はちょっと金勘定に鈍いくらいの方が社会にとってはましなのかも知れません。

|

« いつまでも「医療の常識は世間の非常識」は通用しません | トップページ | 親族間生体腎移植で不正行為?! »

心と体」カテゴリの記事

コメント

あれだけ粗製濫造すればそれはモラルも下がりますよ。
こちらも遠からずアメリカ並みになりそうだ。

投稿: ぽん太 | 2011年6月24日 (金) 16時25分

最近こんな記事がでていました。

後見人弁護士、高齢者の1510万円着服容疑
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110616k0000e040070000c.html

元弁護士に懲役3年6ヵ月
http://mytown.asahi.com/wakayama/news.php?k_id=31000001106160003


いずれも弁護士個人のモラルの問題、個人の資質によるものなのでしょうが、このような「弁護士の犯罪」って以前よりも増えたような気がします。

後見人というのは、裁判所が選任するのだそうですね。家族が申請したとしても、裁判官の判断で家族ではなく弁護士が選ばれることがあるそうです。

そもそも弁護士が後見人になること自体、適切なのかどうか疑問に思います。
他にも仕事をかかえた弁護士個人が、判断能力のなくなった老人の生活全般にわたって管理監督することなんてできるのだろうかと。

電力会社と監督する立場の保安院の関係とか、
税務署と国税OBの税理士の関係とかのように、
持ちつ持たれつというかそんなぐずぐずの関係が想像されるのですが、
「裁判官が地元弁護士に仕事を回すために後見人に選任する」なんてことは
決してあり得ないですよねっ。

投稿: anonyms | 2011年6月25日 (土) 07時44分

はじめまして。リンク&トラックバックありがとうございます。
ところで、気にかかったことがあるんですが。。
点滴混入事件で裁判長が怒ったのは裁判員の居眠りではなく、傍聴人の居眠りです。
ニュースの最後の方に
「一方、裁判員6人は午後4時半の閉廷まで目をしっかり開けて聞いていた。」
とありますよ。

投稿: 裁判員Blue | 2011年6月25日 (土) 19時32分

>点滴混入事件のような社会的関心が高い裁判においても、あまりに居眠りをする裁判員が続出したため裁判長から「居眠りしたい人は出ていって」と小言を頂戴

点滴混入事件の居眠りは傍聴人という話です。
裁判長が裁判員に「出て行け」という発言はありえません

投稿: | 2011年6月26日 (日) 00時24分

おおっと、すみません完全な誤読でした。
該当部分は削除させていただきました。

投稿: 管理人nobu | 2011年6月26日 (日) 17時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/52020398

この記事へのトラックバック一覧です: 司法の世界に広がりつつある歪み(一部変更):

» 裁判員裁判で死刑求刑!じゃあ寝ちゃおう。千葉大生殺害事件 [裁判員Blue]
人気ブログランキングへ <千葉大生殺害>被告に死刑求刑 裁判員裁判で10例目(毎日jp 2011年6月22日) 千葉県松戸市で09年10月、千葉大4年のO.Yさん(当時21歳)が殺害され自室が放火された事件で、強盗殺人や現住建造物等放火などの罪に問われた住所不定、無職…... [続きを読む]

受信: 2011年6月26日 (日) 02時20分

« いつまでも「医療の常識は世間の非常識」は通用しません | トップページ | 親族間生体腎移植で不正行為?! »